第37話 動き出す 亀山社中 と 次の目標
「薩摩は、新型銃をなんで買わんかったがじゃ」
「なんで?って……あたりまえじゃろう?薩摩はすでに武備十全とされちょる」
亀山社中、坂本龍女は薩摩藩邸に新型銃の売り込みがあったことを大久保から聞いていた。
「それに、見てみたいなら雪白屋から買えばいいじゃないの」
「ワシらは商売敵じゃぜ?
売ってくれるとは思えん。それに雪代屋の売り込みに来たのは、大室鉄之助じゃち聞いとる」
(男と争うなんぞ、ワシには無理じゃ。)
坂本龍女は頭を抱えた。
金はほしい。しかし、男に嫌われるのは避けたい。
「大室鉄之助ゆうのはだれぜよ?」
近藤長美は聞いた。
「男じゃ」
「男が商売しとるのか?身売りとかでなく?」
「身売りなんぞ、するわけがないぜ。あん男はエゲレス語がわかっておったしの」
「エゲレス語が解る?英国の回しもんじゃないがか?開国論者か!」
「わからん。まえにあったときはゆっくり開国するべきじゃとか…なんとか、いっとったが、しかし、エゲレス語がわかれば、外国人と商売は出来るのも確かじゃ」
2
「なぁ。お珠? 亀山社中って聞いたことあるか?」
「ああん? 亀ぇ? 男のあそこについてるヤツだろ?」
下ネタで、ケタケタと笑うお珠に美星は冷めたように繰り返す。
「……あのな。確かに亀といやあ一番最初にそこに考えが向くのは当然だ。あたしだってそうだ。だがな。今回は、亀山社中ってのを聞いたことがあるかっていってんのさ」
「 亀山社中ねぇ……ねぇな。じい様か、鉄さんに聞いてみちゃどうかね?」
「あんがとよ。そうさな。鉄さんに効いて見るのが早そうだ」
美星は部屋をでて、鉄之助の部屋に向かうことにした。
「鉄さん。入ってもいいかい?」
美星は、襖前にたったまま聞いた。
しかし、しばらく立っても応答がない。
襖を開けようとして、何かが引っ掛かった感じがした。
つっかえ棒がしてあるのだと判った。
(用心ぶけぇな。さすが男だ)
プライバシーは守っている。ということだ。
しばらくして。
「いやあ。すいません」
と襖を開け鉄が顔を出した。
「邪魔したかね?ちょっと聞きたいことがあってさ」
「……いいぇぇ。どうぞお入りください」
美星は室内に入り、障子戸があいていることに気がついた。
「この寒い日なのに、換気かぃ?風邪ひいちまうよ?」
「これでいいんですよ。で?、聞きたいこととは?」
(……なんてタイミングで来るんだ。もう少し遅ければ危ないところだった)
言える訳がない。○ナニーをしていたなど。
言ったら最後だ。
「溜まってるって?いよっしゃぁ!あたしが相手になってやるよ!」
などと言い出し、美星は襲い掛かるに違いない。
襲われれば、あとは、組しかれて、フンドシを無理やり剥ぎ取り、騎乗位でフィニッシュだ。
腕っぷしでは勝てない。だから、そんな気持ちを起こさせないように、鉄之助は窓を開けて、精液の匂いを飛ばしたのである。
「ああ、知ってれば、でいいんだが。亀山社中ってのに聞き覚えがないかとおもってね」
知っているが、歴史での知識だ。
一瞬迷う。しかし、鉄之助は、知ってる限りを情報共有することにした。
3
伊藤俊子と大久保さんは迷っていた。
「坂本に情報を渡して良かったのかしら?」
伊藤俊子は自室に座ったままで、大久保さんと話しをしていた。
「あん男に騙される危険もあるわ」
口ではいいながら、大久保さんは鉄之助達の申しでに従って話を聞いていたら……と考える。
(今のところお家の武備は整っているわ。でも、新型銃はどこまでのできなのかしら?
出来がいいなら、グラバー商会から乗り変えることもあるわね)
それに、鉄之助くらい世界情勢に詳しい男はそういないことも、大久保は分かる。
(引き抜きは……出来ればいいけど、蛇足になる可能性も有るわ。もしヘソを曲げて、他の勢力にくみすることに成ったら大損だわ)
「俊子、お家に伺いをたてるわよ?いいわね?」
「異論ありもはん」
伊藤俊子と大久保さんは、薩摩のお家に手立てを一旦相談して見ることにした。
4
亀山社中は、坂本龍女が、神戸海軍操練所時代に考えていた実践版でもあり、目的は活動を通じて薩摩藩と長州藩の手を握らせることにもあった。
「亀山社中」は、長州藩が薩摩藩を経由して武器を購入する仲介を果たしたとされている。
また、うらではグラバー商会などと取引し、武器や軍艦などの兵器を薩摩藩名義で購入、長州へ渡すなどの斡旋をした。などともうわさされていることを鉄之助は知っている。
「あの変態女が代表かぃ」
「ええ。大変、遺憾ですが」
「まぁ、でも美星さんが亀山社中を知ってるなんて驚きました」
美星は、偶然に亀山社中のことを噂されているのを聞いて、気になっただけだと答える。
(女のカンってやつなのかなぁ)
鉄之助は、この時代のネームドに数多く当たっているのに危機感を覚えた。
(土方に、大久保、坂本、沖田…内二人は暗殺される)
歴史が大きく動いている兆候はない。
これから、どんどん人が死ぬのだと判ってはいる。
死ぬ人間を助けるつもりはない。歴史を変える訳にはいかないから。
土方、坂本、沖田は確実に死ぬ。だが死ぬ前に坂本は薩長同盟をなしてしまうだろう。
薩長同盟じたいは反対はしない。
だが、
(グラバー商会には負ける訳にはいかないね。決めた。次の目標はグラバー商会だ)
鉄之助の気持ちを新たにするように大きく息を吐いた。
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