第154話 23. モフモフ

 ドミニクさんは私と違って、大きくて重そうな剣で戦うタイプの剣士。


 敏捷はそんなに高くなさそうだけど、大振りな剣さばきが、アンフィスバエナの細かい動きを凌駕しているため、あっという間に戦闘が終わる。


 つ、強い…。


 ドミニクさんのおかげで、あっという間に怪我無く壮太君のところに戻ってこれた。


 顔色まで紫になってきて、かなり辛そう。


 「ポイズレスだよ!飲んで!」


 ポイズレスの瓶を口元に持っていくと、壮太君は苦しそうにだったけど、なんとか飲み込んだ…。


 あぁ、どうかポイズレスが効きますように…。


●●●


 30分くらいたつと、壮太君の顔色が良くなってきた。


 良かった…。


「ドミニクさん…。ありがとうございます…。


 何とか大丈夫そうです…。」


 安心で気が緩んだのか、涙が出てきて声が震えてしまった。


「お前は大丈夫なのか。」


「あ、わ、私は大丈夫です。


 先ほど回復魔法をかけていただきましたし…。」


 それにしても、今はほとんど裸の状態なので結構寒い。


 早く猫に戻ってほしい…。

 猫のモフモフはとっても暖かかった。

 あぁ、モフモフが恋しい。


 それを察したのか、ドミニクさんが四つん這いになり、そこに座って言った。


「念のため、朝まで居よう。朝まで俺にくっついてろ。」


 このままでは風邪を引いてしまいそうなので、お言葉に甘えた。


 まだ猫に戻る時間じゃないから多分大丈夫。


 モフモフドミニクさん暖かい。


 男の人の懐で寝るなんて、ちょっとどうかと思うけど…。


 人じゃないからいいよね?フフっ。



●●●


「お、お前はいったい?!」


 ドミニクさんのびっくりする声で目が覚めた。


 モフモフが暖かくて、つい眠ってしまった!


 そして時間になり、人間から猫になる瞬間を見られてしまった!!!!!


「人間なのは、秘密にしてください!」


「なぜ猫に化けている。」


「あまり深くは言えないのですが、魔術で猫にされてしまったのです。


 今日はシングルムーンじゃないですか。


 なので、魔力が弱まって、数時間だけ人間にもどってしまうのです…。」


 気まずい沈黙が流れる。

 

 あれ?今、猫なのに、もしかして、会話しなかった?


「もしかして、私の言葉、理解できるのですか?」


「人獣どうしだからな。


 猫族は人間やエルフとは会話はできないみたいだが。」


 言葉が通じる人がこの世の中にいるなんて!


「どうか、彼には私が人間だって言わないでください!」


「言うつもりはない。安心しろ。」



 ドミニクさんの太くゆっくりした口調はとても心地良い。


 しばらくいろいろお話した。


 誰かとまともに会話したのは久しぶりかも。


 壮太君(ベルギウス)の事は好きなんだけど、猫だから複雑な事まで話しちゃった。


 とても楽しい。


●●●


 朝起きるとドミニクさんは居なくなっていた。


 その代わり元気そうな壮太君の姿がある。


「んにゃーーー!(壮太くーーーん!)」


 私は猫なのを良いことに、壮太君の懐に飛び込んだ。


「あはは、昨日は本当に有難うな。


 おかげで元気になったよ。


 ドミニクと少し話したんだけど、昨夜は大変だったみたいだな。


 本当にごめんな。」


 壮太君は、たくさんなでなでしてくれた。



 体に毒が回るといけないので、1日ゆっくりしなければならないみたい。


 壮太君は、お昼寝したりもしたけど、する事がないので自分の身の話をしはじめた。



「なぁ、フローマー。


 呪いって信じられる?


 信じられない事にさ、僕は呪いで別の世界から来たんだよ。


 そっちの世界では、大怪我してね、歩けなくなったんだ。


 自分で言うのもなんだけど、僕、性格悪くてさ、歩けなくなったとたん、知り合いや友達が、いなくなったんだ。


 残ったのは両親とナナちゃんだけだった。


 両親にはもちろんだけど、ナナちゃんには本当に感謝しているんだ。


 こんな僕でも相手にしてくれて…。


 でも、最近思うんだ。


 家から出れなくなって何の能力もない僕と、一緒にいない方がナナちゃんにとって幸せなんじゃないかって…。」


「んにゃー!(そんな事ないよ!私、壮太君の側にいたいよ!)」


「今はさ、ティアナが好きなんだ。


 こっちの世界にいたら、ちょっとした英雄だしさ、人を好きになってもいいかなって思うんだ。


 でも、ティアナは王女様だからさ…。」


「んにゃー。(王女様じゃ、それはむりかなぁ…。)」


「今、無理だと思っただろう!この前、キスまではしたんだぞっ。」



 キス…したんだ……。


 壮太君、すごく楽しそうに話してる…。


 ティアナさんの事がすごく好きなんだな…。


 

 ナナとは別れて、ティアナさん一筋になりたいって事なんだな…。


 

 壮太君は、川へ水浴びに行った。


 その間、一人で泣いた。


 たぶんさっきの話は壮太君の本音なんだと思う。


 そして、ナナの事を話すときに、一度も好きっていう言葉は使わなかった…。


 

 涙が止まらない。


 でもさ、私、猫なのにばかみたいじゃない?


 言葉も話せないのに、壮太君の事を好きって、それこそ実らない恋だよ。


 でも、猫なら壮太君の側にいられる。


 時々お風呂にも入れてくれるし…。



 ナナはもう側にいられないから、猫のままでいいから側にいよう…。

 

  


 

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