第4話

 その森は遠目から見ると枝が人の腕のようにグネグネと伸びた不気味な木々が茂り、中を覗き見ることすら拒む禁域、呪われた森と呼ばれていた。

 しかしルーファス王子一行が森のトンネルをくぐり、逃げ込んだ先に広がっていたのは、まるで神の庭園のように色鮮やかな花の咲き乱れる美しい光景だった。

 花の香りに誘われた七色の羽を持つ蝶が飛び回り、森の奥には黄色い果実がたわわに実った巨木が生えている。


「ルーファス王子。あれは覇王領地のみで育てられる門外不出の果実。ああ、なんて甘い香りなのでしょう」

「見てください、こんな所に南の果てに咲くと言われる紅い太陽の花が咲いています。外は荒れ地が広がり雪混じりの冷たい雨が降っていたのに、この森はまるで温室のようだ」

「美味しい木の実がなっているのに、お湯を注ぐ料理を食べるなんてオヤカタは変な魔女だな。果物が熟して地面に落ちそうだから、適当にもいでオヤカタに持って行こう」


 二人の女官は楽しそうに声を上げながら、森の果物を収穫する。

 エレーナ姫の肩に薄ピンクの蝶がとまり、細く白い石畳が森の奥へと延びるその先には数件の建物が見えた。

 ココは辺境の地で、大魔女の館は巣窟のように不気味な建物だと想像していたが、そこには王都郊外の貴族別邸を小さくしたような洒落た建物が建ち並んでいる。


「ルーファス、森の中にこのような立派な館が建っているなんて、私たちは大魔女の魔法で幻を見せられているのでしょうか?」

「母さま、これが大魔女の家です。オヤカタは僕に館の中で待っているように言いました。オヤカタは外に出かけていますが、すぐ戻ってくるでしょう。みんな早く建物の中へ、あっ、その宝物は僕がオヤカタから譲り受けたものだ。勝手にさわるな!!」


 夏別荘に皆を案内した王子は、玄関前に山積みになっているガラクタに触れようとした家来を怒鳴りつけた。

 これは大魔女の呪術道具なのか。

 目がやたらと大きく精巧にできた娘の人形や派手な色で獣をかたどった置物、先に穴の空いた魔法の杖。

 半透明の箱の中には他に様々な道具が押し込められていた。

 これまでエレーナ姫とルーファス王子を護衛してきた隊長のウィリスは、大魔女の道具を眺めながら王子に尋ねた。 


「そういえばルーファス王子、まさか貴方様が大魔女の弟子になったというのは本当ですか?噂では、魔女は弟子を奴隷のように扱い、時には実験材料にされ、悲惨な目に遭う者もいるのですよ」

「安心しろウィリス、下僕契約ではない。魔女のカンリニンは自分のことを親方(オヤカタ)と呼んでいて、弟子はオヤカタの仕事を手伝えばいいそうだ」


 王子はすっかり大魔女の親戚の女カンリニンを信用している様子だが、彼は蒼臣国の第一王子であり、白銀の髪を持ち妖精族祖先がえりの膨大な魔力を宿している。

 その王子を弟子にしたカンリニンという魔女が悪しき考えを持つなら、自分は命を懸けて王子を守り魔女を倒さなくてはならない。

 隊長のウィリスはできるだけ穏やかな表情を作りながら、再度王子に話しかける。


「では魔女のカンリニンはどのような姿をしているのですか?」

「オヤカタは小さな騒がしい魔女だ。年は十五歳くらいかな、目がデカくて馬のしっぽのような茶色い髪で、農夫のような服を着ている」


 ウィリスは王子の言葉にうなずいた後、館の中に他の者が入るのを見届け、館の周囲を偵察すると告げると今来た細い道を引き返していった。




 妖精森の入口、緑のトンネル手前の草むらにウィリスは身を潜めながら、大魔女の親戚が現れるのを待ち伏せする。

 森を取り囲んでいるハズの敵の声は聞こえないし、森に火の放たれた様子もない。これはすべて大魔女の力なのだろう。

 しかし王から託されたルーファス王子を魔女の弟子にしてしまい、悔やんでも悔やみきれない。

 大魔女の親戚の女を脅して下僕契約を取り消させる。

 例え自分の身が呪われようとも、王子を自由にしなくてはならない。

 腰の剣に手をかけ、息をひそめ待ちかまえるウィリスの耳に、コレまで聞いたことの無い奇妙な金切り声が聞こえてきた。


 グギィイ、ギコギコ、ギィィイ、ギコギギギーーー


 まるで凶悪な魔物が拷問を受け悲鳴を上げているような、耳の奥が痛くなる高音。それが恐ろしい勢いでこちらに向かってくるのが判る。

 百戦錬磨の蒼臣国第一近衛団隊長ウィリスは得体の知れない恐怖に襲われるが、臆してはならないと自分を励まし、剣を握り飛び出した。


 ドンッ!!ガシャアーン


 大魔女の親戚が操る鉄の車輪の魔獣に、彼は見事に跳ねられた。



 ***

 


「リサイクルコーナーにあった手作りの髪留めが可愛すぎて、髪の毛いじってたら余計に時間がかかったよ。夏別荘前にガラクタも山積みしたままだし、早く戻らなくちゃ」


 カナは白いレースのワンピをひるがえすと、自転車を立ち乗りで道路を横切り、妖精森前の広場を通過して緑のトンネルの中を爆走する。

 薄暗いトンネルを抜け明るい森の中に入ろうとした時、目の前になにか黒い大きな影が現れた。

 今回はブレーキも間に合わない。

 カナは咄嗟にハンドルを手放して飛び降りると、スピードの出た自転車は正面からぶつかる。

 

「ウギャアーーッ!!」

 

 妖精の森の奥に住むイノシシか野犬、それにしては大きい。

 おそるおそるカナが近づくと自転車はチェーンが外れハンドルがゆがみ、その下に曳かれた金色の髪の男が、石畳に頭を打ちつけ気を失って倒れていた。





「お-い、隊長どこですか。どうした、隊長の姿が見えないぞ」

「森の奥に行ったのか、まさか森の外に出たんじゃないよな」


 夏別荘の中で応接室の立派な調度品や台所の電化製品に驚き、部屋の探索に夢中になったエレーナ姫一行が、隊長の不在に気が付いたのは、彼が姿を消して既に一時間過ぎていた。


「そういえば、オヤカタもまだ戻ってこない。まさか妖精森を取り囲んでいる連中に捕われたか。大変だ、森の外に様子を見に行かなくては」

「いけません王子様、それはあまりに危険です!!」


 焦った王子が別荘の外に飛び出し、家臣が驚いて追いかけたその時、白い石畳の道から何かが引きずられる音が聞こえてきた


 ガラ ガラ ガラガラガラーー


「誰か、助けて下さいっ。この人が道に倒れていたの」


 手押し台車の上に膝を抱えうずくまっているのは彼らが探していた人物で、ひどく戸惑った様子で小柄な娘が台車を押していた。

 娘は茶色のウェーブした長い髪に花を編み込み、黒水晶のように輝く大きな瞳に桜色の唇、白い花のようなドレスを着た可愛らしい姿をしている。


「隊長、これはいったいどうしたんだ。お嬢さん、貴女は誰ですか」


 気を失ったままの隊長は、仲間たちに抱えられ台車から降ろされる。

 地面に仰向けに寝かされた彼の胸から腹にかけて、大蛇が這った鱗(自転車のタイヤ)痕がくっきりと付いていた。


「ワタシは妖精森の管理人(カンリニン)です。

 ワタシが緑のトンネルの中を歩いていると誰かの悲鳴が聞こえて、驚いて駆けつけると男の人が石畳の上に倒れていました。どうやら彼は森に住む野犬に驚いて、足を滑らせ頭を地面に打ちつけたようです」

「ええっ、お嬢さんが大魔女の親戚のカンリニン!! ルーファス王子はみすぼらしい農夫のような姿をした小さい女だと聞いていたが……貴女はまるで可憐な花の精霊のようだ」


 護衛の騎士の言葉に恥ずかしそうな仕草で微笑む娘を、ルーファス王子は信じられないものでも見るかのように立ち尽くし、大きな声でカナを呼んだ。


「オヤカタ、その姿はなんだ!! まるで化けたみたいに、いや、オヤカタは魔女だから化けることができるんだな」

「ルーファス王子、ワタシは服を着替えただけで、化けるなんてありません」


 何故か銀の髪を振り乱して怒る王子は置いておいて、カナはその場にいるひとり女性に見惚れてしまう。

 夏別荘の中からスーパーモデルのように優雅な足取りで現れた絶世の美女。

 地面に流れ落ちる艶やかな緑の黒髪に、雪のようにきめ細かい白い肌。鼻筋の通った顔立ちでルーファス王子と同じルビーの瞳をしている。

 先端のとがった耳は遺伝なのか、まるでファンタジー映画キャラクターのようだ。

 彼女が大叔母さんから頼まれた夏別荘のお客様、ルーファス王子の母親だろう。

 カナはお客様がいらっしゃると聞いて、営業モードに化けたのが幸いした。

 さっきまでの薄汚れた作業着では、とても彼女の前に立てない。

 カナは夏別荘の玄関前で佇む彼女に駆け寄り、大叔母さんから教わった外国のお客様への挨拶を緊張しながら行い、もう一度日本式にペコリと頭を下げて話しかけた。


「私は大叔母さんの親戚で、妖精森の管理人を任されましたカナといいます。お客様は、ひと夏の間ゆっくりと妖精森別荘で避暑をお楽しみ下さい。何か御不自由な事がございましたら、私管理人か、弟子である王子様にご用件をお伝え下さい」


 カナは黒髪の美しいエレーナ姫に悠然と微笑み、白銀の王子は自分の弟子だと告げる。


「カンリニン、その話は少し待ってくれ。ルーファス王子さまは蒼臣国の第一王子である。その高貴な王子さまを、魔女の小間使いとしてこき使うつもりか!!」


 気絶した隊長を介抱していた騎士が声を荒げ立ち上がると、他の者も怒りを押し殺した表情でゆっくりとカナを取り囲もうとしていた。

 

「私が大叔母さんからお世話を頼まれたのは、姫と王子さまだけ。でも王子さまに、一緒に逃げてきたメイドと護衛もかくまって欲しいと頼まれたから、王子が弟子になるという条件でお客様を六名追加しました」

「では我々が王子の代わりにカンリニンの下僕になる。王子を働かせるなんてとんでもない」


 管理人の仕事を手伝わせるだけなのに、どんだけ過保護にしているの。

 カナは心の中でため息をつく。

 森で倒れていた王子のベストを脱がせた時、留め紐のかけ方が丁寧で、王子は着替えや身の回りの世話をメイドにさせているのだろう。

 しかしここは夏別荘、王様の住むお城ではない。


「もう、下僕契約なんて大げさよ。子供ができる簡単な雑用を手伝わせるだけなのに。ルーファス王子、ワタシとの約束を取り消すならそこにあるオモチャを返して。全部ゴミとして燃やしてしまうから」

 

 業を煮やしたカナは、腰に手を置き仁王立ちで玄関前のガラクタを指さした。

 母親の隣で成り行きを見守っていた小さな王子は驚いてカナに駆け寄ると、「王子に雑用を言いつけるのか」と文句を言う家臣に強い口調で命じた。


「お前たち、僕は魔女に下僕契約したのではない。親方(オヤカタ)に弟子入りしたのだ。オヤカタの手伝いをするのは弟子の務めではないか。オヤカタ、お願いだ。僕はちゃんと務めを果たすから、譲り受けた宝物(オモチャ)を捨てないでくれ」


 これまでルーファス王子は八歳にしては随分としっかりした性格で大人びた子供だった。

 厳しい逃亡生活中も誰にも甘えず、泣き言一つ言わず母親を気遣っていた。

 それが今、目の前で魔女の腕にすがりつき、甘えるようにねだっている。

 その姿を見た家臣たちは、可愛い王子さまが魔女に奪われたショックでその場に立ち尽くした。 

 その時、地面に寝かされていた隊長が微かに身じろぎすると目を覚ます。


「おおっ隊長が、意識を取り戻したぞ」

「隊長、いったい妖精森の入口で何があったんですか」

「俺はどうした、なんでここにいるんだ? 森のトンネルから、黒い鉄の車輪の化け物が、俺に、襲いかかってきた。アノ不気味な魔獣の金切り声が、うわぁぁーー」


 青ざめた顔でうわごとを呟くと、魂が抜け出たようにフラフラと起きあがる隊長に、ルーファス王子はたずねた。


「ウィリス、その鉄の車輪の化けモノはオヤカタの騎獣だ。僕の守護白蛇もオヤカタを襲いその魔獣に返り討ちに合って倒された」

「えっ、でもカンリニンの説明では、隊長は犬に驚いて滑って転んだ拍子に頭を打ったと聞いたが」

「車輪の化けモノって自転……えっと、魔獣って何のことかしら? 隊長さんは妖精森の外で放し飼いされている、柴犬(ケルベロス)に驚いて、足を滑らせて転んだんだと思います」


 カナは自分が彼を自転車で曳いてしまった事実を隠すために、雑貨屋の番犬の名前を出した。

 しかしその一言で、彼らはパニックに陥ってしまう。


「まさか、ケ、ケルベロス。冥界の番犬といわれ三つ首を持つ巨大な魔犬が、妖精森を守っているのですか」

「ケルベロスに咬まれれば、その猛毒で即死どころか魂も地獄に落とされるという。ああ隊長、カンリニンさまに助けられて良かったですね」


 この人たち、そんなに犬を怖がって護衛の役目をちゃんと果たせるのかな?

 カナは不審に思いながらも、とにかく騒ぎを静めようと彼らに呼びかけた。


「ケルベロスはむやみに人を咬む犬じゃありません。よく吠えるけど、人なつこくて可愛い犬よ」

「ケルベロスが番犬なら、森を取り囲んでいる連中も手出しができない。いったいどれだけの敵が、ケルベロスの犠牲になったのだろう。そのケルベロスを可愛いとおっしゃるカンリニンさまは、真の魔女だ」


 カナを取り囲んでいた護衛たちはゆっくりと後ずさり、車輪の魔獣とケルベロスを使役する魔女から距離をとる。

 彼らの態度が豹変した事に不思議がるカナの隣で、ルーファス王子はケルベロスの話に興味を示し、好奇心に満ちた瞳でカナを見つめながら右手をつないだ。

 エルベロスなら王子の良い遊び相手になるから、今度連れてきてあげよう。

 カナは王子に微笑み返す。

 そして仲の良さそうな二人の姿を眺めていたエレーナ姫は、まるでカナの心の中を読みとったかのように話しかけた。


「それではカンリニンさま、ルーファスをよろしくお願いします。妖精森に私たちが滞在している間、護衛の者たちも王子と共にカンリニンさまのお手伝いをさせます。彼らを好きなように命じて下さい」

「ありがとうございます。エレーナ姫さま。ワタシのようなひ弱な女がひとりで別荘管理をするは、少し心許なかったのです。護衛の方々が手伝ってくれるのならとても頼もしいです」


 カナはさっきまでの態度とは一変し、満面の笑みを浮かべると愛らしい仕草で小首をかしげ、大きな黒い瞳を輝かせて彼らを見つめる。

 しかしその瞳の奥では、目の前の四人の男たちが仕事で使えるかどうかを厳しく品定めしていた。

(王子の護衛の人たちは、日本人と比べると大柄な体格で筋肉質だし、重労働も軽々とこなせそう。

 フフッ、ワタシの夏別荘リフォーム計画がいよいよ本格始動よ!!)





 夏の長い日が傾き、夏別荘のお客様は各自滞在の準備を始めていた。

 最初は親子二名の予定が、三人のメイドと四人の護衛が追加され、カナも加えれば夏別荘の住人は計十名の大所帯になってしまった。

 それに王子の話では、彼らも一緒にクーデターで国から追われ逃げてきたという。

 ほとぼりが冷めるまで、彼らは妖精森の別荘地から外に出ない方がいい。

 つまり、カナ一人で九人の生活支援をしなくてはならない。


「大叔母さん、管理人の仕事にしてはかなり激務のような気がする。とりあえず今夜の夕食は、再び非常食で済ませよう」



 ***



「あの娘が本当に魔女? どう見ても成人前の田舎娘じゃない。しかも魔女が可愛く着飾った姿に簡単に騙されるなんて、男どもは全く頼りにならないわ」

「私たちを助けるために、お優しい王子さまが魔女の弟子になったのよ。こうなれば私たち二人で、王子を魔女の手からお守りしましょう」


 夏別荘のキッチンで、オデコの広い青い髪の娘と明るい金髪の娘が、果物を洗いながら噂話に花を咲かせた。

 若いふたりの侍女は、大切に可愛がっていた白銀の王子さまが辺境に住む魔女に奪われたことがとても気にくわない。

 【始祖の大魔女】の伝説は知っているが、その親戚の魔女の話など聞いたこともない。

 自分たちより背の低くて手足も細い、娘というより子供のような茶色い髪の魔女は、大して力のない小娘に思える。


「身の程知らずの魔女を、物置に閉じ込めてしまいましょう」

「王子が呼んでいると騙して、森の奥に連れ出しましょう」


 侍女たちは、魔女をどんな方法で苛めようかと盛り上がり、その声が次第に大きくなった。

 そこへ応接室のエレーナ姫に飲物を運んできた侍女長がキッチンに戻り、夢中でおしゃべりを続ける二人に厳しく声をかける。


「魔女さまを苛めるなど、身の程知らずはお前たちです。今、手にしている幻の果樹は、魔女のカンリニンさまがもたらしたモノ。『金剛石の雫』と呼ばれる幻の白桃は、魔術師が百日間魔力を注ぎ続け、初めて熟するといわれています」

「侍女長さま、あの木には数え切れないぐらい果実がたわわに実っていました。まさか魔女の力は魔術師数十人、いえ百人以上だというのですか」


 侍女長に雷を落とされた娘たちに、黒髪の侍女長はさらに追い討ちをかける。


「それに『幻の金剛石の雫』は白桃ひとつで金貨十枚以上の価値があります。お前たちはその実をいくつ食べたのですか。無断で幻の果物を食し、大魔女の身内を陥れようとすれば、必ず【呪い】を受けるでしょう」

「でも侍女長さま、悔しくないのですか? 私たちの大切な王子様が魔女の弟子にされたんですよ」




「ふぅん、そうなんだ。まさか白い桃がそんなに高級果物だなんて知らなかった。みんなで木に登って、ムシャムシャ食べていたのに」

「僕も『幻の金剛石の雫』は、誕生日に献上されたモノを一口食べたことがあるぞ」

「ええっ、ルーファス王子とそれに、ヒィ、魔女がいる!!」


 侍女長の後ろにカナが隠れ、さらにその後からルーファス王子も隠れて、娘たちの噂話を聞いていた。


「ええっ、お許し下さいカンリニンさま。私は勝手に『幻の金剛石の雫』をひとつ、いえ三つほどつまみ食いしてしまいました」

「これが貴重な桃の実だと知らなくて、お腹がすいて我慢できずカンリニンさまの許可なく食べてしまいました。どうか【大魔女の呪い】だけは勘弁してください」


 さっきまで悪巧みを考えていたメイドたちはカナに半泣きで謝り、彼女たちを叱った侍女長は我関せずとそっぽを向いている。

【大叔母の呪い】なんて、どうして彼女たちは大叔母さんをこんなに恐れているの?

 カナの中で大叔母さんに対する疑問は増えるばかりだ。


「あなたたちはお客様なんだから、この妖精森にあるモノは全て自由に使っていいの。森に生えている果物も好きなだけ食べていいから、そんな土下座して謝らないで!!」

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