第1話 饒舌なロボット
「ヤァ!キミハハジメテミルカオダネ!」
道を歩いていた僕に、いきなりカタコトで話しかけてきたのは、人ではなくロボットだった。周りには、他のロボットも、人間もいなくて、その1体だけが妙に際立っている。
長い間誰とも会話をしていなかったせいか、反応するのに少し遅れてしまった。
ここは街の大通り、ではなくそこから脇の道に入って少し行ったところの、俗にいう「裏路地」だ。風は比較的穏やかで、砂嵐は見受けられない。
特に目的をもって入った訳では無く、大通りを歩いていて、変わらない景色に飽きを感じ、新しい景色を求め入ってみただけだ。
意外に快適な環境で、良かった。ついでに、謎が解けるといいなという甘い希望を持っているんだけれど。
「なんで君は喋ることが出来るんだい?ほかのロボットをたくさんみてきたけど、喋っているロボットなんてみかけなかったよ?」
「ムカシ、ソウプログラムサレタンダ!ソレハソウト、キミハメガアルノカイ?」
唐突におかしなことを聞く。僕を見ればすぐに分かることじゃないか。
目の前のロボットには僕が見えないのだろうか?
「ワタシニハメガナインダ。セイカクニハ、アルケドキノウシテイナイトイウホウガタダシイケドネ」
なるほど。本当に僕が見えていなかったのか。僕が近くに来たことが分かったってことは、音かなにかで探知はできるみたいだ。
「そう言えばなんで街のロボット達はみんな新品なの?」
「コノマチニハ、ロボットノセイサントシュウリヲスルコウジョウガアルンダ」
工場?歩いている時に見かけた街の中心にある塔みたいなやつか。次はそこへ行ってみようか。
「それって、人間がやっているの?それともやっぱりロボットなの?」
「ワカラナイ。ワタシハコンナメダカラ、コウジョウニイケナインダ」
そうか。修理したくてもそこまで行けないのか。それはさすがに可哀想に思う。その工場にも行きたいし、とりあえずそこまで連れて行ってやろうか。特に不都合もない。
「そこまで一緒に行かない?興味あるし」
「エンリョスル。モウ、イッショウニンゲンノカオナンテミタクナイカラネ。キミモワカルダロウ?ナア、ワタシタチ、ナカマダモンナァ?」
まるで、普通の会話のようにそんなことを言い出した。
僕からしたら恐ろしいったらありゃしない。人間の事を嫌いと公言しているようなものだ。あまり良い感情は湧かなかった。
一瞬で殺されそう。殺す手段があるのか、僕は知らないけど。
「ニンゲンナンテホロンデシマエ」
先程のテンションなんてまるっきり無視だ。機械音声で、トーンの違いなんて無いはずなのに、数段声が低くなったように聞こえた。
だが次の瞬間、頭のネジが外れたかのように元のテンションに、いやそれ以上か。
「アハ、アハハハハハ!!ニンゲンナンテホロベバイイノニ!!ギャハハハハハハハ!!!!!!」
完全に壊れている。頭も、機械のその体も。先程の陽気な雰囲気とも、そのあとの陰鬱な雰囲気とも似ても似つかない、得体の知れないものを感じる。これは普通じゃない。本当に殺されるだけで済むのか、怪しくなってきた。何をされるかわからない。危険すぎる。一刻も早くこの場を離れたい。
なのに、身体がいうことを聞かない。共感を求めて、気色の悪い耳障りな笑い声をあげて、近づいてくる。
殺される──いや殺戮か──予感が頭の中をよぎる。
「アハ、ハハハ──ア──グギ──ガ」
恐怖に震える僕の目の前で、そいつは突然、笑い声をやめたかと思うと、そのままヒューンと音を立て、動きを停止した。いきなりの事で頭の整理が追いつかない。
壊れたのか......? 恐る恐る触れてみても、再起動する様子はない。
あんなに饒舌だったのに、もう喋る様子すらない。先程の恐怖が蘇る。人間の話をしただけなのに。改めて、このロボットを見ると、動きそうもないのに、なんだか不気味に感じる。僕は再度身を震わせると、転がりながら逃げるようにその場をあとにした。
ようやく落ち着いた。何とか大通りへ戻ってこられたようだ。全力で走ったはずなのに、不思議と息切れはしなかった。そんな余裕すらなかったらしい。
先刻あったロボットの事を思い出してみる。
あのロボットの言葉から考えると、多くのロボットが人間を憎んでいるらしい。
ロボットが何故人間を憎むのか。謎が増えてしまった。同時に少し、楽しみでもある。
僕はロボットから距離をとれたことに安堵し、歩みをとめた。ようやく休憩できそうだ。道の脇に腰をおろし、息をつく。
自分の前を歩くロボット達は喋る様子などない。あのロボットが特別なのか。暫く、歩くロボット達を眺め、先程のロボットについて再度考えてみる。
喋れるロボットは数少ないのかもしれない。条件はなんなのだろう。やはり街の中心にある工場に秘密があるのだろうか。他に行く宛もないし、とりあえずそこへ行こう。重い腰を持ちあげる。刹那、どこからかグチャという嫌な音とともに、断末魔がきこえてきた。
全く次から次へと......。一体何なんだ、この悲鳴は......。背筋に薄ら寒いものを感じながらも、その声がした方へ警戒しながらゆっくりと近づいていく。
無論、初めから鳴り響いている僕を急かすような音も、未だ止まない。
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