第24話 マーガレット皇后

 その朝ナオミは、ミーシャの部屋に向かっていた。

 ガバン家の朝食は、各自で取る。部屋で食べてもいいし、中庭に出る事が出来る、ベランダで食べてもいい。ミーシャは、昨日自分で言ったことを実行することにした。ミーシャは、ナオミに朝食を一緒に取りましょうと誘った。自分の部屋のベランダでどうでしょうと提案し、朝食を一緒に取ることになった。ベランダは、中庭続きになっていて、中庭からも向かう事が出来る。時間になり、ナオミが、円形になった中庭に出ると、ちょうど反対側のベランダで、手を振っているミーシャが見えた。

 そこに、もう一人、女性がいた。ミーシャの母親だ。皇后マーガレット・ガバンは、とても気さくな人だ。

 マーガレット・ガバンは、少しふくよかな人だ。肌が透き通るように白く、年相応な容姿なのにマシュマロのような膚をしている。手を振っている自分にナオミが気づいた事が分かりミーシャは、母親に釘を刺した。

「お母様、私が先にナオミさんとお友達になりますから、それまで、お母様は黙っていてください」

「はいはい、分かっていますよ」

 ナオミは、黒髪で、東洋人独特の顔立ちだ。神秘的なのに幼いあどけなさがある可愛い人だ。それなのに、この庭を歩いていても、違和感がない。

「お招きいただいて、ありがとうございます。こちらからお邪魔しても、よろしいですか」

「そのままで結構です。さあこちらに」

 ミーシャは、立ち上がってナオミを招き入れた。

「マーガレット様、お邪魔いたします」

「いいのよ。お茶も一緒にいただけると、嬉しいのですけど、今日は、どちらまでお出かけかしら」

「お母様!」

「あら、ごめんなさい。ミーシャも座って」

「母は、気さくな人なの。今、食事を用意させますね」

 ミーシャは、小さな鈴を鳴らして、給仕に食事の準備をさせた。ナオミは、ニコニコしながら席に着いた。

「ゴウさんのところは、大変だと兄から聞いていますが、ナオミさんは大丈夫ですか。心配だわ」

「まだ、始めたばかりですから、様子は分かりませんが、今のところは出来そうな気がします(本当は、フリーなのよね)」

「えらいわ、私なんかナオミさんのころは、まだ、アカデミーにいたんじゃないかしら」

「ナオミさんは、お幾つなの?」

 話に参加したいマーガレット。

「18歳です(実は15歳)。私は、まだ勉強中のようなものです。でも、料理は得意なんですよ」

「私は、料理はダメね。アカデミーも植物学が専攻だったし、だから、ハーブとかは、強いのよ」

「自分で入れているものね」

「すばらしいです。私の知り合いにも、ちょっと毛色は違いますが、ハーブを自分で栽培している人がいます」

「今度紹介してください」

「はい」

 朝食の準備が出来、食事が始まった。

「料理は、得意だとおっしゃっていましたが、どんな料理です?」

「お母様、また」

「家庭料理です。中でもパン作りに自信があります」

「大事なことですよ。ミーシャは、もう随分厨房に入っていないでしょ。結婚した時どうするのですか」

「そこに話しを持ってくるのね」

「でも、おいしそうに食べていましたよ」

 ピクンとするミーシャ。ナオミは、言い直した。

「一度、偉い人が会議をしている席に、私も手伝って作ったパンケーキを持っていった事があります。最初は、ぎすぎすした会議でしたが、紅茶とパンケーキを出したら、急に場が和やかになったんです。皆さんおいしそうな顔をしていました」

 こんな話しを待っていましたとばかりにマーガレットも話に加わった。ミーシャからしてみると、はじめから話に参加していたじゃないと言いたい。

「そうでしょ。私は、オースに時々、お前のパイが食べたいって言われます。ミーシャもちょっとは手伝いなさい」

「手伝わないこともないわよ。じゃあ、今日作りませんか」

「いいわよ。夕食に出しましょうよ」

 とっても嬉しいマーガレットだ。

「今日の予定はどうなっています。ナオミさん」

 ミーシャは、母親にしてやられたと思った。だから、ナオミにも付き合ってほしそうだ。

「すいません、今日はミレニアムホースに行くことになっています」

「お仕事で、いらしたのよ」

「残念だわ」

「ゴウさんに聞けば分かると思いますが、時間が出来る時もあるかもしれません。その時お付き合いできると思います」

「でしたら、牧場に行ってみませんか。親戚のイー家は、牧場もやっていますから」

「ミーシャ」

「スーにも会いたいのよ」

「そうね。そのときは、わたくしも誘うのですよ」

「はい、お母様」

 和やかな時が流れる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る