第109話 22.女物のロングソード
ツークシュ山には行ったことがあった。
ビーバーモンスターを退治しに、マルゲリータの息子であるシルヴィオとティファニーと共に、パーティを組み冒険したからだ。
マルゲリータが息を引き取る瞬間もその場で見た。
その時マルゲリータは、自分自身に回復魔法をかけており、つまり杖を持っていたのを覚えている。
その後はマルゲリータを蘇生するのに必死で、杖がどうなったかは覚えていない。
あそこまで行くまでに3日間歩かなければならない。
道中に出るモンスターを倒しながら行く事になるが、僕は賢者なので近距離攻撃が苦手だった。
近距離攻撃が得意な相棒が必要だ。
その相棒はフローマーで間違いなしだ。
フローマーは料理もできる。
これで道中の食事にも困らないだろう。
フローマーとは、この前一緒に街に出かけた後はぐれてしまい、どこかぎこちなくなってしまったので、これを機に仲直りもしたい。
そうだ!計画していたサプライズのプレゼント、まだ渡していなかった!
「この前、一緒にシーフードレストランに行けなかっただろう?
だから今日こそは一緒に食べような。」
「にゃ♪」
フローマーは喜んで一緒に出かけてくれた。
街中で僕が歩いていると、フローマーが僕の袖を掴んで言った。
「にゃ、にゃー。」
シーフードレストランへの道が違うと言っているのだろう。
それもそうだ。
僕はご飯の前にプレゼントをしようと、別の店に向かっていた。
「いいからいいから、僕の後についてきてくれよ。」
僕が向かったのは鍛冶屋だった。
街で唯一ドワーフのおじさんが営む店だ。
ドワーフは道具作りに非常に長けた種族で、このおじさんの作った武器は切れ味もよく、冒険者たちに大人気だった。
その分、他の店より値が張るのが欠点だ。
「おじさん!こんにちは!」
「あいよ!ベルギウス様!いらっしゃい!」
「頼んだやつできてます?」
「もちろんだよ!」
フローマーにプレゼントするために何度か通ったから、すっかり顔なじみだ。
そもそも武器を持たない賢者がこの店に入ること自体珍しいのだが。
「さぁ、フローマー、ロングソードどう思う?
君にふさわしいと思って、どう?」
「んにゃー?」
「まったく、君は鈍いな。
君へのプレゼントだよ。
いつも僕にご飯を作って待っててくれるじゃないか。
テーグリヒスベック城で働き始めて給料が出たからね。
初給料でプレゼントだよ。」
フローマーはしこたま驚いているようだった。
薄情な僕がこんなに素敵な事をしてくれるなんてと思っているようだった。
テレパシーが漏れているのか、伝わってきてしまった。
僕って、そんなにフローマーに対して薄情な事をしたつもりはあまりないのだが…。
「君の趣味がわからないんだけど、女の子だから可愛いのが良いかと思って。」
フローマーはいつもロングソードを持ち歩いているのだけど、絶対に使わないのだ。
戦闘の時は素手での攻撃、必殺の猫パンチだ。
なのに時々、そのロングソードを手に型稽古?のような事をしているだ。
本当は使いたいのではないかと思っていたのだ。
ドワーフのおじさんに女の子へのプレゼントだと言ったら、グリップのところにオステオスペルマムの花を刻印してくれた。
薬草以外の花の知識は全く無く、興味もなかったが、今、街の女の子の間でこの花がはやっているとの事だった。
フローマーはオステオスペルマムの剣を入手した!
そして、泣き出してしまった。
「おいおい!どいういう事だよ!なんで泣くんだよ。」
僕はびっくりしたが、それが嬉しくて感動の涙である事が分かった。
喜んでくれて、僕もすごく嬉しくなった。
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