第33話 巫女の騎士マーク

 活性石調査に出すか、それとも、ナオミを遺跡資料室の重要異能者として囲い込むか。連日協議が行われ、なかなか決着がつかない中。オース元帥の「一般人でも、アイテムを使える可能性があるのなら、そのほうが、戦略的価値があるだろう」という一言で、ナオミ達は、アイテム資料の検証の仕事をさせる方向に決議された。


 ナオミ達の自由が保障された日の晩餐は、和やかなものとなった。マーガレットとミーシャが、オース元帥の好物、りんごパイを作り食卓をにぎわした。オースは、連日ミレニアムホースに呼ばれていたナオミをねぎらい、例の紅茶を振舞った。ケエル総督の奥さんマリア・ガバンは、ここまで和やかな食卓は初めてと、夫に笑顔を向けた。

「ワハハハハ、マーティンのやつ、ナオミさんをこき使ったのだろう。アイテムの一つでも貰え、わしが免税にしてやる」

「それでしたら、エアブルーって言う指輪を頂きました。指輪にしか見えませんが、エアー発生器だそうです。ミレニアムホース名誉会員の証です」

「どれどれ」

 ナオミがオースに指輪を渡す。「なかなか綺麗じゃないか。マーティンもやる」と、マーティンに負けたくないという顔をした。指輪は、ケエル、ミーシャと渡り、素晴らしいと品評された。

「父さん、われわれも、彼らに何かプレゼントしてはいかがです」

「そうじゃな。覚醒のバラはどうだ。ミーシャ」

「お父様、よろしいのですか」

「ナオミさん、この紅茶は、炎の遺跡から出土した植物から作ったものじゃ。繁殖から、紅茶の製法までミーシャが研究した。ミーシャ、3本ほど株分けしてあげなさい。紅茶の製法もミーシャから聞きなさい」

 ミーシャが嬉しそうにうなずく。ケエルもそうだ。

「それは、素晴らしいプレゼントです」

「どうせ、解禁されている」

「有難うございます」と、ナオミ。


 そんな話をしている中、マークに指輪が回ってきた。マークは、この青い宝石のどこからエアーが出るんだろうと、青い宝石部分を突っついた。すると、ころっと青い宝石は宝石台からはずれ、食卓を転がった。

「キャ、マーク何するの」

 ごめん。と、慌てたマークが、宝石を追いかける。

 それが、こっけいで、オースが大笑いした。マーガレットがいさめる。

「マーティンのやつ、とんだまがい物をつかましたか。ワハハハハハ。今度からかってやろう」

 オースは、マークが気に入ったようだ。その和やかな情景をケエルは、まさかと、思いながら見た。思い当たる節があるからだ。そこで、諜報部に出しているメインを呼び戻し、打ち合わせた後、マークだけを書斎に呼んだ。


 マークが書斎に行くと、側近のメインが、難しい顔をしてマークの横に付いた。ケエル総督の書斎は、とてもシンプルなもので、オースと対照的な書斎だ。ガバン家は、初代がそうしていたように本を大切にする家系だ。公邸の一角には、図書館もある。本がぎっしりあるオースの書斎と違い、ケエルの書斎には、個人のブックやモニターがあるだけだ。変わっているといえば、遺跡の映像アイテムがあることだろう。自分で見たほうが早いと、持ち帰っている。マークは、メインの表情を見て身構えた。


 ケエル総督は、ふうと肩の力を抜き、マークに話しかけた。

「マークさん非公式の会談だと思って下さって結構です。メインは知っていますね。彼は、メイム(鳴鈴石)を使う魔法使いです。メイン見せて上げなさい」

 メインが金色の鈴を出してみせる。胡桃大で、4つの結晶石がついていた。

「これは、オリジナルです。ここに4つの結晶石が付いているでしょう。青、黒、赤、黄色。どの結晶石にも意味があります」

 メインは、鈴をマークに渡しながら、更に説明する。

「出土しているメイムは3つですが。オリジナルは、全部で4つあると分かっています。3つは、私が所有しています。同じオリジナルが幾つもあるというのは珍しいことなのですよ。オリジナルには、一つ一つ違う遺跡のエンブレムが付いています。マークさん、ちょっと、この結晶石をはずしてもらえます。指先で押せば外れます」


 マークは、メインに言われるままにメイムの結晶石を指先でつついてみた。本当に簡単に外れた。ケエル総督とメインは、目を合わせて、驚き、緊張した面持ちに変わった。

「マークさん、アイテムに、はめられた結晶石を外せる者は、ケレス連邦にはいません。あなたは、遺跡とアイテムをどこまで勉強しましたか」

 マークは、まずいことをしたかと思ったが、いつもの通り顔には現れない。それに、マークは、ケエル総督をナオミの一連の事件から信用するようになっていた。


「ブルクハルトさんと言う人に、1週間習いました」

「ブルクハルトさんでしたら、私も話したことがあります。お元気にしていますか」

「本人は、宇宙宝石研究家だと言っていますが、ファイヤーバードで、ジョンさんの居候やってます」

「ははは、そんなことに、あなたたちの世界は、面白いですね。最近来ませんが、ジョンも、ここによく泊まっていたのですよ。そうですね、私も少しだけレクチャーして差し上げましょう」

 メインが椅子を持ってきた。メインは座らない気だ。


「遺跡のアイテムを使える人間のことを、ここでは、魔女、魔法使いと言っています。それは、遺跡時代に、魔法学校があったからです。だから、私たちの間では、魔法時代と言っています。しかし、それ以上の能力がある人たちの呼び名は、神官です。神官は、全員女性です。その神官が仕える魔法使いのことを魔導師と呼びます。魔法学校の校長先生だと思えばいいです。実際は、神官の方が、魔力が強かったようですが、人間の序列が絡むのでしょう。ところが、それらの人が及びも付かないほどの力を持っている人がいます。その人は、巫女と呼ばれていました。巫女は、一時代に、一人しかいなかったようです。その巫女に仕えていた神官は、予言者と呼ばれていました。習いましたか」

「巫女は全部で、7人です。いない時代の方が永かったと習いました」

 頷くケエル。

「遺跡の数と一緒でしょう。一人が一つの遺跡を造ったと考えています。最後に建造された遺跡が巫女の遺跡です。巫女には、騎士が、ついていたとあります。騎士は、アイテムを葬る力を持っていました。アイテムに付いた結晶石を外せるのは、騎士だけです。ケレスにはいません。今では、ジョンだけになりました。しかし、たった今、一人増えました。マークさんは騎士ですね」

 マークの内心は、とても穏やかではないのに、表情に表れない。ごまかす頭もない。

「はい、ブルクハルトさんが言うには、そうです。ジョンさんは、ひどい目にあうだけでええこと無いぞ、と、言っていました」

「そんなことはないです。ここにいるメインと、わたしは、ずっと騎士になりたかったのですよ。私は、無理でしたが、最近神官のパートナーには、なれると思っています」

「本当ですか!」

 メインがびっくりして話に加わった。

「諜報部から戻ってきなさい。明日、メインにも教えてあげましょう」

 ケエル総督は、黙ってマークを見た。顔色一つ変えないマークに少し安心した。

「騎士は、巫女を守ります、マークさん、巫女は、ナオミさんですね」

 マークの表情が崩れた。ケエル総督を直視しているだけで気がゆれた。ケエル総督には、それで十分だった。

「おかしいと思いました。メインとミレニアムホースの詳細な報告書を再検証しました。実際は、映像アイテムの、オリジナルまで見れているではありませんか。ちゃんと見ることが出来なかったからといって、見られないと決めつける方がどうかしています。あなたたちは、巫女を連れて、この危険な星まで何しに来たのですか」


 マークは今回が初仕事だ。年も若く人を見る目もない。しかし、一人で考え決断するしかない。何でも屋は、そういうものだとゴウが言っていた。そのときは、肝が据わっていればいいんだろ位にしか思っていなかった。マークは、正直に話す事しかよい案が浮かばなかった。


「月にカガヤという少女がいました。彼女は誘拐されて、このケレスに連れ去られようとしています。彼女が予言者です。オレたちは、彼女の奪還に来ました」

「そうなのですかメイン」

「今日ケレス近くまで来ている宇宙艇から軍を通して、魔法研究所に、テレパス候補を連れてきた。引き渡したいと、打診がありました」

「誘拐犯ですね。私のことを誤解しているようです。マークさん、私の望みは、人類の発展と、石との共存です。その為に、巫女の自由を奪うことはありません。ましてや」

 メインが、総督に言わせたくないのか、言葉を引き継いだ

「ましてや、ガバン家が滅ぶ道など、私が、歩ませません。私は、イー家です」

 ケエルが頷く。

「奪還作戦は、出来ているのでしょうね。詳しく話しなさい」

 マークは、肩を大きく上げ、下ろした。

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