第136話 05.写真撮影

 私は生贄にされて、死んだ。


 ……

 ……

 ……


 と思っていた。


 でも、どうやら生きている。


 ここはどこだろう。


 

 地面は土も草もない。


 灰色の石が均一で平面で、まっすぐに続いている。



 その上に、信じられないくらいまっすぐに白い線が引かれていて、文字が書いてある。


 30?


 家も信じられないくらい四角…。



 村長が行った儀式で死ななかったって事だよね…。


 どうやら生贄は失敗したみたい…。


 

 行きかう人々がいるが、驚くことに、髪が赤い人も、耳がとがっている人もいない。


 黒か茶色の髪で、耳が丸い!

 

 みんな見たことない衣をまとっていて、それぞれ全くちがう衣だし、すごいカラフルだし、全然見た事ない!


 いったい何?!この人たちは?!


 ここはヴァルプルギス村でも、コルネリア王国でもないみたいだけど…。



 一体どこ?!


 どうしたら良いか分からず、行き交う人々が全員めずらしくて、きょろきょろしてしまうけど、それしかできない!


 こ、これから、どうしよう…。


 ふと、1人の女の人と目が合った、と思うとその人は近づいてきた。


「今、あなた時間ある?」


「じ、時間はありますけど、」


「あなたの年代なら、NanNanってファション誌、知ってるでしょ?


 今、撮影中なんだけど、モデルが急にドタキャンして、どうしても1人必要なのだけど、誰も捕まらなくて困ってるの。」


 この人は私の知らない呪文を唱えているのだろうか。

 何を言っているかさっぱり分からない。


「あなたスタイルも抜群だし、目鼻もくっきりしてるし…。


 不思議な雰囲気がNanNanのモデルにいないタイプだわ…。」


 女の人は、私を見渡しながら、すごい勢いで話し続けた。


「あなた、本当にモデルとしていい人材だわ。


 ニューフェイスって感じだし!私、すっごい人材見つけちゃった!


 あなた、NanNanのモデルのバイトしてみない?


 みんな数々のオーディションをクリアして、NanNanのモデルになるのに、あなたはすっごいラッキーよ。すっごいチャンスよ!」


「あ、あの…。」


 私の動揺をよそに、その女の人は私の手を引いて歩き出した。


「あ、あの…!!!」


「どうしてもモデルが足りないのよ。お願い。」


 よく分からないけど、困っているらしい。


 私で役に立てるなら、とは思うけど、何したらよいのだろう。


「私の名前は、広樹沙也加。小さいのだけど、芸能事務所の所長をしているの。」


 と、白い四角い紙を渡された。名刺という物らしい。


 見る物がすべて新しくて、逆に知っているものが一つもない。


 建物の中に連れていかれたと思うと、沙也加さんは5と書かれた小さいボタン押し、目の前の扉が開いて、とても小さい部屋の中に二人で入った。


 な、なにこれ?!


 体が上に移動しているみたい!


 扉が開くと、別の部屋に出た。


 い、移動魔術?!


 こんなの聞いたことも見たこともない!


「えっと、まずはメイクアップからはじめるわ。鏡の前に座って。」


 沙也加さんは忙しそうに準備している。

 

 聞きたい事はたくさんあるのだが、それどころでは無い感じだ。


 言われたとおりに座る。


 が、鏡に映った自分の姿に目を疑う。


 髪の毛が赤くない!真っ黒な髪になっている!耳もとがってない!


●●●


 それからは、私の人生で経験したことのない事ばかりさせられた。


 唇にや瞼に色をつけて、髪を整えてくれた。


 不思議な洋服も着せてくれた。


 でも、とっても素敵…。



 カメラの前で、手を挙げてとか笑ってとか言われて、言われるがままに、ポーズをとった。


「沙也加社長、ずいぶん可愛い子見つけてきたじゃない!


 写真映りもばっちりだよ。大型新人だね!」


 カメラを構えた男の人が、沙也加さんに報告した。


「そういえばこの子、名前はなんていうの?」


「そういえば、あなた名前は?」


「ナ、ナターシャ…です…。」


 二人の迫力に驚いてしまい、すごい小さい声で言ってしまったので、ちゃんと聞こえなかったみたい。


「ナナちゃんかな。苗字は?」


 あ、違います、ナターシャですと言おうと思ったが、沙也加さんがすかさず答えた。


「広樹ナナよ。私の親戚。」


 沙也加さんが気を利かせたのか、カメラマンにそのように紹介した。


「広樹さんの親戚なんですか?まるで似てないけど…。


 でも、この子は絶対売れるよ。まちがいない!」


 カメラマンは私に手を差し出してきて、飛び切りの笑顔で挨拶した。



 この日から、私の名前はナターシャ・ヴァルプルギスから広樹ナナになった。

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