第3話
「おれの指導はひたすら演習。相手の動きを見て、自分のスタイルをつくってパターンを組み込んでいくんだ。手数を増やして、切り札を作れ。」
「はい!」
杖というのは攻撃パターンがとても多い。槍のような突き、棍のような殴り、普通に杖として使って高い打点の技を打つ時の補助をするものでもある。一撃一撃の威力は刃物や刺突武器より少ないが、振り回してて自分が怪我するっていうのが一番バカなので棒で戦って、弱らせたらナイフで止めというスタイルで行くことにした。
何時間か戦い続けたけれど特に進歩は感じられない手を抜いて戦ってくれているのに対応するので精一杯で相手の動きを真似る余裕が全くない。
「今日はまあこんなもんだな。柔軟してじっくり休め。明日は朝からここに来いよ。」
「ありがとうございました。」
ベベロさんは中庭から出て行った。仰向けに倒れ、空を見る。日は暮れてきており、もうそろそろで暗くなりそうだ。
「ぐはー疲れた。」
「あ、ズンさんお疲れ様です。すごい訓練でしたね。」
「ベベロさんめちゃくちゃ強いですね、手も足も出なくて軽くあしらわれてしまいましたよ。」
「その割に結構動けていたじゃないですか。」
「あれは穂先が綿だったからだよ。普通の槍だったらビビって全く動けないし。綿のはずなのに突かれると痛いんだよね。」
受付嬢と話しながら身だしなみを整えギルド屋舎の中に入っていく。ベベロさんの強さが痛いほどわかる、そんな訓練だった。
「あ、そういえば宿って取られました?もうそろそろ日暮れますけど。」
「……まだ取ってないかな。」
「予算は?」
「5000ほどかな。しばらく働けそうにないし。」
「それなら中級の安い宿にならいけますね。いいところ教えますよ。中洲亭ってとこに行ってください。通りまっすぐ行ったところにありますから。マールの紹介っていえば少し安くなるかもです。」
「へえ、ありがとうね。行ってみるよ。」
現代と比べるとちょっと悪いのだが、まあこの世界の中では綺麗な方に入るであろうこの宿。雰囲気は明るい。
「すみませーん」
「はーい」
中からおかみさんが出てくる。細身で妖艶な腰つきをした美人だ。
「あの、冒険者ギルドの受付嬢のマールの紹介できたものですが。」
「あら、娘の紹介なのね。あの子職権乱用してうちにお客さん入れてくれるのはありがたいんだけどねぇ。人手が足りないからねぇ。」
「え、ここ止まれないんですか?」
「いや、部屋は空いているのよ。でも食堂で料理提供するのに人が足りなくてね、ちょっと困ってるのよ。」
これは大チャンス。ちょうど僕には料理人という役割があるのだ。
「あの、僕、役割が料理人なのでお手伝いしましょうか?朝から夕方まではギルドの方で修練しなきゃいけないので、夕飯と翌日の仕込みだったら出来ます。なのでそのかわりと言ってはなんですが……」
「分かったわ。でも正直あなたの料理の腕を見なきゃわからないわ。じゃがいもの皮むきと根菜の皮むき、あとは皿洗いを見て任せようと思うわ。もし合格なら部屋は従業員だけれど料金は取らないわ。」
「ありがとうございます。では体を綺麗にしてから早速厨房に入りたいと思います。水浴びは…」
「裏庭でお願いね。」
一旦宿を出て裏に回る。樽に水が流れていて、いつでも体が洗えるようだ。服を脱ぎ、水を浴びる。そうだな、服は早めにこっちの世界のものにしておかねば。明日買いに行くか。
水浴びを終え、服を着て厨房へ向かう。厨房には樽いっぱいに入った大量のじゃがいも、根菜たち。
「おいおい、こんなにあるのかよ。そりゃおかみさんも悩むわ。」
この世界にはピーラーはないので包丁で一つづつ向いて行く。スキル料理技能アップ1が発動しているのか、そこまで苦労せずに皮が向かれて行く。ふかしてポロポロ剥がしていく方法を途中で飽きた時に提案したが、焼くので絶妙にシャキシャキした食感を残したいからダメだと言われた。しょうがない。
黙々と、まさにその言葉通り真面目に作業をこなす。慣れたのか、一つ1秒かからないほどまで早くできるようになった。
次は皿洗い。厨房でメインに働いているおばちゃんに声をかける。
「すいません、どの皿洗っていけばいいですか?」
「ああ、そこに山になっているのかたしてくれ。水で洗って大方の汚れが取れれば同じ皿でまとめて積んでおいてくれ。」
指示通り洗いにかかる。本当に人気店のようで、皿が等のように積み重なっており、変に触ると崩れ落ちそうだ。料理とは違うと思われるかもしれないが、これも料理人の仕事の一つ。皿を洗い、片付けるまでが料理とはよく言われることだ。これもずっとやって慣れてきたのか、サッと手で皿を一周撫でるだけで綺麗になった。少しおかしいと感じるべきだったが忙しさのあまり、考えることを放棄してしまった。
夕飯の営業終了後、おばちゃんが話しかけてきた。
「あんた、洗うの早すぎない?本当に綺麗になっているの?」
おばちゃんは皿を手に取る。自分自身、最後の方は意識なく半自動的に洗っていたので自信がない。
「あら!ものすごく綺麗じゃない!顔が映るなんて買いたてのお皿みたいだわ!」
おかみさんも食堂にやってきた。
「おばちゃんはこの新人さん、どう思う?」
「仕事のスピードも質も全く問題ないわね。いいと思うわ。」
「じゃあ合格ね。あとでカウンターに来てちょうだい、鍵を渡すから。えーとお名前伺ってなかったわ。」
「泰然です。言いづらいようなのでズンと呼んでください。」
「ズンくん。これからよろしくね。仕事は帰って来てから翌日の食材の下ごしらえと皿洗いを頼みます。宿代は0でいいです。冒険者として遠征に行く際はどうします?」
「給料もらってるわけじゃないのでもちろん無しですよね?一ヶ月ほど、よろしくお願いします。」
おかみさんからは無事、合格がもらえた。これでもらったお金はまだ杖作りにしか使っていない。これは上々。僕は部屋に行って整ったベットの上に倒れた。そしてこの日に起きた出来事と状況の変化の疲れの波がどっと押し寄せて来てすぐ眠りに誘われた。
翌日、調理場を借りて軽く朝飯を作った。ベーコンとスクランブルエッグを丸パンを上下に切り分けたもので挟んだ簡単なものだ。
あれ、材料の力以上に美味である。調理技能アップが上がったのかな?ステータスを見てみることにした。
飯田泰然
16歳 男
《役割》
料理人、整体師
《スキル》
料理効果付与2
料理技能アップ5
後片付け5
自然治癒力アップ1
マッサージ技能アップ1
隠密1
地獄耳1
遠見1
格闘1
杖術2
料理技能アップのレベル上がっていた。そして新たなスキル、皿洗いが増えていた。どうやってスキルが増えるのかわからないがとりあえずは同じことを繰り返していると増えることは証明された。料理効果付与はなぜ上がったのだろう。下拵えだけでは上がらないが、何かしらのアクションがあって増えたのだろうか。
…今朝の料理か?まだ検証は必要であろう。
昨日の特訓のおかげでスキルの杖術が生えていたのは良かった。多少扱えるようになったからだろう。掃除の時間に放棄で遊んでたのよりは上手くなったと思う。
今日も特訓に行ってくるか。
おかみさんに鍵を預けて冒険者ギルドに向かった。
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