第16話 MG2が来た

 マークの整備ロボットMG(メンテナンスガンゾ)2が、そろそろ火星にやってくる。実は、マークは、MG2に初めて会う。ガンゾのMR(メンテナンスロボット)2を知っているから、こんなものだろうと想像はつくが、火星に向かうときに、作ってくれるといわれ、ガンゾに、MG2は、自分のファイターのメンテナンスロボットなんだから、ファイターに組み込めるようにと注文した。今、乗っているファイターは、コロニーネビラの借り物で、自分のファイターは、もっと小さい。マークは、MG2のことをMR2の一回りか2回り小さいものだろうと想像していた。

 ナオミもMG2を待っていた。ガンゾと同じ技術を持っていると聞き、ブルクハルトに貰った遺跡アイテムをキャンプ道具に改造してもらおうと思っている。


 翌朝、スバルが到着したとグラッパのキンダダから連絡を受け、アランがナオミとマークをコンドミニアムに迎えに来た。ここは、自由宇宙港に近い。

 三人は、宇宙船発着場に行こうとしたが、とりあえず入国手続きをしなくてはならないと、ロボットが自分で向かっていますから待っていてくださいといわれた。三人は、到着ロビーで待つことになった。


 本当に、拍子抜けするぐらい分かりやすいのが来た。何所から見てもロボットで何所から見ても、おのぼりの旅行者それもガンゾそっくりなしぐさなのが来たとき、ナオミの

「あれじゃない?」

に、みんな、ちょっと笑ってしまった。マークを見つけたロボットが、手を振ってこちらに来たときは、周りが気になって恥ずかしくなったぐらいだ。


「マークさん、会いたかった。MG2です、よろしゅう」

 MG2は、アランとがっちり握手し、ナオミにも「よろしゅう」といっていた。

さっそくみんなと仲良くなった。

「MG2お前でかくないか」マークは最初の疑問をぶつけた。なぜなら身長が165センチはあるからだ。

「いくら、装飾や外骨格がなくても、アクエリアスに収まらないだろ」

 マークのファイターは、パイロットスーツと同じ、旧アクエリアスコロニーブランドだ。

「前方の推進器を取り払ろうたんです。わしもビックリしましたがな」

「ちょっと待ってくれ、なんか話がずれるな。オレとMR2が、前方の推進器を取り払う話しをした後にMG2の制作を依頼したんだぞ」

「わしのAIなんやけど、MR2のバックアップやったんや。機能は、同じやけど、ナオミちゃんがおらんところで、ニナを取り付ける分けにいかんかったから、自浄作用部分が、自分じゃあどうしようもなくて、最後にできたもんやから、あんさんに会う前のMR2の記憶になってしもうたんや。もう少ししたら思い出すやろ」

「そうなんだ、本当なら結構仕事あるんだけど、どうする。赤道オアシス見物するか?」

「ええんですか、いや、やめとこ。もうちょっとしたら、ゴウさんも来るで。そしたら、出発や」

 ゴウは、ケレスの別件で、コロニーネビラまで行ってのとんぼ返り。アリスが火星にいるので、出かけても直ぐ戻ってくる。

「アラン、ナオミ」

「おう」

「わかったわ」


 急にあわただしくなった3人と1体。MG2は、ケレス法訪問用のシャトルで自由港に降りていた。ケレスと一戦しているスバルの痕跡を残さないためだ。スバルは、火星から、3万キロ先の小惑星に係留していた。スバルに到着するとナオミとアランはスバルの艦橋に、マークは、スバル前方にあるアクエリアスに搭乗した。

 マークはアクエリアスを見て驚いた。

「MG2これ、ロボットアームだよな」

「それか、せっかくわしが同乗するんやで、航行中にメンテナンス出来るように改造したんや」

「ガンゾが、アクエリアスの流線形を自慢してたの知ってるだろ」

「改造の余地有りっちゅうことや。見た目は、ちょっと時間かかる」

 なるほど

「そうだな、それもガンゾの発想だよ」

「それから、わしの頭なんやけど、遺跡物質で出来てます。どう考えても、わしの頭から戦艦に突っ込むんやろな」

 これは、アクエリアス最終兵器アクエリアスセーバーの話だ。敵大型艦に頭から突っ込む戦法だ。実現させるための部品が見つかっていないので、完成していない。

「まだ、覚悟は、出来てないよな。心配するな、オレもだから」

「いっそ、早よう試してもらいたいわ」

「当分想像で対応するしかないよ」

「想像ですか?」

「ブルクハルトさん知ってるだろ、すぐに紹介するけど、『人というのは、教えられたこととは別に、自分の嗜好に傾倒して、成功と失敗を積み重ねることで答えを出す。そこで個性も出てくるんだ』だそうだよ」

「想像できんなら、シュミレーションしまくれ言うことですな、ほな合体します」

 MG2は、アクエリアスの先端にすっぽり収まった。彼は、アクエリアスの知能でありメンテナンスロボであり、多分自分の操縦技術を全て覚えるパイロットでもある。しかしアクエリアスの何所にMG2のバックアップAI、MG1が入っているのだろう。さすがに、クエッションマークが、3つほど頭の上に浮かんだ。MG2の2とは、自立移動の称号だ。1が、2の体験をバックアップする。マークとMG2は、アクエリアスの整備確認を終えスバルの艦橋に戻った。


 ガンゾのMシリーズは、人に教えながらメンテナンスするところがある。だから、勝手に新機能を取り付けず、使用者と一緒のときに取り付ける。

「ナオミちゃん、これなんやけど」

 MG2は、ナオミに光の結晶石でできた、宇宙艇運用AIを持ってきた。MG1と同じような集積回路だ。

「通信からウイルス入れるなんて、初歩やろ。そやけど、こいつは、自分で考えて、最後は遠隔方式でスバルも動かしてくれる。わしと一緒で音声対応型や」

「それじゃあ、これも、MG2?」

「あー、心配せんでええ、ニーナの個性になっとる」

「ガンゾは、MG2だけで充分よ」

「そやろ、取り付けるけどええか」

「分かったわ。それで、後でお願いがあるんだけど」

「なんや、今言ってくれたらなんでも聞くで」

 MG2は、作業しながら聞く気だ。

「これなんだけど」

 ナオミは、特大の光燐石とアイソトープの化け物をMG2に見せた。

 ロボットのくせに、手を休めて、アイテムに釘づけになった。

「それ、戦艦の部品やな」

「うん、これで、テントと、ライトとか着火装置になる多機能キャンプ用品作ってもらいたいの」

「なんやて、面白すぎるがな」

「これね、お守りにしたいの。だからいつでも持ち運べるようにしたいんだー」

「殆ど大きさ変えるな、言うことやな。ちょっと考えさせてくれるか。処理能力あがっとるんやけど、他のもしてる最中なんや。優先順位変えなあかんな」

「ありがとう。大好き」

 ナオミは、最近、アリス化が進んでいる。抱きつかれたMG2は、テレまくった。


 ナオミのオーダーを聞いたMG2は、今度は、アランとスバルで、ケレスの何所までいけるか、また、遮蔽技術などでどんな航海の可能性があるかを話し出した。

「まずはや、スバルを持って行きたいんやな。他の案はなしか」

「そうさ、逃げるのは、スバルが一番だろ」

「それは戦術や、戦略が完璧なら、逃げる必要もないで」

「シャトルで強行脱出した場合、最悪スバルに乗り移る時間は無い。だから最初の案は、却下されただろ。それに、姉貴が、珍道中になるわよって言うんだ。裏を返せば、アクシデントの連続だよな。それを想定すると、戦術がものを言うんだよ」

「アリスが――そうなるとスバルで行けるとこまで行くのは、前提言うことやな。はっきり言ってスバルは、ケレスの衛星軌道には乗れんで」

「そうだろうな。何キロまでなら大丈夫だ」

「3万キロは行ってみせる」

「もしケレスに月があったらどのくらいかな」

「7000キロやろ。わかった、わしが残れば7千キロや。シャトルなんやけど、スバルは殆どエンジンや。倉庫はない。外付けなのは、我慢してや」

「スバルじゃあケレスに入国できないんだろ。抱き合わせの仕事もあるから、シャトルでケレスに入国するのは聞いた。だからってシャトルは、廃棄せずにオートで持って帰りたい。金星では、船を大切にするんだ」

 シャトルをジョイントしての逃走は無理だ。それに、マーク達は、ゴウが市長をしているオーロラシティーの正式パスポートをミリアに発行してもらい入国する。ケレスは、パスポートに、先祖の地球出身地まで明記させる。スバルで、ケレスから逃げるのなら、脱出時シャトルは、拾えない。

「長距離偽装はしたで。せやけど、本当に長距離飛ばすなんて改造せんと無理や」

「頼めるか」

「ちょっとまってくれ・・・アランと、マークも手伝ってくれたら1週間や」

「乗った」

「よし、商談成立や。エンジンは、アクエリアスの予備やでええな」


 そこに、マークがやってきた。頭をかきながら、もう一つ頼みたそうな顔をした。

「なんや、マーク」

「やっぱり、シャトルが最優先だよな」

「言うて見い」

「スバルに、学習ポット積んでいるだろ。実は、遺跡の勉強ばかりして、ケレスの勉強していないんだ。オレらが入れるよう調整してくれないか。補助操作も頼む」

「問題ない。通信コンソールに取り付けた宇宙艇運用AIな、あれの個性、ニーナやねん。正式名は、ニナや。たぶん、スバルのメインコンピューター遅いから、なじめんてブーたれるで。だから先に頼み」

 ニーナは、ココロの通信士で、学習ポットの設計者。

「助かるよ」

「そのうち、スバルのメインコンピューターも何とかする。マーク、ケレスで、光の結晶石買うてくれるか」

「分かった約束するよ」

 MG2がきて、マーク達は、ケレス行きを実感した。


 三人は、スバルの慣らし運転することになった。アランがパイロット。ナオミが通信と艦運用。マークがエンジンと武器、化学分析の席に付いた。その中央に、艦長席ですといわんばかりの椅子が置かれていた。そこにMG2がちょこんと座った。

「MG2、そこじゃあ、何も出来ないだろ」

「何言うてますんや、よう見てみいマークさん」

 MG2の腰のところが、椅子とつながっている。

「お前、ダンパーキューブ作っていたのに良くこんなものまで」

「わしはロボットや、計器もパネルもいらん。立てば外れるように出来ているから、ここに居させてください」

「どうする」

「なんかMG2らしい」

「アランは?」

「もう、椅子作ってるし」

「わかったMG2、そこに居ていいぞ」

 MG2は、むちゃくちゃ嬉しそうだ。口には出さないが「わしが、艦長やガハハハハハ」と言っている。椅子は、MG2が立つと床に収納されるようになっていた。気は使っているらしい。

 火星を周回し、元の小惑星に戻った。そこで、スバルに繋いでいるシャトルのジョイント部分を確認した。マークとアランが船外に出る。三人は、航行に問題なしと、帰途に着いた。

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