紅月への構え
「教職員の皆さん、今日集まってもらったのは他でもありません。昨夜起きた事件の話ですが…。」
オルタリアの職員室では校長のナヴァロンが教職員をすべて集めて緊急の職員会議を行っていた。
皆真剣な眼差しでナヴァロンの話を聞き、誰も一言も話さなかった。
もちろんレイドも同様だ。
(グラスハートの企みは知らんが…生徒には危険を及ぼすわけにはいかないな…。)
《紅月の悪魔》キュリアス・グラスハートと対峙したことのある彼だからこそ分かる彼女の厄介さ。
漆黒の竜騎士のレイドでさえも、彼女との戦いは骨が折れるのだ。
彼女をこのまま野放しにするのはあまりにも危険すぎる。
「くれぐれも生徒たちの身の安全を確保するようにお願いします。」
ナヴァロンは軽く頭を下げて会議は終わった。
続々と職員室から教員が出ていく中、ナヴァロンに呼び止められた。
「なんですか?これからあいつらのとこに行くのですが。」
「申し訳ありません。すぐに終わりますので。」
ナヴァロンは申し訳なさそうにレイドを引き止めた。
「あなたはグラスハートのことを知っていますよね?」
「まぁ…。戦ったことはありますが…。」
彼女の質問に渋々答えた。彼女はいつもと変わらない笑顔であり、何か企んでいそうであった。
「あなたにグラスハート討伐をお願いしたいのですが、どうですか?」
唖然とした。彼女は何を訳の分からないことを言っているのだ?そう言いたげだった。
はっきり言って事件とは全くの無関係である。
「それなら
レイドの言う通り、ほかの
わざわざ、ブランクのあるレイドに頼む必要がないのだ。
それでも彼女は引く姿勢を見せない。
一体何が目的なのかさっぱり分からない。
「ナヴァロンさん…。あんた何か企んでるのか?」
「あらあら、どうしてそう思うのですか?」
笑顔は絶やさなかった。ナヴァロンの笑顔には胡散臭さを感じるレイドであった。
いや、それは寧ろ昔からだったので今更な所もある。
「俺以外の
レイドからしてみればナヴァロン自身がキュリアス・グラスハートを迎え撃つ方が確実性がある。
彼にとっては不本意だが、ナヴァロンが本気を出すなら彼女の方が強い。
「ふふ。私も現役でありませんのであなたの方がよろしいかと…。」
「全く…《国崩し》の異名を持つあなたがよく言いますね。」
彼女のあまりの謙遜ぷりに思わず彼女のかつての異名を口にした。
異名からでもナヴァロンの恐ろしさが良くわかる。
「あらあら、うふふ。懐かしい呼び名を言いますね?」
「そりゃ、あんたの現役を見てるんで。美しい聖母のような笑顔で平然と国を滅ぼす
光に反射した彼女の
しかし一瞬で何事も無かったかのようにニコッと笑顔に変わった。
「ふふ。それは昔の話ですよ。それに私は片目の右目の視力が極度に低下してるのでまともには戦えませんよ?」
ナヴァロンの右目は
これは戦いによるものという訳では無い。いわゆる、代償と言うべきか。
彼女が
レイドはそのことについて知っている。だからこそ余計なことは言わないのだ。
「是非ともあなたにお願いしたいのです。この件、託せるのはあなたしかいない。」
真剣な眼差しでレイドを見つめた。
恐らくこの目には偽りはない。
ナヴァロンはレイドに身体を押し付けて上目遣いで見た。彼女の柔らかな二つの存在が服の上からでもはっきりと伝わってきた。
顔を赤らめながらも、平静を何とか保った。
少しため息をついて、ナヴァロンに頷いた。
「まぁ…。気が向いたら…。」
そう一言いった。そして、ナヴァロン校長に一礼をして二人しかいない職員室を出ていこうとしていたその時、彼女がレイドを呼び止めた。
「ふふ。そういえば、あなたも《代償》を払ったのでしょう?それも私よりも大きな…。」
「っっ!!」
ナヴァロンの一言に歩みを止めた。レイドの驚愕していた。
彼女の笑顔は恐ろしく感じた。まるで全てを見透かしているかのようであった。
「くれぐれも気をつけてくださいね…。あれは私たちには手に余る存在ですから。」
「もちろん…。」
レイドは彼女の忠告に対して呟くかのように返事をして去っていった。
◇◆◇◆◇◆◇
高級なヴランドール産の木材で作られたロングテーブルに長椅子と二脚の椅子が置かれ棚には様々な文献の本が収納されていた。
部屋は太陽の光が窓から差し込み、部屋全体が明るい雰囲気を出していた。
ここはレイドに与えられた職務室である。用途としては、
そんな部屋に女子が3人誰かを待つようにしていた。
「それにしても遅いわね…。」
「職員会議だそうですよ?」
窓から外の景色を覗き込むレクシィーにポットからお茶を注いで黄色のスポンジにイチゴと生クリームが乗ったショートケーキを食べようとしているエリザが答えた。
「しかし、ほかの先生達はもう授業や
大陸の歴史が書かれた歴史書を読んでいるリンが彼女たちの会話に割って入ってきた。
そんな時にタイミング良くドアが開いて、レイドがやってきた。
「遅いわよ。何やってたの?」
少し不機嫌そうな顔をしてレイドに尋ねた。
「悪いな。ちょっと他の生徒たちに捕まってた。」
「それはそれは、どーもご苦労様ですね?漆黒の竜騎士殿?」
言葉の一つ一つに棘のようなものを感じた。
レイドはなるべく彼女の顔を見ないようにそらしながらそう答えた。
何の関係もない彼女たちに本当のことを言えるわけもなかった。
これは自分自身の問題である。そう考えていたのだ。
「それよりお前ら。」
気を取り直し三人の顔を見た。
彼の言葉に反応するかのように、レクシィーとエリザ、リンの3人はレイドの方へと視線を向けた。
「王都の市街地に行くぞ!!」
声高らかに、右手の人差し指を掲げていた。三人は皆それぞれ、驚きの表情を見せていた。
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