〈1〉決めなきゃならない、こと 4
「あ、当たり障りのない言葉って、便利ですよね? 服装には、そういうのないじゃないですか……わたし、どうしても」
「当たり障りが多少ある服着てたって、誰も死なない! これで解決しない?」
名言でも吐いたかのように自信あり気に言い放った占い師を傷つけないよう、ユズキは答えを探った。
「そ、それは……」
「どこぞのアーティストみたいにブッ飛んだカッコで全世界のテレビに出る訳じゃなし。ほんの何人かの目に、ちょっと留まるくらいじゃん?」
「その『ちょっと』が困るんです! わたし目立ちたくないんで……」
ユズキの言葉が終わらぬうちに、占い師が言葉を浴びせてくる。
沈黙が挟まり、ユズキがまた口を開く。
もやもやとした問答を続けながら、ユズキは遅まきながら運が悪かったと痛感した。
自らが相当目立っていることにすらおそらく気づかないタイプであろうこの占い師に、一番理解できない悩みを持ち込んでしまったようだ。
「結局……ふさわしくない格好をして行ったって別にいいじゃないか、ってことですか?」
「ん、結婚パーティーに?」
「結婚パーティーに着ていくドレスの話、ですけど……!」
切実を通り越して絶望感を隠せなくなったユズキの視線は、しかし、占い師の分厚い面の皮を貫けなかった。
「でもさぁ、残念ながら僕ぁファッション・コーディネーターじゃないし、ここは自己啓発セミナーでもない」
「え、でも、看板に悩み解決って……」
「君が透明人間にでもなれれば、スッキリ解決するかもね」
机に肩肘をつき、手の甲に顎を乗せ、イタズラっぽさを浮かべた黒い瞳でユズキを見つめると、占い師はおどけた調子で続けた。
「さて、君の悩みを解決するかもしれない僕は『何』で、ここは『どこ』でしょうか」
ユズキが吸い込んだ息は、またしても数瞬出口を失った。
「え、あの、あなたは占い師さん……で、ここは北駅……いや、朝日町の2丁目……4丁目だっけ……?」
電柱かネオン瞬く看板にでも番地が書いていなかったかと見回すユズキを気にもとめず、男は喜んだように声を上ずらせた。
「その通り! 僕は占い師、そしてここは僕が占いをするところだ。だから、占ってあげよう」
よしよし、と一人大仰に頷いて、勢いよく上半身をひねる。
そして背後の小さなアンティーク調の棚の引き出しから、見たことのない絵柄のカード一組、名刺大の紙と小さな封筒と鉛筆をひょいひょいと摘み出した。
引き出しを押し込む反動でくるりと向き直ると、トランプより一回りほど大きいカードをサラサラと広げ、一枚ずつ左から右へと送っていく。
固唾をのんで見守るユズキが拍子抜けしたことに、占い師は特に表情も変えず最後の一枚まで見終わってしまうと、カードをトントンと揃えて机の上にポンと無造作に放った。
勢いで山の上の方がずれて崩れかけたが、それに気づいてもいない。
ユズキは、あれはタロットだろうか、と思った。
それにしても、ちらりと見えた絵柄はよくある「魔術師」や「星」や「運命の輪」が描かれたものとは明らかに違っていた。それに、こんな占い方は聞いたことがない。
(やっぱり……申し訳ないけど、インチキなのかなぁ……)
絶対に口にも表情にも出すまい、とは思いつつ、どう見ても占い師の言動は怪しかった。
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