第25話 ミレニアムホース店主 マーティンの試し

 ゴウがやって来た。

 ナオミは、言いたい事が山ほどあったが、ゴウと別れた後もミーシャのことが有り、怒る気が失せていた。当事者のゴウは、もう、そんなことは、とっくに忘れている。

「ミーシャさん美人だったろう。友達になれたか」

「ええ、とても仲良くなりましたよ」

「本当か、オレにも紹介してくれ」

「お昼をおごってくれたら、ミーシャさんの話しをしてあげます」

「分かった、なんでも言ってくれ。ミレニアムホースの近所に、うまい店があるんだ」

 多分ユーナスさんとの事を聞いたら、ゴウさんのことだから、がっかりするに違いない。ナオミは、マークと、アランに目配せした。

 昨日の事は、お昼一食で許してやることにした3人だ。


 マーク達は、ミレニアムホースの玄関に戻ってきた。入り口の上にある羽のある千年馬が3人を歓迎してくれているように見える。ゴウを先頭に、ナオミ、アラン、マークと店に入った。

 チリリン

 ドアの鈴が鳴り、店主が奥から出てきた。

「ゴウじゃないか、いつ来たんだ。」

 二人は、抱き合って再会を喜んだ。

 三人は、店内を見回した。オリジナルと思えるものは、あまりなく1stや2ndと思われる宇宙の宝石が、豊富に陳列されていた。アランは、クリスタルソードに付かないかと結晶石に釘付けだ。ナオミは、遺跡から発掘されたと思える浮遊石や光燐石の棚を見ている。マークは、店内を回り出した。

「すまん4日前だ。総督のところに居たんだ。新しい助手だ。総督に会わせない訳にはいかないだろ」

 ゴウが、3人を呼んだ。店の主人は、41、2歳に見える。と、言うことはゴウと同じ年ぐらいか。3人は、慌てて店主のところに集まった。

「店主のマーティン・イシュマル・スタットだ」

 マーク達の名前を聞きながら握手する店主。

「どうだ、解るか」

 ゴウが意味深なことを聞いた。

「男の子二人は、異能者だ。女の子が解らん、特殊技能の持ち主か」

「どうかな、みんな発展途上だからな。試すか?」

「当たり前だ」


 店主は、浮遊石のセカンドを持ってきた。これが浮けば、魔女や、魔法使い候補だ。しかし誰も浮かない、店主は、まず、アランに自分のブック画面を見せた。それは、惑星ケレスの座標を示していた。そして2枚目

「この惑星は何所かな」

 アランは、ケレスから逃避するため、シュミュレーションで、ここに来るまで、さんざん学習ポットで見た座標を見せられた。

「惑星バラスに向かう起点。エゴラスコロニーの座標じゃないですか」

「じゃあこれは」

 見たことのない小惑星でそれも衛星がある

「知りません」

「これは、惑星プルコヴァだよ。こうすると解るかな」

 マーティンが映像を広げた。

「意外と近いんですね」

「そうさ、どれぐらいでいける」

「一日掛からないと思います4Gですけど」

「そのとおりだ」


 次にマークが試された。

「すまん、店の真ん中に丸い鉄板があるだろ。そこに立ってくれ」

 マークが店の真ん中に立つと、物凄い重力が掛かってきた。力場は円筒の形に変わり、鉄板は、少しずつ沈んでいった。

「凄い重力だろう。体感G幾つぐらいだと思う」

「6Gですか」

「なんだって、ちょっと待ってくれ」

 マーティンは、重力障壁を最大にまで上げて重力をあげた。マークは、地上でこんな経験をした事がないほどの重力下に置かれた。

「降参です、8Gですね」

マーティンはおどろいた。

「今のは12Gだぞ。こりゃ、パワーグラビトンじゃ済まないぞ。君は、バイオエレクトロマスターか?いやそんなことはないか」

 マーティンが、ちょっと黙ってしまった。ゴウたちは、間が持たなくなる。


「悪かったな、それじゃあナオミさんだ。すまん、自己申告してくれ。私でも分からんときぐらい在る」

 ナオミは、事前の打ち合わせ通り映像アイテムを見られると話した。これが、一番当たり障りが無いとアリスも請け負ってくれた。

「最近わかったのですが、遺跡の映像アイテムが見られます」

「テレパスでもないのに・・か」

「はい」

「ムー、ちょっと待ってくれ」

 マーティンは、奥から映像アイテムを持ってきた。

「これは、風の遺跡の映像アイテムだ。ちょっと見てくれ。そうだな、空気が発生するようなイメージを浮かべてくれ。雲が流れていて空を飛んでいるイメージだ」

 ナオミは、風が湧き出し、空を飛び、雲が流れるイメージをした。

 そこは、雲の上だった。浮遊石で浮かんでいる若者が、ただ、漂っているだけではなく、空を飛んでいた。背中から空気が発生している羽をつけている。近くで見ると、肩に二つの器具が取り付けられているようだ。そこから、空気が勢いよく噴射されていた。その空気を体に受けない工夫がしてあった。光燐水の幕だ。これが羽のように見えたのだろう。実際は、4枚羽で、飛翔用の羽に空気が当たっている。

「何か見えたか?」

「若い男の人が、光燐幕の羽をひらめかせて空を飛んでいます。信じられないわ、初めて見ました」

「私こそ信じられないよ。いきなりその映像を見ることが出来た人は、君が初めてだ。ちょっと待ってくれ」

 マーティンは、また奥に入って行った。

「これなんだが」

 マーティンは、馬のひずめのようなアイテムをナオミに見せた。

「ここの、看板になっているアイテムだよ。魔法時代は、これで飛んでいたそうだ」

「おかしいです。少し形態が違いませんか」

「解るのか、そうだ、その通りなんだ。形態変化をしないと、実弾を入れられない、これさ」

 マーティンは、光の盾に入っているような平べったい光鱗水の入った実弾をナオミに見せた。

「光る羽はこんな感じでした」

「ちょっと持ってみてくれ」

 しかし何も起きない

「ナオミさんだったね。そのうち許可が下りたら、うちにある映像アイテムの解析を頼みたいんだが、どうだろう。少し契約はややこしくなるが、悪いようにはしないから」

「よろしくお願いします」


 マーティンは、ゴウに向き直った。

「ゴウ、お前にしては、初めて当たりを連れてきたな」

「そりゃないだろ」

「アランさんは、マスメンタルだ。マークさんは、パワーグラビトンさ。ナオミさんは、名前を考えないといかんな。初めてだから、こんな人は。ライブラリーアナリシスはどうだ。新しい異能者の名付け親になるのは気分がいい。そうだ、ちょっと待ってくれ」

「忙しいやつだな」と、ゴウ。

 店主のマーティンは、また店の奥に引っ込んだ。今度は、しばらく帰ってこなかった。やっと帰って来た時は、真っ赤な顔をして帰ってきた。どうやら、相当奥のほうに探し物が入っていたようだ。

「すまん、やっと見つけたよエアブルー。ナオミさんこれを貰ってくれ。これは私が、いたずらして作ったものだ。エアー発生器だよ。凄いだろ、宝石の指輪にしか見えないようにするのに苦労したんだ。宝石のように見えるのは、風の結晶石さ、使えなくてもいいんだ。うちの名誉会員第一号だからね」

 マーティンは、このうえなく嬉しそうだ。


 ナオミは、うまくやった。アリスは、この会話を アランを通して全て聞いていた。そして、一安心したと、胸をなでおろした。アリスは、いざというとき自分も動こうと、グワンユウ操縦の宇宙艇サイカに乗ってケレス近くまで来ていた。


「三人とも、うちで買い物していいぞ。店に入ってくれ」

 マーティンは、カウンターを開けて、ゴウ達を店の奥に案内した。

 そここそが、今回の目的地、魔法アイテム屋だった。オリジナルだと思われるアイテムに1stレプリカが並んでいる。それも、店先の2ndより安く提供している。ケエル総督の人となりがわかる。

 マークは、自分に合うアイテムがないか探し出した。アランは、店先と同じように、結晶石を見ている。

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