第4話 平和

「――で、最近はどうよ?」

「んー? 最近って?」

「いやほら、奴さん、なんか強い刀手に入れたみたいで、返り討ちにあうのが多くなったって他の連中が言ってるからさ。アンタは大丈夫なんかなって」

「あー、俺んところは今のところ当たってないかな。てか、みんなの情報を聞いて、危ない地域には行かないようにしてる」

「ははっ、ずりぃ。まぁでも、それが賢い選択だよな」

「そっちは?」

「こっちもまだだ。ちょっと当たるのが楽しみなんだけどな。こればっかりは運だから、自分でどうこうできるもんじゃないところが悲しいところだな。――おっと、終わったか」

 青い目をした協力者が視線を戦場に向けたので、金色の目をした協力者もそちらを向いた。

「やっぱダメだったか~」

「どもっ、ごっそーさん。――つっても、そっち主力部隊じゃないでしょ?」

 青い目の協力者にそう話を振られると、金色の目の協力者は「まあ」と苦笑を浮かべた。

「オレより後からはじめたのに、育てんのが上手いからな~、アンタ」

「どーも。あざっす。生前からゲームばっかしてたから、こういう育成系って得意なんですよ」

「ゲーム世代か~。オレも生前の若い頃はゲームやってたけど、どっちかってーとノベルゲーばっかだったからな~」

「あっ、もしかして、桃色戦士とかやってたりします?」

「えっ、なに、桃色戦士知ってるの?」

「もちろん。名作でしたもん。掲示板でも桃戦サードが出た時はみんな騒いでましたし」

「あーそれオレ知らないわ。発売する前に死んだんだよねぇ」

「そうなんすか」

「うん。あっ、じゃ、今度の演習の時に、内容教えてよ」

「いいですけど、ネタバレOKですか?」

「いいよー。てか、アンタから聞かないとネタが一生分からず仕舞いだし」

「主様~」

 共通の話題を見つけ、盛り上がってきたところで割って入ってきた声に、二人がそちらを見ると、短刀の五虎退が青色の目をした協力者に抱き付いた。

「勝ちましたー! そして、あの……お腹が空きました……」

 その時、ぐきゅ~、と腹の虫が鳴り、五虎退は顔を真っ赤にして俯いた。

 その姿は実に微笑ましい。

 協力者二人はその様子を笑うと、青い目の協力者は彼を持ち上げた。

「はいはい。じゃ、家に帰ろうなー」

 五虎退をあやす姿は父親のそれである。

「じゃ、また今度連絡するよ」

「はい。今日はありがとうございました」

「こっちこそ、ありがとさん。じゃな」

 そして、彼は『帰還』と一言命じた。それが時空間転移のキーワードの一つなのだ。すると、彼らの姿は掻き消え、その場からすっかりいなくなってしまった。

「じゃあ、俺たちも戻るか」

『はいっ!』

 六人の擬人刀たちが声を揃えて呼応する。





 ――男が協力者生活をはじめて一年が過ぎていた。

 はじめの頃は勝手が分からず、右往左往していたが、周りの先輩協力者に教えてもらい、徐々に生活にも慣れていった。

 協力者としての生活は、生前と比べて健全以外のなにものでもなかった。

 朝は日の出から活動を開始。掃除、洗濯を終えると擬人刀たちの朝食づくりに取り掛かる。作り終えるとのろのろと起きだしてきた擬人刀たちに顔を洗って来いと命じる。先に起きてきた者たちには、まだ夢の中の者たちを起こせ、と指示を下す。全員が揃ったら朝食だ。協力者は食事を取れるように出来ていないため、この時は飯をよそる役目だ。朝食を終えると擬人刀たちは内番(畑仕事や馬小屋の世話等)をはじめ、自分は食器の片付けを始める。片付けが終わったら、メールチェックだ。協力者ボディ以外に支給された備品の中にパソコンがあり、それで協力者同士でやり取りをするのだ。演習の日時なんかはここで打合せをする。干した洗濯物を取り込んだりしている間にあっという間に昼食の時間になってしまう為、それからやっぱり、擬人刀のために昼食を作る。手の空いている者から食べさせ、午後は戦場に向かい、役目を果たすのである。それから日が暮れる前に本丸に戻り、夕食の用意をする。夕食後の風呂の準備は擬人刀たちに任せ、勝手に入らせる。その間、やはりメールチェックをして、何もないようならそのままスリープモードに入る。

 協力者ボディは寝食必要ないのだが、いかんせん、エネルギー源が太陽光。陽が落ちるとバッテリー稼働になり、当然のことながらバッテリーが尽きると意識を失う。その為、省エネモードであるスリープモードに入るのである。スリープモードにしていれば何か有事の時にはすぐに動ける。一度、加減が分からず夜更かししたことがあったのだが、バッテリーが落ち、気づけば翌朝ということがあった。それから、健全生活を余儀なくされた。奥の自室に引っ込み、一人で眠る。そして朝が来たら、また繰り返し。

 『退屈か?』と聞かれれば、『退屈だ』と答える。『この日常を辞めたいか?』と聞かれると、『別に』と答える。

 つまり、そんな生活である。ただ、生活というのはそういうものだろう。

 日曜日のパパポジションを永遠ループ生活。

 それも悪くないと思う日々だ。

 男は協力者生活を満喫していた。





「なぁ、じじい」

 昼食を食べ終え、「ご馳走様」と唱えた三日月宗近に声をかける。すると、彼は「なんだ?」と甘いマスクで聞き返した。ちなみに、三日月宗近という刀は歴史が古く、そこから「じじい」呼びが固定になっていた。

「この後、少し手合せしないか?」

「あい分かった。よろこんで引き受けよう」

「あるじぃぃぃぃぃぃ!! 何故、三日月宗近を誘うんだぁぁぁぁぁ!! 俺がいるだろぉぉぉぉ!!」

 和やかな雰囲気の間に割って入ってきたのは最初の擬人刀、蜂須賀虎徹である。

 ――本来の彼の性格はこんなに暑苦しい性格ではないらしいが、協力者ボディの特殊能力により、性格が破壊されている。周りの協力者の話を聞いても、最初に選んだ擬人刀は皆一様に性格が可笑しいことが発覚した。これは特殊能力の弊害である。裏切らないだろうが、うるさい、うざい、気持ち悪いの三拍子がそろっている。

「あるじ、あるじ、おれが、おれが手合せするぅぅぅぅ!!」

 箸と器を取り落し、一瞬の間に移動し、協力者の手を取った。

 協力者はそれに「うっ」となる。

 ここで『うるさい、黙れ』というのは簡単である。だが、この男、一度臍を曲げるとかなり長引く。以前、同じような状況があった時、一か月近く部屋の隅でいじけ、餓死寸前まで食事を取ろうとしなかった。あの時は大変面倒で、必死に褒めちぎり、なんとかおかゆを食べさせるのに成功したのだ。あの時と同じ状況はご免である。その為、慎重に言葉を選ばなければならない。それに三日月宗近と手合せするときに使う刀は蜂須賀虎徹を使いたい。あれは自分と相性が合うのだ。だから、彼を上手く言いくるめて刀を貸してもらえるように交渉しないといけないのである。

 だから、協力者は怒鳴りそうになるのを必死に抑え、「蜂須賀虎徹」と囁いた。

「まったく、おバカさんだな……」

「ある、じ……?」

「俺はお前の刀を借りたいんだ……だから、お前と手合せしてるのと同じことなんだぞ?」

「手合せしてるのと同じ……」

「ああ、そうだとも! お前の刀は本当に素晴らしい! というか、お前は素晴らしい! さすが、天下の虎徹! お前ほど俺と相性がいいのはない!」

「主と相性が良い……」

「お前の刀を、力を貸してほしい! お前でないといけないんだ! そして、俺と手合せしよう!!」

 そう力強く諭すと、蜂須賀虎徹は憑き物が落ちたような明るい表情となり、「はい、主の仰せのままに!!」と叫んだ。

 協力者はそれに満足気に頷くと、「さあ、食べ終わったら、はじめるから、早く食べなさい」という。

「――……上手いこと言いくるめたようだな」

 自分の席に戻っていく蜂須賀虎徹を見送っていると、横手から三日月宗近がそう言ってきたので、そちらににやりと笑って見せる。

「もう慣れたからな」

「さすがだな。……ところで、なぜ、俺を手合せの相手に望んだのだ?」

「他の奴だと、あの勢いに押されて交代されるからな。――そうすると、使いにくい刀を使わないといけないからな~」

「恐ろしい童じゃ。――まあ、選ばれただけ、光栄だがな」

 笑む三日月宗近に、協力者は微笑み返すのだった。

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