第108話 21.マルゲリータの杖

 好きになってはいけないと思えば思うほど、僕はティアナの事が好きになっていたようだった。


 ティファニーへの想いも少しずつ上書きされて、今はティアナへの想いでいっぱいだった。


 でも、どんなにティファニーを愛しても、ティアナを愛しても、結ばれない恋愛だった。僕はバカだ。


 望みが高すぎる。



 となりの国の王族なんて、僕のような冴えない賢者が相手にできるような存在じゃない。


 ティアナとのキスの後、テーグリヒスベック城の執務室に通ってはいたが、調べ物に集中できない。


 今はどんなに執務室にいても、全然はかどらない。


 マルゲリータ邸でたまにはゆっくりするか。



 執務室から出ると、偶然、レオンハルト王とすれ違った。


 部屋が隣なのに、めったにすれ違わないし、姿を見かけることもない。


 僕は軽く会釈をしてその場を立ち去ろうとした。


「ベルギウス、久しぶりだな。どうだ最近の調子は。」


 進捗の悪い時に、タイミング悪く王様にすれ違ってしまった。


 最近の調子と聞かれても、良いことは答えられない。ここは正直に話すしかないな…。


「実は、マルゲリータ様が持っていた呪いの魔術書に、ヴァルプルギスという、エルフの村の名前が書いてあったのです。


 一度行かなくてはと思い、どんな村なのかとか調べているのですが、なかなか情報が無くて行き詰まってるところです。」


「ヴァルプルギス村だと?」


「何かご存知ですか?」


「いや、知り合いの出身地というくらいしか…。しかし強いモンスターが出没する地域だったはずだ。」


 王様は少し考えた後、さらに続けた。


「ベルギウス、お前はマルゲリータの杖を継承しているか?」


「マルゲリータ様の?いえ、僕の杖は街で買ったものになります。」


「呪いの謎を解いて行くに当たって、今後,危険な地域に行く必要があるかもしれぬ。


 そういう時にマルゲリータの杖は役にたつだろう。


 杖によって魔力は増大される。


 彼女は素晴らしい杖を持っていたはずだ。


 彼女が亡くなったとツークシュ山にあるのではと思っているのだが…。」


「ツークシュ山ですが。


 少し遠いですが、行ってみる価値はありますね。


 最近、調べごとに行き詰まっていましたし…


 行ってみようと思います。」



 僕は、ツークシュ山へ行くことを即決した。


 調べごとが進まなくてむしゃくしゃしていたし、ティアナへの想いが積もって集中できなかったから、体を動かしている方が良いと思ったのだ。


 僕はさっそくツークシュ山への準備に取り掛かった。

 


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