海とドラゴンと私
ユウ
第1話
俺たちは連れだって海に来ていた
ごつごつとした岩場を抜け、浜辺にたどり着くと
ずっと向こうの地平線の先まで白い砂浜が続いてた
左手には海が広がり、風で波立つと陽の光を受けてキラキラと輝く
その上では海鳥が気持ちよさそうに滑空してる
空も青く地平線の先で海の青と空の青が交差するそんな場所
俺たちは波打ち際に腰掛け、しばらくその光景を眺めていた
うちに海から陸へと風が吹き抜け、彼女の髪を揺らす
彼女の長い髪はサラサラとなびき、その隙間から白い肌が顔を見せる
その姿に見とれていると、彼女はつとこちらを振り向いて声をかける
「どうしたの?」
ただただ、見とれていた俺はそう聞かれて答えに困ってしまう
「いや、なんでもない」
少し恥ずかしくなって、海に向き直ると、彼女の声が俺の顔を追いかける
「へんな、翼君」
俺たちは結婚の約束をしていた
彼女はみなしごで、俺しか頼る人がいない、そういっていた
俺がいなくなったらもう行く当てがないと
けど、俺はそんな彼女を愛していたから、断る理由もなかった
すると突然、後方の木がバキバキと音を立て、それを追うように低いうなり声が聞こえる
その音はだんだんと近づき、浜辺へ姿を現す
「ドラゴン……なんでこんなところに」
人の背丈ほどの小型ではあったけれど、侮ることはできない
俺は砂を蹴り、とっさ立ち上がると、腰に備えた剣をするりと抜く
その剣は陽の光を反射し、きらりと輝く
そして俺たちは対峙する
じりじりと間合いを詰めると、そいつは羽を広げ奇声を上げて威嚇する
負けじと構えて距離を詰める
まともにやり合ってかなう相手じゃない
そう考えた俺は、間合いに入ったところで瞬時に距離を詰め
足元めがけて、一太刀加える
そいつは一瞬ひるむけど、致命打を与えられたようには思えなかった
後ろに飛びのくと、翼を広げ、口を大きく開いた頭を突き出し、俺をかみちぎろうとする
「やめて、もうやめて」
彼女は、泣き入りそうな声でそう叫ぶも、俺たちの耳には届かない
続けて、翼をめがけて、思いきり剣を振りぬく
すると、そいつの翼は破れ、バランスを崩してよろめく
ここぞとばかりに、そいつの喉元をめがけて勢いよく剣を突き出す
柔らかい喉に、剣は見事に突き刺さり、鮮血が噴き出し、剣を伝う
勝利を確信し、もう一突きしようとした、その時、そいつは大きく口を開き
とっさによけるも、そのまがまがしい牙は、俺の肩に突き刺さる
耐え難い激痛が肩に走り、血があふれ出す
その場から離れようとするも、その牙は深く突き刺さり、もがけば傷口が広がるだけだった
俺は逃げることをあきらめ、突き刺した剣をさらに深く押し込む
苦しむドラゴンは、俺の肩にかみついたまま首を振り、反動、俺の体は激しく揺さぶられ
そして、俺は死を確信した、もう逃れられない
やつは、振りながら口を開閉させ、何度も噛みつき、ついには俺の喉元を傷つける
大量の血を流し、俺の意識は遠のく
遠のきながら、ドラゴンの牙から解放されたのが分かる
そいつは、口を開くと、ドスンと音を立ててその場に倒れたようだ
俺の与えた喉元への一撃が致命打となっていたようだった
倒れこむ俺に駆け寄る彼女、薄れる意識の中、彼女の顔は涙でぬれていた
これ以上ないというくらいの泣き顔
涙は次々とあふれ出し、彼女の震えんばかりの泣き顔を最後に俺は目を閉じる
「お願い、死なないで、お願い」
彼女の涙は止まらない
「けど、どうして、どうして」
彼女の最後の問いに俺は答えることができそうにない
そして、彼女は意識の途切れる瞬間最後にこう言った
「あのドラゴン、私のペット」
海とドラゴンと私 ユウ @yuu_x001
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