第33話 王女のわがまま〜転生して王女になったんだから、少しくらいわがまま言ったって!〜

 エステルに急かされ、魔術の講義を受けにやってきた。


 紫色のローブをきた先生が黒板の前で待っていた。


「おはようティファニー。今日は遅れずに来てくれてありがとう。」


「お、おはようございます。」


 どうやら私は、毎回遅れて授業に参加しているらしい。


 末っ子の第5王女だから、きっとワガママやって来たんだろうなと、勝手に想像した。


「では、早速授業を始めます。


 ご存知の通り、エルフは魔力の強い種族です。


 王族はその中でも群を抜いて魔力が強い事もあり、白魔術師か黒魔術師のどちらかになるのがしきたりです。


 白魔術は黒魔術を全てマスターしないとできませんので、勉強の苦手なティファニー様は、一つでも多く、黒魔術を覚えるべく、頑張っていただかないといけません。

 

 では、今日は水の魔術を覚えましょう。」


 黒魔術の先生は、水の素子がなんだとか、水の魔術を作った人がなんだとか、永遠と小難しい話をした。


 さっぱりわからなかったが、呪文を詠唱する時は、雑念なく、言葉を理解して唱えないといけないという事だけは分かった。


 先生の言う通り、集中して、呪文を詠唱してみる。


「水の精霊よ、清らかな流水を激しく凍てさせ、汝に降り注がれん。」


 バリバリバリ!


 大きな音とともに、巨大な鋭い氷の塊が現れ、先生の真ん前に落ち、危なく先生に当たるところだった。


 机や床がめちゃくちゃに壊してしまった。


 わ、私って魔力があったんだすごい…。


「ティ、ティファニー様…、さすが王族、魔力が大変強くてございます。」


 先生も驚いている。



 その日から、私は授業に出るのをやめた。


 あんな授業、危なくて、怖くて受けられないよ。


 王女だし、多少のわがままは許されるはず。


 エステルには朝になると、講義に出るようしつこく言われて、喧嘩になって面倒くさい…。


 当たり前かもしれないけど、3日も経たないうちに、コルネリア王に呼び出されてしまった…。



 たぶん…、怒れるよね…。

 まぁ、授業をさぼっているわけだし…。


 王様の呼び出しを無視するわけにはいかないからな…、足取り重く、王様の部屋に向かう。


「ティファニー、またいろいろやらかしているようだね。」


 王様は、怒ったら怖そうな顔の皺をしているが、今は、優しい笑顔をしていた。


 寝間着の上にふわふわのローブを着ている。


 私が今着ているシルクのような素材で、その艶めきはまるでパールを思わせる美しさ。


 ところどころ金色と赤色の糸で細かい刺繍がしてあり、その刺繍は私の洋服と似ていた。



 隣には似たような服装の女性もいた。


 母である王妃だろう。優しく微笑んでこちらを見ていた。


 二人とも、若い頃は真っ赤な髪をしていたのだろうが、今は年老いたせいか赤色がかすれてオレンジ色っぽくなっていた。


 王様は、近くに寄るように言い、私は跪いて王様の膝に手を載せた。


 すると、その大きくて暖かい手で、私の手を握って言った。


「魔術の授業を最近さぼっているようだね。


 みんなを困らせてはダメじゃないか。いったい何があったんだい?」


 今は優しそうに見えるが、何か間違ったことを言ったら、激怒しそうな恐ろしさが、ひしひしと伝わってくる。


 こんなダメな私が何一つかなう訳もなく、きっと怒り出すに違いない。


 私は恐怖のあまり、目から涙があふれてきた。



 近距離で、しかもとても大きな目で、じっと見つめながら、私が話し出すのを待っている。


 何か話さなければならない。


 王様は大きな目で私を見つめている…。


 全ての嘘は見透かされてしまいそうな感じがして、この人の前ではきっと嘘は通じない…。


 ただ正直に話をしよう…。


「お父様、私、黒魔術が怖いのです。


 私、水の魔術の先生を、殺してしまうのかと思ったの。


 そんな怖い魔法を、勉強したくないし、知りたくないのです。」


「ハハハ。じゃぁ、簡単だね。ティファニーは白魔術師の勉強をすると良い。」


 王様は豪快に笑い、堀の深い顔は満面の笑みになり、やさしい口調で話してくれた。


「し、白魔術ですか?」


「そうだよ。白魔術は、怪我をした人を治すための回復魔法だよ。


 少し攻撃魔法もあるけど、ティファニーが嫌なら覚えなくてもいい。


 黒魔術よりはちょっと難しいんだけど、頑張れるかい?」


「人を助けるための魔法なら…、私頑張れるかも…。」


「黒魔術は白魔術の基礎だから、本当はしっかり学ぶと良いのだけどね…。


 そんなに嫌なら、まずは白魔術から学ぶと良いだろう。」


「あなたは姉妹の中でも魔力が強いから、期待しているのよ。


 きっと良い白魔術師になれますよ。


 第4王女のティアナも白魔術を選択したわ。一緒に学んではどうかしら。


 二人は子供の頃からとても仲が良かったら、一緒に学んだら、楽しいかも。」

 


 母も、優しい笑顔で言ってくれた。



「よっぽど怖い思いをしたのね。泣く必要なんて無いのに。


 まったくいくつになっても子供なんだから。」


 王妃は、私を抱きしめながら言った。



 とても良い香りがして、柔らかかくて、暖かい。


 うまく説明できないけど、すごい安心感。



 王も王妃も、王である前に、私の両親なんだなぁ…。


 こんな私のわがままを聞き入れてくれて、両親って絶対的な味方なんだな…。



 現実世界にはいない両親。


 私は、黒魔術の怖さだけではなく、今までの寂しかったこと辛かったこと、色んな事が急に頭の中に蘇り、母の胸の中でたくさん泣いてしまった。


 父と母のやさしさに触れ、久しぶりに心が温かくなるのを感じた。

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