第15話 テレパシーブロック

 今日の午後は、マークも一緒に加わって魔女修行をする。


「二人とも、ブルクハルトから、アイテムのレプリカ製造法を習ったでしょう。アイテムは、光剣で削ることが出来るわ。それを光燐水のカプセルに納めて核融合炉の中に入れておくとレプリカが作れる。これが1stレプリカよ。レプリカは、レプリカのレプリカつまり2ndレプリカまでしか作れない。2ndからレプリカを作ろうとすると、普通の中性子に戻ろうとして中性子爆発を起こす。この事故で、大勢の人が死んでいるのよ。だから、特別なアイテムのことは、非公開になっている。一部の人しか知らないわ」

 アリスは、黒いレプリカアイテムを取り出した。

「これは、私しか使えないネグロのレプリカアイテムよ」

「1stですか」

「2ndよ。1stは、今のところ私しか使えないの。今度ナオミも試してみてね。ネグロの2ndは、電磁波をシャットアウトするアイテムよ。練習すると、テレパシーをブロックすることが出来るわ。私とたぶんナオミのテレパシーは、電磁波じゃあ説明しきれないみたいなの。このアイテムは、効かないわ。でも外から心を読もうとするのを防ぐには、これを使った方が楽」


 朝は講義、その日の午後は、マークも参加した。


「今日は、テレパシーをブロックする練習をするわよ。これが出来るようになると、マークの腕をつかまなくても、話が出来るようになるわ」

 ナオミは、勢いやる気を出した。反面マークは意気消沈した。分かるような気がすると思いながらアリスはマークに質問した。

「マークは、ナオミのことどう思っているの」

 アリスさん、何を言い出すんですかーー

 ナオミは、アリスに、真っ赤になりながらストップと合図している。

「どおって、家族以上に大切だと思ってます。子供の頃からの腐れ縁ですから」

「ナオミもそうでしょう。テレパシーで繋がっているんですもの」

 うんうんうん、言葉にならずに、ゼスチャーで必死に肯定するナオミ。

「二人は、パートナーよ、正真正銘のね。ナオミは、テレパスで、マークはナオミの騎士よ。パートナーは、自分達の情報を共有する事が出来る。当然プライベートを隠したり遠慮して聞かなかったりは、今までしてきたことでしょう」

「はい」

「オレは、プライベートなんかないと思っていましたよ」

「そうでもないのよ。ナオミは、勘がいいから何でも、なんてことはなかったでしょ」

「そういえば、そうかな」

「そうよ!」

「私にも、シンっていうパートナーがいたから分かるのよ。ナオミは、近いうちに、マーク以外の人でもその能力が使えるようになると思う。だけど、そういう人は、ケレスにもいるわ。マークの心を勝手に読んでくる。ケレスで心を読まれるのは、危険だわ」

 二人とも真剣な顔になった。

「ネグロは、そんな人達のテレパシーをブロックできるアイテムよ。だけど、貴方達はパートナーよ。アイテムがなくても、話が出来るし、相手のテレパシーもブロックできるわ。二人で協力しあって、テレパシーのブロックが出来るようになってもらいたいのよ。ナオミ、それだと私のテレパシーもブロックできるわよ。これが出来るようになると良い事があるわ」

「良い事って、なんですか」

「話もできるし、たとえば、双方が協力しないと無理だけどマークが見聞きしているものがナオミにも見えるようになるわ、騎士の特質よ。マークにテレパシーがあるわけじゃあないからマークからは、出来ないけど、ナオミが、心でイメージしたことは、見る事ができるのよ。ナオミが、見たことをそのままイメージしてマークに見せれば同じような状態になるの。でも、今言ったようなことは、後で練習すればいいのよ。ケレス出発が近いわ。ケレスに到着するまでに敵のテレパシーをブロックできるようになってね、私も協力するから」

「わたし、ジョンおじ様の声も腕に触ると聞こえるんです」

「ジョンも騎士よ。わたしも話しをするのなら、そのほうが自然。騎士は、ナオミの力を強くするのよ。腕に触らないで会話をする練習は、ジョンでもできるけど、今はマークよ」


 アリスは、二人を見回した。

「それじゃあ、レッスンよ。アイテムを使わないでやるわよ」

 三人は、それぞれ少し離れた席に着いた。アリスが椅子を回転させて二人を見た。

「知られたくないことだったら、マークも抵抗すると思うんだけど、これから私が、ハードルが低い質問をするわ。そうすると、今みたいに構えてなかったら答えてしまう事があるの。思っただけで答えたのと一緒でしょう。テレパスは、そうやって秘密を暴いていくのよ。いい、やるわよ」

 二人ともうなずく

「マークは、どうしてパイロットになりたいの」

 そりゃあ・・・しまった

「ナオミは、他人が勝手にマークの心の隙間に入って、ずかずか土足で踏みにじられるのは嫌でしょ。相手は、質問を近しい人にさせることも不可能ではないわ。そうすると話さないまでも思ってしまうこともあるのよ。強制的に跳ね返すアイテムと違って、最初は少し気持ちを入れたほうが成功するわ」

「どんな気持ちですか」

「小さい頃マークにおんぶされたことある?」

「はい」

「そしたら、マークの背中に抱きついちゃって、ありがとうって背中で言うのよ。最後は、寝ちゃっても構わないわ。顔は、耳元に自然に近づくし、マークは、一人で歩いているつもりだけど、実は、二人で歩いていることになるのよ」

「できそうな気がします。本当に背中で寝ちゃったこともあるし」


 ナオミは小さいころのことを思い出した。まだ出会って間もない夏真っ盛りのことだ。マークの母親ジェシーをまだ料理の先生と思っていなくて、おばさんと呼んでいたころのことだ。ジェシーは、二人にお弁当を作ってくれてマークに「ちょっと遠いけど例の緑の丘にナオミちゃんを連れて行ってあげて。ナオミちゃん凄いのよ」と、勧められ、ふたりで少し離れた丘に行くことになった。それは海が見える緑の絨毯みたいな丘で、花もあちこち咲いていた。

 わたしは、嬉しくなって丘を走り回ったり花を摘んだりしたわ。マークが、お弁当の準備をしてくれて、おなかぺこぺこになった私は、いっぱい食べたの。そのときのお弁当の味は、今でも忘れられない。丘からの帰り、つかれた私は、マークにおんぶされて、そのまま寝ちゃったのを覚えてる。マークは、私の体重なんか気にしないみたいに、てくてく歩いてた。

 マークありがとう

 気がついたら、マークと一緒にいるような感覚になった。そうしたら、いきなりマークに聞かれたくないことをマークが聞こうとしたと思えて、マークの耳を両手で覆っている自分がいた。


「ナオミ、よくやったわ。今の感じよ」

 アリスが普通に声を掛けてきた。

「アリスさん、今、マークに何かテレパシーで変なこと言おうとしたでしょ」

「わかった?でも、大したことじゃあないわ。ナオミがグラッパで悲鳴をあげた時の話よ」

「えー聞きたいな」

「アリスさん、やめてください」

「うん、でも、たいしたことじゃあないでしょ」

 アリスは、マークにも、ナオミにアプローチするよう促す。

「ナオミは、今、マークを暖かい気持ちで包み込んでくれているのよ。ナオミがいるのは、当たり前だから空気のようなものだけど、今度は、マークの番よ。マークは今、ナオミをおんぶしてるのね。だけど、いつまでもそれでいいの。二人で一緒に歩くのよ。手を繋いでね。ナオミが下を向いてたら、ほらって、前を向かせなきゃあ」


 何だか分かる気がする。マークとナオミは、実家と実家の間の砂浜でよく話しをしたが、ナオミは、波を見ないでうつむいて砂を見ている事が多かった。何度波を一緒に見たいと思ったことか。

「はい、分かる気がします」

 ナオミ

 うん?

 ナオミは、自分を見ていることに驚いた。

「ナオミ、もしかして、マークから自分が見えた」

「はい」

「マークその感じよ。すごいわ、小さい頃から一緒じゃないと、こうはいかないってジョンが言ってたわ。私のときとおんなじね」

 嬉しそうな顔をする二人。

「ナオミは、マークといるのが当たり前なの。だから、今の感じを忘れないで、そのままでいるのよ。マークもナオミと今までずっと一緒に歩いてきたんだから。これからもそうするのよ、分かった」

 二人とも、今までしてきたことを誉められたような気がして、気持ちがすっきりした。

「はい」

 よかった、これで、二人ともケレスに行ける。ミナお姉さまエナお姉さま、私にもできたわ

 ミナとエナにシンと教えられたときのことを思い出す。アリスは、肩の荷が下りてホッとした。翌日宇宙艇スバルが到着するというきわどいタイミングだった。

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