第31話 ケエル総督の依頼 辛くも授受

 それから、しばらくしてケエル総督が、ナオミたちのいる別室にやってきた。メインもケエル総督に従って入ってきて、着席した。


「資料は見ていただけましたか」

 男たちは頷いただけだが、ナオミは、「はい」と返事をした。

「どうでしたナオミさん」

「とても興味深かったです」

「そうでしょう。皆さんにこの資料の検証を依頼したいのですが、いかがです」

 みんな頷いただけだが、ナオミは、

「ぜひ、させていただきたいです」と、返事した。

「うれしいですね。では、どうして私がこれを検証したいか話させてください。それを考慮に入れて、この資料の現実的な可能性を、示していただきたいです。検証してもしょうがないのでしたら。依頼自体意味がありませんからね」

 意味がないか。ゴウは、それも有りだよ。と、チョッと思ったが、依頼がなくなると、ナオミの危機が現実になるのかと、思い直した。


「私が魔法時代の研究をしている理由は、人類の未来のためです。今まで魔法世界と関わって、分かったことは、最初に人間の世界に来た3つの石が、魔法世界を作ったということです。この石たちがやったことは、重力調節、放射線防御、時空間移動です。私は、まだ分かっていない時空間移動のことを調べています。そのためには、石と人の関わりを知る必要が有ります。奇跡のようなアイテム達です。なぜ、人の言うことを聞くのでしょう。石と付き合うことは、人類発展に繋がります。それは、近年の宇宙開発を見れば明らかです。わが国では、アイテムが使えます、その代償として、アイテムによって多くの人命を失っています。ここにいるメインの兄達は、遺跡で命を落としています。出来ればそれを減らしたい。私は、犠牲を多く見過ぎました」

 メインは、下を向いてしまった。あまり、話したくないし、聞きたくない話だからだ。

「土の遺跡は、他のどの遺跡よりも死人を出しています。しかも、人と一番関わっていそうなアイテム達も、ここの遺跡です。皆さんに見ていただいた資料が、現実なら、オリジナルの活性石と霊魂石は、地球にあると言うことになります。それが分かるだけで、今までの定説さえ崩れてしまうのです」

 マークが手を上げた

「どうぞ、質問してください」

「定説をおしえてください」

「メイン、話して差し上げなさい」

 メインが、総督の替わりに答えた。

「アイテムは、魔女と、魔法使い、又は、異能者しか使えないということです。ナオミさんは、ミレニアムホースで、新しい異能者に認められました。なぜなら、普通の人は、使えないというのが、定説だからです」

「マークさんいいですか」

「はい、ありがとうございます」

「なぜ、定説が崩れるかと言うと、石が勝手に地球にやってきたことになるからです。人類の宇宙開拓の歴史は、たかだか500年ぐらいしか有りません。人類の歴史に、この遺跡の記述がない以上、テレパスが石を呼んだと、言えないでしょう。アイテムは自分の意思で地球に行った。皆さんに見ていただいた、霊魂石と、活性石は、オリジナルが出ていません。まだ、検証できていない地下30階以後に有ると言われれば、それまでですが、わたしは、この資料が気になるのです」

 今度は、アランが手を上げた。

「どうぞ、アランさん」

「定説が崩れると、何がアイテム使用の基準になるのですか、ミレニアムホースで自分に合うアイテムを探しましたがありませんでした」

「アランさんは、クリスタルソードが使えるではないですか。魔力は無いですが、立派な異能者です。そうですね、そうなってみないと分かりませんが、可能性としたら、石が選んだということになります。石の好みに会う人がいれば、石は、その人に力を貸す。今までは、アイテムを使える人だったのが、アイテムに助けてもらえる人になるということです。そうなると、一般の人の中にも使える人が居たって可笑しくないでしょう」

「ありがとうございます」

「資料を読んで、地球に石の痕跡を見つける事が出来そうでした?」

 ゴウは腕組みして黙ったままだ。

「はい、可能性でしたら」

 ナオミは、ケエル総督がとても喜んだように見えた。

「ナオミさん、それは、どんな可能性ですか」

「定説の話からさせてください。どんな偉い魔女でも、魔法使いでも、全てのアイテムが使えるわけでは有りません。ですから石と相性があると考えています。アイテムが使えたとしても、オリジナルは、別格です。異空間を作れるのは、オリジナルだけです。それに、本当の持ち主が現れない限り形態変化をしません。オリジナルは、ケエル総督がおっしゃるように、石からのアプローチが考えられます。相性のいい使用者が現れると石は、その人の持ち物になります」

「相性ですか」

「どうして、そうなるのか仕組みが分からないからあいまいな言葉を使うしかないです。そこで、相性といわせてください」

「面白いですね」

「今回この資料を見せていただいた付録に、気になる記事を見つけました。東南アジアのよみがえり教です。この宗教の特徴は、教祖が触れると死んだ人が、一時的によみがえるところから興きたものです。生き返った人は、やがて、草が枯れるように、しばらくしたら、亡くなります。ここに活性石の可能性が有ると思います。なぜなら、この宗教が掲げた紋様が、土のエンブレムと同じ模様だからです」

「そうなのですか。メイン、資料室に行きなさい。検証できるはずです」

「はい」

 メインは、部屋を出て行った。

「もし、この記事が事実だとして、どうやって検証します」

「現地に行かないとなんともいえませんが、石が御神体であるのなら、紋様も石に刻まれている可能性が有ると思います。それより問題は、アイテムの痕跡調査です。これは、分かっている者、又は、分かる者が、現地調査をする必要があります」

「その通りでしょう、素人には出来ません。ナオミさん達は出来そうですか」

「必ず答えが出るとは限りませんが、普通の人より可能性は高いです。期待してください。私が思いついたのが、それだけですから、まだ他にも土のエンブレムとの関わりを調べられると思います」

「ナオミさんの言うとおりでしたら、マークさん達も手伝ってくれるのでしょう」

「「はい」」

「ゴウさん、貴方、珍しく当たりの助手さん達を連れてきましたね」

 ごほ、ごほっ

「勘弁してください。それ、マーティンにも言われました」

「ははっ、ははははは。メインが待ち遠しいです」


 総督の機嫌が良くなり、例の紅茶を振舞ってくれることになった。話は、牧場の話になり、ケエル総督も個人的な時間を過ごした。ケエル総督は、この話を聞くために、今日の仕事を急いで片付けた。ナオミは、牧場で家事見習いをしているイシュマル家のスーと、とても仲良くなっていた。


 メインが帰ってきた。

「話の内容は、ナオミさんの言う通りです。紋様も、エンブレムのレリーフと思われるぐらい似ています」

「これは、父や主要な人達に図る必要がありますね。ナオミさん、悪いようにはしませんから、話が決まるまで、ミーシャの相手をしてやってください」

「とんでもないです、相手をしてもらっているのは私です。本当に牧場、楽しかったんです」

 ケエル総督はニコニコした。

「また夕食で会いましょう」

 総督は、急いで部屋を後にした。

 ゴウは、メインがいるにもかかわらず、ハーと息を吐き肩の力を抜いた。

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