夢幻のまち 塵箱世界

はぎの

第一部 了、編

第1話 青い月と不思議なカード

 小さな丘に小さな家があった。中には美しい少女が布団もかけず眠っていた。


「……眩しい」


 私は窓の日差しによって目を覚まさせられた。まだ眠り足りなかったが、今この家には布団、寝具といったものが無く、快適な眠りは約束されていなかった。


「眠い………」


 そんな言葉を吐きながら私は立ち上がり家から出て、日課のポスト確認を行う。中には手紙が一通入っていた。

「おっとあるのか、仕事」


 内心はめんどくささ半分と仕事がある喜びがあった。私の家のポストには週刊誌と仕事の手紙しかこない。手紙を手に取り中を確認してみると、人里にある管理所からの依頼であった。


「最近この世界に吸血鬼がやって来て以来月が青く染まる怪奇現象が起こっている。そのせいで人々の吸血鬼に対する恐怖が高まっている。吸血鬼に対する調査又は青い月の解決を願いたい。…もう少し情報を集めてからにして欲しいぜ」


 手紙には吸血鬼がいる場所までの地図が入っていた。私は情報量の少なさに呆れたが、人が困っているのは見逃せない。それに我が家は現在貧乏である。仕事は受けざる負えない。


「やるしかないか」


 私は夜が来るのを待ち、覚悟を決めた。


 この世界は夢幻のまちと呼ばれ、人間の他に妖怪といった化け物や超能力者といった、ありえないモノが存在している。以前に人間と妖怪で争いがあったが、未曽有の災害「大災害」と呼ばれる事が起き、人間と妖怪は大きく傷ついた。

 しかしそれにより人間と妖怪、生活の安定のため垣根を超えた助け合いがおき和解に至った。現在は良い関係を保っており平和である。


 だが、異界からの来訪者や平和になじめない者や力を行使したい者が、騒ぎを起こす。そういった騒ぎを治めることを生業としている人達がいる。私もその一人だ。


 夜になり私はいつもの白いジャケット着てブーツを履く。そしてカードホルダーを装備し、家を出て吸血鬼がいる場所に向かった。


――――


 歩いて何十分たっただろうか。暗闇の森と呼ばれる広い森に入り、人狼が住むといわれている場所を静かに通り、ようやく目的地にたどり着いた。私は目の前の光景に唖然とした。


「ここに吸血鬼は居るのか…」


 目の前には大きく、長い年月を感じさせる洋館があった。しかも庭も備えて在り、庭には薔薇やハーブ、更には噴水まであった。住む者の富を表していた。私は思わず自分の家と比較した。


「でかいなー家ー私の家とは大違い…」


 私の家は小屋みたいとよく言われており、吸血鬼のほうが立派な家に住んでることにショックを受けながらも私は館に入り込んだ。中に入ると広いロビーに続いた。

 内装もシャンデリアなど豪華な装飾品で溢れていた。改めて自分との富の格差を思い知らされた。しかし窓は見かけなかった。吸血鬼だからだろうか?


 「…誰かいないのかー」


 私は念のため確認をすると奥から、体に包帯を巻き、片目を隠したメイドが現れた。メイドは私にお辞儀し、言葉を発した。


「いらっしゃいませ、お客様」


「ここに吸血鬼がいるな、会わせろ」


 メイドの風体と対応に面食らったが私は威圧的に問いかけた。しかしメイドは臆することなく普通に対応してきた。


「お嬢様に御用ですね。お嬢様のお部屋まで案内いたします」


「…」


 メイドが自身についてくるよう、指示し私はメイドの後ろを歩いた。

 私はメイドに不審と感じたが素直に従うことにした。私は部屋にたどり着くまでいくつかの質問してみた。これにメイドは気軽に答えてくれた。

 答えてくれないモノだと考えていたので、その態度に僅かな不気味さ感じた。暗い廊下にコツコツと足音が響く。


「吸血鬼なのかお嬢様は?」


「はい、そうでございます」


 メイドは主が吸血鬼でも仕えているのか … 恐れとかは無いのだろうか、そう考え。何故、仕えているのか?と尋ねるた。

 メイドから仕えたいからですと返答され、化け物だとしてもか?と改めて尋ねたが、はいと迷いの無い言葉で即答だった。

 メイドにとってお嬢様は良い主なのだろう。もしかしたら穏便に事が進むかもしれない。


「そうか、何時から仕えている」


「ずっとです。生きている時からずっと」


 メイドから肉が腐った腐臭が微かに漂った。メイドも人間ではなかった。先ほどから部屋に向かっているが館の大きさの割りに静かで、不気味な雰囲気を漂わせていた。


「…他に誰かいないのか」


「私とお嬢様だけです」


 メイドとの会話を繰り広げている間に、目的の部屋にたどり着いた。扉も装飾が凝ってあり、如何にも中には偉い者が居ると分からせた。


「こちらにございます」


 メイドが扉をあけ中に入ると、部屋は西洋の装飾で美しく、その中央の椅子に煌びやかなドレスを着た妖艶な女性が座っていた。彼女の外見は館にある美しい装飾品に引けを取らない相応しいモノだった。

 白い肌に顔は美しく、気品を感じられた。

 しかし姿こそは人であるが、背にはステンドガラスのよう翼、捕食者の眼、人ならざる者の威圧感が感じ取れた。


「お嬢様、お客様でございます」


「ようこそ、我が館へ…なにか御用かな」


 呼ばれた吸血鬼は私を見て微笑む。背筋がゾクリとした。蛇に睨まれた蛙はこんな気分なのだろうか。


「…お前が月を青く染めているのか」


 私は単刀直入に問い詰めた。その言葉に吸血鬼は笑い、そうだと答えた。私は相手が素直に話したことに驚き、理由を尋ねる。


「なぜそんなこと?」


「まあまて、そう言う話は自己紹介をしてからだ。私の名はブルー、吸血鬼だ。お前を案内したのはゾンビ兼メイドのディナだ」


「ディナでございます」


 吸血鬼ブルーは私の話を遮り、自分らの名を名乗った。そして私に会釈するディナ。この状況では私もせざる負えない、自己紹介は大切だ。私は咳払いし自己紹介を始めた。


「私の名はりょう。青い月を止めに来た者だ。ブルーなぜ騒ぎを起こし人を恐怖させる」


 ブルーは了を注意深く見た。

 了の姿は黒く短い髪の年若い少女で服装も特別変わった物で無く、白いジャケットにスカートをはいた、見た感じ何の変哲もない人の姿だ。ブルーはとっては取るに足らない存在と判断し、笑う。


「決まっているだろ。人を恐怖させるのは化け物の性さがだ、ここが何処であろうとな」


 さも当たり前のように答えた。その言葉には蔑み、見下しといった感情が含まれており、了は少しの不快感を感じた。しかし事を荒立てたくない思いもあり、頭を下げ頼んだ。


「どうかやめてくれないか、人が怯えている」


「嫌だね。弱者の言うことなぞ聞けるか」


 了のその態度にブルーは鼻で笑い、頼みを断った。吸血鬼のプライドがそうさせた。ブルーの返答に了は頭を上げ、ブルーを威圧した。


「どうしてもか」


「どうしてもだ」


 ブルーの拒絶の言葉に了は力強く答えた。


「どうしても、やめないというならば、私はお前と戦ってまでやめさせる」


 了はブルーを見据える、吸血鬼に対する恐怖はなかった。ブルーはその言葉に苛立ちを覚えた。


「力ずく、と言うわけか。できるのか、ただの人間ごとき」

「ただの人間、それはどうかな?」


 ブルーの言葉を遮り毅然と答えた。弱者の囀りにブルーの苛立ちは頂点に達し、了を殺す事に決めた。


「ならッお前の力見せてもらおうかッ!」


 その言葉と同時に了に飛びかかり、顔面にパンチを放った。その瞬間奇妙な音声が流れた。


<アイアン>


 ブルーの拳は了の顔に直撃した。了は壁に叩きつけられ、分厚い壁は衝撃で大きく音を立てて崩れた。普通の人間にはできない、吸血鬼の力のなせるわざだった。

 ただの人間なら今の一撃で死んでいることだろう。しかし、ブルーは浮かない顔をしていた。 


「何だ今の音は…そして当たった時の感触…」


 自分の手を見ながらブルーが不思議に思っていると、崩れた瓦礫の山から音がした。ブルーは瓦礫の山をみる。そこには五体満足の了が立っていた。


「かなり痛かったぜ」


「!?なぜ生きている!何をした!」


 服についた汚れを払いを落としながら了は気軽に言って見せた。ブルーは困惑のあまり声を荒げる。了はブルーの言葉を聞き笑みを浮かべた。


「このカードのお陰さ」


 了はブルーに手に持つカードを見せた。それはブルーが初めて見る物だった。興味深そうに見る。


「それはマジックアイテムの類か」


「似たような物だ。これはエルカードと呼ばれ使用者に力を与えるカードだ」


 カードひらひらさせながら話し続ける。ブルーは了の余裕な態度見て、こいつは戦える者だと認識を改めた。


「さっきアイアンと書かれたカードを使い、体を鉄にした」


 ブルーは納得しなるほどと理解し、了に不敵に問いかける。


「しかし、そんなに教えても良かったのか」


「構わんよ。言ったところで負ける気はしないしな」


 確かな自信を持ち、了は相手を挑発する。しかしブルーも言い返す。


「だがそれ一枚だけでは」


「他にもあるぜ」


 了は余裕の表情だ。それを聞きブルーは喜んだ。ブルーは戦いを好む性格だった。


「そうかなら、楽しめそうだッ!!」


 その言葉と共に再び了に飛びかかる。了はブルーの行動を愚策と判断した。


「また同じ手かッ」


 了はブルーを受け止め、攻撃を加え様とするが、了にとって予想外の出来事が襲う。ブルーは了を掴み上へ飛んだ。天井、屋根を大きな音をたてて破壊し、上を目指した。 了は何とか振りほどこうとするが吸血鬼のパワーには及ばなかった。やがて空に出た。


 夜空には青い月、吸血鬼そして了だけであった。ブルーの翼が月光に当てられ美しく光っていた。


「いくら鉄になろうとも、この高さから叩き付けられれば、ただで済むまいッ!!」


 言葉とともに了を勢い良く地面に投げ捨てた。地面に衝突したなら大怪我を負うだろう。

 了はカードホルダーから新たにカードを取り出し発動した。


<グリフォン>


 音声と共に背中から機械的な翼が現れた。このカードは風を操る力と飛行能力を与える。ブルーはその様子を見て驚いた。了に先ほどまでなかった化け物の力が備わったためである。

 了は逆風を起こし、地面ギリギリのところで落下を回避し、ゆっくりと地面に降り、安堵のため息を吐いた。


「危なかったぜ…」


「何を安心しているッ!まだまだこれからだッ!」


 ブルーは叫びと共に了のもとへ急接近し、勢いをつけたパンチを繰り出そうとする。了はすぐさま新たにカードを発動させた。


<オーガ>


 翼は消え音声とともに右額に角が現れた。拳には火が纏っている。鬼の力を与えるカードだ。


「パワー比べだッ!!」


 ブルーに向かい拳を突き出す。両者の拳がぶつかり合う。結果ブルーの拳が砕けた。鬼の力を得た事によりパワー差が逆転したのだ。ブルーは手が破壊されたことで一瞬だが怯んだ。了はそれを見逃さず好機と捉え、そのままブルーを殴り続けて館の方にぶっ飛ばした。


「ウオオオ!!!!」


「ガアアアアアアアアアアアア」


 ブルーは防御することは出来ずに火を纏い、叫びと共に館の壁に叩きつけられた。壁は叩き付けられた衝撃で、大きな亀裂が走った。そしてブルーは地に伏した。了は勝利したと判断した。


「やったか」


「私は吸血鬼…この程度では死なないッ」


「何!?」


 しかし、ブルーは深手を負っていたが立ち上がっていた。ブルーの闘志は消えていなかった。了はその様子を見て、新たにカードを発動した。


「…らしいな。だがこれならどうだッ!」


 <ドラゴン>


 角は消え、新たに両腕にドラゴンの頭部をもしたガントレットが現れる。

 それをブルーに向けるとドラゴンの口が開き水弾を連射した。水弾は命中するが威力は低くい。

 ブルーは了の攻撃は甘いモノだと判断した。がしかし。


「水鉄砲ごときで…なんだと!?!」


 ブルーは驚愕した。水弾を受けた自身の体が、溶けるような音を立てて煙に変わっているのだ。ドラゴンのカードの力は聖水による浄化である。化け物としては致命的であった。

 うめき声を立て再び地に伏すブルー。先ほど鬼の力に与えられた傷がなければ避けられたかもしれない彼女は頭の中でそう考えた。


「…いや無いな。私の完全敗北だ…」


 言葉を残しブルーは気を失い、戦いは終わった。


――――


 クソ傷が痛む。頭の中でそんな風に考えていると視界が開いた。


「生きているだと?」


 ブルーは自身の命があることに困惑し、辺りを見渡す。 ブルーがいた場所は自分の寝室であり体には包帯がまかれていた。隣にはディナが立っており心配そうにしていた。


「目を覚ましましたかお嬢さま」


「なぜ私がここにいる?」


「負けたからです。怪我も負いました」


「違うなぜ生きている。了のやつは私を始末しなかったのか!?」


「それについては了様からお聞きください」


「居るのか!案内しろ!」


 ブルーは傷を負っていること忘れディナに催促した。二人は了がいる庭へ向かった。了は青い月を見て夜景を楽しんでた。ブルーがやってきたことを知ると、大丈夫かと声をかけた。

  しかしブルーはその言葉に怒りがこもった声で言い返す。


「なぜ私を生かした。戦いに負けたものは死、それが当り前だ!」


 ブルーにとってはそれが当たり前であった。人間と化け物の闘いはそういうモノであると考えていたからだ。了はその言葉に驚いた。


「私はブルーを殺したくないし」


「退治しに来たのではないのか!?」


「私は月をもとに戻してくれと言いに来ただけだぜ、それにブルーの死は望んでないよ」


「しかしなあ!…」


「しかしも何も、私は勝った。強者の言うことは聞いてくれるよな」


 了は月を見ながら言う。それ以上は何も望まなかった。ブルーは了が自分より強い者だと分かった。


「…そうだな強者の言う通りなら」


 ブルーはその言葉に納得し指を鳴らした。青い月は消え夜空には金色に輝く月が現れた。ブルーが月を元に戻してくれたことに喜び、笑みをこぼす了。


「ありがとうよ」


「次は負けない」


 それにつられ笑うブルー、二人の様子を見てメイドのディナは安心した。


「いやーお嬢様が死ななくて良かったですよーいや本当にもし死んだらどうしようかと思いましたよー特にお金」


「おまえーなー」


ブルーは顔赤くし、怒りの表情をディナに見せる。するとディナはあることに気がついた。


「あら、怒ったら顔は赤くされるんですね」


「ゆるさんんん!!!」


 それを聞きさらに顔を赤くした。ディナに説教を与えようとするブルー。ディナは笑って逃げる それを追いかけるブルー。そんな様子を見て了は笑う。月は優しく世界を照らしていた。


 こうして青い月事件は解決した。


 翌日人里にブルーの手紙が届いた。青い月の事に関する謝罪と今後は仲良くするという内容だった。

それを聞いた了は律儀だなぁとこの世界では珍しいと思った。約束を守ったり詫びを入れたりするあたり根は良い奴らしい。


 そう思った布団の中で …


 事件を解決したことにより報酬が支払われ、すぐさま布団を買いに走った。夜に寝ずに戦ったので疲労困憊である。布団に入るとすぐに眠れた。


「快適だぁ…」


 了はゆっくり眠ることができた。そのことを後にブルーに話すと「布団のために戦っていたのか」と呆れられた。了は別に良かろうと思った。

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