第2話 破壊者の役割

 美しい花が咲き乱れる、楽園の山。その地になる木の実は禁断の果実であり、ひとたび口にすれば、たちまちのうちに大神の怒りに触れ、地の底へと突き落とされる。どこからか賛美歌が鳴り響き、山の雰囲気をより荘厳にしている。

 ここは煉獄の山。大きな罪を犯さず、しかし真理にも達しなかった亡者が、神への祈りを捧げる場所。その祈りが大神へと届けば、山の頂上、原初の人が暮らしていた楽園へと導かれ、さらに天国への道が開ける。そこへ行くために、多くの亡者たちが、山裾に伏せ、ひたすらに祈りを捧げ続ける。

 その中に一人、もう500年近く、この地に伏せている男がいた。様々な知識を修得し、悪魔と契約して堕落した日々を送り、死してその罪を聖母に拾われた男。賢人は、今なお、神の許しを得るために祈り続けていた。神と悪魔の賭けに使われ、結局は悪魔の勝ちとなったのだが、それでは神の体裁が整わないという理由で、特別に許しを得られた、奇特な男。

 聖母の許しに拾われたが、さすがにこのような咎人を天国に導くわけにもいかず、半ばうやむやに煉獄に連れてこられた。そのような経緯の賢人にも、つい最近になって、チャンスが訪れた。ある女性神との語り。それによって真理へと達すれば、やっと賢人も許されるという。

 山が震える。大神の許しが得られた合図。この山が震えるたびに、誰かが許しを得られ、山を登れる。今回も、それは賢人ではなかった。やおら一人が立ち上がり、晴れ晴れとした顔で山を登っていく。賢人より後に来て、賢人より先に山を登る。そんな光景を、もう数え切れないほど見た。もはや賢人より先にここに来たものはほとんどおらず、後から来たものが先に立ち去っていく。時に恨めしくもなるが、その感情こそ許しが得られない証であると、こらえて祈り続ける。

 その少し後。軽やかな鼻歌が、山の上から聞こえてきた。

「来た。」

賢人は心の内で快哉を叫ぶ。この山を降りてくる亡者などいない。辺りに響く賛美歌に合わせて、調子の良い鼻歌が聞こえてくる。鼻歌は確かに賢人に近づいてきており、それが賢人を高ぶらせる。

 やがて、目の前に、先の反り返った靴先が見える。

「賢人さぁん、顔上げていいよぉ。」

その言葉とともに、賢人の体は自由になり、賢人はゆっくりと顔を上げる。果たして、そこには記憶に新しい顔があった。美少女の顔に、目の周りに星、左の頬に涙のペイント。二股に分かれた黒い帽子。だぶついた黒い服。愚神だ。

「じゃぁ~~~ん、愚神様ぁ、再び参上ぉ~~~。」

どっかーん。

やはり謎の爆発が起こり、亡者が数人吹き飛ばされた。

「あの、お言葉ですが愚神様、亡者をむやみに吹き飛ばすのはやめてやってください。あの者たちは、熱心に祈りを捧げているのですよ。」

「いやぁ~~~。やっぱり爆発は登場シーンの基本だからねぇ~。」

ケラケラと笑いながら、わからない理屈を堂々と発言する愚神。いそいそと元の場所に戻る亡者たち。

「いやお前らも何か言えよ!言ってもこのくらいじゃ地獄になんて落ちないって!むしろ正当な意見だよ!」

賢人の意見もむなしく、文句一つ言う者はいなかった。

「まぁまぁ、そんなことよりぃ、さっさと本題に入ろうよぉ。私もぉ、暇じゃないしぃ。」

こんなのにも仕事があるのか。言いたいのをぐっと我慢する賢人。コホン、と咳払いをしてごまかし、

「腑に落ちませんがわかりました、愚神様。それでは、早速。」

「フムフムぅ、じゃぁ、今回のお題はぁ?」

愚神は実に興味深そうにうなずく。賢人はそれに応えるように、「問い」をかけた。

「人は自然から産まれたものです。しかし今、人は自然環境を破壊し、その報いを今にも受けようとしています。教えてください。人は、自然とは共存できないのでしょうか。」

賢人の問いかけに、愚神は「ふーん」とうなずくと、

「賢人さぁん、地球の歴史上でぇ、一番環境を破壊した生きものってぇ、知ってるぅ?」

「それは・・・、人間、なのでは・・・?」

賢人が答えると、ブッブー、と、気の抜けた音が響く。ハズレという意味だろう。では、正解は?

「賢人さぁん、はっずれー。正解はぁ、植物!だよぉ!」

「は・・・?」

愚神からの意外な答えに、目を丸くする賢人。それに対して、愚神は解説する。

「地球が生まれてぇ、すぐの頃はぁ、大気の主成分は二酸化炭素だったんだよぉ。それがぁ、植物が生まれてからぁ、光合成でぇ、酸素が生まれたのぉ。

 二酸化炭素が減った理由はぁ、光合成だけじゃぁないけどぉ、今ではぁ、酸素はぁ、大気で2番目に多い成分だよねぇ。人間がぁ、産業革命でぇ、二酸化炭素をぉ、たっくさぁん、放出したって言うけどぉ、大気の組成ってぇ、それほどぉ、変わってるぅ?」

確かに。二酸化炭素の濃度は増えはしているが、二酸化炭素が酸素を抜くほど、大気の組成は変化していない。

「酸素の出現はぁ、大きいよぉ。それまではぁ、嫌気性生物のぉ、天下だったでしょぉ?でもぉ、嫌気性生物はぁ、酸素が苦手ぇ。好気性生物のぉ、ミトコンドリアが生まれるまでぇ、嫌気性生物はぁ、みぃんな、酸素のないところにぃ、逃げるしかなかったぁ。

 それからはぁ、すっごいよぉ。好気性生物がぁ、誕生してぇ、群体になってぇ、多細胞生物が生まれてぇ、進化の大フィーバー!植物がぁ、生まれなければぁ、こぉんな、劇的な環境変化はぁ、起こらなかったろうねぇ。」

愚神は大げさなジェスチャーも交えて、なんとも楽しそうに語る。それに対して、

「ですが愚神様。人間の環境破壊は、なにも大気だけではありません。その欲望のままに、水も大地も汚しております。さらには、海外からの持ち込みで、元々の環境まで乱している始末。それにより、弱い在来種も絶滅の危機にさらされているのですよ。」

「それがぁ、なぁにぃ?」

愚神はあっけらかんと答える。

「・・・は・・・?」

「弱いものはぁ、駆逐されるぅ。そんなのぉ、自然界のぉ、大原則じゃぁん。人間がぁ、何かしらしなくてもぉ、外来種なんてぇ、どっかからぁ、持ち込まれてぇ、『侵略』してくるよぉ。風に乗ってとかぁ、鳥に持ってかれてとかぁ。『絶対に変化しない環境』なんてぇ、ないんだからぁ。人間自身もぉ、さもありなん、だよぉ。」

「で・・・ですが、人間のやっているそれは、自然の営みを遙かに超えるスピードで・・・。」

食い下がる賢人に、

「わかんないなぁ。頭固いよぉ、賢人さぁん。」

愚神が不満そうな顔になる。なぜかどこからかブーイングが響き渡る。周りの亡者たちは突っ伏して祈り続けている。

「人間のぉ、やっているぅ、『環境破壊』なんてぇ、自分たちでぇ、勝手にぃ、定義してるもんだしぃ、『環境保護』なんてぇ、エゴでしかぁ、ないってことぉ。いい加減わかってよぉ。」

「エゴ・・・ですか・・・?」

「言ったでしょぉ。『絶対に変化しない環境』なんてぇ、ないってぇ。遅かれ早かれぇ、環境はぁ、変わっていくよぉ。環境がぁ、変わるからぁ、進化がぁ、あるんじゃぁん。弱いからってぇ、『保護だ保護だ』ってぇ、自然界からしたらぁ、ナンセンスもぉ、いいとこだよぉ。」

なお平然と答える愚神。

「では、遺伝的に近い在来種と外来種の交雑も、問題になっておりますが、それは・・・。」

「それってぇ、『新種』ってことじゃぁないのぉ?」

「新種・・・ですか・・・?」

「人間がぁ、農作物をぉ、掛け合わせるのとぉ、なにが違うのぉ?そうやってぇ、より良い作物をってぇ、研究してきたじゃなぁい。むしろぉ、そっちの方がぁ、『自然交配』ってヤツじゃないのぉ?って言うかぁ、『マンモスの復活計画』とかぁ、真面目に研究してたくせにぃ、都合の悪いことだけぇ、否定しすぎぃ。もう人間のエゴ丸出しじゃなぁい。」

愚神はケラケラと笑ってみせる。正直、ぐうの音も出ない。

「しかしですな、愚神様。生き物を絶滅させると、遺伝資源も減少してしまいますが。それは歴としたガイアの損失では?」

賢人はなんとか巻き返しを図るが、

「遺伝資源ってぇ、なぁにぃ?」

愚神はニヤニヤ顔を崩さない。

「文字通り、遺伝子の資源です。生物の多様性を保つもの。これが減少してしまっては、進化も起こりえないのではありませんか。それに、何らかの未知の病などが蔓延したとき、有効な薬効を持った遺伝子がないとも限りません。それが失われては、人間だけでなく、他の生物にも悪影響が出かねません。」

「だからぁ、それってぇ、人間の都合じゃんってぇ、言ってるのにぃ。」

愚神はブーたれる。

「人間だけでなく、ガイアにも影響があると言っておるんです!」

賢人は食い下がる。これにはさしもの愚神も参るだろうと思ったが、

「未知の病がぁ、蔓延してぇ、生き物がぁ、死んじゃったってぇ、自然に『弱い』ってぇ、ことじゃなぁい。弱者がぁ、淘汰されるのはぁ、自然の摂理だってぇ、何度もぉ、言わせないでよぉ。

 遺伝資源がぁ、減少するとぉ、進化もぉ、起こりえなぁい?なぁにそれぇ。地球がぁ、全面凍結したときもぉ、カンブリア大絶滅の時もぉ、恐竜が絶滅したときもぉ、大量死滅でぇ、遺伝資源はぁ、大損失してるよぉ。それでぇ、進化ってぇ、止まってるぅ?」

「それは・・・。」

また言葉に詰まる。だが、お題を出した手前。どんどん突き進めるしかない。

「人間による絶滅では、新たな進化は起こりえないとも言われておりますよ。実際、いたずらに環境を破壊した結果、生態系はかき乱され、取り返しのつかないことになってしまっている地域すらあります。そこに新たな生物が誕生することなど、あるのでしょうか。」

「あははぁ!人間自惚れすぎぃ!自分たちのぉ、歩いた後はぁ、死体しかぁ、残らないとかぁ、もぉハードボイルドってヤツぅ?もぉたまんなぁい!」

愚神は文字通り腹を抱えて笑う。

「自惚れ、とはなんですか。」

「環境がぁ、変わるなんてぇ、地球史上ではぁ、当たり前だよぉ。そのたびにぃ、進化がぁ、起こるんじゃなぁい。それがぁ、人間だけぇ、特別扱いぃ?自惚れもぉ、いいとこじゃなぁい。あ~おっかしぃ~。」

「ですが愚神様。人間の垂れ流した汚染物質で、生物の性別バランスも狂っていることや、奇形が生まれることもあるのです。人間の環境破壊のしようは、これまでの地球環境の破壊とは一線を画すものと言ってもいいのでは?」

「だからぁ、それがぁ、自惚れなのぉ。汚染物質のぉ、影響をぉ、受けるってことはぁ、弱いってぇ、ことでしょぉ。淘汰されてぇ、当然だよぉ。もちろぉん、人間もぉ、言うに及ばずぅ。」

「放射能汚染はどうですか。ひとたび発生すれば、周囲何十キロが放射性物質で汚染され、生き物の住めない土地になるのですよ。」

「それぇ、語弊があるねぇ。微生物にはぁ、放射線にぃ、耐性を持ってるぅ、種類だってぇ、いるんだからぁ。その微生物がぁ、進化してぇ、耐放射線多細胞生物とかにぃ、なる可能性はぁ、十分あるよぉ。だってぇ、元々ぉ、生物はぁ、微生物からぁ、始まったんだからぁ。」

賢人はそこでわかった。愚神は、人ではないから、他人事で話しているのだと。人間が生きるか滅びるかも、彼女は無関心なのだ。遠い未来、人間が地球を捨てることになっても、それもどうでもいいことなのだろう。では、

「失礼ですが、愚神様は、人間がすべての生き物を絶滅させてもいいと、考えていらっしゃるのですか?森をすべてなぎ払い、地球が砂漠と化しても、それでもいいと・・・?」

直球の質問をぶつけてみる。彼女はどう答えるのか。

「まぁた、自惚れたぁ、質問だねぇ。」

愚神は呆れ顔になる。

「実際、イースター島のように、人間が木をすべて切り倒してしまった例があります。また、ゴビ砂漠のように、広大な死の大地を作ったことも。決して自惚れではないと思いますが。」

「じゃぁ、そこにぃ、生き物はぁ、まぁったく、いないのぉ?」

「微生物なら、いるでしょうな。ですが、どちらも、そこにいた多くの大きな生き物たちを絶滅させています。」

愚神は、はじめて「うんうん、そうだねぇ。」とうなずいた。

「それがぁ、地球規模でぇ、できるものならぁ、すごいねぇ。」

「では、できないと断言されるので?」

賢人は、どうやら優位に立てたようだと感じた。

「できないねぇ。ぜぇったい。」

しかし、愚神は真っ向から断言してきた。

「なぜ断言できるのですか?」

賢人からの問いかけに、

「そうする前にぃ、人間の方がぁ、滅んじゃうからぁ。」

愚神はこう返してきた。

「人間が先に滅ぶという根拠は?」

「この前の答えだねぇ。人間はぁ、争うからぁ。

 そりゃねぇ、最初のうちはぁ、いろんな生き物をぉ、滅ぼすだろうねぇ。だけどぉ、それはぁ、人間にとってはぁ、食料がぁ、減るのとぉ、同じことぉ。いずれぇ、少ない食料をぉ、めぐってぇ、争いがぁ、起こるねぇ。やがてぇ、資源がぁ、枯渇してぇ、高度な武器がぁ、作れなくなっちゃぁう。そうなったらぁ、鈍足でぇ、牙もぉ、爪もぉ、持っていない人間はぁ、地上でぇ、最もぉ、弱くなるぅ。あとはぁ、わかるでしょぉ。」

「・・・まるで世紀末ですな。」

「そ~だねぇ。そうならないようにってぇ、努力してる人もぉ、いぃっぱい、いるけどねぇ。」

愚神はさも楽しそうに、

「それがぁ、自然のぉ、摂理だよぉ。そろそろぉ、賢人さんもぉ、人間のぉ、役割にぃ、気づくべきだねぇ。」

「人間の…、役割…、ですか…?」

愚神の言葉に、賢人は首をかしげる。

「生物のぉ、それぞれのぉ、役割ぃ。生産者ぁ、消費者ぁ、分解者ぁ。こんな風にぃ、分類されてるでしょぉ。」

「はい。それに当てはめるなら、人間は消費者、では?」

賢人の答えに、またどこからかブッブー、と謎の音が鳴る。またはずれか。

「では、人間の役割とは…?」

賢人は改めて問いかける。

「既存のぉ、役割にぃ、固執しすぎぃ。第4のぉ、役割がぁ、あるんだよぉ。」

「第4の…役割…?」

「それはぁ、『破壊者』ぁ!」

パンパカパーン、とファンファーレが鳴る。

「破壊者…?」

賢人はまだぴんと来ない。それに対して、

「破壊者のぉ、仕事はぁ、環境をぉ、壊すことぉ。環境をぉ、破壊してぇ、新しい環境をぉ、作り上げるのぉ。立派なぁ、役割だよぉ。」

愚神は楽しそうに、恐ろしいことを口にした。

「そんな…。そんな役割など…。大神がお許しになるのですか!?」

賢人は声を張り上げる。人間が、そんな罪深い役割を与えられるなど、認められない。しかし、愚神はそれにも動じない。

「許すもぉ、なにもぉ。役割だもぉん。むしろぉ、誇らなきゃぁ。滅多にぃ、与えられるぅ、役割じゃぁ、ないんだよぉ。」

「このような役割など!誇れるものですか!」

賢人は怒りを隠さない。

「さっきぃ、言ったでしょぉ。新しい環境がぁ、進化をぉ、促すのぉ。例えぇ、地上からぁ、動植物がぁ、駆逐されてもぉ、放射能汚染されてもぉ、地球がぁ、完全にぃ、死滅するなんてぇ、ないんだよぉ。必ずぅ、新しい生物がぁ、誕生するのぉ。人間のぉ、役割はぁ、それをぉ、促すのぉ。誇らなきゃぁ。」

「そのうえで、人間が滅んでも、ですか。」

「うん。」

賢人の質問に、愚神は間髪も入れずに肯定した。

「確かにぃ、受け入れ難いよねぇ。でもぉ、自分たちの行動をぉ、もっとぉ、肯定的にぃ、捉えなきゃぁ。気づかないぃ?かつてはぁ、植物がぁ、破壊者だったんだよぉ。さっきぃ、言ったでしょぉ。植物のぉ、誕生がぁ、進化をぉ、加速させたのぉ。人間がぁ、やっていることもぉ、同じだよぉ。」

「…受け入れろと…、おっしゃいますか…。」

賢人はとうとううなだれる。

「人間のぉ、破壊でぇ、自分たちがぁ、生きられなくてもぉ、それがぁ、自然のぉ、摂理だよぉ。環境保護なんてぇ、死にたくないからぁ、エゴでぇ、やってるぅ、偽善なのぉ。ガイアにぃ、迷惑ぅ。」

「それで、欲望のままに、資源を食い尽くせと。そうおっしゃるのですか。」

「そぉだねぇ。」

再びバッサリと言い切られる。

「自然にぃ、慈悲なんてぇ、ないんだしぃ。だったらぁ、人間もぉ、自然にぃ、慈悲とかぁ、慈愛なんてぇ、持たなくてぇ、いいんじゃなぁい?」

「…。そうかもしれません。ですが、おそらく人間は、最後まで、生き残るすべを探し続けるでしょう。自然に慈愛を持ってでも。」

「あっははぁ!それでぇ、いいんだよぉ。死にたがりのぉ、生き物なんてぇ、いないんだからぁ。」

「そう…。そうですな。たとい破壊者として、自然環境を変え、他の生き物を絶滅させても、人間は生きようとする。それも、自然の摂理ということですな。」

「よぉやくぅ、わかったねぇ。偉いえらぁい。」

パチパチと手をたたきながら、愚神は賢人をほめた。そして、

「じゃぁ、カードぉ、出してぇ。」

とうとうこの時が来た。賢人はポケットから、スタンプカードを取り出す。また一歩、天国へと近づいた。

「はい、これぇ。」

愚神がポンとスタンプを押す。

「じゃぁ、また来るねぇ。もぉっと、面白ぉいお話ぃ、しよぉねぇ。」

そう言って、愚神は鼻歌を歌いながら去っていく。賢人は再び地面に突っ伏す。また、永劫の祈りが始まる。賢人は待つ。彼が天国へ行くか、最後の審判が下るのが先か。その時は、意外と近いのかもしれない。

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賢人と愚神のおしゃべり 時化滝 鞘 @TEA-WHY

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