第5話 夢繰り返し
家につくとベッドが僕を迎えてくれる
もう身体を起こす気力なんてない
労働の甘美な疲れと飲酒の微睡み
外でグレイスニルの呼吸音が規則正しく繰り返されている
その音はあの日へ僕を落とし、満足気に去っていくのだ
揺らぐ水面に星々が泳いでいたあの日
竜舎裏の水飲み場は生き物の気配はなかった
絶好の密会場所
そこへ突如、人の気配が現れて僕を見つけると足音を立てて近づいてきた
その人は僕のよく知る柔らかな髪を肩の高さで切りそろえた少女だった。
それこそ何もしでかさなければそこそこ良い生まれであることは容易に想像がつく出で立ち。
しかし彼女は激昂癖があった
「ルーカス!お前何したかわかってるのか!?」
分かってはいたがこんなに派手に怒鳴られると四肢に響く
「わかってるけど、征羽、君には無事でいて欲しかったんだ」
彼女を宥めながらその荒々しさに舌を巻いた
激昂癖というよりは男勝りを超えた獣のようで、それは僕にも少しばかり獲得すべき特質であったように思える
無理難題を押し付けられることの多い僕らみたいなのは特にそうだ。
互いに庇うことだって多くあったから二人が揃って同じだけの野性があればよかった
今までだって上手く連携をとれずに僕が足を引っ張っていた
それが今日は今までで一番ひどかったのだ
連携も、指令も、配置も全てが今までで一番最悪
「すまない。お前が全部悪いわけじゃないよね」
「けどほら、君の手柄を僕が盗んだ。ライバルだからね?そういうことじゃダメかな?」
彼女の視線が僕の右腕に注がれる
「一歩間違えたら死ぬところだった!」
「腕1本ですんだよ?」
彼女の口が痛みをこらえるようにキュッと結ばれた
何も彼女が自分の負い目に思うことなどない。
これは全て帝国の指揮なのだから
そうだ。
嘗て神として崇められていた異形を倒した
それは帝国にとって邪魔な存在で、駆除する側からしたら対峙したくない存在
それに先陣を切る難題
征羽から奪い取った手柄だった。
「いつもお前ばかりが」
僕が怪我をするのはいつも自分が至らないから
なのに征羽はそれをいつも別の方向から責めた
そして帝国から逃げると決めた日も征羽は僕を強く責めていた。
別に逃げることを伝えてもいなかったのに
「逃げるな」と、激昂したように震えた声で口にして去った
何からと言いたかったのか分からない
けれど征羽は確かに言っていた
忘れようにも忘れられない
僕、ブランクがルーカスとして受け取った大切な言葉だから
あの日を何度も夢で繰り返しては日が昇るまでずっと酷くうなされるのだから
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