第2話 剣と被害者
―――秋
冬の到来が間近であると感じさせる、枯れ葉が舞う寒空の下、家に向かって少女が歩いていた。名は葉月という。友達との遊びから帰る途中だ。遊び疲れから足取りは緩やかである。
「楽しかったな」
鬼ごっこ、かくれんぼ、ままごと、葉月は今日のことを振り返りそうつぶやく。
「今、私は幸せなんだろうなぁ」
ふと立ち止まりそんな風に考える。この世界は「夢幻のまち」と呼ばれ妖怪や狂人、災害が襲ってくる。そのため家族や親しき友人を亡くす者が多くいる。
その上、今妖怪の行動が活発になっている。そのせいで多くの人命が失われている。そんな中私には家族がいる。生きている、帰る家がある。それはとても幸せなことだった。
葉月は家族のことを考えてたら寂しくなり、葉月は立ち止まるの止め帰路を急いだ。
もうすぐ長い冬がやってくる…
――――
夜中、了は買ったばかりの布団に包まれながら幸せそうに眠っていた。しかし、
ドンッドンッドンッ
夜中の突然の訪問者にたたき起こされる。何なんだ、こんな時間によと、苛立ちながらも起き上がり訪問者の相手をするため、起き上がり扉を開ける。
「助けて…」
扉を開けると血を流している、マフラーをした女性が居て、助けを求めていた。了はそれを見て驚愕した。おい、どうした!と尋ねると何者かに襲われてと答え、マフラー女は人が居た安心感からか気を失ってしまった。
「何なんだ?…」
了は突然の出来事にただ困惑しながらも、傷の手当てを行った。
―――朝
「ここは…どこ?」
私は窓から入ってくる日差しによって目を覚まし、辺りを見渡す。日常生活品が置かれており、誰かの小屋の様だ。体には包帯がまかれていた。誰かに手当てして貰ったらしい。体に巻かれた包帯を見ていると人の声がした。
「おっ気が付いたか」
「わあッ!?!」
窓から顔出した黒髪の少女に、私は驚きのけぞる。
「おっと驚かしてすまん、辺りを監視していたんだ」
そう言うと少女は顔ひっこめ扉から入ってきた。入ってきた黒い髪に白いジャケットを着た少女。目にはくまができていた。夜通し見守ってくれていたのだろう。
「いやー怪我人が急に現れて驚いたぜ」
「あんたが私を助けてくれたのか?」
自身にまかれた包帯を見ながらたずねる。
「そうだ。その調子じゃ大丈夫そうかな、私は了。あんたは?」
彼女は座り挨拶をした。それにつられ私も言葉を述べる。
「私はムク。ろくろ首の妖怪だ。助けてくれて本当にありがとう…」
ムクは心からの感謝を伝える。それに了は顔赤くした。
「えっとあっ!マフラー外したら首が無くて驚いたよ」
了は感謝された恥ずかしさから話を変える。ムクは了が驚いたと知り、妖怪としてつい嬉しくなる。
「普段はマフラーで隠してるの」
「ろくろ首の妖怪て首が長い奴だけかと思ってた」
「2種類いるのさ。首が無いやつと長いやつ、私は無いやつ先祖が飛頭蛮なの」
了はそれを聞き納得した。そして本題に入る。
「しかしなぜ怪我をしてたんだ、何かあったのか」
「ああ、そうだ。昨日誰かに斬り付けられたんだ」
眠りから目覚めすっかり忘れていた。ムクを言葉を聞き了は険しい目をした。
「何、詳しく教えてくれないか」
「…私は普段人里で働いているんだ。仕事が終わり呉服屋の店員の友人と会ったりして、その後、家に帰ろうと暗闇の森に通じる道を歩いていたんだ。 すると急に鋭い痛みが背中に走ってふりむいたら…」
昨日の事を思い出し恐怖で体が震えていた。了は無理しなくていいと言ったがムクは話を続けた。
「仮面で顔を隠し刀を持った奴がいたんだ。妖怪の力は感じられなかった。たぶん人だと思う」
了は黙って聞いている。心当たりがあるのだろうか?
「何とか反撃しようとしたけど…ソイツ強くてさ…私また斬られて、痛みで気絶したんだ」
その後夜に目覚め意識が朦朧としながら助けを求め、了の家についた。
「大変だったなそれは、しかし人に斬り付けられるなんて人を傷つけたり、襲ったりしたか?」
「そんなことしてない!」
ムクは強く否定した。
「私は人里で働いている時や、買い物するときは脅かさない様マフラーで首を隠している。あんただって知っているだろ、人里で働けたり住めたりできる妖怪は善良な奴だけだって…」
了は頷き肯定する。そのことは誰もが知っていることだった。
「そりゃ私も妖怪だし人を驚かしたりするけど、傷つけたり…ましてや殺めたりしないよ」
ムクはうなだれる。自信が襲われたことに疑問の念が大きいのだろう。
「…そうか、ところで体の調子はどうだ。妖怪だろう、傷もう治ったんじゃないか」
了に言われ、ムクは傷に手をあてる。鋭い痛みが走った。
「あれなんで!?私妖怪なのに!?」
ムクは困惑した。妖怪は人と違い回復力の差が違う。人にとって重症でも妖怪であれば2日もあれば全快する。ムクの傷はそれ以前に血がにじみ出ていた。それを知った了は少し考え口を開いた。
「犯人の目星がついたかも知れない」
「なんだって!」
ムクは誰なんだと捲し立てる。了はムクに犯人は「封魔」の者だと告げた。ムクはそれを聞き、恐怖で青ざめた。
「…そんな、私は何もしていない。第一に封魔は解散したはずだろう」
「しかしムクの治らない傷、妖怪に対してそんな風にできるのは、霊力を操る封魔の者だ。犯人が人だと考慮してな」
封魔 人里ができる以前に起きた、妖怪と人間の争いにおいて人間を守るために設立された組織。封魔の者は霊力と呼ばれる力を持ちいて戦う。
霊力は人外や妖怪にとって弱点であり、霊力を帯びた武器で攻撃されると人以上に傷つく。
霊力を帯びた刀や霊力を使用し超常現象起こす札が封魔の主力武器である。 霊力とは人間に備わる潜在的な力で過酷な訓練を行えば操れる。封魔の構成員は妖怪の被害者が多い。
しかし大災害によって人間と妖怪の争いが終結。人間と妖怪が和解、共に歩むこととなり封魔は解散となった。
「しかしなぜ封魔はお前を襲ったんだ。封魔は良い妖怪を退治しないと聞いているが…」
了が考え込んでいるとムクが突然言葉を発した。
「…私決めた。襲った人と会い話をする。なんでそんなことをしたのかを聞く」
「何言ってんだ!?命が狙われたんだぞ!」
了はその言葉を聞き困惑した。ムクのマフラーに刺し傷があった、首が無ければ死んでいただろう。
「それでも、何もしてない私が襲われたんだ。人里と関わりを持つ妖怪が今後狙われるかも知れない。私の友人も人里で働いている。だから襲った人とあって話がしたい」
「死ぬかも知れないぞ…」
「それでも」
ムクは覚悟を決めていた。了はその言葉を聞き考え、口を開く。
「そうかなら、私にも手伝わせてくれ」
その言葉にムクは戸惑った。
「私を助けても何もならないよ。それに命を助けてもらった了に危険な目に合わせるのは…」
「ムクみたいな良い奴をほおっておけないよ。それに傷も治っていないだろ、だから手伝わせてくれ」
「でも…」
「頼むよ」
その言葉にムクは少し考え込みこちらこそ頼むと言った。その言葉に了は感謝した。ムクはあることに気づきハッとする。
「そう言えばどうやって会えばいいんだ?」
「それについていい考えがある。任せておけ」
了はムクに作戦内容を話す。それを聞いたムクは不安そうだ。
「いけるかなぁ?」
「大丈夫でしょ、作戦は明日行う。薬でも塗って明日に備えるぞ」
「分かった」
塗り薬をムクに手渡し横になる了。ムクは塗り薬を受けとり傷にぬる。
「私は寝る」
了は話を終えると疲れからすぐ寝た。
次の日、ムクは人里にいた。
この世界の文明は大正初期レベルである。人里の街並みは日本の大正風景に似ており、生活する人々の服装も和服である。
それらの理由はこの地の文明をもたらしたのが日本人であり、またこの世界にきた妖怪は日本の妖怪が多いためでもある。
多くの者がそれを模倣した結果、今の大正風景になった。
勿論、人間世界の大正時代とは全く異質なモノで、要するにそっくりさんみたいなモノである。ちなみにムクの服装も和服である。西洋や現代の物も存在するが少し珍しい。
ムクは朝から昼までロウソク屋で働き、昼ごろには呉服屋にいた。ムクは呉服屋の店員の友人と親しく喋っていた。 そんなムクの様子を了は少し離れた所で隠れて見守っている。ムクは襲われた日と同じ行動をしていた。
了の立てた作戦はムクが無事であることをアピールして、襲った者をおびき出すものだ。
「今のところ何もないな」
了は少し安心したが周囲の警戒を怠らなかった。
夕方、ムクは人里を出て暗闇の森に続く道をうつむきながら歩いていた。
「!!」
道の端にに血の跡があった。ムクは辺りを見渡し自分が襲われた場所だと気づいた。ムクは血の跡を見て襲われたときの事を思い出し恐怖した。
「やあ」
ふと誰かに声をかけられた。ムクは驚き顔を上げ周囲を見渡す。道の木々に背負を預けている人が居た。髪はポニーテールで、鮮やかな青の袴を着て、顔を隠すように仮面をつけていた。ムクは眼を開いた。
相手は刀を持ち、なおかつ襲ってきた奴と同じ仮面をしていたのだ。ムクは動揺した。それを見て仮面の人間は笑う。
「どうしたんだ。恐ろしい者を見たって感じだけど」
「あ、あんたが昨日私を襲った奴か」
ムクは怯え恐怖で体震える。死の恐怖が再び湧き出たのだ。相手はムクの問いに平然と答えた。
「そうだ。顔を隠してたせいかうまく切れなかったか、念のため首を刺したんだがなあなぜ生きてるのかな」
「私は首のない妖怪だ。そんなことよりなぜ私を襲った!私は何もしていない、誰かと勘違いしてないか」
ムクは震え声で相手に訴える。
「何もしていない…」
しかし、相手はムクの訴えを聞き声を出して笑った。ムクは困惑した。
「何がおかしい…」
「妖怪なんているだけで害をなす、存在しているだけで罪だ。襲った理由はそれだけだ」
相手はそう言い切りムクは言葉を失った。
「今日は仮面をとるよ、確実に仕留めるためにね」
そう言い仮面を取り外した。現れたのは若い少女であった。ムクはその顔に見覚えがあった。
「葉月…」
「そうさ、呉服屋で働いているあんたの友人のね」
ムクは目の前の光景が信じられず、頭が真っ白になった。
「あんたのこと人間だと思ってたんだがある日、気付いたんだ、かすかな妖力で妖怪だって事にね。気付いた時は、人に紛れて何かしないかと冷や冷やしたよ。いやまったく、だけど今日で終わりだ」
そんな葉月にムクは涙声で言い返す。
「私は妖怪だ…だけど人間と仲良く………」
辛くて、これ以上の言葉はでなかった。
「…それが最後の言葉でいいな」
葉月は刀を構えムクを見据える。ムクは精神的ショックで動けなかった。そんな中、第三者の声が響く。
「言い分けないだろ」
「!!」
「!!」
葉月は第三者の声に驚き、そちらに顔を向ける。そこには了がいた。了は葉月に向かい話しかける。
「話を聞いていたが、まったく、ムクはアンタのこと友人だと思っていたんだぜ。その上、妖怪はいるだけで罪だとかいってさ。あんた刀を向ける相手が違うぜ」
葉月はそれを聞き殺気がこもった声で言い返した。
「なんだお前、そこの化け物を庇うつもりか」
「その通り、それに彼女は化け物じゃないムクだ」
「じゃあ、お前から…斬ってやる。化け物を庇う奴なんて、ロクなやつじゃないからな」
葉月は了に刀を向けた。了もカードを取り出し戦闘態勢に入る。葉月は了に対して上段斬りを仕掛けた。それと同時にカードを発動させる了。
<アイアン>
了は体を鉄の様にし刀を片腕で受け止め様とする刀は鉄を斬れない了はそう考えてた。しかし、了の腕は切断とはいかなかったものの、深く斬られてしまった。
「何ッ!?」
「なにを驚いているッ!!」
葉月は追撃を仕掛ける。了はそれを紙一重で避け距離を少し距離をとる。了の心中は穏やかでなかった。
まさか、鉄を斬ることができるのか!?
了は葉月がただ者でない事に気づき、手加減が出来ないことも分かった。人を殺す覚悟を決めた。
葉月は了がエルカードを持っていることに驚いていた。
「エルカード珍しいものを持っているな、だがまあ大したことはない。そのまま死ねッ」
再び攻撃を仕掛ける。しかも先ほどよりも速く刀を振るった。了はなんとか反撃を試みるが避けるのに手いっぱいだった。一度ムクを連れ逃げるかそう考えた矢先、葉月は次の手を打とうとした。
「逃がすものかッ」
葉月は了が逃げる事を覚り、懐から札を取り出し空に投げた。札は勢いよく弾け、辺りを囲う様に辺りに張り付いた。札は霊力を帯び、結界が構築された。
「クソっ!」
了は悪態をついた。結界の力で妖怪であるムクを連れて逃げる事が出来なくなった。
「急ごしらえの結界ゆえに、そこの弱小妖怪しか留める事ができんが、お前は見捨てて、逃げることはしないだろう」
そう言う葉月の言葉に了は歯噛みした。葉月は了の予想以上に強かったのだ。
了は焦っていた。葉月の戦い方は封魔の戦い方であり、霊力を帯びた刀相手では人外の力を得る<オーガ><グリフォン><ドラゴン>のカ-ドは弱点になるため迂闊に使えない。
そのため隙を作らなければならない。
了のそんな考えとは裏腹に葉月の攻撃は鋭く避けるのも難しくなっていた。
「死ねッ」
さらに葉月は短刀を取り出し投げた。了は突如の行動にムクに危害が加えられたと勘違いし一瞬視線をムクに移してしまう。ムクは無事であったが、隙を作ってしまった。
もちろん葉月は見逃さなかった。刀は了の腹部を斬った。地面に血が飛び散った。了は痛みに耐え腹部を抑えるもバランスが崩れてしまいは、倒れてしまった。
「ギャ嗚呼アアア」
「これで終わりだな」
葉月は了に向かって刀を叩き付け様とした。
「危ないッ!」
「グウ!?」
ムクは自らの頭を掴みボールの様に葉月に勢いよく投げた。首無し、ろくろ首だからできる芸当だった。葉月はムクの頭を横から喰らい、態勢が崩れ隙を作った。了はこの時を見逃さずカードを発動した。
<グリフォン>了に翼が出現した。
了は突風を起こし葉月を吹き飛ばす。しかし葉月はとっさに片翼に一閃を放った。それでも風には耐えられず葉月は吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
了は人外に変身したことにより、腹部の傷から出血は収まったが疲労は途轍もなかった。ムクの体がやってきて頭をつけ了を心配する。
「大丈夫!?」
「なんとかね。ムク、まだ戦いは終わってない。離れているんだ」
「え…」
ムクは吹き飛ばされた葉月を見る。そして恐怖した。
口から大量の血を流し、片腕は曲がり折れているのにも関わらず、葉月は立っていた。了の攻撃は翼に攻撃を受けたことで、僅かに弱まっていたのだ。
しかしそれでもただの人ならば立つことは出来ない傷のはずであった。
ムクは了の言う通り、近くの木々に身を隠した。
葉月は殺気を放ち、刀を構えた。おそらくこれが最後の攻撃だろう。折れた腕で札を刀に滑らせた。すると刀に電流が走った。
「!!」
了は危機を感じたが痛みによって体がなかなか動かない。ムクは了を助けようとするが、葉月が放った殺気で、身動きが取れなかった。刀の電流は強さが増していた。音は激しく光は眩しいと感じる程に。
もはや電流は雷になっていた。
葉月は了に向かって地面を斬りながら駆けた。さらに雷の威力は増していく、雷鳴が轟とどろき、辺りから音を奪ッていく。了はそれを見て力を解除した。
「…」
「覚悟は決めたなァ!!!」
了に刀が向かいつつあるその時には、雷の光と音が辺りを支配しつつあった。ムクは眩しさから了の様子が良く窺えない。雷を纏った刀が了の命を狙える距離に迫ってきた。しかし了は逃げようとしない。
「死ねえええええええええええ」
刀は振り落とされた瞬間 雷の光と音が全てを支配した。そしてゆっくりと雷の光と音は収まっていく。ムクの目は眩しさから解放され徐々に辺りが見えるようになった。
「あ…あ…」
ムクは絶望した。葉月の目の前には、真っ二つにされた焼死体があった。葉月は勝ち誇り次の獲物であるムクに刀を向けた。ムクは死の恐怖に縛られた。
その時、エルカードの音声が場を支配した。
<オーガ>
「何ィ!!?」
「遅いッ!!」
音がした方に振り向くと木の陰から鬼の力を得た了が飛び出してきた。葉月はとっさに防御しようとするが、了の拳が葉月の腹をとらえた。
「グアオガッ!!!」
葉月は殴り飛ばされ、何度も地面に叩きつけられて、ようやく動きを止めた。
「ふう、危なかったぜ……」
了はため息を吐き力を解除する。
「生き、生き、なんで生きているの!???」
「?」
ムクは信じられない顔をしている。了はムクが何に驚いているか分からなかった。
「だってそこに死体が…無い!?!?」
先ほどあった焼死体は何処にも無く、消えていた。了はムクが何が言いたいのかに気付いた。
「私は葉月の攻撃を受ける瞬間にこのカードを発動させた。」
ムクに<フェイク>と書かれたエルカードを見せる。
「これは分身を作り出すカードでな、奴の雷の光で辺りが真っ白になったときに入れ替わり、分身に刀を受けさせ、私は木の陰に隠れた。タイミングがずれたらやばかったな。あと葉月が怒りで我を忘れていたのも良かった」
それを聞いたムクにある疑問が浮かんだ。
「エルカードを使うと音が鳴るよね、あれはどうしたの?」
「それは雷の音で消えた」
ムクはそう言われると攻撃の瞬間は、雷の音で何も聞こえなかった事を思い出した。
「まあ、勝てた要因は、奴が最後の最後で油断したのが大きいかな」
了は倒れた葉月に視線を移す。了はムクに尋ねる。
「こいつがなぜムクを襲うほどの憎しみを持っていたのか知りたいから 診療所に連れて行きたいんだがいいかな?」
そう尋ねる了にムクは頷いた。
「私も葉月がどうしてここまで恨んでるのか知りたいし、何よりも友達だからね、助けたいよ」
「そうか…こいつと私の怪我もあるし急ごう」
「葉月は私が背負うよ」
ムクは地に横たわる葉月に駆け寄った。
夜
二人は人里にある診療所にやってきた。診療所には立て看板に治療承っていますと書かれていた。了は扉を叩き声を上げる。
「夜分遅くにすみません急患なんです。ミヅクさんは要らっしゃいませんか」
呼ぶとタッタッタッと診療所の中から足音が聞こえてきた。
「はい?どなたですか?」
扉から現れたのは、白衣を纏った、少し筋肉質な赤髪の女性、ミヅクが現れた。
「この人たちを見てほしいんです」
ムクは了と背負っている葉月を診せる。ミヅクは葉月の顔を見て、驚きの声を上げた。
「葉月ちゃんじゃあないか、しかもこの怪我」
「お知り合いですか!実はこんな事があって…」
ムクは今回の事件を簡単に述べた。話を聞き、ミズクは俯うつむく
「なるほどなそんなことが……」
「お知り合いなんですね」
ムクの言葉に頷き返すミヅク。それを知り問いかける。
「なら聞きたいことがあります。 なぜ葉月はここまで妖怪を恨んでいるんですか!」
ムクはやや声を荒げた。ミヅクは少しの沈黙の後、葉月と了の治療が完了したら話すと言い、看護師を呼んで、葉月と了を手術室に連れて行かせた。
「では少し待っててくれ」
ミヅクはムクに言い、手術室に入っていった。
ムクは待合室で待つことになった。棚には塗り薬が置いてあり、了から貰った塗り薬はここの物だと分かった。
「…」
ムクは今日あったことを心の中で整理するため、待つ間あいだ黙ったままだった。
やがて夜が明け、朝を迎える。
朝になり、しばらくすると包帯にまかれている了と汗まみれのミヅクが現れた。結果を聞くと、どうやら治療は無事成功したとのこと。そのことを聞きムクは安どした。ミヅクは椅子に腰を下ろした。
「了ちゃんも葉月ちゃんもう大丈夫」
「そうですか。大丈夫?了」
了は包帯でミイラ状態になっており口をもごもごとさせた。意味は平気である。ムクは了の包帯を顔の部分だけ取ってあげて喋れるようにする。ミヅクは椅子に座りゆったりしている。
そんな彼女に、ムクは恐る恐る尋ねる。
「あの…」
「ああ、そうだったな」
ハッとするミヅク。治療の事で頭がいっぱいだったのだろう。
「えっと葉月ちゃんのことだな。彼女が封魔の一人であることはしっているかな?」
「いいえ、霊力を駆使し戦っていたのと妖怪への恨みで封魔の者だと考えましたが、やはりそうでしたか」
了とムクはそれを聞きな納得した。そして一番聞きたいことをミヅクに尋ねた。
「彼女はなぜ妖怪を強く恨んでいるんですか、やはり封魔にいたことと、関係が?」
「ああ…葉月ちゃんは家族を妖怪に殺されて封魔に入ったんだ」
それを聞き ムクは驚いた。ミヅクは話を続ける。
「私もその時の事は詳しく知らないが昔、葉月ちゃんが家に帰ると家族が皆殺しになっていた。犯人を村の人総出で探しても分からず、もしや妖怪の仕業と考え封魔に調査を依頼した。そして犯人は妖怪だと分かり退治された。そして家族が妖怪に殺されたと知った葉月ちゃんは封魔に入りたいと願った。あ、話長くなるけどいいかな」
了とムクはお構いなくと頷いた。
「何故、封魔に入りたいのか聞くと、妖怪のせいで自分みたいに家族を殺され、辛い思いをする人を減らしたいから、と言ったらしい。その後、封魔に入った葉月ちゃんは凄かった。
霊力を得る厳しい訓練や戦いを何度も乗り越えた。ある日、私は彼女に戦って恐怖はないのかと尋ねたことがある。すると私にこう言った。 『怖いですけど、妖怪を倒し妖怪が居ない世界を作るのが今の私の幸せですから。もしそうなれば殺された家族や戦いの中で死んだ友人が報われると思います。』 てね」
了とムクは神妙な顔で聞いている。
「しかし、そうはならなかった。大災害によって人間と妖怪が和解、共に生きることになり、それに伴って封魔は活動を停止。解散になった。多くは解散になることを喜んでいた、戦う事が無くなるからな。平和いいことだ」
「しかし葉月ちゃんは妖怪と和解することを嫌がった。まだ妖怪が残っている、戦わなくてはならない、とね」
ムクは顔ふせてミヅクの話を聞き続ける。
「私たちは葉月ちゃんが問題を起こさない様、説得を試み様とした私達に対して葉月ちゃんはこう言ったんだ。
『私の家族は妖怪に殺されました。共に戦った友人の多くも妖怪に殺されてしまいました。それでも戦ったのは妖怪がいない世界にするためでした。誰も妖怪に傷つけられない世界を…なのに今になって和解だなんて、殺された家族や戦いで死んだ友人は何なんですか…。戦った私は何も得てません…あまりにも惨めすぎる』そう言ったその後、しばらくの間行方を暗ましたが、人里で暮らし呉服屋で働いてると知り、何とか生きてるとかわかり安心したが…」
「それが葉月が妖怪を恨む理由…」
何もかも失った葉月を思い、ムクは悲しみに満ちた顔になる。
「しかしなぜムクを襲ったんだ?」
了の疑問にミヅクは少し考え答える。
「おそらく、知らずのうちに妖怪と友達になっていたことに対して、自分自身とムクちゃんに怒りを感じて今回の凶行に至ったんだろう。今回の事は私が葉月にきつく言っておくよ、私も封魔の一員だったし、それに一時期は葉月の上司でもあったからね」
了とムクは、ミヅクが封魔だと分かりギョッとする。 ムクは恐る恐る尋ねる。
「あなたは葉月の様に妖怪を恨んでいないんですか?」
「恨んでたよ、私も大切な人が殺されてねそれで封魔に入った。しかしな、恨み辛みを持って戦ったり生きたりすることに嫌になってな…全部忘れることにした。悲しいことだけどさ…」
そう言うミヅクの顔は暗い。葉月の様に悲しい体験をしたからだ。
「その後は戦いとは無縁の医療に携わる事にした。私の霊力や札で大体治せるしな」
そう言い、笑うミヅク。その笑顔ができるまでどんだけ苦労したのかと了とムクには想像できた。
「お話しと治療をしてくださり、ありがとうございました」
了は懐から金を渡そうとするがミヅクに要らないと言われてしまった。
「今回のは封魔の事件でもあるからな、金はいいよ」
「そうですかでは、ありがとうございました」
了とムクは頭を下げ、診療所を後にした。診療所を出るとムクは了に話かけた。
「葉月は妖怪のせいで不幸になったんだね…」
「そうだな。妖怪にせいで被害者になり、妖怪のせいで加害者にもなったんだ…」
―――
後日、了は人里にいた葉月が退院したと聞いて様子を見に来たのだ。呉服屋の中で葉月は人に囲まれていた。周りの人間が心配そうに尋ねる。
「葉月ちゃん仕事休んでどうしたの?」
「大丈夫です。少し怪我しちゃって、心配をかけてすみません」
葉月は周りに笑顔で返す。その笑顔には戦った時のモノは無かった。
「あの時とは別人だな…」
了は葉月の笑顔を隠れ見て、あれが本来の彼女だと分かり、また妖怪には向けられない顔だとも分かった。了は悲しくなり人里を後にした。
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