第2話 ゴブリンの集落
「…い、以上でよろしいでやんすか? 兄貴」
「ありがとー、ゴブお」
「おいらの名前は、ブブでやんす!」
ハルタはここら辺の森を縄張りにするゴブリンの集落に来ていた。
みんな同じような容姿ではなくふとっちょからガリまで、頭に生えている僅かな髪の毛の色も千差万別。
集落のゴブリンは俺が別の世界にいたということをまったく信用していなかったが、アンデッドであることは確認されたので快くむかい入れてくれた。
性格も十人十色でみんなそれぞれ個性がある。かわいいものしかうけつけない俺だが、こいつらはどこかかわいらしい一面をもち、彼らをモチーフにしたキモカワキーホルダーが欲しいとこだ。
そしてこいつはブブというゴブリンの子供。こいつから世界の情勢から、魔王の事までこいつが知っている範囲でありとあらゆる事をかれこれ何時間か聞いていた。
こいつの言ったことを要約するとこうだ。
この世界はこいつらのボス…いや神様的存在の魔王が牛耳っているらしい。
魔王とは世界で忌み嫌われて、他種族から淘汰されていた魔族を引っ張てきて世界征服までいった英雄の中の英雄。
そして、今日は魔王軍の諜報員からの情報によると勇者とよばれる魔王を打ちのめす存在が召喚されるとのこと。
ブブは普通の人間とは違った雰囲気の俺を見て、勇者だと早とちりし攻撃したという。
「ゴブお、てめーのことは絶対許さないからな」
「い、一生兄貴の子分でいるでやんす!!」
「許そう!!」
そして肝心の俺がアンデッドという気味の悪いモンスターになったのが驚愕の事実。
しかし、ブブがいうにはアンデッドの中にもゾンビやヴァンパイア、グールなど種類があるのだが、俺はどこにも属さないいわばはぐれものという悪い意味で珍しい種類らしい。
つまり不死身以外で固有能力をもたない。不死身といえど、無敵ではない。火、聖属性の攻撃を受けるとほぼ一撃で死ぬらしい…
「え、じゃあ、俺って、不死身以外で能力ないの!!」
「固有能力では…魔法とかのスキル、アビリティをもっているでやんす。アナライズで自分の能力調べたらどうでやんす?」
「アナライズ? どうやってやるんだ?」
俺が首をかしげると、ゴブリンはお手本を見せてくれた。
調べる対象に手をかざし、『アナライズ』と一言いった。すると、ゴブリンの目の前に謎の浮遊する青白い透明なスクリーンがあらわれた。
そこにかかれている文字はまったくしらないはずなのに、なぜか読めた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ブブ
基本スキル
短剣術1 棍棒術2
特殊スキル
アナライズ
固有アビリティ
感知…近くになにがあるか把握することができる。
負けん気…瀕死の状態になると身体能力が超過する。
アビリティ
なし
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「…お前、弱くね?」
「うるさいでやんす! これから強くなるでやんす!」
俺も手本通りにやってみる。
自分の顔に手をかざし、『アナライズ』と一言。
すると、ゴブリンと同様にスクリーンが出現した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハルタ
基本スキル
なし
特殊スキル
アナライズ
固有アビリティ
不死身……死に至らしめる攻撃をうけても無限復活する。ただし、火属性・聖属性による攻撃は、致命傷となる。
???……???
アビリティ
なし
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「兄貴のほうが、断然弱いじゃないですか! ブッブッブ!!」
ブブが俺のすぐ横で高笑いを上げ爆笑している。
「いいんだな? 魔王様にお前のこと言って……」
「す、すみません!!」
ブブは肩をすくめすぐに謝ってきた。
その言動にブブには人間の子供のような素直さをかんじた。
「てか、この固有アビリティの˝?˝ばっかのやつは?」
「これはたぶん、後に発現されるであろうアビリティですかね? おいらもよくわからないっす」
そもそも一番の謎は勇者でもない俺がなぜこんな不死身とかいうおぞましい怪物に変えられて異世界に……でも、ゲームみたいでしばらくは退屈しなさそうだから気楽に行こうと思う。
「ブブ! ハルタさん! お食事の準備できましたよ!」
ブブの母親が、丸太椅子に座っていた俺達をよぶ。ゴブリンは以外に器用で小さな建物や道具を作って暮らしていた。
そして肝心の料理は……
普通にうまそう。
なにかの煮込み料理で、野菜や魚の肉っぽいものが入っていた。
その煮込み料理が置かれた木造のテーブルを中心にブブの家族の人たちが数人座っていて、もう食べ始めていた。
「いただきます」
俺が手を合わせて当り前のようにやってみせるとブブ一家は不思議そうな顔をした。
「なにそれ?」
ブブがみんなの気持ちを代弁して、みんながうんうんとうなずいた。
「これはこれから自分を生かしてくれる命の源だからその命の源さんたちに感謝の念を込めて言う言葉……だよ?」
自分でもうまく詳しくは言えないが、とりあえずそれっぽく言う。
そしたら、ブブ一家は目を輝かせ笑ってくれた。
「なにそれ! かっこいい! おいらもやる!……いただきます。うおー!」
なにがそんなに興奮するのかわからないが、ブブは体を左右に動かし、はしゃいでいた。
それをブブ母が『こら!』と叱りつける。
それに、家族内がどっと笑いが起きた。
そして、その家族も一旦食べるのを中断し、
『いただきます』
と言ってくれた。
俺はそんな取り留めのないことになんだか自然と笑顔になっていた。
姿形が醜かろうがかわいかろうが、優しいやつは優しく、優しいやつらが集まれば誰に文句を言われる筋合いもない暖かい空間ができる。
そんなわけで、ブブ家族と他愛もない雑談や質問をしながら夕食は終わり、一夜を終える。
彼らゴブリンがこんなにも生命溢れ、力強く生きているなんてなんだかものすごく見習いたいところだ。
――――――――
「ゴブリン討伐? ですか?」
僕は王様や貴族が暮らすような豪邸の一室でヤーマ大司祭に提・案・をもちかけられた。
「すでに十分なほど強いあなた様ですが、初戦ですので軽く踏みにじる程度に……ご自身の実力を試すにはちょうど良いかと」
さっきアナライズなるものをやり、よくわからないくらいたくさんの名が出てきたので、自分の能力の全部は把握しきれていない。
どんな技か試してみる程度にはいいかもしれない。
「で、ゴブリン討伐の具体的な内容は?」
「最近ゴブリンが人間を見つけると奇襲でもなんでもすぐ攻撃してくるので、冒険者や旅商人内では迷惑極まりないのです。ですのであの森のゴブリンを一匹残らず殲滅。勇者様ならおそらくは楽勝でしょう。なんせゴブリンは最下級魔物。塵芥にすぎません」
「……わかった。明日早々に向かう。一応一人護衛をつけたい」
「了解しました……勇者様、いずれは…あの憎き憎き忌まわしき魔王も……」
ヤーマ大司祭が静かに部屋を出ていき、僕ひとりになる。
「人に迷惑かけるような悪は……僕が……勇者が一匹残らず滅する」
その眼に宿る火は、はたして何色だったのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます