赤竜との決闘
コロシアムには暇な生徒達がぞくぞくと観客席に座っていた。
まるで見世物ようであった。いや、決して間違ってはいなかった。こんなもの見世物と言うよりもみせしめみたいなものだろう。
彼女たちは、今か今かと戦いが始まるのを待っていた。
「あなたの実力見極めさせて貰うわ。」
「御手柔らかに頼むよ…。」
両者は互いを見つめあって言葉をかわした。
レイドは借物を剣を腰にぶら下げていた。一方のローゼンハイムは剣と銃を両方とも持っていた。
彼女の
(見たことない竜撃銃だな…。新型か?)
ローゼンハイムのもつ竜撃銃が気になっていた。
リボルバータイプなどは既に普及しているため珍しくはないが、見かけたことがなかったのだ。
兎にも角にも、銃と剣による攻防戦これが
彼らに割って入るように審判を務める少したれ目の眼鏡をかけた胸の大きな女性の先生が立っていた。
「両者とも、今回使うのは模擬剣、そして
ローゼンハイムは殺気を放っており、完全にやる気満々である。
これを見る限り御手柔らかにやってくれそうにはない。
いよいよレイドは腹を括った。
「あら?どうしてあの
レイドは先程の黒のマスケット銃を持たずに少し古ぼけた剣のみを持っていた。
そのことに驚いた彼女は嘲笑うかのように尋ねた。
「おいおい、剣をばかにするなよ。それにナマクラどうかはお前が決めることではないぞ?」
「それって
彼女は自分の攻撃に絶対的な自信を持っている。レイドはそう感じていた。
もちろん先程の件で銃の腕前は分かっている。後は彼女の本来の実力がどれほどのものかということだ。
「両者とも準備はよろしいですか?」
「おう。いいぜ。」
「いいわ。」
審判の問いかけに二人はほぼ同時に返事をした。
そして互いに見合っている。
「ローゼンハイムさん!!あの覗き魔を蹴散らしてください!!」
「そうですそうです!!やってしまってください!!」
コロシアムの観客席からは先程の尋問を受けていた女子生徒たちが彼女に向けてエールを送っていた。
観客の声がコロシアムに響く中、二人はそれを全く意に返さず、むしろいないものとして見ていた。
「それでは、オルタリア二年生 アレクシア・ローゼンハイム対 清掃のアルバイト及び覗き魔 レイドの試合をはじめます。
審判の先生が掲げた右腕を振り下ろした。
「ちょっとまて!何が覗き魔だ!?違うって言ってるだろ!?」
審判の人物紹介に納得いかず、思わず文句をいった。しかしその一瞬の隙を見逃すことはなかった。
ローゼンハイム(以下アレクシア)は右手持っていた竜撃銃をレイドに向けて構えて
「燃やし尽くしなさい。
’’ウェルシュ・ドライグ’’!!」
引き金を引いた。
放たれた弾丸は赤黒く燃える灼熱の炎を纏っており、激しい火花を立てて真っ直ぐにレイドに向かっている。
隙をつかれたかと思っていたが、すぐさま反応をして弾が来るまでの間冷静に分析をしていた。
「’’イフリート’’に似ているな。あれの下位互換か?」
更衣室のときのようにひらりと風に舞う紙のようにかわした。
だが同じことをされて学習しないアレクシアではない。
今度は銃を空高くに掲げ二、三発撃った。
空高くに舞い上がった銃弾たちは炎を纏っており、互いにぶつかり合い火花をたて融合していき、やがて大きなひとつの火の弾に変わった。
「勝負ありましたね。ローゼンハイムさんの
客席の女子は自分のことでもないにもかかわらず、自慢げな顔をしていた。
「あれって殺傷力ある技じゃないんですかね…?」
後ろの方で熱狂的な女子生徒たたちに隠れたところにプラチナブロンドの髪の目元に黒子のある女子生徒がいた。
彼女はアレクシアのその技について率直な感想を述べていた。
「まぁ、いいんじゃないか?覗き魔への成敗を込めてだろう?」
隣にいた群青色の髪をポニーテールにしたキリッと目つきの女子生徒は彼女の言葉を聞いてもあまり気には止めていなかった。
「おいおい!!これって明らかに殺傷力あるだろ!?」
そんなことを言っているレイドの頭上には先程のひとつの大きな火の玉が分裂し、無数の火の弾となり、まるで雨の如く飛来してきた。
恐らくかわしてもどれかにはあたる。
つまり、逃げ場はない。そういうことを意味していた。
「どうしたの覗き魔?お得意の回避能力で避けてみなさいよ。」
自信ありげの顔をしていた。
「こうなったら…。」
レイドは剣を構えてあえて、その場から動かずに飛来してくる火の玉を待ち構えていた。
まさか、その少々使い古された剣で止める気なのか。
「あの覗き魔、あの剣1本で止める気!?無理よ!」
アレクシアは予想外の彼の行動に少々戸惑っていた。
彼女としては、先程の黒の
「あなた、早く
「おいおい、
彼女から催促されるものの、かなり出すを渋っていた。
決して彼の言っていることがわからない訳では無いが、上空には無数の火の弾が落ちてきている。
剣で対応するなど現実味がないのだ。
「見てろ。剣1本でも十分に戦えるんだよ。」
レイドは彼女に自分の戦うさまを見るようにいった。
そして彼の元に火の弾が轟音をあげ燃えさかりつつ落ちてきていた。
観客の誰もが、アレクシアの勝利を確信していた。
その時、彼女たちの前には目を疑うような光景が広がっていた。
コロシアムのフィールド内には先程の火の弾が火山の中間付近に存在する石ころのように、ゴロゴロと転がっていた。
だが、ある一定の場所だけはひとつたりとも火の弾は落ちていなかった。
かわりにその付近には真っ二つにわれた火の弾の残骸だけがあったのだった。
「うそ…。まさか私の
その光景に思わず目を大きく見開き唖然としていた。
なぜなら、彼女の目線の先には、無傷で涼しい顔をしたレイドの姿があったからだ。
「どうだ?剣で十分だっただろ?」
ニコッと笑って見せた。当然アレクシアだけがおどいていた訳では無い。
観客たちも目を点にしており開いた口が塞がらない状態であった。
「あの覗き魔…一体何者なの…?」
「ローゼンハイムさんが勝ったと思ったのに…。これって…。」
信じられなくて当たり前である。彼女たちから見ればレイドはただの変態覗き魔としてしか見ていなかったからである。
このような離れ業を出来るとは思わないだろう。
「あらあら。相変わらず、素晴らしい剣さばきですね。まだまだ鈍ってはなさそうですね。レイドさん?」
観客席とはまた違う、特別観覧席にてこの学校の校長 ナヴァロンが模擬戦を愉快に観戦していた。
唖然としていたアレクシアにレイドはひとつこう述べた。
「竜騎士だからって言って、剣を疎かにするといつか痛い目を見るぞ?わかったか?」
レイドは少し砂埃のついたシャツを手で払ってひとつ教授をしていた。
もっぱら剣をまともに扱わなくなってきた
「ふふ。ふふふふ。やってくれるじゃない?そうかなくちゃ面白くないものね?」
アレクシアは突然笑い始めた。
自分の自慢の技を破られた滑稽さに笑っているのか、変態如きに竜騎士としての在り方を教授されたことに笑っているのかよく分からない。
「私も本気をだすわ。それならあなたも少しは顔色かえるでしょうね?」
「どういうことだ?負け惜しみか何かか?」
「いいえ。あなたも薄々気づいているでしょ?」
一体彼女は何をするつもりなのだろうか。本気というのは一体何を指しているのか。
アレクシアは再び竜撃銃を空へと掲げた。
まさかもう一度、
しかし、どこか違っていた。
「――覇道を極めし
’’ウェルシュ・ドライグ’’!!」
彼女は竜撃銃の引き金を引いた。青空へと放たれた銃弾は赤く光、そして形が徐々に変形していく。
「まさか…。」
レイドは気づいた。今から何が起ころうというのかを。
それは観客たちも同様である。
銃弾は形を大きく変え、人など遥かに超えた巨大な赤い竜の姿へと変わった。
それは大きく翼を広げはばたき唸り声をあげていた。
「さぁ、始めるわよ’’ドライグ’’。」
彼女の呼びかけに反応し、彼女のもとへと円を描きながら飛来し、赤い光へと変化しアレクシアを包んだ。
「おいおい、模擬戦如きで
その光景にレイドは唖然としていた。紅の装甲に翼、まさに竜を現した姫騎士のその甲冑。
彼女の顔は、鎧に包まれており、表情も見えなかった。
「審判!!これはありなのかよ?」
危なくないところで待機している審判の教員に尋ねた。
「えぇ、殺傷力のある技が禁止なだけであり、
表情を変えずに眼鏡をクイッと掛け直した。
その返答に少し呆れつつも納得せざる得なかったレイドである。
実際にいえば
「燃え上がれ、
パチン!!
しかし何も変化は起こらなかった。レイドはどんなにすごい技が来るのかと考えていたため、呆気に取られていたがその数秒後、それは起きた。
ドォゴーン!!!!
突如地面から巨大なまるで火山が大噴火でも起こしたような火柱が燃えがあった。
それは運悪く、レイドの立っていた真下で起こり、その不意さに完璧に回避することはできなかった。
「ぬぁぁ!?」
消し炭になるよりも先に脱出出来たおかげで、衣服が多少燃え尽きた程度ですんでいた。
「おいおい!?正気か!?死ぬぞ!!」
「なら、あなたも力を使ったら?」
もはやこれは模擬戦などではない。まさに死闘である。
彼女は完全にレイドを殺りにきている。それは冗談のようなものなのかは分からないが、レイドの無残な衣服が物語っていた。
「やべぇ…。帰ったらルルカに怒られる…。こんなに服ボロボロにしちまったし…。」
「何をぶつぶつ言ってるの。そんな暇なんてないわよ!!」
またしても、指を鳴らし先程の
それをかわすもその場所に次なる
まさにアレクシアは鬼であった。
よければよけるほど地獄は続いていく。紙一重でかわしていくうちに、衣服は焦げ付き始めていた。
「まだまだよ。
剣に炎を纏わせ、そしてそれを何度も振った。
それはまさに飛ぶ炎の斬撃。剣にて受け止めようとするものの、実体が無いためそれは受け止めることはできず、モロにくらうのだった。
「あっちぃ!!?あっちぃぃ!!」
衣服に燃え広がる前に、地面に擦り付けて何とか、消化した。火柱に火の斬撃。まさにかわすことが精一杯であり、くらうものもあった。
「仕方ない…。
ここに来て、防戦一方と思われていたレイドであるが動きを見せてきた。
剣を構えると、およそ人の肉眼では見ることのできない速さで移動した。
まるで瞬間移動の如きその技。観客たちは思わず感嘆の声が出ていた。
「あらあら。少し本気になっちゃったかしら?」
彼の動きにナヴァロン校長は相変わらず笑顔でその様子を見守っていた。
「な、なんなの?全く見えない…。」
アレクシアは技を繰り出していくものの、レイドの動きに全くついていけず、当たることはなかった。
そして、レイドはその速さで一気に詰め寄り、剣を振り下ろした。
ガキン!!
慌てて彼女は手元の剣で受け止めた。
「くっ!!まさか
「舐めるなよ。お前とは経験もくぐってきた修羅場の数も違うんだよ。」
幾度も鍔迫り合い。それは一見互角に見えているようだが、実際アレクシアは押されていた。鍔迫り合いも、ぎりぎりで受けている状態であるのだ。
「こんな覗き魔に負けてたまるかぁ!!」
彼女は己の剣に焔を纏わせた。
そしてひと振り。レイドの猛追を牽制させた。息ひとつ切らしてなく涼し気な顔でレイドは立っていた。
彼女としては悔しかった。自分の全力を使っているにも関わらず、ことごとくかわされる。
彼女はこんなところで、負けるわけにはいかないのだ。
「地を焦がせ。
レイドとの距離をとり、焔を纏った剣を地面に突きつけた。
焔は地面を伝い、コロシアムのフィールド内に広がり、レイドの元へと、逃げ場を塞ぐように放たれた。
まるで焔の津波のようである。逃げようにも迫ってきており逃げ場はなかった。
流石に審判の教員も慌てて、フィールド内から離れ避難した。
「流石に逃げるのは無理か…。仕方ない…。」
目の前にはもう焔の津波がすぐそこまで迫っている。
逃げ場がない絶体絶命なことを悟ったレイドは、あまり気乗りしていないが、あの力を使う決心をした。
「呑み込め。
右手を前に出し、先程のように黒い闇の壁のようなもの生み出した。
やがて、彼女の
観客たちは勝負が決したと思っていた。
あのような小さな壁では防ぎきれるわけがない。そう思っていた。
だが、結果はそうではなかった。
「ウソ…!?」
アレクシアの渾身の技はレイドの作り出した闇の壁にみるみるうちに吸い込まれていった。
まるで闇に喰われていかのようでもあった。
「これを俺に二度も使わせるなんて、大したんもんだ。」
炎を全て闇の中へと呑み込んだあと、呆然としているアレクシアを褒めた。
彼のの手には漆黒のマスケット銃。これがレイドのもつ力の正体でもある。
「アレクシア…だったか?お前に敬意を評して、俺も
「な、何が起きたの!?今、炎が吸い込まれていったけど!?」
「あの覗き魔何者なの!?」
「手に
観客の女子生徒たちはこの一連の出来事に心底驚いていた。彼女たち自身はアレクシアの強さをわかっているはずだ。
それにも関わらず、あの覗き魔はことごとく防ぎ、圧倒していた。
「あの方は一体何者なのでしょうか?」
「漆黒の
プラチナブロンドの髪の少女、そして群青色のポニーテールの少女は共にレイドについて気になっていた。
漆黒の竜撃銃に恐ろしいまでの回避能力など、只者ではない。
誰もが目を離せない状況となっていた。
「ふふふ。そろそろお出ましかしら…。漆黒の竜騎士?」
特別観覧席の高級な椅子に座るナヴァロン校長の笑みは、これまでのものとは違い不敵な笑みを浮かべ、レイドの姿を楽しそうに眺めていたのだった…。
――ヴランドール王国にはこのような逸話がある。
たった一人で王国に反旗を翻した国を跡形もなく消しさった人物がいる。漆黒の竜を現した甲冑。黒くおぞましい翼。
そしてそれら同様の漆黒の
――漆黒の竜騎士――
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