レジスタンス

@uesakamiti

第1話 異世界転移

この世界は闇におおわれていた。

 魔族の王である通称『魔王』が1~4階層で構成されているこの世界、その最上層の4階層『アーカディア』で今も傲慢にも鎮座する……


 しかし……今日この日を持って、順調に世界を支配していたと思われた歯車が狂い出す……


 ――――――――ーーーー……


 「勇者様……あなたがこの世界に召喚されることをどれほど待ちわびたか……わたしは女神アルユーラ様を信仰するアルユーラ教、大司祭でございます。」

 「アルユーラ様の黙示録による言い伝えは本当だったのですね! 大司祭様!」


 「これ! ナユラ! 勇者様の御前だぞ!」

 「すみません……」


 気づいたらそこにいた……そこはファンタジーゲームによくでてくる西洋風のお城の中のようだ。

 僕は何重にも描かれたの魔法陣の床で立っていた。

 周りは無慮何百の兵士が跪いて、冠をかぶった男……おそらく王とその妻と子息までもが頭を下げていた。

 そして僕の目の前にいるのは豪華なローブに身を纏うご老人と若い女性。

 僕のきょとんとした顔に老人はあわてて口を開く。


 「申し遅れました! 私、大司祭ヤーマと申します。」


 しかし状況が理解出来ないでいた僕はなおもきょとんと不思議がる。

 しばらくの沈黙に老人がしびれを切らし、問いかけた。


 「……不躾ながらお聞かせ願いたいのですが、あなた様のお名前は……?」


 「ユウマ……といいます」


 素直に名前を言うと老人とその女性は歓喜の声をあげ、こう言った。


 「やはり! 黙示録と同じ名前! あなた様は勇者に間違いない!」


 僕はその言葉以前に勇者であるのか疑っていたというのはわかっていた。

 さっきから僕の体を隅々に見て、僅かな怪訝をみせていたのだから。


 だが、僕が勇者か。捨てたはずの心が第2の人生で蘇るといいが、せいぜい期待するとしよう。



 ――――――――ーーーーーーーー


 「イッテテ……」


 ハルタは謎の森に来ていた。

 いや、来ていたではない。強制的ななにかに連れ去られ、挙句落とされるという始末。


 「どこだよ……ここ…」


 ハルタは困惑していた。


 ハルタはありふれたごく普通の高校一年生だ。

 さっきまで、教室で授業をしていた。

 だけどそれは一瞬。瞬きを一回する速度で学校中を覆う燦然たる光が発せられた。

 その光は1学年の何名かの生徒とともに一瞬で消え、学校中が騒ぎになった。

 いや、今はもう世界中で話題になってるだろう。

 しかしハルタは寝ていたので、まったくその一連を知らず、気づいたら地面に叩きつけられ無理矢理起こされた次第。


 「え……マジで、どうすんだよ……これ…」


 ほんとにここどこだ?

 つか、日本か? ここ……?

 周りは木ばっかでビルだとか建物が見当たらない。

 と突然、なにかがゴソゴソと草むらをかける音が聞こえる。


 !? やべ! 鹿とか猪とかでてきたらたまったもんじゃねー!


 ハルタは逃げようとした、だが、足が思うように動かず手間取ってしまう。

 その手間取りになにかは来てしまった。


 「グラアア!」


 人間のように二足歩行をした小人。

 だが、それは可愛らしいなんてものじゃない化け物。1本ツノが特徴の化け物はナイフ片手にハルタに襲いかかりーーー……


 グサッ!


 ハルタの心臓部に刺さる。


 「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」


 初めて凶器で刺され、その激痛を身にしみて感じる。

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!


 化け物は、一刺しするとナイフをハルタの心臓から抜いた。

 ハルタは思う。


 なんだよ……これ……

 なんかよくわからないうちによくわからない場所でよくわからない化け物に殺されるとか……


 くっそダセェーー……


 死にざまなんてあったもんじゃない。

 だけど、まあ、俺らしいっちゃ俺らしいか。

 こんなもんなんだろうよ、俺の人生……



 ハルタは死を覚悟し、最期の最期はかっこよくと目をつむり、胸に手を交差させておいた。






 ……だが、おかしい。

 最初はいたみになれたと思っていたが、明らかに痛みがひいていくのがわかる。


 どういうことだ?


 ハルタは目を開けて、自分の胸元を確認した。

 そしたら、服は裂けてるが、明らかに傷口は無くなり、完治している。


 な、なんだ!? ゆ、夢なのか!?

 さっきからおかしいすぎる!

 夢だ! 夢! なるほど、これが明晰夢ってやつか!

 なんだか、不思議な……じゃない! 今すぐ目を覚ませ!俺!


 ハルタは自身の頬を引っ張る。



 あれ? 痛いし。



 ハルタはよくよくあたりを見渡す。

 そこに驚愕した顔を見せている化け物と、吹き散らかした多量の血液を見る限り、それが事実である事は自明の理である。


 ああ……どうか、恐ろしい悪夢であってくれ…

 このままこの化け物におもちゃのようにあつかわれたら……死んだ方がましだ…


 だがそれは叶わなかった。


 「あんた! もしかしって、アンデッドでやんしたか!」


 化け物が唐突に甲高い声をあげて話した。


 「え……え?」


 ハルタは困惑顔をして見せたが、化け物はそれをかまわず


 「すみませんでしたーー!! あまりに人間ザコに似てたもんでやんすからー!」


 化け物は土下座をして謝ってきた。

 何度も額をこすりつけ、必死に弁明する。


 「ゴブリンの分際で、アンデッドに手を出してすみません! この非礼はどうかお許しください! あと、魔王様にも内緒にして欲しいでやんす!」


 魔王? ゴブリン? アンデッド?

 よくわからないが、単語の意味は知ってる。

 もし俺の予測ならここはファンタジー世界ってことになるな……

 とりあえず、このゴブリンをなんとか…いや、いろいろ利用させてもらおう。


 「じゃあ、俺の言うこと聞いてくれたら、いいよ!」

 「え! ほんとでやんすか!」


 子供のような無垢さを瞳に宿らせ、若干の罪悪感を感じながらも、こう言った。


 「とりあえず、俺の言う事を全部聞け」


 ゴブリンは化け物ながら、きょとんと可愛く頭を傾け、純粋な声で言った。


 「え? それでいいでやんすか?」


 これが、キモカワというやつか!

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