第3話 ”続く地獄”


あの時の不思議な体験は、今の非平凡とはかけ離れすぎた体験で、誰にも言えなかった。

そもそも、相談できる相手がいなかった。

そして、その後に待っている地獄の日々の始まりでしかなかった。

うっすらと霧がかって思い出そうとしても、うまく思い出せない。

僕は混乱しすぎて、その後体調が悪いと言い、次の日、僕は学校を休んだ。

一日ゆっくりといろいろ考えたが、結果が出るわけがない。

ちなみに、学校を休んだが、行っても行かなくても僕の生活に変化はない。

だからこそ、惰性のように僕はその次の日学校へ行った。

相変わらず、周りでは、

「おはよー」

「おーっす」

「昨日のあれってさ・・・」

「今日のあれがさ・・・」

たわいもない会話が僕の横を通り過ぎていく。

そして、僕に対する虐めは変わらず続いている。

虐めの度合いは日々エスカレートし、ない傷の痛みを忘れるほどの痛みが毎日僕に降り注がれた。こんな日々がいつまで続くのだろうか・・・・

そう思った時、もう一度自殺する事を決意した。

だが、同時に同じ事がまた起こったら、僕はどうしたらいいのだろうか。

でも、あれは僕の勘違いで、夢だったのだろうと、無理矢理自分を納得させた。

そんな事を考え続けて、答えの見えないまま小学4年の始めの頃。

僕は、もう一度・・・・・自殺した。

近所に開かずの踏切がある。

毎日そこを通る際、誰もが知っている事だが、横にある歩道橋を通った方が必ず早く通過できる。

だから、誰もその踏切を歩いて通ろうとは思わない。

そんな踏切は1~2分ごとに、次々と電車が行き交う。

そういえば、昨日テレビのニュースでやっていたが、電車を故意に止めると莫大な損害賠償を請求されるらしい。

そのニュースを見ていた父親が、

「なんでこんな人迷惑な死に方するんだろうな。まったく迷惑で理解に苦しむよ。」

そんな父親に言ってやりたかった。

理解に苦しまず、人生に苦しんだからその答えに行き着いたのだろうと。

電車の飛び込み自殺は、あっという間で痛みを感じる暇もないくらいのスピードで死へと誘ってくれる。

それはとても願ったり叶ったりだ。

そんな父親の言葉に母親も、

「そうよね。誰かに相談とかしないのかしらね。死ぬことないのに。」

と間の抜けた事を言っていた。

相談する相手がいないから、死ぬことしか選べなかったんだよ。

幸せボケした両親に、僕はなんの返答も返すことが出来なかった。

そもそも、死ぬ事自体とんでもない勇気が必要で、しかもそこまで追い込まれた人間が誰かに相談できるわけないじゃないか。

自分の親でもこの反応。

僕が学校でずっと虐められていることも知らない親。

目の前を行き交う電車をながめていると、そんな親との会話も懐かしく感じた。

もう、その無駄に幸せで埋め尽くされたツッコミを聞けなくなると思うと、逆に心が少し楽になったような気がした。

本当にダメなんだな・・・・僕って・・・・

ガタンガタンガタンガタン・・・・・・

目の前を行き交う電車の波が一瞬止んだ。

カンカンカンカンカン・・・・・・

次の電車を待つ踏切の音だけが、僕の耳に聞こえてきた。

さて・・・と

楽にされるという幸せから、僕の足は軽くなり、次の電車が目の前に突入してくる直前。

僕は思いきり目をつぶり、勢いに身を任せ電車の向かってくる踏切へ飛びこん・・・・

・・・・・だ?!

「・・・・え?!」

思いっきりつぶったはずの目を開けると、そこには、電車が通り過ぎ、きれいに反りあがった踏切が目の前に入ってきた。

さっきまで、電車が今か今かと通り過ぎようとしていたはずなのに、今は、もうすでに通り過ぎた後で、やっとかと待っていた車達が、僕の横を徐行で行き交っていた。

いったい何が起きたのだろう・・・

これはいったい・・・・

何が起きたのだろう・・・

周りを見渡すと、不思議そうな顔で僕の横を通り過ぎる人もいる。

何をやっているのか分からなくなり、恥ずかしさが僕の心と頭をいっぱいにした事で、顔が真っ赤になり、早足というか、全力疾走で家に帰った。

僕は、何が間違っていたのだろうか。

さっきは、確実に電車に向かって飛び込んだ・・・・はずだった。

そう、はずだった。

何かを勘違いしてしまったのだろうか。

前回のリストカットは勘違いで、今回の飛び込みも見間違い。

そう思うことしか出来なかった。

そして僕は、何事もなく続いていく毎日に、考える事をやめてしまった。

変わらず日常的に学校で、虐められていると、それを見ている先生達は決まって、

「悪ふざけもいいかげんにしろよ~。友達同士で何やってるか知らんが、怪我する前にやめとけよ。」と、親よりさらに間の抜けた事を言ってくる。

この状況が単なる悪ふざけで済んでいたら、すでに負っている僕のこの怪我は対象外って事か。

怪我する前にって、もう怪我してるよ。

どこに目がついているのか聞いてみたいモノだ。

そんな帰り道、いつものようにこないだ”見間違い”となった踏切を、ため息混じりで通り過ぎる。

もちろん、横の歩道橋を通って。

抜け殻のようにとぼとぼ歩いていると、考える事をやめた僕の頭の中に一つの答えがわいてきた。前は、失敗どころはよくわからない状況になったけど、今回こそ・・・

現在、午後3時前。

父親は帰りが遅く、母親はパートに出かけている為に、家には誰もいない。

僕のなくした勇気をもう一度取り戻す為に、もう一回。

僕は、僕を殺すことにした。

僕の顔から表情はなくなり、そのまま風呂場に行き、そして冷水を浴槽たっぷりに入れた。

そして、もう一度、微かに違和感だけが残っている僕の腕を、勢いよく切りつけた。

だが・・・しかし・・・

結果は・・・同じだった。

前回と全く同じと言うわけではなかったが、手首を切った後そのまま浴槽で眠りについているはずが、着替えもせず暗くなった自分の部屋で、ただ横になって眠っていた。

僕を夢から起こしたのは、パートから帰ってきた母親だった。

「もうすぐご飯だから起きなさい。」

といって、起こされた。

重たくなった体を起こし、僕は深く大きなため息を一つついた。

なんで僕は死ねないのだろうか。

死のうとすると、こうやって、何もない日常に戻される。

もしかしたら、願望が夢を見せているのだろうか。

色々考えた。

でも、そんな中確実な事が一つある。

勢いよく切りつけた腕の痛みだけがしっかりと残っている。

起こった事は全部夢だったのだろうか。

もし夢なら、虐められている現実の方が夢であってほしかった。

そう願い、その日は食事を摂らずそのまま深い眠りについた。

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