サブエピソード

その1 山のバーベキュー

黒江「そういえば、黄河ってお酒好きだよね。」

黄河「ん~? まぁ、そうだな。うちの親父もお袋も好きだしなぁ。」

黒江「特に好きなお酒ってあるの?」

黄河「そーだな……。やっぱビールかな。炭酸が好きって言うのもあるけど、一気に飲んだ時のあの感じがたまんねぇんだよな。」

遠藤「……だが、ほどほどにしておけよ。『酒は飲んでも飲まれるな』だ。」

黒江「あ、遠藤。今日は運転手だから飲んでないんだっけ?」

遠藤「……ああ。だが、俺はあまり酒に強くなくてな。元より飲むつもりはあまりなかったさ。」

黒江「えっ、そうなの? 何か勝手にお酒に強い印象あったけど……。」

遠藤「……この外見だからな。そう見られている自覚はある。アルコールよりもコーヒーの方が好きなんだが。」

黒江「あぁー、でもコーヒーもなんか合ってる気がする。」

足立「ぃよう! くろやん飲んでへんの? 飲まな損やで! ゴクッゴクッ」

黒江「うわっ! 酒くさ! 飲み過ぎじゃないの?」

足立「チューハイやさかい、そんなアルコール入ってへんで~?」

黄河「お前チューハイ好きだなぁ。さっきからそればっかじゃねぇか、ビール飲むか?」

足立「ビール苦いやん、俺好きくないわぁ。」

黄河「ちぇっ……、誰か一緒に髭作ろうぜ? なぁ? ……ぅん? あれ、もうビールねぇや……。おーい! 天音! そっちにビールねえか!?」

天音「あるよ! 取りに来な!」

黄河「めんどくせぇな……。まぁでも仕方ないか、行こ……。」

天音「黄河アンタ……、だいぶ飲んだね? 体壊すんじゃないよ?」

黄河「お前は俺のお袋かよ! それより、ビールくれ、ビール。」

天音「はいはい、まったく……。おや、黒江は酔ってなさそうだね。と言うより、飲んでないのかい?」

黒江「うん。得意じゃなくてさ。」

天音「へぇ、そうかい。」

黒江「どうなんだろ、やっぱり男の人はお酒強い方がカッコいいって思う?」

天音「いや……。酒に弱くても、それをしっかり自覚して抑制できるのが大人ってもんさね。弱いのに大酒かっくらって周りに迷惑かける男は三流以下だと思うけどね。」

遠藤「……お前は相変わらず男前だな、天音。」

天音「アンタには言われたくはないけどねぇ?」

土田「ね~え~ミカっち、甘い物もうないの~?」

天音「アンタ、せっかくのバーベキューなのにお菓子ばっか食ってちゃもったいなくないかい?」

土田「いいよ~、お肉あんま好きじゃない~。」

井上「あっ、あの……。土田さん、私お菓子持ってきてますよ。」

土田「あやかっち! あぁ~、めがみじゃ~。」

天音「少しは遠慮しなよ、もう。……すまんね、彩葉。あとで代金は払うから。」

井上「いえいえ、みんなで食べようと思って持ってきたので……。」

天音「ふぅん、そうかい……。そうだ。おーい! 黒江たちももらったらどうだい?」

井上「ふぁあ!? ちょちょ、天音さんっ!?」

天音「いいじゃないか、ここらで少しはアピールしとかないと取られちまうよ? 意外とアイツ、人気あるんだからさ。」

井上「そ、それは……。確かに黒江君は優しいですし、身体も大きくなくて怖くないですけど……。」

天音「命短し恋せよ乙女、さね。ほら、来たよ?」

黒江「何だった、天音さん?」

天音「いや、彩葉がお菓子持ってきてくれたんだよ。黒江たちにも分けてくれるってさ。」

黒江「え、いいの?」

井上「あっ、わわ、ど、どど、どうぞっ!」

黒江「おぉ……、すごい、これ昔よく食べたやつだ。ありがと、井上さん。そう言えば、この前貸してくれた本、凄い面白かったよ。」

井上「ほ、本当ですかっ!? あれ、最新作なんですけど、心理描写に力を入れたものらしくて、流石作者が心理学部出身なだけはあるなって……」

日笠「……何よアイツ、デレデレしちゃって。」

黄河「おお、日笠。どうしたんだそんなところで。」

日笠「別に。何でもないわよ。」

黄河「うん? ……オイオイオイ、何だ? おい、足立。見てみろよアレ。」

足立「アレ? どれぇ?」

黄河「アイツだよ、黒江。黒江の野郎、青春してやがるぜ。」

足立「……ホンマやん。あら俺らモテへん野郎共への宣戦布告やで。」

黄河「でも井上さんに罪はないな。」

足立「せやな。大学に帰ったら、くろやんをからかったる程度で許したるかな。」

黄河「でも、黒江がああしてモテているのはマズいんじゃないっすかね。ねぇ、日笠さんや。」

日笠「ハ、ハァッ!? あ、なんでアタシが関係あるのよ!? バカじゃないの!?」

黄河「いやぁ、だって黒江によくちょっかいかけるし、アイツに気があるんじゃないかなって……。」

日笠「そ、そんな事、あるわけないじゃない! 目ぇ腐ってるんじゃないの!?」

黄河「まぁ、アイツの事は俺が保証するさ。アイツは良い奴だよ。少し変わってるところはあるけどな。」

足立「自分も人の事言われへんで?」

日笠「ふ、ふん! 別にアンタに言われなくても、分かってるわよ! ……って言うか、ほんとアンタら仲いいわね。中学から一緒なんだっけ?」

黄河「ああ、親友だぜ。羨ましいか?」

日笠「あっそ。勝手にオランダなりにでも行って同性婚でもしてきなさいよ。」

黄河「別にその趣味はないな。ただ、アイツが女だったら真っ先に確保してたな。その自信はある。」

足立「大学まで一緒な時点でもう半分確保してるようなもんやんけ!」

黄河「うっせ! そういや、敷島さんは一緒じゃねぇの? いつもよく一緒にいるじゃん。」

日笠「零なら、あっちで先輩たちに付きまとわれてるわよ。」

黄河「うわぁ、マジだな。さすが高嶺の花。モテモテじゃん。」

日笠「さっきから先輩たちのアタシに対する『お前邪魔』って言う視線が鬱陶しかったのよね。零が『大丈夫だから』って自分から話しかけに行っちゃったけど。」

足立「ほんで、あっちでは乃木はんが女子の先輩たちのお相手してはるな。」

黄河「アイツも背ぇたかいから、どっちが年上か分からんな。何だっけ、宝塚みたいだなあそこだけ。」

日笠「嫌われるのも嫌だけど、あんな風になるのも考え物よねぇ。アタシだったらごめんだわ。」

足立「日笠はんなら、アキバあたり行かはったらあの二人みたいになるんちゃうん?」

日笠「死んでもごめんだわ!」

遠藤「……そんなところで三人固まって何してるんだ? そろそろ肉が焼けて来たぞ。今焼いているのは、うちの親戚がくれたやつなんだ。ぜひ食ってくれ。」

黄河「マジで!? お前の親戚っつったら、めっちゃ有名な焼肉屋じゃん! これは逃せねぇぜ!」

足立「A5! A5ランクや!」

遠藤「……いや、流石に店で商品として出すようなのではないと思うが……。まぁ、美味さは保証しよう。日笠もどうだ?」

日笠「そうね、じゃあもらおうかしらね。」

黒江「あっ、井上さん。お肉焼けたらしいよ。貰いに行ってこようか?」

井上「それであの短編のラストシーンは菊池寛の『真珠夫人』をオマージュしていて……。えっ? あっ、ごめんなさい、何でしたっけ?」

黒江「お肉が焼きあがったらしいんだけど、井上さんもいる?」

井上「え、や、わ、私はもうお腹いっぱいなので……。だ、大丈夫、です!」

黒江「そっか。じゃあ、僕もらってくるね。」

井上「は、はい……。」

天音「……上手く話せたんじゃない?」

井上「うゅっ!? あ、天音さん! うう後ろから突然話しかけないでください!」

天音「ごめんごめん。でも、女同士だと普通に話せるのに男の前じゃ緊張するって、難儀なもんだね。でも、好きなものの話だと大丈夫だと。」

井上「我ながら、オタクっぽいというか、何と言うか……。」

天音「好きなものに熱中するのは良い事さね。な、栞?」

土田「好きだから熱中するし、熱中するから好きなんだよ~。」

井上「お二人の話は、感性的と言うか、深い感じがしますね。」

土田「好きに理屈はいらないんだよ~。いろはっちなら、分かるんじゃな~い~?」

井上「ま、まぁ、それは……、その……、ゴニョゴニョ……。」

天音「それにしても、あっちの空の方。少し曇って来たね。これはもしかしたら、雨でも降るんじゃないかい?」

土田「え~!? 私まだ食べたりない~!」

井上「つ、土田さん。お菓子は別に車でも食べられますし……。」

天音「まぁ、雨が降ってもいい様に、少しずつ片付けとくかね。でも、あの細い道を雨で帰るのは不安だねぇ。」

遠藤「……うむ、責任重大だな。」

土田「おぉ! いきなり現れたねひろっち! 大きいのに気づかなかった~!」

遠藤「……普段から車は運転しているから、ある程度運転に自信はあるつもりだ。それでも、最大限安全運転することを誓おう。」

天音「頼んだよ。まぁ、そんなことそうそうありはしないと思うけどね。」

遠藤「……ああ。だが、油断はできない。山の天気は変わりやすいからな。見ろ、さっきまで雲一つなかったのに、もう曇り始めている。」

天音「ほんとだ。向こうの雲もいつの間にか近づいて来たね。こりゃ本格的に片付け始めようかね。」

遠藤「……それが良いかもな。食材も、生ものは大体食い終わった頃だ。潮時かもしれん。」

井上「あっ、えっと、そ、それじゃあ、私、先輩たちに一応その事伝えてきますね。」

天音「ああ、頼むよ。」

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