第3難 大木

 今、僕は少し高めの山にある大木のてっぺんにしがみついて助けを求めている望を眺めている。


「たーーすけてーー」

 助けを求める望に、僕は下から声をかける。

「けっこう大きい声出てるからまだいけるんじゃねー?」

「なっ!絶!いつからいたの!」

 まあざっと30分前だな。30分前に望が叫んでるのを見つけたからどんな行動に出るのか観察していたかんじだ。

 そして僕はまた大声で望に話しかける。

「たった今きたとこだよー

 ところでなんでお前はそんなとこにいるんだー」

「友達がここに伝説のアスパラガスが生えてるって言ってたからー!」

 なんてこった。あいつの脳は筋肉で出来てるのか?

 しかしあの脳みそマッスルちゃんが馬鹿だとわかってそそのかしたんなら重罪だぞ。

 だけど望にこんな冗談を言うのはあいつしかいないよな。うん。とりあえず今度ひき肉マシーンを買っとくか。

 僕がそんなことを考えていると、望がまた助けを求めてきた。

「ねー!絶ー!おろしてー!」

 いや、のぼったんだからおりれるだろ。

「自分でおりれないのかー!?」

「高所恐怖症だから無理ー!!」

 じゃあなんでのぼれたんだ。

 仕方ない。日も沈みそうだし助けてやるか。

 僕は木の幹に手をかけ、その手に力をこめて体を引き寄せる。


 カサっ……


「ん?」

 手の甲に変な感触が……

 僕が恐る恐る手の甲を見ると、かなりでかい蜘蛛が乗っていた。

 オニグモだ。しかもけっこうでかい。

「おいおいまじか……」

 だがここでびびって振り払うのは危ない。

 僕は一旦下まで降りてから、蜘蛛を振り払う。

 ふう……ムカデじゃなくてよかった……虫はけっこう得意な方だがあれは絶対ダメだ。毒あるし動きもキモい。特に捕まったとき。

 しっかしこんな寒い中で虫とは……しかもあの大きさ……けっこう珍しいな……

「ねー!まだー!?」

 上から望が急かしてくる。

「今行くー」

 そして僕は再度木をのぼる。

 慎重に幹から幹へと移り、徐々にてっぺんに近づいていく。


 ミシミシッ


 あー、いや、なんとなく分かってはいたんだよ?うん。この辺幹だいぶ細いし。でもやっぱ思うじゃん?いけるんじゃないかなーって。

 とか言ってる間に他の幹に飛び移ればいいんですよねおらああああーーーーー!


 そして、なんとか近くの幹につかまることができた。

「あっぶねー」

 僕は地面に叩きつけられる幹を見てほっとため息をつく。


 バキバキ


「くそ……」




 いやー、けっこう高いとこから落ちたがあんまりケガがなくてよかった。

 俺ってこんなにタフだったかな……?

 空を見上げると、いくつか星が輝いているのが見える。

「だいぶ暗くなってきたな……」

 そして望の泣き声も聞こえる。

「早く助けてやらないとな……」

 しかしこのままじゃ拉致があかないしいずれ僕はぶっ壊れる。なにかいいものは無いだろうか。

 あたりを見回すと、望のものらしきリュックが置いてあった。

「ちょっと拝見させてもらいますよ〜」

 ファスナーを開けると、緑色の物体が出てきた。

「うわっ!なんだこの細長いのは!」

 アスパラガスだった。

 望のリュックには溢れんばかりのアスパラガスが詰め込まれていた。

 溢れたけど。

 しかしなんて闇が深い……いや緑が深いリュックなんだ……なにか役に立つものは入ってないのか?

 しばらくリュックを漁っていると、明らかにアスパラガスとは触り心地が違うものに手が触れる。

 引っ張り出して見ると、

『望×幸』

 と丁寧に彫られた木製のキーホルダーが出てきた。

 幸……?なるほどこれは……!




「大丈夫か?」

 木のてっぺんについた僕は、泣きじゃくる望に声をかける。

「おおー!絶!来てくれると思ってたよー!」

「よし、じゃあおりるからつかまって……」

 僕が手を差し出すと、望は首を横に振る。

「え……!でも早くおりないと────」

 僕が言いかけたとき、望は僕の後ろを指さした。

「見て……」

「おお……」

 振り返ると、ちらほら見える家の明かりと、夜空の星とが重なって、まるで目の前の景色全てが星空の様だった。

「ロマンチックだね……」

 それを眺める望の目は、星や家の明かりを反射してきらきらと輝いていた。




「帰るか!」

「うん!」

 僕はもう一度、望に手を差し出す。


 バキバキッ


 嘘だろ……




 


 なんてな!今度はさっきの反省を生かして葉っぱを下に敷き詰めておいたのだ!

「おおー、ふかふか……」

 望は葉っぱの山をばふばふとたたいている。

「でもよく無事だったね私たち……いつもなら予想外のとこに落ちて結局ケガしちゃうはずなのに……」

 それを聞いて僕は静かに笑いながらさっきのキーホルダーを取り出す。

「これのおかげだ!」

「あー!それ幸ちゃんがくれたやつ!てことは私のリュック漁ったの!?変態!」

 いや、そんなお粗末なリュックの中を見ただけで変態と呼ばれる筋合いはない。

 まあとりあえず謝っとくけど。

「いやあ悪かった。でも助かったんだからいいだろ?はい、キーホルダー。」

 僕がキーホルダーを差し出すと望はさっと取ってリュックに入れる。

「さーて、じゃあ今度こそ帰……」

 僕が立ち上がると、少し遠くで何やら蠢いている。


 熊だ……

 そして目が合うと熊は間髪入れずに突進してくる。

「おい!望!立て!熊だ!」

「ええっ!冬なのに!?」

「ああ、きっと巣がないんだ!」

 僕は望を抱きしめるとその場に倒れる。

 普通に走っても熊には勝てない!

 だが初詣の時に編み出した必殺技を見よ!

 必殺!横転高速下山!

 その名の通り山の傾斜を利用して山を転がり降りるだけだ!絶対にマネしないでね!

「た、絶!大丈夫なの!?」

「ああ、あのキーホルダーがあるから大丈夫だ!」

 絵面は最悪だがな。

 すると望は申し訳無さそうに目をそらす。

「いや、あの……」

「そのキーホルダー、落としちった……」


「え?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

エマージェンシーカップル 組長 @keizokukoukouha11zo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ