第4話 ある一夜を
小さな村といえど、当然宿屋兼飲食店は存在する
けれどこの限界地域、所謂異形と呼ばれるものたちの住処の隣は物好きだってなかなか来やしない
しかし人を襲うような異形は多くないのだが、やはり自らと姿形が違い、意思の疎通が聞かぬやもしれないものは畏怖のだから仕方ない
よって、村はそこでしか住まえない者と、名ばかりの店の集会場だった
そして夜なんかは特に自家製の良く効く酒が振る舞われる
「ブランク!来たか!」
ビールジョッキを並べるおっさんに手招きされ席についた。
「おっ、来たな!」
店員の青年も僕を見つけるとすぐにいつものポテトと肉のプレートとビールを持ってきてくれる
僕はそれを受け取ると、青年のエプロンポケットに金を入れて礼を言う
この店のやり方は実に面白い
都会だったら真っ先に潰れるだろうが、ここじゃ金の価値なんてあまりにも無いに等しい
普段は皆が物々交換でやり取りするし、ここだって同じやり方だった
けれど僕は自分の畑を持ってもいないし、家畜だっていない。
仕事だってグレイスニルに任せっきり
役立ちそうなことなんてこれくらいしか思いつかなかった
「おいおい、まだ金なんか払ってたのかい?」
目ざとく見ていたおばさんが僕の隣に来ると、青年を呼んだ
「あんた、その金どーすんのさ?え?」
「母さんには関係ないだろ!」
そう言って離れていく彼に僕はスマンとジェスチャーしておく
「あいつが外を見て歩くんだって息巻いてたのはあんたの所為か」
「ごめん。でも彼も彼なりに考えてるみたいだし」
外に出るには金が必要だし
「外はいい所とは限らないって、お前さんがよーく知っとるだろうに」
おばさんがちょっと悲しそうな顔をし、昔話を1つ
「わかるんだよ。外を見たいって気持ちはね、私だってここ来る前は行商してたんだから」
そんな話を延々と聞かされながらこの日は夜更けまでそうしていた
それはいつもの平和すぎる村の夜で、なんだか全てが微睡みの中で明るく光っているように思えた
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