第22話 ケレス第三王妃 ミーシャ
アランは、やっと落ち着き、もう少し3人で話がしたいとナオミの部屋をノックして、マークのところに行こうと誘った。ナオミ達が、部屋に入ってドアを閉めようとしたとき、もう一人、入ってきた。ミーシャだ。
「私もお邪魔していいかしら」
入ってから言われても、いいとしか答えようがない。
「アランさんでしたわね。貴方のブレスレットを良く見たくてここに来ました」
思い当たる節があるアランは、ブレスレットを外してミーシャに渡した。
ミーシャは、ブレスレットを触って良く見た。間違いない、あの人のものだ。もうミーシャの表情から、アランは、ミーシャにもマーク達にも事情を話すしかなくなった。ミーシャの目から涙が、湧き出たが、ミーシャは声を出さない。3人は、ミーシャが落ち着くまで待った。
「ごめんなさい。アランさんは、これを何所で手に入れました」
「金星の、ユーナス評議員が貸してくれました。家宝だと言っていました」
光の盾を持ったミーシャの手が震えた。
「ソウジロウ・ユウナスですか」
「はい」
ミーシャはちょっと震える声でもう一度聞いた。
「彼は、お健やかでお過ごしですか」
・・・・
いいのよ、全部教えてあげなさい
アランの中に、ドンという感じでアリスが入ってきた。
そうだけど
この屋敷に盗聴器なんかないわよ。それを聴く立場の人達よ
アランにしては、珍しく別の勘を働かせていたのだが、姉には、逆らえず。また、いいことのように思えた。ミーシャは、ジッとアランを見ている。マーク達もだ。
「ユウナスさんは、今でもミーシャさんのことを思っています。結婚もしていません。自分は、不器用ですからと、言っていました。いまは、バーム評議会の金星代表の評議員です」
「生きているのですね」
うなずくアラン
ミーシャは、一番聞きたかった答えをいきなり聞けた。
「詳しく話せよ」
「そうよ、今日はアランで、いろいろあったのよ」
そう来ると思ったよ
「ミーシャさん」
気持ちが、遠くに行っていたミーシャが、現実に戻ってきた。
「はい」
「その話をしようと思ったら、まず、自分のことを話さなければいけません。他の人には内緒にしてください。ミーシャさんのお父さんにも、お兄さんにもです」
そうかーと思う残り二人。
「問題ありません。わたくしは、政治事とは、一切関係有りませんから」
「お兄様のケエルさんには、話してしまったのですが、私は、アラン・バークマンです」
これだけで、ミーシャは、ソウジロウとのつながりを了解した。
「ご両親も御健在でいらっしゃいます?」
「土の遺跡で死にました。ユウナスさんは、私の両親のことを 今でも悔いています。私が、クリスタルソードを使えるようになったと聞いて、この光の盾を貸してくれたんです」
これを聞いて、ミーシャが、泣き出した。自分もその原因の一部だからだ。
ナオミは慌ててハンカチを渡し、背中を抱きかかえた。
「泣かないでください。オレも、姉も両親が、冒険者として死んだことを喜んでいるのですから」
アランは、泣いているミーシャをソファに座らせマークとナオミに事情を説明した。
「マーク達には、ちゃんと話していなかったけど、オレの両親は、17年前、ケレスの土の遺跡で死んだ。遺跡探査は、今でも地下30階で止まっている。それ以上は、誰も成功者がいない難所なんだ。そこに無理やり行くように仕向けられて、死んだ。だけど、当時は、普通の遺跡探査の危険認識だった。ユーナスさんと父達は、最初地下30階までの契約でここに来ていた。仕事を終えてもユーナスさんが、ミーシャさんとの恋愛を成就させたくて、ここに父たちを巻き込んで留まって居たんだ」
泣いているのが収まっていないのに、ミーシャも話に加わった。意志が強い人だ。
「ソウジロウは、遺跡探査の中継ぎを担っていた人よ。遺跡への理解がすばらしい人だったわ」
「ミーシャさんとユーナスさんは、恋人同士だ。そこを利用され、ユーナスさんは、牢屋に入れられ、オレの両親は、30階越えの遺跡探査に狩り出された。牢屋にいたユーナスさんが、生きているのは、ケエル総督のおかげだったそうだ」
「そんな・・・」
ミーシャさんは、事件の経緯を殆ど知らされていないんだろうなと思うアラン。
「私は、アランさんのお母様に、ソウジロウのことは、31階の探査を成功させたら考えてもいいと、父から約束を取り付けたから、待っているのよと言われて、待っていました。最後の地下30階を制覇したのは、アランさんのご両親です。でも、いくら待っても帰ってきません。父は、最初、ソウジロウ達は、遺跡で死んだと言っていましたが、たまたま、立ち聞きした父の話からソウジロウは生きているという答えを導き出しました。父は、ああいう人ですから、その話を持ち出したら、無理やりにでも、私を結婚させていたことでしょう。今、ソウジロウが生きていると聞きましたから、涼子さん達もと思ったのですが、なんてお詫びしたらいいのか・・・」
マークは頭をかいていた。声こそ出さないが、ナオミがミーシャの話を聞いて、ミーシャ以上に号泣していたからだ。
おい、本人が泣かないで、がまんしてんだぞ
うん、でも、涙が止まらないの。だって、生きてるかどうかも分からないのに17年もー
困った
アランは、話を続けた。
「ユーナスさんは、父たちの帰還期限を大幅に超えた頃開放されたそうです。ユーナスさんが言うには『ケエル総督は、自分がたいした冒険家ではないことを知っていたからね、いや、永久追放かな』と、言っていました」
「兄が助けてくれたのですね。兄は、人の未来を気に掛けるような人です。私には分かりませんが、魔法世界の事が分かれば、外宇宙にも出て行けると、真剣に話していました」
三人は顔を見合わせた。ブルクハルトに習った話だ。ジョンやアリスも同じことを言っていた。
「ミーシャさん、光の盾を貸したいのは山々なんですが、明日、道場の早朝稽古に行かなくてはいけませんので」
「ごめんなさい」
ミーシャは、光の盾を強く握っていたのだろう、震える手で、アランに光の盾を返した。
「私も明日からは、ちゃんとお夕飯を皆さんと一緒にとろうかしら、最近は一人で食べてばかりいましたから・・・部屋にこもりすぎですよね」
少し吹っ切れたのだろう。ミーシャは、涙を拭きながら少しニコッと笑った。
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