第43話 コモドールファミリー

 コモドールファミリーは、南米の物資を宇宙へ横流しする組織だ。ファミリーを取り仕切っている頭の切れるコモドール。宇宙艇を束ねて荷物を運ぶマチーノ。いざという時、宇宙パトロールからこの船団を逃がす鉄砲玉のゼニスの3枚看板で知られる。

 普段物資の横流しをやっている時は、気のいい連中だが、いざ戦闘になるとやりすぎて、いつも兄貴格のコモドールに怒られる。「相手を殺すなって、何度言わせんだ」結局儲けを宇宙艇や先方との交渉に使って、走り続けるようなことになる。

 そのコモドールがやられた。まだ、サジタリウスコロニーで、重態だ。それも腕を1本切られている。コモドールというたががはずれ、手下は、普通では、居られない状態になった。

 マチーノとゼニスに、ケレス軍にケンカを売る度胸はない。島宇宙を出たらスバルは、ケレスの領宇圏を離れることになる。ミーシャを救出すると言って、ケレス軍から予測座標を貰った。

「誘拐も、救出もなしだ。たまたま生きてたら見っけもんだ。異能者と皇女さんか、どうだ、ゼニス」

 ゼニスは、ファイターゼニスVのコクピットでどうでもいいと言う顔をした。

「ボスをやられたんだ、相手は8Gだ。エンジンだけ狙うなんて、出来ないぜ」

「お姫さんの顔ぐらい拝ませろよ」

「物好きだな」

 マチーノは、一度スバルと交信する気だ。

 ファイターに乗っているゼニスは、パワーグラビトンだ。いろいろあって、ケレスのミレニアムホースの主人マーティンには、認められていない。今回の手柄で、認めてもらおうとコモドールは思っていた。もしこんなことになっていたら、止めていただろう。事故だとしても皇女が死んでしまったら、自分は、ケレスを一生出られなくなる。運が悪いと死刑だ。

 ゼニスたちが乗るファイターは、地球標準のバルナックF2型の改造機で、現行のバルナックM型より2つ前だ。長距離にするため2人乗りを1人にしている。エンジンが内部に2基あり、中性子セラミックでコーティングされている。その為、瞬間速度は、13Gにもなる。特にゼニスVは、高速プラズマ砲を連射できるようにしたせいか、外観自体元が何だったのか分からなくなっている。

 マチーノたちが乗る宇宙艇は、倉庫部分を広くしている貨物タイプの宇宙艇だ。倉庫を広くし装甲を厚くした分、居住スペースが極端に少ない。戦艦に襲われて、バリヤーがなくなってもなかなか沈没しない亀のような宇宙艇だ。コモドールファミリーの戦闘は、防御の厚い宇宙艇がファイターを守り、ファイターが攻撃する連携を得意としている。


 スバルは、もうすぐ島宇宙を脱出する。マークは、アクエリアスの中で、アランと打ち合わせした。マークは腕組みしていた。

「集積レーザー砲の特質は、ポイント弾ということだ。だから、そのデーターが取れるまでは、装甲の厚いスバルに居たほうが、いいと思うんだ」

 アランも賛成する。

「そうだな、そのままで勝てる相手とも思えないけど」

 MG2は、初めての戦闘で、ちょっと武者震いしている。

「そやけど、アクエリアス出すときに、スバルの前方とわしらが、無防備にならんか」

 マークも同意する。

「その通りだ。だから、アランが主砲を撃った後すぐ出るぞ」

「了解や」

「主砲のエネルギーゲージは、120%あるぞ」

「相手は、宇宙艇3隻、ファイター3機だからな、今度からエネルギーがすぐ貯まる様にしてくれよMG2」

 マークは、これを前から思ってた。スバルの主砲エネルギーは、宇宙塵から水素を抽出した残りかすで作っている。だから一度撃つと、それで撃てなくなる。エネルギーは相当航海しないと貯まらない

「それ、わしも今日やりたいと思もうたけど、一回スバルを全部バラさんとできんで」

「でもなー」

 ニナがケレスの領宇圏脱出が近いといってきた。更にニナは、領宇域外からの通信を受けた。

「通信が入っています。映像出しますか」

「コモドールファミリーか」と、アラン。

「私が、対応します。貴方達は、顔を出してはいけません。ニナ、お願いします」

「はい、ミーシャ様」

 いつの間にかスバルをミーシャに乗っ取られた状態の二人だ。

 通信パネル前のモニターに映像が出てきた。出てきた男は、浅黒くやせぎすで、切れやすそうな男だ。

「何だ、姫さんか、俺らにも顔出せねえのか、ここの連中は。とんだお笑いだぜ」

 アランが通信コンソールに来ようとするのをミーシャは制した。

「あなた方は、コモドールファミリーですね。何しに、来たのですか」

「俺らも有名だ、なあ」

 マチーノは、ニヤニヤしている。横のクルーもだ。

「何しにって、あんたを助けにだよ」

「そうは見えません。ケレス軍が引いているのに、あなた方は、通信までしてきています」

「気の強いお姫さんだ。お前さん、その宇域を出ないほうがいいぜ。俺らは手を出せねえ。出ちまったら、あんたも、只の女だ。お姫さんじゃあねえ。そこの弱虫とよく相談すんだな」

「待ちなさい」

 通信は、一方的に切られた。

 最悪の事態だ。コモドールは、この宇宙艇を襲う気だ。しかし、この最低な男に、ミーシャは、この宇域を出たら只の女だといわれ、自分を縛り付けていた鎖が解けた。

 ガバン家の第3皇女は、意志の強い目でアランを見た。

「戦闘よ」

「了解」


 軍に聞かれたか?このタイミングでの通信は、まずかったかなと思うマチーノだが、しかし、敵さんは、全然スピードを落とさない。

「上等だ」


 コモドールファミリーの6機は、9Gのスピードで現われ、スバル前方から突っ込んできた。マークは、集積レーザー砲をスバルの発射台から撃ちまくる。

 集積レーザーが当たった宇宙艇は、小さいが、内破したので驚き3方向に散った。それに付き従うようファイターも3方向に分かれた。

 MG2は、集積レーザー砲の効果を逐一検証した。

 マークがぼやく

「効かないな」

「エンジン装甲が中性子セラミックになっている可能性がある」MG2

 アランが、3方に別れた敵機にレーザー機銃掃射を浴びせ牽制しながら

「集積レーザーは使えないって事か」 と、MG2に聞いた。

「えげつない手が有るんやが、どうするマーク」

「なんだ、なんでも言ってくれ」

「ファイターの操縦者は、一人や。改造機は、バルナックF2型で、コクピットは前のほうだけやろ。そやないと、長距離は、無理なんや」

「本当だ、想像したくないね。でも、それが確実だな、どうせ結果は同じだから。よし、オレらは、出られるようになったぞ。宇宙艇のほうはどうだ」

「ミーシャさん、ニナ」と、アラン。

 ニナと、ミーシャはまだ相談していた。ミーシャは、スバルの実力を良く知らない。それと共に、相手の基本的なデーターを出したがっているようだ。

「ごめんなさい、相手の装甲がどのくらいか分からないの。マークさんもっとデーターをください」

 ミーシャは、流暢にやっている。

「ミーシャさんマークでいいです。アランどれでもいい宇宙艇を撃たせてくれ」

「OK」

 敵は、反転してスバルの後ろに附く気だ。アランは、天頂方向に舵を切ったあと、すぐ天底方向に8の字を描くようにスバルを廻し、また天頂方向を向いたとき宇宙艇を捉えられるようにした。

 コモドールの宇宙艇は、この艦艇運動についていけず。後ろを取られる形になった。

「大丈夫ですか、ミーシャさん」

「無事よ」

 マークは、また、集積レーザー砲を撃ちまくった。集積レーザーは、バリヤーを通り抜ける特徴がある。相手は、また内破を繰り返した。これは、1発が3連射というポイント弾だ。ニナがデーター分析をする中、向こうも船尾からレーザー機銃掃射してくる。スバルのバリヤーは、強力だびくともしない。効果がないと分かった敵機は、レーザーキャノン砲を撃ってきた。宇宙艇1隻につき2門もある。

 アランは、これを避けながら、中央の宇宙艇に突進した。左右の宇宙艇2隻とファイター2機は、この中央の機を囮に、左右に別れ、また、後ろをとる気だ。前の2機は、前にファイター後ろが、宇宙艇という体制だ。

 コモドールの戦法は、宇宙艇が盾役となりファイターが攻撃するのだが、爆発は小さいものの、バリヤーを透過する、未知のレーザー砲に驚き、いつものやり方が通用しない相手に手をこまねいていた。

 マチーノは、味方機全機に「力押しだろ、相手は1隻だ」と大雑把な指示をした。左右に別れた4機は、スバルの後ろに付き、宇宙艇はレーザーキャノンをファイターは、高速プラズマ砲を単発で撃ってくる。スバルに当たり、ドオンという音と共に衝撃波がきた。

ニナがミーシャに報告する。

「船尾出力87%まだ調節はいりません」

「分かったわ。敵の高速プラズマ砲は、どういうもの?」

「高速プラズマ砲は、戦艦の主砲と同じ中性子起爆型で、エネルギー射出タイプの小型大砲です。プラズマを高温プラズマにして射出します。スバルの主砲も、規模は違いますが、同じエネルギー射出型です」

「分かったわ」

 戦闘中にのんびり会話をしている。しかし、ニナはデュアルに敵の装甲予測もしていた。

「敵の装甲予測終わりました。2メートル強だと思われます。スバルより薄いですが、バリヤーがなくても長期航行できると思われます」

「主砲エネルギーは、どのくらい必要だ」

 アランにとっては、後ろの敵がうるさくなって来たところだ。

 ニナは、スバルのバリヤー換算100%でいいかと聞いてきた。今のスバルに、敵のバリヤーの出力をそぐ方法は、接近して重力攻撃するしかない。

「いいぞ、それで」

「60GPです」

「それじゃあ2発しか撃てないぞ」

 マークが、割り込んできた。

「オレが出ないと6対1になる。1発頼むよ」

「撃ってから、後は考えるぞ」

 アランは、前方の囮になっているつもりの宇宙艇に主砲の照準を合わせた。

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