第21話 オース・ガバンの居城

 ケエル総督は、結婚して自分の家を興した。しかし、広い父のガバン家居城から引越しをしなかった。父親の勧めがあったからだが、何より、塞ぎがちな妹のミーシャが気がかりだった。ミーシャは、未だに結婚していない。美しいミーシャと結婚したいという者は後を絶たない。33歳になるミーシャに、結婚を勧める父の話をケエルは、何度も聞いた。しかし、本人は、独身でもかまわないと言うだけだった。


 そのミーシャは、夕食の席に向かっていた。

 今日は、珍しく兄のケエルが、客を連れてきたというので、最近顔を出していない夕食に出ることにした。客がいるのなら、父親のオースも、変なことは言わないだろう。父も珍しく仕事を早く終えて、帰宅していた。兄にしては、それほど珍しいことだった。

 夕食の席についてからゲストを見て驚いた。十七、十八歳ぐらいの子達だったからだ。食卓の席順は、オース夫婦その一番対面にミーシャ。オースから見て右側にケエル親子そして、その向かい側に、ゲストの子達が座っていた。

 ケエルの長男バースは、一人っ子でまだ小さい。第二子が望まれている。婚期が遅かったのは、ケエルがパートナーに執着したからだ。40歳半ばを過ぎて、やっと父親の勧めに応じた。おかげでミーシャも、父親の勧めをはねのけることができたのだが、今は、そうはいかない。


「この子達が、ゴウの新しい助手か」

「はい、希望の子達だといっていました」

「ケエルにしては、珍しいな。わしが、いくら言っても、ゴウの助手を紹介せんかっただろう」

「見込みのない人は、紹介しませんよ」

「そうか、ワハハハハハ。アラン君にナオミ君、マーク君だったな。期待しとるぞ」

 食事の手を止め、うなずく3人。ナオミは、オースというケレスの実質的支配者の家庭的な一面を見た。人は、多面性を持っている。いざとなったら戦争をやるのはこの人達だ。ナオミ達は、ガバン家の人達の人となりを少し理解した。


 ミーシャは、ちょっと遅れて食卓に着いた。

「ミーシャ来たか。ゴウの新しい助手だそうだ」

 頭を下げる3人。兄が紹介してくれた。

「この背が高い人が、マーク君、かわいい子がナオミさん、そしてアラン君だ」

 3人は、言われるままに頭を下げた。一番ミーシャ側に座っているアランを見たとき、ミーシャの心臓は早鐘のようになった。

「アランです」

 アランもやっとなれて呼ばれたい名前だけを言うようになった。

 ミーシャは、アランのブレスレットを見た。忘れたことのない形だ。光の盾だ。

 ミーシャは、何くわぬ顔をして3人に微笑んだ。

「ミーシャです」

 今度は、アランがドキッとした。聞いた名前だ。アランは、ミーシャほどうまく表情をごまかせない。そうでなくても、今日は、ドキドキし通しだ。それをミーシャは、見逃さなかった。


 ソウジロウと繋がりがあるんだわ

「アランさんも可愛い感じなのですね」

 ケエルが訂正する

「そうでもないんだ、剣術の達人だぞ」

「そうなのか、この屋敷の敷地にも道場があるぞ。ケエル、手合わせしてやれ」

「そのつもりです。この子達は、少し長逗留になりますが構いませんか」

「いいぞ、わしも出来るだけ、夕食に、帰るからな」

 オースは、嬉しそうだ。ミーシャが、久々に同じ食卓についてくれたのも、嬉しい。それも、この子達に少し興味を持って話すではないか。もう何年もなかったことだ。

「三人は、酒が飲めるか?」

「すいません」「ごめんなさい」「自分もダメです」

「何だ情けない。それなら、例の紅茶を飲ませてやれ」

「父さんが人にあの紅茶を勧めるなんて珍しい」

「いいじゃあないか。いいか3人とも、この紅茶のことは、秘密だぞ。わしと、ケエルしか飲んどらんのだ。どうせ。この紅茶も、もうすぐ解禁にする。しばらく黙っているだけでいいぞ」

「いいのですか、父さん」

「そうだ。カールのやつが気にするから、ちょっと遅れたが、もういいだろう。息子のクリフが責任を取ると言って軍隊に志願してきよったぞ。だが、あれは、栄転だな。本人の顔を見せたかったぞ」

「ハハハハ、そうですね」

 ケエルが、苦笑いをする。

 ケレス連邦のことを猛勉強したナオミには、分かる話だ。クリフとは、宇宙の宝石を使ったマジックウエポン、ノクターンの所有者の弟だ。カールとは、クリフの父であり、第一皇女の夫で、兵器開発部部長だ。コロニー船ジョカを襲わせた人だ。どうも、オースの指示ではない事が分かり、居心地の悪さが軽減した

 ここに、マーク達がいるのに、国の重要案件が話し合われる食卓になった。紅茶が出され、更に和んだ話が続き、3人は、ケエルの侍従の案内で各部屋に落ち着くことになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る