第6話 予断および長居客の排除
1.予断の排除
放射線を食べて無害化してくれるバクテリア、REBが実在して核のゴミ問題を解決してくれたら、どれだけ人類は助かるだう。期待が広がり始めた世津奈の頭の中で、警察官時代に尊敬していた「先輩」の声がよみがえった。
「
コータローの話を聞いた限りでは、REBが実在する可能性は、あまり大きくなさそうだ。いや、むしろ小さい。実在するのが
ここは、ゼロベースで考え直した方がいい。場所を変えて気分一新といこう。テレビすらない、このワン・ルーム・マンションは殺風景で退屈だと、さっきから思っていたのだ。
「コー君、ちょっと場所を変えない?」と言うと、コータローが、イスから飛び上がりそうになった。
「場所を変えるって、ここ、ワンルーム・マンションっすよ。この部屋以外に2人で話しできそうな場所っいったら、バスルームしかないじゃないすか!」コータローの顔がたちまち紅くなる。
「宝生さん、ごめんなさい。ボク、宝生さんのこと、尊敬してます。大好きっす。でも、だからって、その、宝生さんと・・」
「私は、『外に行って、お茶をしながら話しませんか?』と提案しています」
「あっ、えっ、そういうことすか・・・」コータローが、バツが悪そうにもじもじしだしたが、急に大事なことを思い出したように「えっ」と声を上げた。
「宝生さん、それ、まずいっすよ。だって、社長からここに待機しろって言われてるんすよ。ここ、固定電話あるから、社長が電話してきた時に出なかったら、ヤバいことになります」
「でも、社長は緊急連絡用の『飛ばし』のスマホも持たせてくれたよ。それって、私たちが外に出ることも想定しているからでしょう」
コータローが真剣な顔で「なんか、マズいことになったら、ボクは最後まで反対したって、社長に言ってくれます?」と訊く。
「もちろんよ。『屈強な』私が力づくで連れ出したと話すわ」
「じゃ、オーケーです。ボク、さっきから、この部屋、なんか殺風景で退屈だなって、思ってたんすよ」
なんだ、同じことを思っていたのか。
2.長居客の排除
30分後、世津奈は、ムーンバックスで注文待ちをしていた。ちょうど午後のおやつ時とあって、店内は混みあっている。
昔、高知から出て来た伯父がムーンバックスに入ってみたいというので連れていったところ、店員に「おまんら、ショートやらトールやら、背ぃの高さみたいなこと言うたち、ちっともわからんぜよ。どういて、普通にS・M・Lと言わんがかえ」と食ってかかったことを思い出した。
伯父の言い分は正しい。この国ではサイズはS・M・Lだ。「郷に入っては郷に従え」と言うではないか。それに、たかだか300円くらいの飲み物を、まず注文受付で金を払わせてから受け渡し場所でもったいぶって出してくるやり方が「お高くとまっている」感じで、不快だ。ドートルなら、1杯220円のコーヒーが、金を払った、その場で出てくるぞ。
しかし、コータローがこのチェーンを愛してやまないから、2人で茶をする時は、ほとんど常にムーンバックスだ。コータローが気分よくいられることは、結局、世津奈にもハッピーなことなので、そのためにムーンバックスの不愉快さを我慢するくらいは、どうということはない。
コータローはモカフラペチーノのグランデを、世津奈はアイスコーヒーのトールを買ったが、店内は満席だった。夏休みシーズンとあって、普段は見かけないような家族連れまでいる。
世津奈は空のグラスを前にスマホをいじっている若い女性に近づき、咳払いをして席を空けさせ、その後に座った。
後からおずおずついて来たコータローが長身を折り曲げて腰を下ろしながら「宝生さん、カフェでコーヒー1杯で粘っていい時間の目安はどのくらいだか知ってます?」と訊いてきた。
「どのくらいなの?」
「1時間だそうです」
「そんなに長いの?今の人に『失礼ですけど、1時間以上、いすわってらっしゃいますか?』と訊いた方がよかったかな?」
「いや、別に、そういうわけじゃ…」と、コータローが言葉をにごした。
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