第3話 この世界にて

 ―――夜


 人里には、他の木造建築とは違いレンガ造りの大きな建物が在る。それは管理所と呼ばれる。管理所の役割は人里の安全、超能力者の保護及び危険物の管理、事件の解決などがあげられる。夢幻のまちにとっては無くてはならない存在である。

 その管理所の所長室に、吸血鬼ブルーが居た。所長室の内装は様々な書物が壁の本棚にあり、この部屋の主の知識量を物語っていた。待ち合わせ時間丁度になると、ガチャリと扉が開く音がした。 


「待たせて、すまないな」 


「いや、時間ピッタリだ」


 部屋に入ってきたのは青い髪の美しい女性だった。名はアサキシ、この部屋の主であり管理所の所長を務めている。


「しかし驚いたよ。事件を起こした吸血鬼が頭を下げこの世界について、知りたいがために、此処に来るとはな」


 アサキシの言葉に少しイラつきながらもブルーは話始めた。


「了に、この世界について知りたければ、此処に来いと、言われたんでね。この世界に住むんだ、ルールや成り立ちについて知りたい。そのために来た」


 アサキシはそれを聞きながら自分の椅子に座る。そして話始めた。


「まずこの世界についてだ。少しお前にとって不愉快な言葉が出るかもしれんがいいか」


「構わん」


 ブルーの内心はさっさと本題に入ってくれよー。こんなもんだった。


「そうか。この世界が、何時から出来たのは分からないが、夢幻のまちと呼ばれている。人間世界で不要となったモノ、消えたモノや消えても問題ないモノ、行き場がないモノが来る世界だ。そのため塵ゴミ箱世界とも言われている」


 ブルーはアサキシの言葉に内心、動揺する。自分が今いる世界がまるでゴミ箱の様な場所だからだ。


「人間世界の科学の進歩で妖怪の存在は脅威では無くなり、また居ないものとして扱われるようになった。それにより、この世界に妖怪がいるようになった。もちろんこの世界固有の妖怪もいるがね。 まあ人間世界の妖怪なんてものは元は幻想存在、人間の不安や恐怖から生まれたものだ。未知の出来事や存在に対しての理由づけとしてな」


「私は消えても問題ないからここに……」


 ブルーはいつの間にかこの世界に来ていた。理由は分からなかった。来た時の記憶もない。ブルーは若干のショックを露わにしてしまう。しかしあることに気付きブルーはアサキシに問いかけた。


「妖怪が幻想存在だとしても、人間は違うだろう?」


「人間の中にも行き場のない奴、不要な奴、消えても構わない奴がいる」


「ああ…」


 その言葉に納得するブルー。人間は大多数の者が必要とされるが極僅かな者は必要とされず死ぬ。

 それは化け物であるブルーにとっても常識としてわかっていた。もっとも自分が不必要な存在になるとは夢にも思っていなかったが。


「次はこの世界について大まかな歴史を話すか。この世界ではかなり前に妖怪と人間の大きな争いがあったが、今は和解ている」


「妖怪との大きな争いだと!バカな。妖怪は人を襲う等して力を得るが、人が居なければ力を失う。それこそ幻想になって消えることもある。なのに人に対して大きな争いなどと、ありえない」


 ブルーは声を上げて困惑した。アサキシは淡々と話を続ける。


「それは、先導師と呼ばれる者が現れたからだ」


「先導師…?」


 ブルーは聞いたこと無い言葉を呟く。アサキシはそうだ。と答え、話始める。


「この世界も妖怪と人との大きな争いも無い時代。要は人を脅かし、そして退治する関係であり、人命の危険はそれほど深刻な問題では無かった時代があった。しかし先導師が現れたことに全てが変わった。先導師はこの世界に相応しくないほどの科学、オーバーテクノロジーを与えた。人体の細胞を自在に操る技術、ナノマシンと呼ばれるものや特殊兵器、パワードスーツなどをな」


 ブルーにとって中々納得しがたいことが、アサキシの口から続く。


「そして一部の妖怪たちは恐れた。科学が進歩することで人間が強くなり、再び妖怪は力を落とし、脅威で無くなり、消えてしまうのではないかと考えた。それにより妖怪は今で以上、必要以上に人を襲い殺した。自らの存在を揺るぎない物にするために」


「しかし、人間もやられっぱなしではないだろう?」


 ブルーが口を挟む。人間はやられたらやり返す生き物、それは彼女にも分かっていた。ブルーの言葉に肯定するアサキシ。


「そうだ。人々も立ち上がり妖怪を退治する『封魔』を組織した。メンバーの多くは妖怪に恨みを持っている者らしい。私も詳しくは知らん、何しろ人里が出来る前に出来た組織だからな」


「そうか。なるほど殺し殺されか、泥沼だなどうやって和解した?」


「それは大災害によってだ」


 アサキシは表情一つも変えず話続ける。大災害と聞きなれない言葉が出てきて、ブルーは自分の知っている災害を頭に浮かべる。

  … 災害とつくからには地震か洪水、火事か? 大とつくからにそれらが余程のモノだったのか?

 そんなブルーの考えとは違う答えをアサキシは口にする。


「大災害とは、地震や火災、洪水などとは全くの異質なもので、よく分からん」


「わ、わからない!?」


「ああ、突然光が全てををのみこんだ。そしたら辺り一面が荒れ地になっていた」


 何だ何を言っている!? ブルーは驚き、困惑しながらも話を聞き続ける。


「なぜ起きたのか正体は不明だが、大災害は人間と妖怪どちらにも大きな被害をもたらした。人は生活に困り、妖怪は人が大きく減少したことで力を落とした。それにより両者の安定を図るため今までの事は水に流し、助け合い和解することになった。この時、被害を免れた村に多くの人が避難してきた。それに伴い村は里へ成長し、今居る現在の人里になった」


 アサキシは他に質問はあるかと聞きブルーはあると肯定した。


「先導師とは何者だ。化け物か」


「先導師の詳しい素性は分からんが人間世界からやって来たらしい」


「人間世界の連中はみんな力と駆出した科学や知識をを持っているのか」


「いやそれは無かった、他に人間世界からやってきた者に聞いてみると人間世界でもありえない技術らしい」


「先導師の名は何という?」


「…アカネと名のったらしい」


「なぜソイツがきたんだ?」


「わからん 自分もいつの間にか来ていた、だと」


「先導師はそれからどうなった?」


「奴は大災害後、姿を消した。そのため大災害は奴が起こしたと考えられている」


「どんな力を持っていたんだ、妖怪を恐れさせるほどのオーバーテクノロジーを与え、大災害を起こしたと考えられる力とは」


「…科学に関するものを操る能力」


 アサキシの言葉にブルーはピンときなかった。それは彼女が妖怪であり、科学とは遠い存在だからだ。そして聞き返した。


「すまん。どんなことが、出来るんだ」


「要は何でも出来たと考えてくれれば良い」


 ブルーはその言葉を聞き顔を引きつった。本日何度目かのショックを受ける。

 何でもできるなら神に等しい力を持っていた奴が居たとは世界は広いな … もう驚かんぞ。

 そんな決意を誓いアサキシの話に耳を傾ける。


「先導師もといアカネが生み出したオーバーテクノロジーやらは全て管理所で保管している。無暗に使うと、どうなるかわからんしな。他に質問は?」


「あ、ああ次はエルカードについて聞きたい」


「そう言えば、了に会ったもんな。エルカードとは、大災害の後突如現れた謎のアイテムだ」


 ブルーは首をかしげる。謎ばっかだなこの世界 … 大丈夫か?夢幻のまちを不安に思う。


「誰が作ったかも分からんのか?」


「…あとじと言う者が作った。そいつは何か困っている者に、エルカードを与えている様だ。普段どこに居るのか分からない」


「それなら良いじゃないか。誰かの為なら」


「そうはいかない。エルカードは誰にでも力を与える。悪人だとしてもな」


「エルカードも科学で作られてるのか?」


「違う。エルカードはどうやら科学では説明できない物らしい。…まあ余りにも高度な科学は魔法みたいなもんだしな。そこら辺は重要では無い」


「エルカードはみんな持っているのか?」


 ブルーは了を思い出し尋ねる。もしみんな持ってるなら私も欲しい。


「いや持つ者は少ない、珍しい物だ」


「了のやつはたくさん持っていたぞ?」


「実はそれについては良く分かってない。了はエルカードが現れた後やってきた正体不明人物だからだ」


ブルーは驚いてしまった。アサキシは当時を振り返る。


「了と初めてあったのは、悪党がエルカードを使い暴れていた時だ。今まで大した力のない奴が突然、特殊能力を使いだし、困ってた所に了が現れた」


「了はエルカードを使い、瞬く間に悪党を倒してしまった。私は謎のカードを持つ了に話しかけた」


「それで」


 ブルーは興味深そうに聞いている。自分を負かした了とエルカードの話だからだ。


「了は自分がどこから来たのか分からなく、知っているのは自分の名前とエルカードの事だけらしい。あとじの事も知っていたがどこに居るのか知らなかった。悪党を倒したのはエルカードを持って暴れていたからだと」


「その後はエルカードの事を聞き、了を管理所に務めさせてた。行く当てが無いらしいしな」


「エルカードを使い何かしないか、監視するためだろ」


 ブルーは少し毒づく。アサキシは苦笑する。


「言ってくれるなあ、まあその通りだ。エルカードは使い方次第で凶器になりかねんからな。了についてもエルカードを持たせたままにし、平和利用すべきと考えて手元に置いといた。そっちの方が良い、世界にとってもな。あと了自身は善良な奴だ、今のところトラブルは起こしていない」


「…」


 ブルーはあることに気づいた。それはアサキシが吸血鬼を微塵も恐れていないことだ。

 謝罪したとは言え問題を起こした者と二人っきりで話しているのだ。ただ者でないことが分かった。

 彼女はその事に気づいたのを隠しながら、アサキシを相手する。


「さて、次の質問は…」


「…世界ののルールについてだ」


「それなら簡単だ言っていくぞ。一つ人里で妖怪は人を襲ってはならない逆も然り。二つ妖怪のテリトリーには無闇に入らない。三つ人里の法は人里でのみ、機能する」


「良し、そこまでで十分だ」


 ブルーは話を途中まで聞き話を区切る。アサキシはきょとんとした。


「む、まだあるが…まあ大切なのは言ったしいいかな。お前も守ってくれよ」


 アサキシはブルーに釘を刺した。そして、他に何か尋ねる事は無いかと聞くと、ブルーは無いと答え、アサキシに対し、謝辞を述べ、管理所を後にした。


 アサキシは次の来訪者を迎える準備をした。


 ―――夜、上空。


 ブルーは自分の館に向かい飛びながら今日の話を振り返る。謎の多い世界だと分かったがアサキシがただ者でないことも分かり、今日聞いた話の中に嘘の部分があると感じた。


「…面白そうな世界だ」


 吸血鬼は笑みを浮かべた。

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