三手目・ありふれた奇抜な手、優秀な普通の手

さて、皆さんご存知のように2018年現在、メディアで藤井壮太、羽生善治という将棋界のスーパースターの名前がものすごく出回っている。メディアで扱われると言うことは一般の人の質問攻めにあうということだが、その質問の中によくある「誰も考えもしない一着を指すから羽生(藤井)さんは強い」という前もって用意していて、質問者が簡単に理解できる結論に着地させる流れ作り、どうにかならないだろうか?


 将棋をまとまってやればすぐに分かる、というか普段の色んな物事でもそうだと思う。芸術的な、非凡な、逸脱した、と形容されるものは面白いのだが、旨く着地できないことが多いのだ(例えば将棋を覚えたての子どもがよくやってる、ただし中々バカにならない)。一方で普通、平凡な、型にはまった、と形容されるものは基本的にネガティブな受け止め方をされるが、普通、平凡、型といったものはかなり多くのものがそれらで解決することが多く、特に将棋においては普通の手は自然な手、と言い換えられて非常に重宝されている。

 棋士にもいろんなタイプがいるが、藤井、羽生の二人は割と盤上における最も自然な手を指そうとするタイプに見える。藤井はまだ棋士になって間もないのでこれからいくらでも変化すると思うが、羽生善治、という人には誰もが考えはするけど、誰よりも丁寧に考える人、そして結果としてたまたま誰も考えていなかった手を指した。誰かが勝手に羽生マジックと言い出した、というのが事実だと思う。


 そして誰も考えもしない一手について、となると羽生善治より谷川浩二にまつわるあるエピソードが思いつく。谷川浩二は「光速の寄せ」という超カッコいい言葉をしょって活躍した棋士なのだが、本人曰くこのカッコよすぎる指し手(言葉)に起因した勝ち負けを見ると、結果はトントンだったらしい。妙手が良い手とは限らないとはよく言われるが本当らしい。しかし合わせて覚えておきたいのは、将棋は普通の手だけ指していても中々勝てないと言われている、特にプロの世界は。


 じゃあ、いったい、どうすればいいんだ!何がいいかわからないじゃないか!と怒り出す人はいるのだろうか?怒らなくてもいいと思うが、それはその通りでこれまた羽生善治という人がよく口にしている言葉に尽きる。将棋はまだよくわかってないんですよ。そしてこれが羽生善治の強さ秘訣の一部じゃないかと思う。わかっていないことを広く広く、そして沢山あることを強く感じて真摯に向き合い追求し続ける。わかっていない、ということを羽生善治自身がはっきり自覚している。このことが強さの一端を担っているように見える。

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