〈4〉それでいい、こと 1
日曜日はハレの日に相応しく、すっきりとした晴天になった。
この数日続いていた冷え込みが申し合わせたように落ち着き、穏やかな日差しが夫婦となった二人の未来を照らしているようで――そんなめでたい様子が結婚式の参列者たちから伝わり、二次会のパーティー会場は主役が登場する前から大いに賑やかだった。
ユズキは受付を済ませ、クローク代わりの控え室に入った。
ここのところずっと鉛のように重かった頭は今、パーティー用のハーフアップにまとめられ、細かな花をモチーフにしたバレッタが彩っている。
頭の中から出て行った悩みはというと、真新しいドレスという物体になってユズキの体を包んでいるのだ。
(そのドレスどうしたの、とか、何でそんな色にしたの、とか、言われるかな……)
頭の中に長年棲みついて決断力をかじり尽くしてきた、ユズキの顔をしたたくさんの心配の虫は、そう簡単にいなくなるものではなかった。
それでも、ユズキは揺るがなかった。
それは、昨日ようやく見つけた、彼らを……自分を納得させる「答え」をしっかりと心に抱いて放さなかったからだ。
そして、揺るがないことが、彼女の唯一の変化だった。
(大丈夫。もし笑われても……わたしは構わない、後悔しない!)
ユズキは部屋の隅にそっと荷物を置くと、大袈裟に背筋をグッと伸ばし、早足で会場に滑り込んだ。
運が良いのか悪いのか、ドアの真正面では職場の先輩や同僚たちが集まっており、グラスを手に大いに盛り上がっていた。
めざとくユズキを認めた同チームの先輩が、大声で手招きをする。
「あ、ユズキさん! 飲み物向こうのカウンターだよ、早くもらってこっち来なよ~!」
「あ、ありがとうございます!」
ユズキが慌ててジンジャーエールを手にして戻ると、結婚式から参列していた職場の上司が、得意げにスピーチの再現をしてみせているところだった。
頷いたり、つまらないギャグで笑ったりしながら、ユズキは少し拍子抜けしていた。
(わたし、気にしすぎだったのかな……)
ぼんやりとグラスに口を付け、辛口のジンジャーエールにむせそうになった瞬間、びっくりするほどの大音量でファンファーレが鳴り響いた。
扉が勢いよく開き、純白のドレスに身を包んだレイ先輩と、引き締まったタキシードを着こなした新郎が現れ、深々とお辞儀をした。
割れるような拍手と口笛が二人を出迎えた。
ユズキも掌が痛くなるほど力いっぱい拍手をしながら、手に手にクラッカーを携えて飛び出そうとする新郎の友人らしき人たちにもみくちゃにされていた。
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