第95話 08.消えた記憶

 王様に極秘調査を依頼されてから、毎日、テーグリヒスベック城にあるマルゲリータの執務室に向かった。


 現実世界へ帰れる気配は全くない。



 あの本の量を見て途方にくれたけど、とりあえず、なんとかマルゲリータがやってきた事がわかる資料を見つけないと。


 それがないと前には進めない気がする。


 僕の知識はあまりに浅すぎる。


 ベイビープールもびっくりだ。



 本棚を見ていてわかったのは、意外と綺麗に分類されている。


 これに気がついた時は、本当に胸をなでおろした。


 一番奥の本棚は、マルゲリータの前任者達の資料だった。


 そして全て年代別に分かれている事が分かった。



 マルゲリータはいったいいつからこの城で働いていたのだろう。


 おそらく、本をたどっていけば、すぐわかるのだろう。


 呪いの調査開始までもう少しだ。

 


 そういえば、王様からの連絡があり、例の極秘調査に関してコルネリアから使者が来ると書いてあった。


 全面的に協力せよとの事だったけど、コルネリア?まさかティアナ?ミルコだったら協力は難しいなぁ。



 一方でゲールノート先生の黒魔術(中級)の講義も真面目に出席した。


 マルゲリータからもいろいろ教わっていたが、違う先生の話も聞けて、なかなか面白い。



 ティアナの存在はすごく気になるけど、ミルコがいるせいで、挨拶するのが精一杯だ。しょんぼり。



 そんなある日、いつもどおり黒魔術(中級)の講義に出席すると、ミルコがいない!


 ティアナだけで講義に参加している!



 講義が終わると、僕だけじゃなくて、クラスのほぼ全員がティアナの周りに集まった。


 そりゃぁ、隣国の王女様だ。


 しかもかなりな美人ときている。


 中には、「エルフの方とお話しするのも初めてで。」という人もいた。



 ティアナも皆んなと話したかったみたいで、しばらく談笑していた。



「みなさん、楽しくお話しさせていただいてありがとう。


 王女って窮屈で、コルネリアにいると、一般の方とお話しする機会もあまりなくて。


 今日はたくさんの方とお話しできて、とっても嬉しかった。」



「もう、お帰りになるんですね。僕が宿までお伴します!」


「お、俺も!」



 少しでもティアナと一緒にいたい男どもが名乗りを上げた。


 しまった、僕は名乗り遅れた。



「実はね、ミルコがいない間にベルギウスに相談したいことがあるの。


 彼がいると話がややこしくなるから…。」


 ぅわっほーい!ご指名だ!やっとティアナとゆっくり話せるー!みんな、ごめんよー!へっへー。


 みんなは、僕とティアナがビーバーモンスター退治のパーティにいたのを知っていたので、仕方ないと諦めて、それぞれ帰っていった。


 ティアナは人がいないところで話がしたいと言うので、マルゲリータの執務室に案内した。


「埃っぽくてごめんね。


 僕もここで働き始めて数週間たつんだけど、膨大な書類の整理に追われちゃって…。」


「う、うん。ちょっと汚いね。」


 ティアナは口と鼻をハンカチで覆って言った。



 僕は念入りに一番綺麗そうなティーカップを選び、念入りに洗ってお茶を入れた。


 僕が人にお茶を出すなんて…。


 現実世界の人が知ったらびっくりするだろうな。



 執務室には、マルゲリータ専用の大きな机が中央にあり、その前にみんなで相談できるように10人がけのテーブルが置いてあった。


 そのテーブルにティアナと向き合って座った。


「そういえば、今日はミルコが居なかったね。」


「うん。コルネリアの方で何か用事があったみたい。


 私一人で黒魔術の講義には出るなって口すっぱく言われたんだけどね、たまには羽を伸ばしたいと思って。」


「彼は君のボディーガードか何かなの?」


「うーん。もしかしたらお父様にしっかり見張るようにって言われているのかも。


 ちょっと彼、頑張りすぎるところがあるからね。」


 ティアナの話によると、ミルコは幼馴染で、子供の頃からずっと一緒にいるそうだ。


 あんなのとずっと一緒にいるなんて、ある意味すごいと思う。


「そういえば、僕に何か話があるんだろう?」


「えぇ、実はそうなの。


 あなたも知っている通り、レオンハルト王とコルネリア王は若い頃からの知り合いで、濃密に情報を交換しているの。


 で、お父様から聞いたのだけど、あなたも人が消えて無くなるという呪いの事について調べ始めたと聞いて、会わずには居られないと思って来たの。」


 王様の手紙にあったコルネリアの使者とはやなりティアナだったのか。


 ティアナは話を続けた。


「実はコルネリアでもこの呪いの事は問題になっているの。


 で、王族である私が調査を始めたのには、理由があってね、その、実は第5王女がいたみたいなの。」


「いたみたいって、どういう事?」


 第5王女はティファニーで、ティアナとティファニーはいつも一緒にいた。


 なんか言葉尻がおかしてく、僕はつい確認してしまった。


「私には第5王女の記憶がないの。」


「記憶がないってどういう事?


 君たちはあんなに仲がよくて、いつも一緒にいたじゃないか。


 ティファニーの事、覚えてないの?」


「えぇ?!あなたは第5王女の記憶があるの?名前はティファニーなの?!」


 いったいどういう事だ?

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