第4話 ”リベンジ”


その後も僕は、人生に終わりを告げるべく、何度もかなけなしの勇気を振り絞って自殺を試みた。

小学生に出来ることは限られている。

だが、試せる事は一通り試した。

しかし、結果は何度やっても同じだった。

飛び降り自殺をした後は、屋上の鍵のかかったドアの前で立ち尽くし、混ぜるな危険と書かれた酸性の液体を複数混ぜたモノを抱えて密室に閉じこもっていると、次の朝をむかえていることもあった。

浴室で、ドライヤーを片手に感電死しようとしたら、普通に自分へドライヤーをあてて髪の乾かしている情景に代わってしまった時は、自分のやっていることの虚しさに、涙と一緒に笑いがこみ上げてきた。

信号機がある幅の広い横断歩道。赤信号に飛び込むと、やはりというか、予想通り周りの車は止まり、普通に青信号を渡る自分がそこにいる。

これはどうしたら、いいのだろうか。

死ぬことも出来ず、ただただ虐めらる毎日を、日常として過ごす事しかできない。

そんな毎日を繰り返し、気づくと僕は中学生になっていた。

普通に近所の公立中学へ通い、今まで僕を虐めていた奴らも少しは大人になり、僕を虐める事にも飽きてくるだろうと思ったら、違う相手からさらに酷い虐めを受けるようになった。

結局、僕尾虐められっこ体質的なモノは変わらず、毎日の生活リズムに変化はなかった。

中学生になると、虐めのやり方も酷くなり、一般的にお小遣いと言われるモノが支給される。

ちなみに僕のお小遣いは人のために使われる事が多く、自分の為に使われる事は少なかった。

というか、ほぼなかった。

そして、僕の平凡な日常は、自殺という非平凡な日常と共存しながら、淡々と過ぎていった。

今までのように何度自分を自分で殺そうとしても、結果は同じだった。

身の回りで起きる事は、身の回りの事にしかすり替わらない。

死ぬことにも疲れてしまい、その後は、なすがままの日々を淡々と過ごしていた。

変えようがない事実を加えて、確実に死ぬことは出来ないだろうか。

そして考えた結果、周りの状況を取り込んで、自分に死を与える事。

その方法なら、僕は解放されるのではないだろうか・・・

その中で、もっとも身近で形が他者に残せそうな事はなんだろう。

・・・・練炭自殺

ニュースでもやっていた。

そのニュースは殺人事件で、犯人の女性が次々と結婚詐欺のような事を繰り返し、殺人を犯していく。その後に手に入る保険金を手に生活をし続けている事が公になってニュースで毎日取り上げられている。

この方法なら、買い物をする事で、他の人の目に触れ、そして、自殺ということ以外の事実がそこに残るのではないだろうか。

まず必要なモノは、練炭はもちろんだけど、七輪は家にあっただろうか。

いやいや、今まで家にあるモノで何とかしようとしていた事が間違いだろうから、ここは買い物をして他の人に僕が買っている所を見てもらわなければ。

決行は来週。

お小遣いの支給日に決行しよう。

そうしないと、僕の手元にこのお小遣いが残っている保証がない。

決行当日、何も知らない母親が、

「今月のお小遣い置いとくわよ。」

といって、僕の部屋の出入り口近くにあるタンスへお小遣いを置いていった。

「お母さん、今日は仕事少し遅くなるかも知れないから、晩ご飯遅くなるかも知れないけど大丈夫?」

これは絶好の自殺日よりだ。

「あぁ。わかったよ。」

素っ気ないとは言い難いが、出来るだけ普通に振る舞った。

僕は、母親からもらったばかりのお小遣いを握りしめ、近所のホームセンターの向かった。

店に向かう途中はもちろん店に入るまで、周りに奴らがいないかの注意を払いながら、ひっそりと店に入り買い物をした。

僕の挙動はどう見ても不審者そのものだろう。

周りをきょろきょろしながらレジに向かう光景は、きっと万引き犯にしか見えないだろうと思う。

練炭と七輪を手にレジに向かう。

レジの定員が、

「君、これはどう使うの?」

と、何かを察したのか、直球の質問を投げかけてきた。

僕は挙動不審のまま、

「母さんが魚を焼くらしく、頼まれた。僕の母さんは、形にこだわる人だから・・・ははは」

もっともらしい返答を返したが、その定員は僕を妖しい目で見続けている。

ここで、誰かに言われたら、全部の計画が台無しになる。

でも、こうして他社を行為の一部として巻き込む事で、何かが変わるかも知れないのだから、ここは何とか乗り越えなければならない壁の一つだ。

僕は、出来る限り平然を装い、レジを早く済ませる事しか考えられなかった。

レジの定員は、不思議そうな顔で僕を見ているが、

「そうですか。これで魚焼くと美味しいもんね。お母さんは料理上手なのかな?」

定員の見当違いの返答に、腰が抜けそうになった。

心臓が本当に口から飛び出てくるかと思った。

「そうなんです。毎日お母さんの料理が楽しみなんです。」

僕は、目が泳ぎ、ひきつった笑顔で、定員にそういった。

苦し紛れの答えではあったが、最近のニュースの影響か、店側もこういった内容の買い物に敏感に反応してくるようだ。

何とか買い物を終え、家に変える途中、窓などを目張りするガムテープを買い忘れた事に気づいた。

また、あの店で買い物をすると、きっと怪しまれる。

絶対通報されて、僕の計画事態が自殺する前になくなってしまう。

ガムテープくらいならコンビニでも売っているのだから、そこで用を済ませよう。

自転車を停め、近所のコンビニでガムテープを大量買い。

これだけでも不審者そのものだろう。

きっと、さっきの店でこれもまとめて買っていたら、確実に通報されていただろう。

買い物を済ませ、家に着く。

自室の窓や出口、あらゆる空気の通り道を塞ぎ練炭に火を焚いた。

段々と、部屋の温度は上がり、一酸化炭素が部屋中を覆っていくのがなんとなくわかった。

少し肌寒い季節だったからか、気持ちよいあたたかな温度に包まれた。

一酸化炭素が部屋中に充満した後、呼吸気管から体中を一酸化炭素が巡りヘモグロビンと結合した後、体中の酸素供給量が足りなくなり、そして全身の機能が停止。

脳内酸素量が2~3%減って酸欠状態になる。

体の自由と意識がなくなってそのまま眠るように死んでいく。

これが死ぬと言うことか。

最初からこうすれば良かったのかもしれない。

そのまま僕はゆっくりと目を閉じ、深い深い眠りへと・・・・・

ふわふわした感覚になり、全身の力が抜けていった。

ぼーっとする意識の中、僕は夢をみているようだった。

遠のく意識の中、目の前にうっすらと女性のシルエットが浮かび上がってきた。

その女性は何度も、何度も僕に何かを語りかけてくるようだった。

「あな・・・・・・わ・・・・・・・・う・・・・・・なら・・・・」

なくなる意識の中、何を言っているのか分からなかったが、そんな事はどうでもよかった。

これでやっと楽になれるという安堵感で、僕はそのまま・・・・

深い・・・深い安らかな眠りにつき・・・これで、やっと死ね・・・・・・・

「いつまで寝てるの?今日休みだからっていつまでも寝てないでよ。そういえば、お小遣いここに置いておくわね。あと、お母さん今日は仕事で遅くなるから、晩ご飯も遅くなるけど大丈夫?」

・・・・・・・?!

僕は、母親の声を聞いて飛び起きた。

「あら起きてたの?朝ご飯用意してあるから、片づけだけお願いね。」

そういって母親は出掛けていった。

僕は、さっきまでの安堵感からのギャップから、嫌悪感と脱力感でいっぱいになった。

これはどうした事だろうか。

さっき買い物に行ったときの僕の挙動不審などきどきはどこへ行ったのだろう。

少し、立ち上がる事も出来ずにいた。

重たくなった体をゆっくりと持ち上げ、今朝食べたはずの朝食をもう一度口に入れ、そして泣いた。

流れてくる涙を止める事は出来なかった。

なんでいつもこうなるんだ。

どうして、僕は死ねないんだ。

どうして・・・

食器を台所に起き、タンスの上に置かれたお小遣いを握りしめ、家を出た。

行く宛もなく、自由に動く体を重たく感じる足で、ただただ歩いた。

日が高くなり、もうすぐ昼になるだろうという時間。

周りを見渡すと、1台のタクシーが目に入った。

有り金全部でどこまで行けるだろう。

そんな事を考えながら、そのタクシーに乗った。

「どこまで行きますか?」

というタクシーの運転手の質問に、何も考えられなかったが、

「とりあえず、山の上にある病院まで・・・」

と答えた。

どこでも良かった。

ここじゃないどこかへ行けるのなら。

道中タクシーの運転手は僕に話しかけて来たが、僕は何も答えなかった。

答える事をしたくなかったという事もあるが、答える元気というか行動そのものがもう面倒になっていたから。

数十分車を走らせ、どこか知らない病院の前に到着した。

そこでお金を払い、タクシーを降りた。

タクシーを見送った後、周りを見渡したが、本当に知らない場所だった。

このまま、どこか行方不明になったら死ねるのだろうか。

僕の重たくなった足は、必然的に森の中へと僕を連れていった。

どれだけ歩いただろうか。

日が暮れ、辺りは真っ暗。

きっと、幸せボケした両親は一応僕の事を今更心配し、探しているのだろうか。

寒い。

昼間は暖かかったのに、日が暮れると、一気に寒くなってきた。

このまま、僕は死ぬことが出来るのだろうか。

きっと出来ないのかも知れない。

でも、このままどことも知れない場所で、現実からいなくなれるのなら、こんな幸せな事はないかも知れない。

1日2日で餓死なんて事は出来ない。

1週間以上どこかで飲まず食わずくらいしないと死ねない。

寒さの中、気が遠くなり、もしかしたら、このままゆっくりとここで誰にも知られず、たった一人で・・・・

眠りについた僕は、どこかで見たことがあるような夢を見た。

それは、知らない女性のシルエットがうっすら浮かび上がって、僕に何かを語りかけてくる。

「あなたを・・・・・・・わた・・・・・・とう・・・・・・なら・・・・・・・・・」

何を言っているの?

よく聞こえない。

君は誰?

僕は・・・・・

その女性は髪が長く、僕に向けて細い腕を伸ばし、ゆっくり近づいてくる。

ゆっくりゆっくり・・・・

そういえば、前にもこんな夢を見た気がする。

最初に自殺した時から、ずっと、うっすらとその女性が僕に近づいてきて、何かを伝えようとしている。

泣いてる?・・・そんな気がした。

「ねぇ、君は・・・・・誰?」

僕の問いかけに答える事はなく、ゆっくりと僕に近づき、その女性が、僕の首に手をかけようとした瞬間、

「なぁ僕?どこへ行くの?病院近くまで行くのは良いけど、家出とかじゃないの?おじさんそういうのは良くないと思うよ。お金はいいから家まで送っていくよ。家はどこだい?」

気づくと、僕はさっきのタクシーの中にいた。

眠ってしまっていたようだ。

僕は、涙を流していた。

挙動不審でいかにも怪しい少年を乗せたタクシーの運転手は、事態をなんとなく理解し、行き先まで行かず、眠った僕を途中で起こし改心させるつもりだったようだ。

僕は、自宅の住所を伝え、近所まで着くと、タクシーの運転手は、

「なんだ近くだったのか。何を考えているか分からんが、あんまり深く考えるなよ。」

と言って、僕をなだめた。

僕はタクシーを降り、自分の家に帰った。

まだ昼過ぎの暑い陽射しが照りつけている。

あれから1~2時間といったところだろうか。

家の玄関をあけ、自分の部屋に入ると、急に腕が痛くなり、同時に呼吸が苦しくなると同時に締め付けられるような痛みが出てきた。

この腕の痛みは、最初の勢いよく切りつけた場所。

傷がないのに、切った瞬間の時のような痛みが、現実として僕を襲った。

さらに、この息苦しさと首に走る痛みはなんだと思い、荒い呼吸の中急いで洗面所へ行き自分の首回りを確認した。

そこには、心当たりのない誰かに絞められたような手痕がくっきりとあり、息苦しさと表現のしようがない痛みが僕を襲った。

何かがおかしい。

そう感じて、僕は自分の首ではなく、自分の顔を見た。

そこにいる僕は、鏡の中の僕は・・・・涙を流していた。

赤く、血のような赤い涙を、流している。

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