漆黒の竜騎士

 漆黒のマスケット銃。更衣室で一瞬だけみせたほかの武器とは一線を超える存在感。

 アレクシアは竜騎士化フルアームドでありながらも、肌にピリピリと伝わってくるオーラ。


「ようやくお出ましのようね。まだ権能アビリティについては分からないところもあるけど…。関係ないわ。」


「まぁ、そんな大した力じゃないから。さて、こっからが本番だ。」


 レイドは己の竜撃銃をアレクシアに向けた。 そして彼女も攻撃に備えて己の

 竜撃銃ドラグーンマスケット ウェルシュ・ドライグを構えた。

 二人の間には静寂が流れた。両者とも相手の先手を待っていたのだ。


「…。」


「っ…。」


 その様子を観客たちは息を飲んで見守っていた。これまでの模擬戦にはないような異様な緊張感に包まれていたのだ。

 この静寂の中には様々な駆け引きがあっている。

 アレクシアは白く美しい肌に汗を流した。先手を打つべきか、はたまた相手の攻撃を待つのか。

 一方のレイドは涼し気な顔でアレクシアを見ていた。余裕たっぷりそうに見える。

 ここで動きを見せたのはレイドであった。


瞬動クイック。」


 先程みせた肉眼では捉えきれない高速移動をここで再び披露した。

 間合いとしては遠かったが徐々に詰めていった。


炎蛇ククルガン!!」


 右手のひらをフィールドの地面に当て地中から巨大な蛇を模した炎が三体、姿を現した。それらは蛇行し、アレクシアの方へと近づくレイドの行く手を阻んだ。


「やはり竜騎士化フルアームドは少し厄介だな。規模がケタ違いだ。」


 説明は遅くなるが、アレクシアの行った竜騎士化フルアームドとは、その銃に身を宿す竜を化身化させた鎧を全身にまとい、その能力を存分に引き出すものである。

 通常形態では、銃弾にしか能力は使えないが、竜騎士化フルアームドでは自在に操れるのだ。

 例えば、アレクシアであれば銃弾にのみ炎の力を使用していたものが、竜騎士化フルアームドによって銃を介しての権能の使用を必要とせず、そして権能アビリティの規模の大幅拡大が出来るのである。


「炎の蛇か?面白い。」


 3匹の炎蛇のそれぞれ独立した動きをしており、蛇特有の変幻自在の動きでレイドに猛攻撃を仕掛けてきた。


「よっと。ほっ。」


 常人ではかわしきれないであろう三体の炎蛇の攻撃を紙一重で退けている。

 それは視界に入らない背中側であろうと例外ではない。


「どうして使わないのかしら…。」


 レイドは竜撃銃ドラグーンマスケットを出しておきながら使う気配が全くなかった。

 何かしら考えがあるのか、気になっていたのだ。

 そんな中、レイドは上へと高く飛び上がり、炎蛇たちも同様に追撃した。三体は螺旋を描くようにして一撃を与えようとした。

 しかし、レイドは突然三体の方に向けて竜撃銃を向けた。


「喰らい尽くせ。財喰者マテリアルイーター!!」


 引き金を引き、打ち出された銃弾は闇を吹き出し、禍々しい黒いオーラを放つ化物へと変貌した。

 いうなれば、真っ黒な赤目の獅子と言うべきか。それは口を大きく開き、瞬く間に、三体の炎蛇ククルガンをその身へと呑み込んでいった。


「あれが、あの方の竜撃銃ドラグーンマスケットの力…なのですか?」


「そのようだな。やはりか…。あの力。噂通り。」


 観客席にて他の生徒達とは違い黙って戦いを見届けていた二人はその力を目の当たりにして圧倒されていた。


「知っているのですか?」


「あぁ、漆黒のマスケット銃の形。あれを持つ人間は一人しかいない。」


 黒い獅子の化物が炎蛇を喰らい呑み込んでいる姿を見ていた。


「くっ!!やっぱり攻撃がすべて通用しない!!だったら…。」


 ことごとく無効化される攻撃に打つ手なしかと思っていたが、何を思ったのか、アレクシアは地面に降り立ったレイドに逆に間合いを詰めて勝負をしかけてきた。


「お?ご自慢の権能アビリティを使わないのか?」


「えぇ。どうやらあなたには無意味だから、ここはあえてで勝負するのよ!!」


 翼を広げ、まるで獲物を狙う鷹の如き速さでレイドに剣で攻撃をしかけた。


「うっ!!」


 彼女を斬撃を同じく剣で受け止めるものの、やはり相手は竜騎士化フルアームド、対してこちらは生身、それは男女とはいえ関係がなくなってしまう。

 つまりは力の差はありすぎるのだ。

 当然、完全には受け止めきれず、吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。


 ドゴォーン!!


「ぐぅっ!!やっぱり生身じゃ限界か…。」

 あまりの衝撃に彼の体は壁にめり込んでいた。

 それほどまでに竜騎士化フルアームドの力は凄まじいのである。

 それに追い打ちをかけるように炎の斬撃を二度彼に向けて放った。


「また無効化されると思うけど、牽制くらいにはなるでしょ。」


 アレクシアは悟っていた。またどのみち、彼の竜撃銃ドラグーンマスケットの力で無効化されるだろう。

 しかし、それは考えとまるで違うことが起きたのだった。


「ぐはぁ!!!!!」


 レイドは己の竜撃銃ドラグーンマスケットを使うことなく、もろに攻撃を受けたのだった。

 これには観客たちも驚いていた。なぜあのタイミングで使わなかったのだろうか?

 皆揃って同じことを考えていたはずである。


「ハンデのつもり?わざと受けたのかしら?」


 驚きの表情をしつつも、レイドに尋ねた。


「そんな分けないだろ…?痛てぇのは嫌なんだよ…。」


 幸い模擬剣であるため切りかれることはなかったが、炎を浴びてシャツはいよいよボロボロの布切れのようになり、彼の逞しい身体が露になった。


(次の装填まであと20秒か…。)


 彼は右手にある竜撃銃を見ていた。なぜ使えないのか?それには理由があったのだ。


「仕方ありませんわね。レイドさんのもつ竜撃銃ドラグーンマスケットはいわゆる原型アーキタイプ。普通のものとはなものですから。」


 ナヴァロン校長は先程の一連の動き、そして彼がなぜ竜撃銃ドラグーンマスケットを使わなかったのか知っていた。


「いってぇな。もう少し手加減しろよ。」


「よく言うわね。逆に本気を出したら?私はこう見えても特待生だから。生身じゃ限界はくるわ。」


 めり込んでいた壁から離れた。そして二人は向きあい。レイドは不満を垂れ流していた。

 言った通り、アレクシアはオルタリアの特待生である。特待生と言うだけあり、その力は伊達じゃないのだ。

 ふとコロシアムの上のほうを見ると、時計の針が12を超えていたのだ。


「まずいな…。そろそろ終わらせないと、仕事も山ほど残ってるしな。」


 まだ彼は本来の仕事である清掃を手すら付けていないのだ。

 それはつまり無給を意味する。そんなことになれば、カルーシャやルルナに怒られてしまう。それだけではない。衣服もボロボロなため余計に怒られるてしまう。


「仕方ない…。本当はするつもりはなかったが…。」


「何をさっきからブツブツ言ってるの?今は戦いの最中よ!!」


 アレクシアは独り言を呟いているレイドに攻撃を行った。

 二、三発の炎弾を放った。不意打ちではあったものの、レイドは2つを避け、もう一発は剣で薙ぎ払った。

 そして彼は竜撃銃ドラグーンマスケットを空に掲げて先程のアレクシアと似たようなポーズになった。



「――彼の地に究極の闇をもたらす竜よ。汝、我に逆らう全てを無へと葬れ。そして生けるもの全て永劫の奈落へと沈めろ――

 ’’バハムート’’!!」



 放たれ銃弾は形を大きく変え、巨大な漆黒の翼、鱗をもち、見るものをを圧倒するオーラ。それこそ彼の竜撃銃の本来の姿でもあった。


「生では初めて見る…。これがあの竜撃銃ドラグーンマスケット バハムート…。」


「す、すごい…。」


 二人はレイドの竜撃銃ドラグーンマスケットである’’バハムート’’に見惚れるようにして、息をするのも忘れるほど見ていた。


「’’バハムート’’って…。あなたもしかして…漆黒の竜騎士?」


「そう言えば…昔そんな名前で呼ばれてたな。」


 漆黒の竜は怒号を振りまき、レイド周りを飛び回って、やがて黒い闇に変化し、彼の身体を包み込んだ。


「ふふふ。ようやくお出ましね。いつぶりかしら?あなたのその姿を見るのは?」


 ナヴァロン校長は片眼鏡をかけ直し、レイドのその姿を見てたいそう嬉しげな笑みを浮かべていた。


「そのようじゃのう。わしもあやつのあの姿を見るのは久しいわ。」


 突然ナヴァロン校長のいる特別観覧席に旋風つむじかぜがおこり、背の小さなゴスロリの服に身を包んだ無垢な少女が現れた。


「あらあら?これはこれは…お久しぶりですね。マグナ・カルタ様。」


「よっ。ナーヴァロン?元気じゃったか?」


「もちろん。それより突然どうしましたか?」


から噂をきいてのう。面白そうだからきてみたのじゃ。」


 マグナ・カルタはそう言うと身を乗り上げて、二人の戦いを面白そうに眺めていた。

 レイドを包んだ黒い闇が消え去ると、彼の身体はバハムートを表現した漆黒の甲冑に黒く大きな竜の翼が出ていた。

 その姿はまさに’’漆黒’’そのものだった。

 そして何より特徴はその禍々しいオーラであった。それは触れれば気が狂いそうである。


「さぁ、終わりの時間だ…。」


 剣を地面に突き刺し、自由になった左手でアレクシアを指差した。

 頭鎧ヘルムから見える赤い眼光はまた人に恐怖を与えるようなものであった。

 アレクシアは無意識のうちに身体を震わせていた。それは人間、いや動物なら必ずある防衛本能である。

 身体は、この人間とは戦うなそう警告を発しているのだ。


「何よ…。反則じゃない…。」


 思わずそう呟いた。これが実力の差というものである。


「でも…。私は負けない。《あいつ》を倒すまでは!!」


 アレクシアは震える身体に鞭を打ちながら、攻撃をしかけた。


「焔竜の行手グランドファイア!!」


 炎を纏う剣を地面に突き刺し、その炎は大きくなり、炎の津波のように形を変えていった。

 しかし、先程とは違い観客までも巻き込みそうな程の規模であった。

 流石に危険だと感じた観客たちは慌てて安全な上段の方まで避難をした。


財喰者マテリアルイーター。」


 レイドは先程の攻撃で使用した漆黒の獅子を生み出した。

 すると漆黒の獅子は焔竜の行手グランドファイアに向かっていき、口を大きく開けた。

 財喰者マテリアルイーターは炎をまるで動物の肉を食いちぎるように、噛みつき食していった。

 大きな津波のような炎は徐々に小さくなり、跡形もなく消えた。

 炎が消えると、それも同様に消失していった。


「絶対に負けない!!」


 彼女は果敢に攻めにかかった。接近戦で一気に肩をつけようとしたのだろう。

 炎を纏わせた剣をレイドに振り下ろした。


 ガキン!!ガキン!!


 彼女の剣捌きに感心しつつ、剣にて応戦をした。剣をバカにしていた割にはしっかりと鍛錬されていた。



「そんなに負けてくないのか?俺に?」


「えぇ!!あなただけじゃないわ!私から全てを奪った…《あいつ》を殺すまでは!!」


 彼女の言葉には激しい憎悪が混じっていた。凄まじい猛攻にレイド自身も驚いていた。そして、彼女の向ける復讐の姿を、あの時の自分と重ねていた。


「復讐なんてよせ。何も得ることは無い。」


「あなたに何が分かるっていうのよ!!大切なものを全てを失った気持ちを!?」


 一撃一撃に彼女の思いのようなものが込められていた。その力を少し押されていた。


「これで終わりよ。――我が願いに応え、汝の力、顕現せよ――!! 覇皇なる竜の焔ディアボロス・ブレア!!」


 天高く突き上げたウェルシュ・ドライグに赤い波動が現れた。

 そして彼女の背後には赤い竜が顕現し、彼女が銃口をレイドに向けると放つと彼に向かっていった。

 彼女の放った銃弾に憑依して、炎を纏った赤竜がレイドを射抜かんばかりのスピードでやってきた。


「ここに来て、絶技ロイヤルアーツか…大したものだ。でも勝負あったな…。」


 絶技をうちはなったあとのアレクシアは息切れして、もう立っているのかやっとな状態であった。


「よくやったよ。これで終わりだな。」


 彼の足元からは黒い禍々しい闇があふれ出ていた。それはどんどん広がっていき、フィールド全体にまでなった。

 そしてアレクシアの放った絶技はあとすこしのところでレイドの作り出した闇の壁にあたりズブズブとその中へ引き込まれていた。


暗黒の幻想ダークネス・ファンタズム…。」


 今度は彼女の足元が底なし沼のようにどんどん沈んでいき、闇の中へと引きずり込まれようとしていた。


「な、なにこれ!!?いや、いやぁ!!!」


 もがくものの、さらに彼女はもはや体力もなく足掻く力も残されていなかった。そして、闇は彼女を覆っていた。

 観客たちは呆然としていた。何が起こったのか分からない者達が多いだろう。

 彼女は闇に引きずり込まれたあとどうなったのか。誰もわからない状況であった。



「さて、ころあいか…。幻想解放リベンレイション・ファンタズム!!」



 レイドがそう言葉を放ったその瞬間、爆発による衝撃波のようなものが起きた。

 黒い闇がまるで煙のようにモクモクと立ち込めていた。

 そしてその中からは竜騎士化フルアームドを解かれて、気絶した姿のアレクシアが飛んできた。

 竜騎士化フルアームドを解除してたレイドは彼女をお姫様抱っこのようにしてキャッチしたレイドは眠っている顔を見て、微かに笑っていた。


「少し本気を出しすぎたな…。ごめんな。」


 ようやくフィールドへ戻ってきた審判員はその光景を見て判断をした。


「勝者…レイド!!」


「はっはっはっ!!やりおったわい!!まさか模擬戦ごときであれをつかうとは…。」


 マグナ・カルタはレイドのあの技を見てたいそう愉快に笑っていた。


「やっぱり、このままでは勿体無い逸材ですね。そう思いませんか?マグナ・カルタ様?」


 ナヴァロン校長はレイドの底知れない強さを知っていた。だからこそ、その強さを惜しんでいたのである。

 まだまだやれる彼を上手く使えるか考えていたのだ。


「何か企んでるな?ナヴァロン?」


 彼女の笑顔に何か裏があると考えたマグナ・カルタはニヤけていた。


「ふふ。どうでしょう?」


 特に何も言わずに笑顔を見せていた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆



「お疲れ様でした。レイドさん。ふふふ。」


 模擬戦を終えて、校長室へと呼ばれたレイドは服を借りたのだが、なんせここは女子校。

 つまり女性用のものしかないわけで…。


「なぁナヴァロンさん。服を貸してくれたのはありがたい…。だけどな…。はないだろ!!?」


 貸し出された服というのは貴族に使えるメイドの着る衣装であった。黒を基調としたメイド服であるが、割とレイドに似合っていた。

 そしてまたミニスカートというのが笑える。


「可愛らしいですよ?ねぇ?メリア?」


「滑稽ですね。」


 ナヴァロン校長は椅子に座り自分の机の近くに凛として立っている先程の審判員の女性に反応を求めた。

 彼女は、一切表情を変えずただ一言告げた。


「絶対にバカにしてるな?くっそ…。」


 辱めを受けていることに悔しさを感じていた。


「それはさておき、レイドさん。あなたここで教員として働いてみませんか?」


 ナヴァロン校長は相変わらず笑顔で驚く内容を告げた。


「それって冗談ですよね?」


「いいえ。本気ですよ。もちろん毎日とは言いません。臨時講師という形でどうですか?」


 レイドは唖然としていた。それはあまりにま も急すぎて理解が追いつかなかった。

(おいおい、何考えてんだこの人?俺が講師だって?)


「まぁ、もし受けてくださらないのなら…。王国政府側にあなたを引渡します。」


 今までとは違い真剣な表情に変わったナヴァロン校長を見てレイドも真剣にならざる得なかった。


「抵抗するなら?」


「用心深いあなたが、戦いを挑むとは思えませんが?」


 真剣な顔からまたいつもと同じ聖母のような笑顔へと変わった。しかしこの笑顔がある意味威圧感のようなものを放っていた。


「まぁ、あんたとまともに戦って、無事でいられる程俺は運が良くない。不本意だが受けるか…。」


「ふふ。賢明な判断ありがとうございます。それでは早速明日からお願いしますね?」



「あー、はいはい。そろそろ帰らしてもらっていいですか?」


 レイドは早く帰らなければならない用事があった。それは簡潔に言えば、ルルナに怒られるからである。

 時間に厳しいルルナであるため、少し遅れれば大目玉を食らうのだ。


「えぇ、明日改めて説明などはしますのでどうぞ?」


 ドアノブに手をかけて出ていこうとした時、ふとあることを思い出した。


「そう言えば…。あの模擬戦。やけにルールが緩かったけど。あんたの仕業か?ナヴァロンさん?」


「ふふふ。さぁ?どうでしょう?」


 しらを切っていた。模擬戦にしてはあまりにも規模が大きく危険な戦いだったが、それを仕組んでいたのは紛れもない彼女だろう。

 薄々そう感じていたのだ。


「食えない人だ。じゃあまた明日。」


「えぇ、よろしくお願いします。」


 そう言って校長室を後にしていった。

 レイドが去っていたあとメリアとナヴァロン校長だけが残っていた。


「校長。大丈夫なのですか?あの男を講師など…。」


 メリアは眼鏡をかけ直して尋ねた。


「大丈夫ですよ。彼の実力は申し分ありません。きっと生徒たちを立派に育てて下さいます。」


 そう確信しているナヴァロン校長は棚に飾ってあるひとつの写真たてを見ていた。

 白黒の写真にはナヴァロン校長らしき人物の他にレイドも写っていた。

 彼らの制服の胸についている竜の勲章から全員竜騎士ドラグーンであることが分かる。


「しかし、あの男…

 レイド・バーンシュタインはを…。」


「《あれは》彼が責められるものではありません。全てはの王国政府に問題があるのよ…。」


 ナヴァロン校長はメリアの言葉に少しばかり口調が強くなっていた。それは、まるで彼を擁護するようなものであった。


「すみません…。知ったようなことを言ってしまい…。」


「いいのですよ。私もムキになりすぎました。」


 ナヴァロン校長は自分の言動を反省していた。彼女はレイドについて何かしらを知っているようであった。

 しかしなぜ急にレイドを講師として雇うとしたのかその真意はまだ不明であったのだった…。






「レイドさん…?それ…どうしたんですか…?」


「いや、これはその…。色々とわけが。」


 家に帰ってきて早々レイドはメイド服姿で家の床に正座させられていた。

 そしてその目の前には怖い笑顔のルルナと若干引き気味のリュカがいた。


「どんな理由があったらメイド服になるですか?教えて貰ってもよろしいですか?」


「レイド兄様、変態さんだね〜。」


「やめろ…そんな目で見ないでくれ…。俺だって好きでこんな格好してるんじゃない!!」


 彼女たちからの冷ややかで蔑むような目にダメージを食らっていた。自分自身が惨めにもなってくるのだ。


「ふふ。そうだ。今日はレイドさんがメイドとして私たちに奉仕してくださるのね?そうですよね?」


「そうなの!?レイド兄様!?」


 ルルナは悪魔のような微笑みでとんでもないことを口走った。なんて恐ろしい女性なのだろうか。

 そしてそんな彼女の言葉に同調するのが妹のリュカである。


「そんなわけないだろ!!お、おい?なんだよ?二人とも近づいてきて…。あ、あっあっあぁぁぁ!!!!」


 二人の可愛らしい女性の皮を被った悪魔たちはミニスカメイド姿のレイドをたっぷりとその手で汚していくのであった。(性的ではないが)



 ◇◆◇◆◇◆◇◆


 一方、模擬戦に敗れたアレクシアは寮の自分の部屋のベッドで顔を埋めて落ち込んでいた。よほど負けたのが悔しいからであろうか。


「レクシィーさん。そんな落ち込まないで?」


 そんな彼女をみかねたルームメイトの少女がアレクシアを励ましていた。

 先程コロシアムの女子生徒集団と少し離れていたところに座っていた二人のうちの一人である。


「そうだぞ。負ける方が学ぶことは多いぞ?」


 机に座って勉強していた彼女もまた二人のうちのもう一人であった。

 彼女たちから励ましの言葉を言われていてもアレクシアはいじけていた。


「大体何よ…。あいつ本当は漆黒の竜騎士のレイド・バーンシュタインだったのでしょ?なんであんなところいるのよ…。ねぇ?エリザ?」


「あの方は、二年ほど前から消息不明でしたよね?たしかトロイア殲滅戦が終わったあとくらいでしたよねリンさん?」


 エリザの言うトロイア殲滅戦とは二年ほど前に起きた当時ヴランドール王国の自治国であったトロイア公国が独立による反乱によって起きた戦争である。

 結果は、ヴランドール王国の圧勝であり、トロイア公国は虐殺や破壊により見る影もない更地になったのだ。



「あぁ、それにしても《三銃士》の一人で漆黒の竜騎士と謳われたあのレイド・バーンシュタインを、生で見るのははじめてだな。」


 そして、アレクシアのもう一人の友達のリンは漆黒の竜騎士の異名を持つレイド・バーンシュタインを見ることが出来たことに感激していた。

 ちなみに三銃士トライデントとは、前線にて活躍する極めて強く優秀な三人の竜騎士ドラグーンをさす称号であるのだ。

 レイドは三銃士トライデントの一人でもあるのだ。いや、あったのだ…。



「悔しい…。今度は絶対に勝つ!!でも今度いつ会えるんだろう…。」


 強く意気込んでいたアレクシアだが、彼はバイトの身。次いつ来るか分からないのだ。

 少し困っている表情をしていたが、リンは噂で聞いていたことを口にした。


「そう言えば…あのレイド・バーンシュタインがここの臨時講師になるなんて噂を聞いたぞ。」


「えぇ!!?それ本当!?リン!?」


 リンの言葉に驚きが隠せなかった。まさかレイドがここで働くなど、目が飛び出るほどのものである。

 もちろんエリザもその事に驚いていた。嬉しそうなアレクシアに声をかけた。


「良かったじゃないですか。また勝負できますよ?」


「うん!!それに折角なら漆黒の竜騎士に色々と習いたいわね!!」


 彼女の表情にリンも満足していた。気を良くしたアレクシアは旅行に行くのを楽しみにしている子供のような表情でベッドをゴロゴロと転がるのであった…。





 王立女子士官学校 ’’オルタリア’’に臨時講師として招かれたレイド、そして立派な一人前の竜騎士ドラグーンを目指す彼女たちの物語が始まるのであった。



























































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