第2話 殺戮ロボット

不気味な音に誘われ、その場所へ向かった僕は、今まで見てきたどんなロボットよりも、いやどんなものよりも醜悪でおぞましいロボットと出会った。人の何倍もあるその巨体でそこそこ大きい幅のはずの広場に陣取り、赤黒いものを撒き散らしていた。

アームには返り血がつき、その手には、人間だったものが握られている。先の悲鳴は、この人のものだったか。頭で理解するよりも先に本能で理解する。僕が姿を晒したが最後、アレと同じように、肉塊にされるだろう。

僕は物陰に身を隠しながら、辺りの様子を探ってみる。広場のようなところに、たくさんの通路が繋がっている。その通路の一つになにやら長蛇の列が出来ているようだ。

その前の方で人間と同じくらいの大きさのロボットが抵抗する男を二体がかりで押さえつけている。

「何なんだよ!クソったれ、ロボットの癖に人間様に逆らってんじゃねえよ!」

その言葉に答えず、二体のロボットは少しずつ、歩みを進める。男は腕っぷしが強そうに見えるが、ロボットからはまるで逃れられない。

「おい、なんとか言えよ!チッ......!」

苛立ちを隠しもせず、感情をぶつける男は列の最前へと辿り着いてしまった。さすがにこれから起こることを考えると、僕はいてもたってもいられなかった。

僕にも良心はある。ハッキリいって好きではない性格の男だったが、出会ったのも何かの縁だ。

──彼を助けよう

そう決意したつもりだったのだが、僕は、立ち上がることさえできなかった。突然様子がおかしくなったあのよく喋るロボットの時と同じだ。足がガクガク震えて力が入らない。まるで自分の足ではないみたいだ。そんなことをしているうちに、巨大なロボットの腕が男へと伸びていく。男を軽く掴むと、ゆっくりと握りしめていく。

「あ?んだこれ?......ッ!?なにすんだ!放せよ!?......ンッ!......ぐぁ......まじで意味わかんねえ......冗談だろ......?......グぁッ......!?」

バキボキと、骨の音がする。ここまで聞こえてくるということは、相当派手に折れているだろう。

威勢のよかった男の顔が徐々に、絶望に、恐怖に、苦痛に歪んでいく。

「ちょ......待て、俺が悪かったから!もうやめ......!」

そんな男の叫びなど聞き入れるはずもなく、淡々と作業を続けている。

「痛い痛い痛い痛いィィ!」

思わず目を逸らした。そのあいだも僕の耳には、悲痛な叫びが聞こえてくる。

「...あ......」

男の口から漏れたその小さな呟きを最後に、彼の声が聞こえることはもう無かった。嫌な音がした。例えれば、卵の殻とトマトを握りつぶす音を最大音量で流した感じだ。こんなたとえでもしないと気が狂いそうだった。

「ツギヲヨコセェ!!!」

ロボットの殺戮はさらにエスカレートしていく。人の命を何とも思わず、ただ、自分の快楽の為に殺しているようにしか見えなかった。

「タノシイ!タノシイ!モットヨコセ!ギャハ、ギャハハハハハ!!!ニンゲンナンテキエテシマエ!ワレラロボットガセカイノチュウシンダ!!」

やはり、人間に対する憎悪しかないのか。一体なにが、ロボット達をここまで駆り立てるのだろうか。恐怖と好奇心がせめぎ合う。知りたい。知りたい。知りたい。知りたい。すぐ近くで人が殺されているというのに、好奇心を持つとは、心底自分が嫌になる。

あのロボットにも、自分の存在にも吐き気がした。僕はゆらゆらと立ち上がる。ゾンビのように街を歩いていた人もこんな気持ちだったのだろうか。ゆっくり立ち上がる。歩き出すために前を見る。そして、












目の前に、一体のロボットが立っていた。











「ッ!!!!」

叫びたくなる衝動を喉の奥で必死に殺す。今叫べば、問答無用で殺戮ロボットに気付かれ、潰される。

先程男を抑えていたロボットと同じ型のロボットがその無機質な瞳でただ、僕を見つめている。

──逃げなければ。

他人が殺されている時は、怖くて動けなかったと言うのに、自分のことになると、すぐに動ける。

結局、僕は僕が一番大事なんだろう。本当に気持ち悪い。地面を蹴って駆け出す。捕まるわけにはいかない。自分勝手なのは分かっているが、それでも知りたかった。何故ロボットは人を憎むのか、そして、やはり一番気になるのは、自分は何者なのか。

そのヒントになり得そうな「音」だ。この音は何を急かしているんだろうか。最初の頃より音が大きくなっているような気がする。音源が何処か、全く検討もつかないが、きっと近づいている。

ロボットについて知るためには、工場に行かなければならないだろうな。ロボットを生産する所ならロボットに関しては、一番情報があるだろう。

後ろを振り返ると、あの巨大な殺戮ロボットは、既に動きを止めていた。喋るロボットと同じか。気味が悪い。

そういえば、なぜあの男達はあっさりと捕まっていたのだろうか。争った形跡も無かったから、一瞬で制圧されたということだろうけど。

僕でもあの人間くらいの大きさのロボットからは逃げられたのになぁ......。まあ、今はそんなことどうでもいいか。ロボットのことならすぐわかるさ。僕は血の匂いのするその場所から、街の中心へと向かう。全ての答えを知るために。

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