第144話 13.村長の尋問
太陽の光が目にあたり、うっすらと目を開ける。
日が昇っていて朝になったようだった。
私、死ななかったみたい…。
でも、体から毒が抜けてなくて、怠くて辛くて気持ち悪い。
とても起き上がれる体調ではない。
周りに誰かいる…。
毒のせいで、意識が朦朧としているけど、会話が聞こえる…。
「人間がなぜ、ヴァルプルギス村の前で倒れているのだろう…。」
「聖なる剣を握っているぞ!!この子が剣を抜いたのか?!」
「そんな馬鹿なはずがあるまい!聖なる剣は、エルフしか抜けないはずだ!」
「薄気味悪いが、いったん話をきいてみるか…。」
「ナターリエ、人間の看病なんて嫌かもしれないが、少し看病してやってくれ。」
「分かりました村長。」
●●●
優しい女の人の声で、白魔術の魔法を唱えているのが聞こえる。
暖かく気持ちの良い光が、自分の体に降り注ぐのが分かる。
目が覚める。
はぁ、体がすっきりしている!
こんなに気持ちが良いのは、すごい久しぶり!
「よかった。3回の毒消し魔術と3回の回復魔術で、やっと復活ね。
ゴーストモンスターの毒は強いからね。」
と、優しい声で話しかけてくれたのは、まちがいなく、お母さんだ!
「お母さん!」
体の調子は完全ではなかったけど、私はお母さんに抱き着いた。
会いたかった!
今までどれだけ辛かったか、どんだけ頑張ったか、全部話したい…。
「私に人間の子供なんていませんよ。
でも、あなたを見ていると、20年前に亡くなった私の娘ナターシャを思い出すわ。」
お母さんは、子供の頃よくしてくれたように頭をなでてくれた。
20年前?
生贄の儀式から3年くらいしかたってないはずだけど…。
でも、確かにあの時よりもお母さんはだいぶ年をとっているように見える。
でも、まちがいない。
だって、ここは私が使っていた部屋なんだもの!
「お母さん!私がナターシャだよ!あなたの娘のナターシャだよ!」
と、言いたかったが、言えるはずがなかった。
生贄が生きていたとなれば、村長に何をされるか分からないし…。
姿が人間に代わってしまっているから、信じてもらえないだろうし…。
久しぶりに、実家の暖かいシャワーを浴びて、お母さんの手作りの料理も食べた。
私の大好物のツナのキャベツロールだった。
お母さんの美味しいツナのキャベツロール、安堵の感じる、とても美味しいキャベツロール。
懐かしい…。
あの頃は、お母さんとお父さんと一緒に暮らして、わがままも言ったりしたけど、幸せだった…。
あの頃に戻りたい…。
涙なしでは食べられなかった。
「今まで大変だったのね。ゆっくり食べなさい。
あなた、食べ方まで、本当にナターシャそっくりだわ。」
そう言って、お母さんも涙をぬぐっていた。
◆◆◆
体から毒が抜けたので、村長の家に行かなければならないみたい。
お母さんに連れられて、村長の家に行く。
奥の間に通された。
こんな奥に通されたのは初めて…。
でも、まちがいない、ここで儀式が行われたんだ。
子供が寝れそうなサイズの大きな石がある。
あの石の冷たい感覚を思い出して、背筋がぞっとする。
部屋の中には、見覚えのある大人たちが20人近く集まっていた。
「人間、名前はなんと申す。」
真ん中の村長が大きな声で聴いてくる。
な、名前!?
ナターシャですとは言えない…。
「広樹ナナです…。」
「変な名前だな。職業は?」
職業!女優ですとも言えず、どうしたものか。
「魔術師です。」
「嘘をつくな!魔術師はエルフしかなれない職業だ!
人間で魔術をあやつるものは賢者のはずだ!」
そ、そうなの?そんなの知らないし…。
「その剣はどうしたのだ。」
「どうしたって言われても、サラクチェの横に刺さっていたので、抜いたら抜けたんです…。」
大人たちがざわめく…。
「抜いたら抜けるなんて…。」
「そんな馬鹿な…。」
村長が手を上げると、静まり返る。
「なぜあの木の事をサラクチェと知っているのだ!
あの木をサラクチェと呼ぶのは我が村の者だけだ!」
だってマリアンネお姉ちゃんにそう教わったんだもの!
話せば話すほどボロがでる。
「なぜ我が村の前で倒れていたのだ。」
「えっとー、なぜと言われましても…。」
「我が村から最寄りの村まで歩いて3日はかかる。なぜ荷物がないのだ。どこに隠した!」
こちらにトリップする前は、沙也加さんの家に居たので、携帯も財布も本当に何にも持っていない。
持ち物は聖なる剣だけ。
その他は、本当になんにもない。
村長の質問には、情けないくらい何も答えられなくて、怪しい奴丸出しになってしまった。
別に好きであんなところに飛ばされて訳じゃないのに!
案の定、私は檻に閉じ込めれてしまった…。
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