第12話 剣と憎しみ

仕事が終わり、家に帰る。

誰もいない。

次の日、仕事が終わり家に帰る。

誰もいない。

何度も繰り返す。


―――


 夢の中、黒いジャケットきた見知らぬ女が話しかけてきた。あなたにあげたいものがありますと言いエルカードを取り出し、私に差し出した。私はカードを受け取り見る。

ここで夢が覚めた。


 どんどんどん。


 家の扉から誰かの乱暴なノックが聞こえる。私は休日の穏やかな眠りをそれに邪魔され目を覚ました。手にはカードが握られていた。不可思議な現象と夢、それに現実のうるさいノック。余りに非日常的な状況に困惑し、布団に潜り込み、現実逃避する。外から声が聞こえてきた。


「おい!いるだろ!聞いてんのか!!!」


 外から聞こえる乱暴な声の主は菫のものだと分かった。、このまま放っておくと家を壊しかねない。カードを服にしまい、刀を取り、扉を開けた。黒色と金色の髪の少女、やはり菫が居た。


「いるじゃねーか、葉月よぉ」


 菫は私の顔を見て文句を垂れる。私はいやいやながらも相手をする。


「うるさい。何の用だ」


「人里に住む妖怪に対する辻切事件があった。管理所に来てもらおうか」


「なに、辻切だと」


「なにもしらんのか。お前」


 菫は辻切と驚く私に新聞を見せた。そこには{被害続出。妖怪嫌いの犯行か}と書かれていた。


「お前、前に妖怪に対して辻切を行ったらしいな。」


「そうだが…」


 … 余り思い出したくない。菫は言い淀む私の言葉にニッコリした顔で、


「はい逮捕」


 私に手に手錠をはめた。えっ、


「何のつもりだァーーー」


「うるせえッいいから来い!!」


 大声を出し抗議するが菫は意に介さない。菫は私を管理所に引っ張っていく。


―――


管理所


「で、犯行が行われた時には、店で働いていたと」


 管理所には呉服屋の店主が居た。菫があらかじめ呼んでいたらしい。店主は私のアリバイを証明してくれた。私が今回の事件の犯人でないと分かると菫は舌打ちした。そして私に向き話しかける。

 おい、人里にいる封魔の者の居場所を教えろと威圧的にと尋ねられた。


 私は何を言っているんだ此奴はと菫の言葉に呆れた。がしかし、菫は今時、妖怪に対して辻斬りを行う奴は封魔ぐらいだろと、決めつけの言葉を言う。

 その言葉に、私は自身のを行いもあり、反論できなかった。


「それに、被害者の妖怪の傷の治りが異様に遅い。こんなことができると考えられるのは封魔が一番の頭に浮かぶ」


 菫の考えに、それはそうだがと思案する私をよそに菫は脅しに来た。


「教えんのなら、お前を犯人にするだけだ」


「何!!」


 何と恐ろしい言葉を吐くのだろうと思い、私は心底困った。困惑する私に催促する菫。


「なあ教えろよー」


 私が捕まることで呉服屋に迷惑が掛かるかもしれん。まあ封魔で感情的に動いてしまうのは私だけだろう。教えても犯人は封魔の中からでてこないだろう。何度も頭の中で考えを巡らして決めた。


「わかった教えよう。だが捜査には私も同行しよう」


「なぜだ」


「おまえが何か仕出かさない様に」


「…チッ、わかった行くぞ」


こうして私は昔の仲間に会いに行くことになった。


―――


 私は一度家に帰り、身支度をすませた。人里は人々で活気にあふれていた。その中には妖怪も紛れ込んでいる。私は管理所に戻り菫と合流する。

 菫に人里にいる封魔は何人と尋ねられたので、私を除き三人と答えた。菫は数の少なさに少し驚いた様子であった。私は補足として、人里では暮らし難いと言う人もいると答えると、菫は納得したのか、ほーんと気の抜けた言葉を発した。


 私たちは他愛もない話をしながら歩く。


「ここだ」


 一つ目の目的地に着いた。診療所である。この診療所を運営している者が封魔の一人である。勿論菫はそんなことは知らないため、声を大きくした。


「あん、ここって診療所じゃねーか」


 診療所に封魔がいることに菫は驚いた。そんな菫をよそに私は中に入り、人を呼ぶ。


「すみませーん。ミズクさんいますか?」


 私の言葉で足音がこちらにやってきた。赤毛の妙齢の女性、ミズクさんが現れ、私たちの相手をする。


「どうしたんだー。て葉月か」


「すみません。管理所の奴が」


「おい、あんた最近起きてる妖怪に対しての辻切事件のことは知っているな」


 菫は私の言葉を遮り話を進める。


「ええ知っているけど、何、もしかして疑われている?」


 ミズクは不快な顔になった。当り前である。いきなり、辻切の犯人として疑われて気を良くする者はいない、仮に気を良くした者が居たとして、その者は狂人だろう。菫はミヅクの心情を構わず、話を続ける。


「封魔の奴らは妖怪に対して恨みがある奴が多いらしいんでね」


「私はたしかに封魔の者だったけど、辻切が起きた時間は診療所に居ました」


 菫の話にため息を吐くミズク。私は菫がこれ以上変な事を言わないか戦々恐々だった。ミズクさんは怒るととても恐ろしいからである。

 封魔に居た時に私が自分の怪我を無視し動こうとしたらをに大変怒られた。私の気持ちを感づかず、菫はミズクさんにアリバイを求める。


「それを証明できる…」


「あなた方の知り合いの了がここに入院している。そしてその看護もしている。これでいいかな?」


 菫の問いにミズクさんは食い気味に反論する。確かに了がいたら辻切を止めるだろう。菫はそれを聞き背を向けた。


「そうかい、邪魔したな」


 菫は言葉を吐き捨て、診療所を出る。そんな菫を私は慌てて追いかけた。ミズクは二人が来たからか疲れがどっとあふれ出た。


―――


 道中、歩きながら私は菫にあんな言い方は無いだろうと文句を言うが、菫は何とも思ってないらしく逆に反論された。


「強く言わないと、喋んねーかも知んねーじゃねーか。次行くぞ次」


「あーわかったよ、クソ」


 確かに、強く言わなければ答えないこともあるだろう。何か反論したかったが、うまく言葉にできない。そして、思わず菫の様に悪態をついてしまう。私の態度に菫は足を止め、距離を離す。菫の顔は異常者を見る眼付きだった。


「急にキレんなや…ドン引き気だぞ」


「お、お前…」


 … 軽い殺意が沸いた。


―――


 歩きながら、菫が私にあることを尋ねてきた。


「お前、了と戦ったらしいな」


「ああ」


 了と戦ったことを誰に聞いたと、尋ねると了本人からだと言う。その言葉にお前は了と仲がいいのかと聞いた。すると、世間話する程度には、と返された。

 菫は私が了を殺そうとしたのかと聞いてきた。私は後ろめたさから、少しの沈黙の後、そうだと答えた。それを聞き、菫は封魔の奴は人間を殺さないと聞いてたがと言われてしまう。


 その通りだ。私の行動は私個人の怒りから来たもので封魔全体の意思ではない。しかし、了と対峙したとき、奴はどこか人間とは思えなかった。

 この事を菫に言うとならば妖怪と思ったから斬っていいのかと言われた。その言葉に思わず口を閉じ、その時の感情に身を任せてしまったと言い訳めいた事を口にしてしまう。


 私の言葉に彼女は、そうか、そうかいと口にしただけだった。私は了を斬りつけたことを非難を受けるる覚悟をしていたので、それ以上何も言わない菫や、よく考えてみれば、刀で襲った事を咎めもしない、ムクや了に大して、大きな罪悪感が生まれた。


 菫は私の心情を知らず、もうすぐかと聞く、私は気が抜けた言葉で、ああ、と頷いた。

 喋っていたおかげか、時間を気にせず目的地の民家についた。


「ここにいるのか、て管理所の近くじゃーねかよ」


 菫は思わず、声を大きくした。そのそのせいか、辺りを通る人々に視線を向けられ、私と菫は少し恥ずかしい思いをした。目的の家は管理所から歩いて、5分くらいだった。私は扉に向かう菫を引き留める。菫は止めるなよと言いたげな顔である。


「菫、言いたいことがある」


「なんだあ」


「私が話聞き出すからおとなしくしていてくれ」


「何でー」


「元封魔の私が話した方が話も上手くいくだろ」


「-ん、じゃまかせるわ」


 菫は以外にもあっさりと聞き入れてくれた。私が聞き出すことで事が進む方と考えてのことだろう。私はその言葉を聞きほっとする。診療所でのやり取りみたいなことをされたら、相手に迷惑をかけるからだ。私は扉を叩いた。中から、顔に傷をおった白銀の髪をした女性が現れた。


「あら、葉月ちゃん久しぶりね」


「お久しぶりです。阿藤さん。実はお話ししたいことがありまして」


 阿藤は葉月の顔見て、笑顔で応対する。葉月もつられて笑みを浮かべた。


「それなら、家にお入りなさい。連れの方と一緒に」


 阿藤は菫の方を見る。そして気づく、菫の方も阿藤を見て、何か考えていた。


「あなた、管理所で働いている菫さんよね」

「そう言うあんたも、管理所で事務として働いているの見たことあるぞ」


 私は阿藤さんと菫の意外な接点に驚き、阿藤さんに尋ねる。


「お知り合いで、阿藤さん」


「いえ、知り合いてほどじゃないんですけど、菫さん管理所では有名だから」


「なるほど、菫のほうは知らなかったみたいだな」


「…うるせいよ」


 私の言葉に菫は目をそらした。


「お話は外でなく、どうぞ中に」


 阿藤は二人を客間に招き入れた。私は今回起きた事件の内容を話した。


「そうですか」


「ええ」


 私は阿藤さんが出したお茶を飲む。私が封魔に居た頃に阿藤さんに、大変世話になった。そのため辻切がどうだこうだ聞くのは気が引けた。思わず辺りを見る。刀が飾られていた。

 この世界では自衛のために武器を持つのは珍しくない。

 私が何も言わないのに対し、菫がしびれを切らし、口を開く。


「実は封魔の者の犯行だとみている。あんたその日、その時間何していた」


「その日は休日で家に居ました。一人で」


 困った顔で菫を見る阿藤。菫はその言葉には懐疑的だ。

「でも私はできませんよ」


「なぜだ。ワケでもあんのか」


「ええ、あります」


 菫の問いに、阿藤は上着を脱いだ。体には痛々しい傷跡があった。よく見ると耳もかけていた。それをみて顔をしかめる菫。


「私は封魔に入って、戦いこうなりました。もう戦うことは難しいでしょう」


「そうかい…なあ個人的に聞きたいんだがいいか」


 阿藤は上着を着きなおし、了承した。 私は黙っている。


「お前はなぜ封魔に入った」


「…」


 場の空気が凍った。菫は阿藤さんに追及する。


「何だ、言えんのか」


「いえ、言えますよ。聞いてください。私が、私たちが封魔に入ったのは妖怪に子供を殺されたからです。憎しみ一心で封魔に入りました。夫と一緒にね。 その後活動していくうちに、葉月ちゃんたちと出会いました。しかし戦いが続くにつれ夫も死に、多くの人が傷つきました。その後はまあ大災害によって平和になってしまいました。そして今の私です」


 菫はそれを聞くも、静かである。阿藤さんの過去を茶化すんじゃないかと不安がよぎったが杞憂であった。


「ふーん、今一人で住んでんのか」


 菫は部屋を見渡し、そう尋ねた。誰かと一緒に住んでる形跡は無い。


「そうですよ」


「そうかい、邪魔したな」


 菫はそれを聞き満足したのか立ち上がり、去ろうとする。私も阿藤さんに会釈し、この場を後にしようとする。しかし、私は阿藤さんに止められた。


「何か?」


「ねえ葉月ちゃんは、今でも妖怪を恨んでいるの?」


「ええ…」


「そう…呼び止めてごめんなさいね」


「では、お元気で」


 私も家を出た。外では菫がぼーっと空を見ていた。


「次行くぞ」


「ああ」


 私たちは次の目的地に向かい歩く。私は独り言のように菫に話しかける。


「…阿藤さんや亡くなった旦那さんは、私や親を亡くした奴を大切にしてくれたんだ。封魔に入ったばかりの私を助けてくれたりして、本当にいい人なんだよ。優しい人なんだよ…」


 菫は私の急な話を黙って聞き居れてくれた。話を聞いた菫は私に疑問をぶつけた。


「なぜいつも会わないんだ。久しぶりというほど、間を開けて」


「何処か会いづらかったから…」


「そっか…」


 なぜ私があの人と会いづらいのか自分自身でもよくわからない。菫はそれだけ言って後は何も言わなかった。そんなこんなで次の目的地に着いた。


「で、此処にいるのか?」


「ああ、そうだ、私の友人でもある奴がな。暦といってな、私と同じく阿藤さんに大変世話になった。」


 私たちはボロい平屋の前にいた。私は扉をたたく。中から女の子の元気な声が聞こえた。中から現れたのは、青いリボンを付けた黒い帽子をかぶった少女、暦が出てきた。暦は葉月を見ると不思議そうな顔で尋ねる。


「どうしたの、葉月、それに連れの人はだあれ?」


「連れは菫と言って、管理所の者だ。少し話が会ってきた」


「そうなのじゃあがって、あがってー」


 その言葉に私たちは家の中に入る。中には誰もいない殺風景な部屋だ。部屋の端に刀が無造作に置いてある。何処か忌避しているような、印象を受けた。


「お父さん、お母さん。お客さんだよー」


 暦は誰もいない部屋に話しかける。その行動に困惑した菫がどういうことだと私に聞いてきた。


「暦は親が殺され、封魔に入り、戦いの苦しさで気がおかしくなった」


「へえ…」


 菫はそれを聞き、顔を引きつらせる。流石の菫も暦の言動には少しばかり思う所があるのかもしれない。暦は私の言葉を聞き、頬を膨らませ抗議する。


「何言っているのっ、お父さんとお母さんはここにいるよ!」


 暦は誰もいない空間に指さす。あるのは薄汚れた壁だけ、誰もいない。そんな暦を無視し、私は話続ける。


「そして、気がふれて運が良かったのか悪かったのか、超能力幻覚をみせる能力に目覚めた」


「なるほどね…超能力を使ってごまかしてるわけか」


 菫は納得してくれたようだ。菫も超能力者については知っていた様だ。暦は手を身振り手振りし否定する

「ちがうのーいるのーここにー」


 私は暦の抗議を無視し本題に入る。


「なあ暦、最近辻切事件があったの知っているか」


「知っているよ」


 暦はどこか宙を見ている。私が遊びに来たのでは無いと分かり、そっけない返事をする。


「事件が起きた日何していた?」


「その日はずっと家にいたよ。お父さんとお母さんと一緒に」


 私はその言葉を聞きに少し嫌になる。菫は犯人かもなと呟いた。


「暦…お前の家族は死んだんだもういない」


 私の言葉に暦はきょとんとしている。私がまるで狂言を吐いたかのような表情だ。しかし私は暦を諭すように話す。


「お前は自分の力を使って、現実から目をそらしているだけだ」


「何言っているの…」


「辛いのも分かるが、いつまで逃げるつもりだ 」


「…」


 暦は帽子を深くかぶり、うつむいて何も話さない。菫は私たちの事に興味を抱かず、この場から離れたがっている。


「なあー関係ない話なら私外にいるぞー」


「ああ行け」


 菫は外に出て、部屋には私と暦の二人になった。


「…わかっているよ」


 暦は口を開き、私を見る。目には涙がたまっていた。私は思わず、目を逸らす。


「分かっているなら…」


「でもね、私はお父さんお母さんのいない世界に耐えられない。耐えられなかった」


「なら死んだ家族ためにも、私の様に封魔の時の様に戦えばいいだろ」


「戦っても何も残らなかったじゃない。あの戦いは無駄なものだった。しなきゃよかった…」


「何っ!!」


 暦の言葉に激高し、思わず襟首をつかむ。暦は涙をこぼし話す。


「だってそうでしょ、戦って傷ついて結局はこれ…」


 暦は部屋を見渡す。あるのは刀だけだった。誰もいない。ずっと一人で暮らしていたのだろう。家族が居なくなってずっと。


「妖怪を倒しても家族が戻るわけない、友達も戻るわけない…ずっと一人ぼっち…」


 その言葉に私は手を放した。暦が悪いわけではない。全部・・・こんな話を持ってきて再び家族がいない事を教えてしまった私が悪い。暦に対し謝罪する。


「すまん…」


「…あっれーなに言っているんだろ私、家族はみんな生きているのにねー。あははははははは」


 暦の乾いた笑いが部屋に響く。私は居た堪れなくなり、家を出ようと扉に手をかける。すると暦が話しかけてきた。


「ねえ葉月、いつまで戦うの。もうやめようよ。そのままだと…いつか死んじゃうよ…」


「…」


 私は何も言えず、扉を開け出ていく。外に出ると夕方になっていた。菫は夕焼けをみていた


「話は終わった。待たせて悪いな」


「外まで聞こえていたぜ」


「嘘でしょ…」


 余り人には聞かれたくない話だったため、声を落とし反応する。菫は私を一瞥し、夕日の方を見ながら話しかけてきた。


「話聞いてさ、私思ったんだけどよー。お前もあいつも似たもんだな」


「いきなりなんだ、菫」


「だってよ、妖怪を嫌うのはまあ分かるが、今は平和なのにやれ人のためだ世界の為だ、で妖怪と戦う。そういや罪も無い奴を襲ったらしいな」


「なにが…言いたい」


「お前が戦っているのは、自分に何も残らなかったことを誤魔化したいだけなのさ。要は暦と同じことしてるわけ」


「菫…貴様ア」


 菫の言葉に、刀に手をかける。私の怒りに気がついたのか、こちらへと振り返る。


「おっとちょい、言いすぎたかな。だがお前がやっていることは無意味に戦って自己満足するためだ」


 菫の言葉に、傷つけた了や妖怪のムクの顔が浮かぶ。何も言えなくなってしまった。


「…」


「お前が阿藤に会おうとしないのは、現在の状況が自分にそっくりだったからさ」


「そんなことない!…ただ会いづらかっただけだ」


 そうは言うが、阿藤さんの部屋を思い返す。過去のことが尾を引き、誰もいない、何もない部屋を作り出している。 私も同じ … そんな考えが脳裏によぎる。菫の言葉は続く。


「なあ、おまえが傷つけた奴にも親しい者が、いただろうに」


「うるさい!!妖怪なんてみんな屑だ!!!」


 私は声を振り絞る。菫はへらへら笑っている。


「ならなぜ、月で妖怪を助けた?。妖怪の里で暴れなかった?。結局の所、お前もどこか後ろめたさがあるのさ」


「それは…」


「お前は過去の怒りで自分自身を、今の自分の現実を誤魔化しているだけさ。本当は戦いたく無いんじゃないか?」


 私は菫の言葉を否定する。しかし菫の言葉は続く。


「自分がやってしまったことを誤魔化し、罪から逃げているのさ」


「違う!!!」


 とうとう私は刀を抜き、菫に向け否定する。菫はため息をつく、説教をしているつもりなのか。


「ま、お前がそう思うなら…しかし無駄話が過ぎたな。今日は疲れた。ここらで切り上げるか。何かわかったら管理所まで言いに行けよ」


 菫は私に背をむける。私は菫に向かって声を出す。しかし声は自分が思ったより、か細いものだった


「…お前だって月で無駄に妖怪を傷つけたじゃないか…」


 しかし菫には伝わったらしく、菫は笑う。


「あははは。そりゃそうだ私もロクデナシさ。過去の怒りでねえ、たしかにねえ。あははは」


 菫はそう言い一人去っていく。追いかける気は無かった。


――――


 夜 雨がぽつぽつと夢幻のまちに降っていた。

 葉月は阿藤の家にいた。葉月は客間に案内され、座る。


「夜分、遅くに申し訳ありません。お話ししたいことが有って着ました」


「なあに話したいことって」


 阿藤は笑みを浮かべ、葉月に対応する。しかし葉月は神妙な面持ちで言葉を発する。


「単刀直入に言います。今回の辻切事件、阿藤さんあなたがやりましたよね」


 私の言葉に阿藤さんは、困惑の表情になる。それもそうだ。しかし私にしか気づけない証拠を見つけての質問である。私は客間に飾られている刀を指さす。


「客間にある刀から、ほんのわずかに血と妖力を感じました」


 超常的な力の発見は、菫など、特別な力を持たぬ者には難しい。阿藤さんは素知らぬ顔で、そんなことないわと言うが私は調べてみればわかることですというと、自分には元より不可能だと阿藤さんは自分の体に手を当て否定する。


「私は大きな怪我があるのよ、だから無理ね」


「あなたほどの人なら、その程度の怪我なんてことないでしょう」


「ありえない、もしそれが犯行に使った刀ならなぜ隠そうとしないのかしら」


「それは、妖怪を斬った自己満足に浸りたいからです。 私も・・・覚えがあります」


 私は過去の愚行を思い出しながら話す、阿藤さんは顔を伏せ、しばらくの沈黙の後に言葉を発した。


「覚えですって…」


「ええ、私も妖怪への恨みを忘れられずにやってしまったことがあります」


 阿藤さんは私の愚行を聞いて、怒っているのか、それとも私の様な事をして恥じているのか、肩を震わせていた。私は説得を試みる。


「今はだれも死んでいません。どうかおやめになって…」


「良かった私以外にもいたなんて…」


 阿藤さんの反応は喜びの表情だった。私には阿藤さんの感情が解らない。


「私一人だけと思っていた…今でも妖怪を殺したくて殺したくて…ねえ!葉月ちゃん見せたいものがあるの!」


 阿藤さんはそう言い、客間から離れ、大きな箱を持ってきた。私は異様な雰囲気にのまれ動けない。せいぜい、持ってきた箱に対しての質問をするのが精一杯だった。


「な、なんです。これ…」


「みてみて」


 阿藤さんは笑顔で箱を開けた。私はは恐る恐る箱の中を覗き見る。そして驚愕した。箱の中には妖怪がいたのだ。

 しかし、四肢は切断され、顔には何本もの釘や針が刺さっており、顔は削がれ、目はつぶされ焼き後のようなものも見て取れた。腹部にも大きな傷跡があった。凄惨な光景に思わず口をふさいだ。

 そして刀に手をかけ阿藤さんに目を向ける。阿藤さんはニコニコと笑顔を浮かべている。


「こ、これは…」


「これは妖怪よ」


「違う、そんなことじゃあ」


「ああ何でしたかッてことね、それはね妖怪なんて大嫌いだからよ」


 この場を包む狂気が私を襲い、恐怖を呼び覚ます。阿藤さんは私が怯えているの知ってか、優しく言葉を発する。


「妖怪に大切な子供と夫を殺され、平和になっても何も戻らず。家に帰っても一人すっと一人。…葉月ちゃんもそうでしょう」


「…」


 阿藤さんの言葉に何も言えない。何もうまく理解できない。思考がマヒしている。


「憎んでも憎んでも、死者は戻らず、思わず妖怪を斬っちゃっり、誘拐して拷問にかけたりねっ」


 阿藤さんは箱を思い切り蹴る。妖怪のうめき声がかすかに聞こえた。どうやら生きていたのだ。


「でも、もうこんな下らない事は止めにして、本格的に行くわ」


「何をする気なんです…」


「管理所に保管してあるパワードスーツを手にし、妖怪の里を襲うの。いいえそれだけじゃないわ、妖怪は全て皆殺しよ」


「何をいっているんですか…止めてくださいよ…」


 私はかつての優しい阿藤さんと目の前の人間が同一人物だと信じたくない。信じられない。だけど、目の前の阿藤さんがそれを否定するかの様な言葉を口にする。


「葉月ちゃんも家族や友人を妖怪に奪われたでしょ。私と一緒にやらない?」


「っ! 私は…」


 阿藤さんが恐ろしくなって、目線を箱の中の妖怪に移す。箱の中の妖怪が何かつぶやいているのが聞こえた。


「殺して…痛い…殺して」


 妖怪は私に自身の死を懇願していた。


「誰が喋っていいと言ったっ!!!」


 阿藤さんは激怒し、刀を取り、妖怪に突き刺した。妖怪の叫び声が響き、箱から血が染み出てきた。妖怪の声は聞こえなくなった。そして私に笑顔を見せる。


「ごめんなさいね、うるさくて。どう葉月ちゃん手伝ってくれる。一緒に来てくれる?」


「・・・い、嫌だ・・・」


「どうして、ねえ?」


「そ、それは…、第一、管理所の物を盗むだなんて、不可能だ!!」


「暦ちゃんの力があるわ、心配ない」


「暦の奴は、賛同したんですか…」


 暦が賛同したことに私の心に深い絶望がやってくる。思わず嘘だと口にした。


「そうねえ、賛同してくれなかったわ。だけどね力づくでね、手伝ってもらうことにしたの」


 阿藤さんが、何を言っているのか理解できない。阿藤さんは私たちに暴力何て、振るわないのに・・なのに、暦を … もはやこの状況が夢では無いかと思い、阿藤さんに尋ねる。


「嘘ですよね、冗談ですよね」


「嘘でも冗談でもありませんよ。私だってしたくありませんでした。しかし、妖怪を殺すためです。仕方ないです。葉月ちゃんあなたも妖怪が憎いでしょう」


「…憎いです。だけどこんな…い、今のあなたには従いたくない。お願いだから元の優しい阿藤さんに戻って・・・ぎゃあ!?」


 涙ながらに訴えたが、話の途中で阿藤は葉月の顔を殴り気絶させた。葉月はだらんと倒れた。


「命は見逃してあげるわ・・・思い出もあるしね」

 阿藤はそう言い残し、家を出た。


―――


 私は夢を見る。

 暦と一緒に阿藤夫妻に世話になっていた時のことを。親が殺され、とても辛かった私たちを支えてくれて、本当の親の様に感じられた。優しい笑顔を向けてくれたことを。


「だけどもう存在しない…」


 葉月の目の前に黒いジャケット来た女がいた。


 だれだ、おまえは 私の夢に入ってきて … そうだ私にエルカードを渡した女だ …


「そうです。貴方の役立つ物を差し上げたものです」


 役立つ物 … エルカードか。

 私の言葉に女は笑う。


「そうです。戦う力ですよ」


 夢はそこで覚めた。


―――


 管理所の離れの保管庫

 本来ならだれもいないはずの部屋に、暦と阿藤がいた。阿藤は部屋の明かりをつけ辺りを見渡す。


「暦ちゃんここよ。ここでいいわ」


「ううう…やめようよこんなこと…」


 暦の言葉に阿藤は平手打ちで答えた。暦の頬は赤くはれた。


「なにっているのかしら…あら」


「何をやっているんだ!!こんなところで!!!」


 警棒を持った職員二名が保管庫に入ってきた。


「どうして此処にいる事が、ばれたのかしら、ああ暦ちゃんあなたの仕業ね」


 暦には考えがあった。保管庫へばれずに侵入するのと同時に、恩人の凶行をとめ無ければならない。それも、問題を限りなく小さくし、阿藤への罪を軽くしようとしたのだ。それをなすため、外にいた警備の幻覚を解き、ここに誘導した。


「武器を捨て、おとなしくろッ」


「嫌です。これかしら…」


 阿藤は青いブレスレットを見つける。そして手に持った。


「おい、返事を!!」


「うるさい、邪魔です」


 阿藤は持参した刀を警備員に振るった。


―――


「はあ‥はあ…」


 葉月は気絶から目を覚まし、管理所に向かっていた。管理所につくや否や、侵入者が保管庫にいると職員に伝え、突如のことに困惑する職員たちをよそに、保管庫に向かった。


「嘘でしょ…」


 保管庫に入ると中には信じられない光景が私の目の前に広がっていた。阿藤さんによって切り殺されたであろう警備員の死体、涙を流して混乱している暦、そして青いブレスレットを見て笑みを深べている阿藤さんの姿。私は阿藤さんがしたと思われる光景を見て、茫然自失となる。


「阿藤さん、あんたなんてことを・・・」


「あら葉月ちゃん、お目覚めね」


 私の言葉に反応し、こちらを向く。阿藤さんの体には返り血が付いていた。私は震え声で、阿藤さんを止めようと言葉を発する。


「あんたが侵入したことは他の職員に伝えた。…もう終わりです。どうか大人しく…」


「終わり?、何も終わってはいないわ。今から始めるのよ」


 阿藤はブレスレットに向かい、言葉を発する。


「装着」


 阿藤は光に包まれた。光がやみ、現れたのは青い装甲を全身に纏った阿藤であった。


「えっとなになに、これには思考を読み取り、自動で戦闘を継続させる機能があるのね。凄いわ」


「やめてくれ阿藤さん。もうやめて…」


「えっと私の考えは、妖怪の排除と邪魔するものの殲滅ね」


〔設定完了〕


 機械音声が阿藤の考えを読み込んだことを辺りに伝える。


「葉月は私を邪魔するんでしょう。なら、戦いましょう」


 葉月に殺意と刀を向ける。


「やるしかないのか…」


 葉月も心の中では混乱しながらも、刀を抜き構える。


「…!!」


 先に動いたのは阿藤だ。葉月に対し、上段斬りを繰り出す。葉月はそれを刀で受け止める。しかし、パワードスーツの力で、阿藤の力は増し、葉月はジリジリと押されつつあった。


「グうううううう」


「本当なら私の方が力負けするのにね」


 葉月は今の状態は不利と考え、すぐさましゃがみ込み、足を狙い斬りかかる。


「甘いですねッ!!」


「がはっ!!」


 阿藤は反応し、葉月の顔を蹴り、攻撃を防ぐ。そして顔を蹴られ、うずくまる葉月を見下ろす。


「あなたに剣を教えたのは私ですよ。何をしようとするのか分かります」


「チィ!」


 葉月は装甲の隙間を狙い突きを繰り出すが、刀は突き刺さらず、阿藤は無傷であった。

「あなたの力なら装甲の上からでも貫けたでしょうけど、私だって封魔の者、霊力でスーツの強度を上げる事ぐらいできます」


 葉月の腹部に蹴りを入れ、遠くへ吹っ飛び倒れてしまう。

 葉月は痛みで気絶してしまい、夢の世界に行く …


―――


 アサキシの屋敷に管理所の職員が駆け寄り、アサキシに侵入者の存在と葉月が何とかしていることを伝えた。それに対しアサキシは放っておけ、手出しはするな。と言い困惑する職員たちを下がらせた。アサキシは一人になり呟く。


「時代に合わない封魔同士、共倒れしてくれることを祈っておくかな」


―――


 夢の世界はかつての阿藤を映していた。葉月や暦を助け、まるで自身の子供の様に守ってくれた、そんな阿藤の姿を映していた。そんな夢の中に黒いジャケットを着た女が現れ、葉月に問う。


「なぜ、エルカードを使わないんですか」


「もし使ったら…」


「もうあなたの知っている人じゃないですよ」


 女は何が面白いのか、にやにやと笑いながら話しかけてくる。その言葉を何とか否定しようと声を出す。


「ちがう、阿藤さんは私の家族みたいな人で、だれにでも優しくて…」


「彼女は人を殺していますよ」


「…」


 女の言葉に私は切り殺された人ことを考える。

 阿藤さんに切り殺された人にも・・・家族が居たんだろう。夢があったのだろう。

 それを阿藤さんに奪われた … 復讐のために、自分の願いのために。


―――



 阿藤が葉月に近づき、刀を向ける。


「これで終わりですね」


 刃は振り下ろされた。


 ガキン!!


 金属音が響いた。葉月は刃を長刀と短刀で受け止めていた。阿藤は優しく葉月に話しかける。


「あらお目覚め」


「悲しい夢をみたんです…」


「どんな夢なのかしら」


「貴方が優しかった頃の夢…」



 葉月の言葉に阿藤は沈黙した。葉月は話を続ける。


「貴方はやってはいけないことをやってしまった」


 葉月は刀を受け止めながら立ち上がる。

 阿藤は葉月が動けることに少し動揺したが、あとわずかで殺せると判断した。葉月の言葉が続く。


「それは人を殺した事だ…」


「それは仕方がないことよ」


「そんなことない!!」


 葉月は刀をそらし後方へ逃れる。


「今のあなたはもう見たくない!!ここで…終わらせるッ!!」


 葉月は涙声で叫ぶ。そしてエルカードを取り出した。


「エルカード発動!!」


 <アサルト> 使用者に合った戦闘能力の付与及び向上、武装の強化。


 葉月の周りに雷が降り注ぐ、雷は鎧に変わり葉月に与え、刀を青く染めた。

 葉月がエルカードを持っていたことに阿藤は驚いたが、戦う意思は消えなかった。


「びっくりしたわ、エルカードなんて、でも!」


 阿藤は臆せず向かい、再び葉月に対して、刃を向け斬ろうとする。葉月も刀を構える。互いの刃が交差した。


 キンッ

 金属音が部屋に響いた。


「え」


 阿藤の刀は葉月の刀によって、切断されていた。

 動揺する阿藤に葉月はすかさず、阿藤の心臓部分目掛けて突きを放つ。刀は装甲を貫き、心臓を切り裂いた。阿藤は心臓を貫かれ死んだ。

 葉月は刀を引き抜いた。阿藤の体はゆっくりと床に倒れた。刀は血に濡れていた。


「…何っ!??」


 葉月は驚愕した。阿藤の体が立ち上がり、声を上げたからだ。


「妖怪は殺す殺す殺す殺す殺す」


「な…ぜ、まさかスーツの力か!?」


 葉月は阿藤の言葉を思い出した。阿藤だったものは葉月に襲い掛かる


「殺す!!!!!!」


「ち、畜生!!!」


 葉月は刀で阿藤だったものの左腕を斬りを落とす。まだ止まらない。


「ああ、頭を斬り、落とせばっ・・」


 刀を振るい首を斬ろうとするが、阿藤の笑顔が浮かびできなかった。阿藤だったものは葉月に組み付き殴りかかる。


「妖怪殺す!!!!家族を返せ!!!!」


「もうやめてくれ!!そんな言葉もう聞きたくない!!」


 阿藤さんは優しくて …


 葉月は子供の様に怯え、懇願する。しかし阿藤だったものは怒りを吐き続ける。


「妖怪殺すウうううううううううううう」


「うああああああああああ」


 葉月は恐怖し暦に助けを求めた。


「暦!阿藤さんに幻覚を、妖怪の幻覚を壁に作り出せ!!」


「えああああ、わわかかった!?」



 葉月は泣いて伏せている暦にそう指示し暦も動揺しながら、阿藤だったものに幻覚をかけ、壁に誘導する。阿藤が生きていたのなら霊力を使い幻覚にかからなかっただろう。


「妖怪いいいいいいいい!!!死ねえええええええええ」


 阿藤だったものは壁を妖怪と誤認識し、攻撃を加える、装甲に亀裂が入るほどに。何度も何度も壁を殴ったせいか、拳は砕け使えなくなる。すると頭を壁に叩き付ける、憎しみの言葉を吐きながら。


 大きな音が保管庫に響く。葉月と暦は恐怖しながら、その光景を見ていた。やがて頭部の装甲が壊れ、生身の頭が現れる。しかし動きを止めない。やがて頭部が半壊し、ようやく動きを止めた。


〔戦闘続行不可能、装着解除します。〕


 機械音声と共にスーツが発光し、消えていく。現れたのはもはや阿藤と認識できないほどつぶれた頭と砕けた拳、胸に赤い刺し傷を残したの死体だった。葉月は暦に尋ねる。


「終わったのか…終わったんだよなあ暦」


「うん…」


 その後戦いが終わったことを職員たちに告げ、騒動は収束した。

 翌日殺された警備員たちの葬儀が行われ、亡くなった者の関係者は涙を流し、死を悲しんだ。阿藤の死体は灰にされ、寺の犯罪者や不要な者が眠る、無名の墓に埋葬された。

 その墓の前に、葉月、ミヅク、暦の三人が立っていた。ミヅクは手を合わせ悲しみ、帰っていった。暦も帰ろうとし、葉月に声をかける。


「私も帰るよ葉月はどお?」


「もう少しここにいるよ」


「わかった…葉月はこうならないでね。あまりにも悲しすぎるから…」


 暦はそう言い残し墓を後にした。葉月は一人墓の前で佇む。


「…」


 葉月は思い出す。妖怪を憎み死んでった阿藤の事を。そしてその最後を思い出す。

 妖怪を憎み死んだ阿藤、何も残らなかった。


「…私も憎み続けたらああなるのか?…」


 葉月の疑問に誰も答えてはくれなかった。


―――


人里、

 ろうそく屋にて、ろくろ首の妖怪ムクがせっせと働いていた。

ちりんちりん。

 店の鈴が鳴り客が入ってきた。ムクは手を止め客の相手に向かう。


「いらっしゃいませ…葉月」


「よう…」


 店に入ってきたのは葉月であった。 思わぬ人物に面食らうムク。


「えっと…なにか」


「あの時はすまなかった…」


「え」


 葉月は深々と頭を下げた。ムクは呆然とした。ムクは笑顔で対応する。


「えっとその、いいってもうあの時のことは、私生きてるし元気だし」


「…なぜお前は」


 葉月は頭を上げ、ムクを見る。葉月の顔は悲しい表情だった。


「友達だからさ」


「…!」


 ムクのその言葉に、葉月は店を飛び出した。ムクは一人になった。


「大丈夫かな…」


 ムクは葉月を心配しポツリと呟いた。


「なんで…なんで…」


 ムクの言葉が心に来る。ムクは妖怪なのに、家族を殺した妖怪の仲間なのに!!


 葉月は泣きながら人里を駆けた。

 葉月は自分自身がどうしようもない事に気づいてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る