第11話 呉服屋に訪れる客たち

 葉月はいつもの様に呉服屋で働いていた。葉月はここで働く事が好きだった。綺麗な衣類に囲まれていると癒された。

 葉月がここに就職できたのは、この店の店主がかつて、封魔に助けたられた事があり、封魔に大変な恩を感じた。そのため封魔の少女、葉月がここで働きたいと頼みこんだ時は、あっさりと認めた。

 葉月もこの事に感謝し、人一倍働いた。

 葉月が服の整理をしていると、声をかけられた。目をやると、管理所の所長のアサキシが居た。


「…アサキシさん、何の御用で」


 葉月が敬語を使い応対すると、へえと驚いた。


「管理所で会う時はため口なのになあ」


「…ここではお客の応対をするため敬語です。で何か?」


「お前に渡したいものがあってな、月の事件と、妖怪の里の事件に関しての報酬だ」


 アサキシは服から、小袋を取り出した。葉月は受け取り中を見てみると、かなりの金が入っていた。

葉月は事件解決はやりたいからやっただけだ、とし、謝辞を述べアサキシに返した。


「ふん、いらんのか。損する奴め。お前家族が死んで一人暮らしなんだろう?」


「そうですけど、…どこで聞いた」


「おい客には敬語を使えよ葉月。お前が騒動を起こしたとミヅクの奴から聞いてな、お前について少し調べただけさ」


 アサキシは手をひらひらしながら喋る。


「しかし寂しいよなー家族が死んで一人で暮らすのは…」


 アサキシは同情の目をやる。葉月はそれをうっとおしそうにする。


「寂しくなんかない…」


「ほうそうか、そうか」


 アサキシは笑い、辺りの服に手を取る。葉月の返答なんか、気にしてない。

 葉月はそれを見みて菫がアサキシを苦手としているのが少しわかった気がすると言った。それを聞いたアサキシは笑った。


「あっはは菫の奴そんなこと言っていたか。あーそうだ、奴は私の事が嫌いさ。でも奴は私の下についてる…考えてみなくてもあいつは間抜けだな。アッハハ」


「…そこまで言うか」


「言うさ。…それじゃあ用が済んだし帰るとしよう。葉月ィ、頑張って生きろよ、家族が居ない家でなあ!」


 アサキシはそう言って店を後にした。


―――


 しばらくすると、次は了がやってきた。何やら服を見に来たのだ。葉月は、にこやかに応対する。


「お客様、このような服がございますよ!」


「…葉月くだけた口調でいいぞ。こちらの調子が狂う」


「ふんそうか、何の用だ」


「服を身に来たのさ、いっつも同じ服ばかり着てるもんでな、新しいのが欲しい」


 了は着ているジャケットをパタパタとする。


「…そういやおまえいつもそのジャケット着てるな。何故だ?」


「ん、何となくでだ…でも着すぎて、別のが欲しくなった。お前や、菫、ほかの人たちが着てる服みたいなのが良いな」


 葉月は了の言葉にどこか含みを感じたが、あまり気に留めなかった。


「そうか、なら私が選んでやる。これなんかどうだ」


 葉月が見せたのは蒼い縞模様の袴であった。それを見て了はあることに気付いた。


「…葉月って青色好きなの?いつも同じ色ばかりな気がする」


「…まあな」


 葉月が青い色を好むのは、かつて封魔の者は青い物を身に着けていたからだ。それが影響し好むようになった。了は服を見る。


「いいモノだな、綺麗だし」


「!そうだろう、此処には良い服しかない。もっと見せてやろう!」


―――


 葉月は店の服がほめられたことを喜び、次々と了に服を見せて感想を求めた。

 結果、了は、感想を言うだけの存在となり、本来の目的の服を買うことが頭から抜け落ちた。

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