第94話 07.ミルコとの確執

 レオンハルト王国の黒魔術(中級)のコースに、コルネリア王国の第4王女、ティアナも参加することになった! 


 ティアナは、みんなの前に立って、優しい笑顔で挨拶した。


 エルフは僕たちと違って、真っ白な肌に真っ赤な髪と瞳をしている。


 さすがに見慣れたけど、最初の頃は驚いた。



 ティアナと目があったような気がして、僕は目立たないように小さく手を振ってみる。


 そんな僕を見つけ、ティアナも笑顔で返してくれた。


「はじめまして。皆さん、気軽にティアナって呼んでくださいね。


 さぁ、ミルコ、席につきましょう。


 先生の邪魔をしてはいけないわ。」


 ミルコと呼ばれたそのエルフの男は、「なんでエルフの我々が人間から黒魔術を教わらないといけないんだ…。」と、独り言をつぶやいているのがが聞こえてきた。


 嫌なら受けなければ良いのに。



 たしかに、エルフはもともと魔力の強い種族で、どうやっても人間の僕たちにはかなわない。


 だからエルフと同じように魔術を使う賢者をバカにしている、そういうことなのだろう…。


「ベルギウス、お久しぶり、お隣座っていいかしら。」


「やぁ!ティアナ。久しぶりだね。また会えるなんて嬉しいよ。」


 僕は隣の席に置いていた荷物をよけてティアナに譲った。


「おい!お前!王女様に馴れ馴れしすぎるぞ!」


 と、ミルコはティアナが座ろうとしていた僕の隣に座った。


「んもう、ミルコったら…。」 


 ティアナは、残念ながら僕の隣の隣に座った。


 なんだ、このミルコって奴は…。


「よろしいですか。授業を始めますよ。


 ここは中級クラスだから、みんな基本的な事は知っているね。


 初日の今日は火の魔術のコントロールの仕方について、やってみようと思いますよ。」

 

 そう言うとゲールノート先生は、生徒全員にクリスタルでできた箱を全員にくばった。


「火の魔術を室内で唱えると、火事になって危ないからね。


 このクリスタルキューブの中に火の精霊を発生させて下さいね。


 火の魔術は、みんな強いモンスターを倒そうとして大きな火の精霊を出す練習をする人が多いのです。


 でも火の精霊は、大きな精霊より小さな精霊を出す事が大変難しい魔術なんです。


 小さい火の精霊は家の中でろうそくを付けたり、火種になったりもできて大変便利なんですよ。


 また、小さい火の精霊の魔術を練習することは、全属性の精霊をコントロールする事に大いに役立ちます。」


 そう言って、ゲールノート先生はみんなの前でお手本を示す。


 龍の形をした火の精霊がクリスタルキューブの中に浮かび上がる。たしかに小さい!


「では、みなさん、ご自分の杖をクリスタルキューブに当てて、火の魔術を唱えてみましょう。」


 ビーバーモンスター退治の時は、頼りなかったけど、やっぱりいろんな事を知っているんだな。

 ゲールノート先生すごい。


 僕は、みんなと同様に火の魔術を唱えた。


「火の精霊よ、大地に眠るマグマの灼熱をここに集め、龍となって焼き尽くせ。」


 確かに今までいかに大きな精霊を出すかばかりを気にしていたので、小さい精霊を出すのがおかしな感じだ。


 集中して呪文は唱えるけど…んー、難しい。変な感じだ。



 僕の精霊はクリスタルキューブいっぱいの大きさだ。


 炎の龍がクリスタルキューブの中で体を縮め窮屈そうにしている。



 隣のミルコとティアナのキューブをみると、火の精霊の大きさは1cmも無かった。やっぱりエルフって凄い!


「お前、火の魔術唱えたことあるのかよ。なんだそれ。」


 ミルコが僕のを見てバカにしてきた。


 なんで初対面の僕にこんなに感じ悪いんだ?ずいぶん酷いやつだ。


 イラっとする。


 でも、こんなバカは相手にしちゃいけない。


 ティアナもどうしてあんなやつと一緒にいるんだ。


 まったく。無視だ無視。



 僕はこの授業で少しでも得られるものを得たいから、小さい精霊が出せるように練習したい。


 僕は気にせずまた詠唱した。


「火の精霊よ、大地に眠るマグマの灼熱をここに集め、龍となって焼き尽くせ。」


 んー、さっきのよりかは半分くらい小さくなった!


 少しコツを掴んできたかな。


 それでも、ミルコやティファニーの精霊よりはふた回り以上大きかった。


「お前、本当に魔術が下手なんだな!やっぱり人間って全然ダメなんだな!」


 そう言って、ミルコは僕の頭を撫でてきた。

 

 まったく面識のないやつに、なんでここまでバカにされなければならないんだ。


 なんて失礼なやつなんだ!こんなに人を馬鹿にするやつ見たことねー!



 僕は決して喧嘩っ早い方ではない。


 どちらかというと、基本は無視をするのだけど、この時ばかりは、怒りが急に沸点に達してしまった。


「いい加減にしろよ!エルフは腕力が弱い種族だって言うじゃないか。


 今ここで試してみるか!」


 僕は、頭の上にあるミルコの手を力一杯払って言ってやった。


 こういう事を言ってくるやつは、少し言い返したほうがいい。


 その時、僕たちの会話を聞いていた、前の席の人が入ってきた。


「おい、お前。ティアナさんが王女様だって事はよくわかった。


 お前がバカにしているこの人が誰だか知っているのか?


 お前の国は、数ヶ月前、ビーバーモンスターが作ったダムのせいで、水が枯渇して大変な状況だったじゃないか。


 誰もが倒せなかったモンスターを退治したのが、お前の隣にいるベルギウス様なんだぞ。


 お前の国を救った人間なんだぞ。」


 ミルコがまじまじと僕と、僕のクリスタルキューブを見る。


「やはりお前がベルギウスだな。


 見てみろよ!ベルギウスの弱そうなこの火の精霊を!」


「ミルコ!もうやめて!」


 ティアナが透き通る声で注意した事で、クラス内が一瞬騒然となる。


「ベルギウス様、こんな奴、相手にしないほうが良いですよ。


 ここは城です。問題を起こさないほうが懸命です。」


 今度は僕の後ろの席にいた人が、僕を心配して言ってくれた。


 ここはレオンハルト王国だ。


 コルネリア王国から来たミルコよりも僕の味方は多い。



 僕は、怒りを押さえ込んだ。


 時間的に、授業はまだまだ続きそうだったから、僕は席を移した。あんな奴の隣になんて座っていられない。

 

 せっかくティアナに会えたから授業の後にでもゆっくり思い出話しでもしたかったが、ミルコがいたら、まぁ無理だろうなぁ。


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