第44話 決着
「マーク、アクエリアスを出してくれ。合わせるぞ・スリー、ツー、ワン、ファイヤー」
ドオ―――ン
暗い宇宙空間に太い光の柱が立った。前方の宇宙艇は、その光の柱が当たった部分だけ半分ほど蒸発した。そのエネルギーの束は、エンジン部分を根こそぎ持っていったのか、爆発もしない。
主砲は、アクエリアスの真下から発射されたわけで、遺跡物質ではあるが、頭をファイターから出しているMG2の頭をかすめた形になる。
「きっついな」と、MG2がぼやく。
「行くぞMG2」
「発進」
初めての実践のときは、自分に言わせてほしいとMG2は、マークと話し合っていた。緊急時なのに2人は、律儀にそれを守る。
アクエリアスは、反重力ダンパーで射出され、すぐエンジンを全開にした。
「エーテルフィールド展開、ファイターの真後ろや。パルスエンジンどやろ」
マークが撃つが効果がない
「アカン、中性子セラミックが邪魔や。すんませんけど、最初の打ち合わせで」
「了解した」
マークは、天頂方向に飛び上がり、急降下しつつコクピットを狙った。コクピットの中が急にバシャッと見えなくなり、ファイターは、失速していく。
驚いたのは、後ろの4機だ。
「バリヤーの故障か?」と、爆発しなかった味方の宇宙艇を見てマチーノは、さっきのエネルギーの束を無視して素っ頓狂なことをいっていた。しかし、ファイターの失速は明らかだ。
「ゼニス、先に小っこいのからやるぞ。お前ら、スバルをやれ、主砲は、船首だけだそうだ気をつけろ」
失速したファイターのコクピット内の映像は、凄惨を極めた。仲間がとんでもない死に方をしたのだ。怒り狂った2機は、マークのアクエリアスを追った。
スバルの中では、ニナが結果報告していた。
「結果的には、50GPで、爆発したと思われます」
「いいんだ。次は、50GPでいくぞ」
後ろをついてくるファイターは、宇宙艇の左右に出ては、高速プラズマ砲を撃ってくる。宇宙艇は、主砲にさえやられなければ、怖くないという感じだ。多分マリーン魚雷も、宇宙艇がファイターの代わりに受けるのだろう。そこに隙が出来ると思う。
マークのおかげで、スバルを狙っている敵は、宇宙艇1とファイター1だけになった。しかし、スバルの主砲を敬遠して、ぴったり後ろに付いてくる。アランは、これらを横にぶらせて、急減速し、相手の後ろを取りたい。
「ミーシャさんお願いがあるんですけど、そっちにマリーン魚雷の発射ボタンを渡しますから、オレに合わせて押してください。ニナ、ファイターに照準頼む」
「ミーシャ様ここです」
ニナが、パネルのボタンをフラッシュさせる。
「これね」
「押したらすぐ左側の取っ手に捕まって」
アランは、ファイターが、後ろの宇宙艇から、右に振れ、頭を出して攻撃してくるのを予測してタイミングを合わせた。
「3,2,1、発射」
アランは、ミーシャの魚雷発射に合わせて左に舵を切った。後ろについてきている宇宙艇は、右に振れたファイターを守ろうと右に振れた。ここにスバルが急減速するスペースが出来た。アランが気にしていたファイターは、更に右に振れてくれた様だ。アランの急減速に、多大な減速重力が掛かる。ミーシャは、取っ手に捕まって、これに耐えた。
「主砲発射」
後ろを取られた敵は、前方に遁走していく。アランは、前方に離れ行く宇宙艇に主砲を発射した。また、まばゆい光の柱が立ち、宇宙艇は、爆発した。
「やったわ」
ミーシャが叫んだ。
しかし、前方のファイターは、大きく右旋回してスバルに襲ってきた。
ドオン
スバルの右側面に高速プラズマ砲が当たる。緊急用の取っ手をぎゅっと握るミーシャ。アランも負けじとレーザー機銃掃射する。そのスバルのレーザー機銃の隙間に1発高速プラズマ砲のエネルギー弾が入った。右舷真横のレーザー機銃が使用不能になる。しかし、上部と底部は健在だ。牽制的に、連射する。主砲エネルギーが殆どないスバルは、ファイターと長い打ち合いになった。
マークは、追って来たファイターが一番危険だと思った。高速プラズマ砲を連射してくるのだ。それも、宇宙艇の陰に隠れることもなく、自分との距離を詰めてくる。ファイターは、ゼニスVと認識票を出していた。当然一緒に来た宇宙艇も邪魔で、レーザーキャノンが当たれば、アクエリアスのバリヤーであるエーテルフィールドに深刻なダメージを受ける。
「MG2、宇宙艇の型は分かるか」
「わからんな。何となく金星の古いコルベットやないかぐらいや」
「バリヤー発生装置は何基だ」
「当たってたら6基や」
宇宙艇は、相手が、バリアーの薄いファイターとあって、レーザー機銃も撃ってくる。どうしても、あの気になるファイターの高速パルス砲を避けるとこれがちくちく当たってくる。
ドオン
宇宙戦闘用にたたまれた右翼側に、ゼニスVの高速プラズマ砲のエネルギー弾が当たった。
「フィールド出力73%、ファイターなのに化け物砲やで」
「宇宙艇のバリヤー発生器は狙えないか」
マークは、攻略しやすい宇宙艇に集中して、冷静にMG2に聞く。
「バリヤー発生器の基部っちゅことやろ。それ、よっぽど斜めから狙わんと無理やで。光燐石に当てても効果ない」
※バリヤ発生器についている光燐石は中性子物質どんな攻撃も効かない。だからといって、そのバリヤ発生装置は、人が作ったもの。バリヤを伝う衝撃により出力を落とす。運よくそのシステムを波被弾すれば、壊れることもある。
「どうせやられっぱなしなんだ。試すぞ」
アクエリアスは、12Gで反転した。アクエリアスのスピードは、20Gまで上がる瞬間なら30Gだ。これに耐えられるのが、パワーグラビトンの真骨頂。
マークは、右にスイングしては、宇宙艇の上部側に戻り上部すれすれを狙う。左にスイングしては、宇宙艇の上部側に戻ってきて上部すれすれを狙うという、スイングバイで宇宙艇を狙い出した。ここで相手ファイターとの性能差が出た。この小回りに、相手のファイターが付いていけない。ゼニスVが、あわせてこようとしたとき敵宇宙艇の底部方向に逃げ今度は、下で同じことをやる。
「ええな、甲板も外壁も特定箇所で50%削れたで。光燐石のあるバリヤー発生装置の場所特定。宇宙艇ビジュアル化終了、前面パネル出す」
マークは、このビジュアル映像を見て、アクエリアスと一体化した。船上と船底の特定できた、バリヤー発生装置の場所が良くわかる。
「突っ込むぞ」
追ってきたゼニスV型ファイターをかわし、マチーノの改造コルベットの真後ろに出た。そこで、アクエリアスは上下攻撃を始めた。
いきなり敵宇宙艇上部のバリヤーが消滅した。
「下からゼニスVや」
ゼニスは、自分の認識番号を出している。自信の表れだ。しかし、これもマークは、かわした。ゼニスVの最高スピードは、13Gしか出ていない。アクエリアスとは、瞬発力で劣る。
「コルベット左右バリヤ発生器で、補強された。50%ぐらい有るで、でもな、下を落としたら、こっちのもんや」
マークは、たまたま出た左側面から底部を狙った。底部のバリヤーもあっけなく消えた。マークの集積レーザー砲はバリヤを透過する性質を持っているピンポイントレーザー。慌てた金星のコルベットもどきは、逃走を始めた。マークは、底部の装甲が薄くなったところを集中放火した。外壁に穴が開き、中で火災も起きているようだ。コクピットは閉鎖されているものの、パイロットは、慌ててヘルメットを被っているようだ。動きが直線的になった。ゼニスVが、敵宇宙艇の船底から上がって通り越していった。マークは、艦板上部に隠れてこれを回避し、また、底に戻って艦低の傷をドンドン広げていく。穴が大きくなったのでランダムに狙いをずらすと、いきなり宇宙艇は、内破し出した。中で白く光ったのをMG2は見逃さなかった。
「敵宇域緊急離脱、爆発や」
アクエリアスは、一挙に15Gまでスピードを上げ離脱した。
ドオン
大爆発を起こし宇宙艇は、消滅した。
そこに、ファイターを倒したスバルが合流した。1機になったゼニスVは、勝算無しと見たのか戦わずこの宇域から離脱していく。マーク達は、これ以上の戦闘はせず、スバルに帰還した。
艦橋に帰るとミーシャが歓迎してくれた。
「お帰りなさい」
ミーシャが元気そうなので、ホッとする。
一息つこうとすると、メイムが鳴った。アランが秘話回線を開く。
「お疲れ様」
メインが、穏やかな感じで話しかけてきた。
「もうミーシャ様の映像を流さないと。ケレス軍が痺れを切らしているぞ。コモドールの会話も流して、ミーシャ様に説明してもらえ。一機逃がしただろ、後で、また襲われないようにするんだ」
「了解」
「ミーシャさん、逃げたファイターは、ゼニスVです。ケレス軍に安否映像を流しましょう。お願いします」
ミーシャは、ニナに言ってケレス軍の作戦本部司令室のチャンネルを開き自分の無事を話した。また、コモドール一味との会話の録画を流し、連絡が遅れたことを説明した。応対したクリフは、オース元帥に何かありますかと言ってきたが、そのようなことになれたら必ず連絡しますと話した。最後にクリフは、出てこないスバルのクルーに、ミーシャの無事と紳士的な対応を重ねてお願いして通信を切った。
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