第137話 06.連絡先の交換


 私がこの日本という国にきて、3年がたちもう18歳になった。


 ナターシャ・ヴァルプルギスから広樹ナナになってもう3年。


 日本にもだいぶ慣れた。


 スマホだって、もう普通に使えるんだから。


 広樹沙也加さんは、私がすんごい田舎から出てきた何も知らない子だと思っているみたい。


 出身地や本名を聞かれたけど、本当の事はもちろん何も言えなかった。


 沙也加さんは私に何か事情があるのだと思って、あまり深くは聞いてこなかった。


 すごい助かる…。


 そしてなにより助かったのは、沙也加さんの家に泊めさせてくれて、面倒をみてくれている事。

 

 誰も知らないこの世界で、ベッドで寝れて、ご飯に困らないのは、全部、沙也加さんのおかげ。

 

 その代わりと言っては何だけど、沙也加さんの期待に応えるべく、仕事はめっちゃ頑張ってる。


 カメラの前に立ち、どんな時も笑顔でポーズを撮った。


 モデルの仕事だけじゃなくて、今はドラマの仕事も入るようになって、仕事は順調。


 今日の仕事は、トーク番組への出演!

 

 トークは本当に苦手。

 

 だって、この国に来て3年しかないし、その前の人生は、人々に話すわけにはいかないもん。

 

 カメラの前でボロを出してしまいそうで、うまく話せない…。


 トーク番組に出る目的は、ドラマの番宣なので、番組の最後に「月曜9時から、フローレンスのお暇、絶対見てね!」と可愛く言えればOKだと、沙也加さんにも言われている。

 

 いつものように、可愛く笑顔で、楽しそうに黙って座っていれば大丈夫…。


 撮影本番、ゲストは私の他に、もう一人いた。

 

 沢口壮太という高校生のバスケットボール選手だった。


 一つ年下だけど、ハンサムでお話もすごく上手。


 司会者の質問にも上手に答えて、観客の笑いを誘っている。


「広樹ナナさんは、最近ドラマにも出演していて大活躍ですね。


 妖精エルフのように可愛いってもっぱらの評判ですが、美貌の秘訣を押してもらえませんか?」


 え!こんな質問は台本には無かった!


 ど、どうしよう、な、なんか答えなくっちゃ。


妖精エルフ?あ、えぇ、人間の前はエルフだったので…。」


 司会者と沢口さんの顔を見ると、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。


「なるほどー!前世はエルフだったんですね!その美しさは前世からだと!」


 し、しまった!つい本音が!


 これだからトーク番組は苦手なんだよなー。


「エルフという事は魔法が使えちゃったりするんですか?」


 沢口壮太さんが真顔で聞いてくる。


「ま、魔法ですか…?えっとー…。」


「ちょっと…、体が透明になる魔法が知りたいのですが…。」


「体が透明になる魔法使って何するんですか?」

 

 司会者がすかさず質問をする。


「いや、ちょっとほら、男のロマンですよね。女風呂に…。」


「こらー!沢口さん、エロエロファウルー!!!!」


 沢口壮太さんがフォローをしてくれて、司会者と一緒にめちゃめちゃ笑いをとっている。


 私より若いのに、頭の回転も早くて、かっこいいな。


 番組が終わり帰り際に、ちょうど沢口壮太さんに出くわした。


 この世界に来て、仕事以外の人とラインの連絡先を交換したことないのだけど、思い切って交換した。


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