第32話 正義の味方 グリーン

 翌日、ナオミとゴウは、ミレニアムホースの店主マーティンに呼ばれて店に行くことになった。マークとアランは、呼ばれてはいないが、一緒について行った。

 ナオミとゴウは、奥の別室に行ってしまいマークとアランは、また自分と相性の良いアイテムを探した。今日も惨敗だ。応対するリードが、ちょっと首をかしげながら苦笑いをしている。

 マークは、手詰まり感でいっぱいになった。

「アラン、パイロットスーツを見に行きたいんだ」

 なかなか、これというのが見つからないアランも、そういうのも有りかと思いマークに付き合うことにした。

「リードさんまた来ます。ナオミが帰るときには、ゴウさんに、アランのメイムを振動させるように言ってください。オレ達、アイテムは、使えないんで」

 マークとアランは、「お二人とも、あきらめないでください。きっと使えるアイテム有りますから」と、言うリードの励ましの声を背にミレニアムホースを後にした。

 二人は、マークがチェックしていた、宇宙用品屋に向かうことになった。本当は、ガニメデのミリアさんに教えてもらった雑貨店に行って。アクエリアス製パイロットスーツのボトムを買わなければいけないのだが、まずは下見だ。アランは、元々ケレスのサジタリウス社製のパイロットスーツを着ている。「これ、安っす」と地元ならではの値段に、買う気満々になっていた。

 マークのアクエリアス製パイロットスーツは、10年前にコロニーと共に会社も、消滅している。しかし、研究開発者がケレスの科学者だったので、地元だ。絶対掘り出し物の中古があるはずだ。商品を喜んで見ているアランを尻目に、マークは、ミリアに教えてもらった雑貨屋さんの場所を店の人に聞いた。店の人は、ああ、という顔をして説明してくれた。

「ちょっと複雑ですよ」

 ソコツ雑貨店は、魔法特区には在るのだが、裏通りから横道に入り、他店の裏を通った突き当たりに在った。一応、車の入れない中心街にあるのには違いない。歩いていけるのでアランを誘い向かうことにした。アランは、サジタリウス社製のパイロットスーツとそのサプライ品を大量に買い込んで、上機嫌で店を出た。

「アクエリアス社製にこだわるよな」

 アランにとって、アクエリアス社製は、パイロットスーツですといわんばかりの、厚手で古典的なホルムだ。

「知らないのか、正式発表は、されていないけど,ゴウさんの亡くなった奥さんが、プロトモデルなんだぜ。これは、パワーグラビトン御用達のパイロットスーツだよ」



 裏通りの裏は、飲食屋の厨房を覗くことができる。それに、なんだか怪しげなドアが在ったりして、秘密基地への抜け道のようだ。その通りをもう一度曲がると、そこに、ソコツ雑貨店がある。倉庫を改造したようなその店は、所狭しと品物が積まれていて、自分がほしいものが探せそうにない。マークは、初めから店主に、品物があるか聞くことにした。

「ごめんください」

「ハーイ、グリーン手が離せないの、代わりに出て頂戴」

「分かったよ、母さん」

 マークの対応に出てきた店の人は、アランと同じ身長の165センチぐらいで、痩せ型の人だ。

「グリーン」

「マーク君?」

 狭い店内で、避けようのない対面だった。グリーンは、普通の地味な格好をしていた。

「もしかして自分家か」

「何のことかな」

「今、オレをマークって呼んだだろ」

「仕方ない、正義の味方は、正体を明かさない決まりになってるから、ぼくの事は、グリーンと呼びなさい」

「何でもいいよ」

「グリーンじゃないか」

「アラン君?」

 グリーンとは、3日後に宇宙でランデブーすることになっている。ケレスで何かカガヤのことで、変化があったらグリーンから連絡すると火星で別れたが、その後、なんの音沙汰もなかった。

「で、クララちゃんは、どうなった?」

 グリーンは、顔を真っ赤にさせた。

「ちょっと、こっちに来てくれないか」

「なんだよ」

「母さん、友達なんだ。二階にいるからね」

「グリーンが! 珍しい。すいませんねー 散らかっちゃってて」


 グリーンは、自分の部屋にマーク達を入れた。部屋は、いつの時代だという感じのポスターやジャパニメーションの映像デスクが所狭しと置かれていた。

「狭いからその辺の物を壊さないでくれ、特にフィギュアには触らないでくれよ」

 えっ。と、思って横を見るとヒーロー物のフィギュアが綺麗に並べられていた。マークには狭い部屋だ。

「座ってよ」

 ・・・座れなくもないか

 アランとマークは、言われるままに座った。

「ごめん、それで、何か進展した?」と、逆にグリーンが聞いてきた。

「それは、こっちが聞きたいよ。まったく音沙汰無しなんて」

「実は、姉貴が、近くまで来てる」

「本当!よし、運が向いてきたぞ」

「それで、グリーンは、何かつかんだのか」

「話すの?」

「話せよ。それに、グリーンと、クララちゃんの関係を聞いてないぞ」

「話せば長いんだけど、どうする」

「聞くに決まってるだろ」

「どこから話せば」

「クララちゃんのことから聞かせろよ」

「はー」

「なんだよ」

「母さんジュースとお菓子持ってきてくれる」

「はいよ」

「それって、ぼくのことも話せってことじゃない」

「話せよ。それどころじゃないだろ」

 グリーンは、仕方ないと話し出した。

「ここ、ちょっと変わった雑貨屋なんだ。何でもそろうって言うか、そういう所なんだ。ぼくが、魔法を使えるのは、誰も知らない、あのエメラルドタクトも何で家にあったか知らないけど、ぼくが見つけた。自分の主を探しているっていうから、付き合ってたんだ」

「声、聞こえるのか」

「火星で見たでしょ」

「ナオミもそんな感じだったけどグリーンほどはっきり話せないようだったぞ」

「そんなの一緒だよ。YESかNOだけでも、じっくり聞くと答えが出るよね。小さい頃、見つけたんだ。長い付き合いさ。映像アイテムも見つけてる。二人で辿り着いたときは、嬉しかったなー。遺跡採掘場のゴミ捨て場で見つけた。傷一つなかったよ」

「グリーン、ここ置いとくよ」

「アラン君、ごめん、こっちに廻して」

 アランは、入り口辺りにいたので、ジュースとお菓子のお盆を3人の真ん中に置いた。

「うちの雑貨屋は、店に来る客よりネットで買う人のほうが多いんだ。たまに、届けに行かないといけない事がある。自分で荷物を持ってる方が税関で引っかからないからね、その代わりバカ高くなるよ。だから、地球とか月はよく行ってた」

「それで」

「カガヤ様は、あのエメラルドタクトが見つけたんだ」

「そのエメラルドなんでけど、ナオミにツインスターって名前つけられなかったか」

「そうだったっけ。カッコいいな、それ、ナオミちゃんがつけたんだったっけ」

 グリーンは、火星で相当てんぱっていた。

「そうだよ!」

「ツインスターなんだけど」

「お前、げんきんだな」

「いいじゃないか、カッコいいんだから。アラン君も飲んでよ」

「いただきます」


 アランにとってグリーンは、今まで出会ったことのないタイプだ。こんなに、ひょろひょろなのに、勝負を挑んできたときは驚いた。その結果は思い出したくない。グリーンとはそれからの長い付き合いなのに、自分のことをほとんど話したことがない。


「ツインスターが、月にぼく達を導いてくれる人がいるって言うんだ。探したよ。月は、宇宙の中継地点でしょ。だから、しょっちゅう行く。見つからないんだ。そしたら、カガヤ様の方が、ぼく達を見つけて抱きついてきたんだ。グリーンって呼ばれて抱きつかれた。可愛かったなー、ぼくが守るしかないっしょ」

「月の何所で出会ったんだい?」

「静かの海総合ステーションさ、養護施設にいるって言ってた。ぼくが、そのハブステーションを中継するたびに、会いに来てくれるんだ。何時来るかわかるみたいだった。アラン君とのこともカガヤ様に勧められて勝負した」

「アランと勝負したのか」

「今、その話はいいだろ」

「おまえ、グリーンに負けたな」

「空中で身動きできないんだぜ。勝てないだろ。そのとき魔法使いと始めて対戦した」

「そうか。たぶん、オレも勝てない」

「でも、友達になれた」

「そうだな、それで状況は」

 グリーンが頷いた。

「ちょっと下がってくれ。アラン君ごめんね廊下に出てくれるかな」

 グリーンは、ベッドを半回転し壁につけ、更に半分開いた。そこは、一瞬でコンピュータールームになった。

「魔法研究所をハッキングしたんだ。ばれると死刑だね。ここを見てみ、一番新しく来た人は、ミホさんだよ」

「ミホさん?」

 ミホさんですって?たいへん

 ナオミが向こうで騒いでいる。ミホは、地球で有名な女優。一ヶ月前から行方不明になっている。

「それで、マーク君達は、いつ、こっちに来たんだい」

「4日前」

「ふーん」

 グリーンは、3人が乗ってきたシャトルを照合した。

「O3Pって名前にしたんだ。こんなざるみたいな、擬態でよく宇宙港に入れたね」

「えっ、どうして」

「中距離シャトルなのに、なんで、ガニメデから来たことにしているの?、距離的に無理っしょ」

「そうだよ」

 と、アラン。パイロットが、航宇を担当する。

 それで、グリーンが詳細を読んだ。

「エゴラスコロニー経由になってるね。訪問先も改ざんしているってことか。すごいね。ナオミちゃんは、ちゃんとしてそうだ。いくつか惑星やコロニーを経由したことになっている」

 知らなかった2人だ。たぶん宇宙艇運用AIのニナが修正してくれた。当然中継地のログも改ざんしていると言う事だ。そういえば、帰りが無人でもいいようにと、ニナが、シャトルのメインコンピューターをいじっていた。

 グリーンは、経過を話しながら落ち込んだ。

「まだ、該当する宇宙艇は入港していない。でも近いと思うんだ。助けてくれるんだろ」

「当たり前だ」

「二人とも、ブックを貸してみ」

 マークとアランは、グリーンにブックを渡した。グリーンは、ブックのソフトを更新した。

「ぼくと話が出来るようにしたよ。こっちも新しい事が分かったら連絡する」

「この国で、オレ達のブックが使えるのか」

「それ、盗聴してくださいってことでしょ。ぼくはやらないな。今、ぼくとのホットラインを埋め込んだから、ぼくとの会話は、もう、だじょぶ」

「そういうことなら、火星でやってくれよ」

「入国審査前に?無理だよ。監視ソフト入れる前にチェックされる」

「監視ソフト?」

「惑星を離れたら、消滅するソフトなんだ。電波もGPSにしても宇宙間距離だと意味ないからね」

 マークとアランは、ケレス連邦がどんな国か改めて認識した。

「それで」

「なんだ」

「何しにきたの」

「そうだ、アクエリアス製のパイロットスーツなんだけど、自分が穿けるオリジナルのボトムが、ここのネットに出てたんだ」

 グリーンが検索した

「あるね」

「買いたい」

「いいよ、探しとくから、明日来てくれるかな。アラン君は?」

「オレは、姉貴のお土産かな。なんかいい物有る?」

「それ、あいまいすぎだね。時間あるんだったら店を見てくれる」

「そうだね。そうする」

 マークとアランは、ケレスで、知り合いの店が出来てしまった。

 それから2日間、マークは、グリーンのところに通い詰めた。アランは道場で、剣を持たない術を精力的に指導した。特に師範代のケルビムは、相当絞られた。そのしわ寄せで、息子のメインは、諜報部の仕事に復帰させられ、多忙な日々を送った。アランが、グリーンのところに行ってみるとグリーンは、憮然としていた。マークが、綺麗に並べていたフィギュアをかたづけ、ベッドも2段ベッドにして、部屋を改造してしまったからだ。もう片付けが終わって、コンピュータールームに出来るのに、グリーンは、自分のベッドの上で、スコープ型のモニターを頭から離さない。たぶん、ぶぜんとした表情で、宇宙港を監視しながらネットショップの仕事をしているのだろう。マークは、グリーンが抵抗しなかったらもっと早くできた。オレ達の寝場所を確保しただけだと説明した。アランは、片付けるのに2日掛かった事にあきれた。

 マークは、この2日間でグリーンの母親と仲良くなっておりグリーンは一人で戦っていた敗戦の将である。

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