第36話 閑話 その3 爆誕 サド系女子

「護身術を習いたいんですよねぇ」


何気ない鉄之助の一言が場を氷つかせた。


「はぁ?」

「why?」

「あたしらが居るじゃないか?またどうして?」

お珠、美星、ロザリーは問ただし始める。

それに対して鉄之助の答えは


「いつでも守ってもらえるわけではないですし、負担でしょう?」


「イヤだ!」

「認めねぇ!」

「Disagree(反対)」


もちろん、お珠、美星、ロザリーまでもが反対した。


「なんで反対するんです?」

「なんでってあたしらが護ればいいじゃねえか。それともなにかい?あたしらの腕じゃ信用できねぇって事かい?」

「いいえ。そういう訳じゃ……無いんですけど」

「じゃあどういう訳だってんだい!」


やいのやいの。


揉めに揉めて、結局その日は決着が着かなかった。

揉めている光景をみながら、パーカーだけは年の功からの経験則で近づかない様にしたのはさすがである。


幾日か後。

鉄達は京都の町道場にいた。


「男と稽古なんかできんのかね?」

「怪我させたらこっちのせいだろ?」

「手加減してたら、鍛練にならんしねぇ……」

門下生たちは不安な者。


「えっ男?体が触れるかも知れないって?……グヘッヘ……」

「男に触れるぜい!」


稽古を理由にエロいことを考えるものに分かれた。


3


ざわ…ざわざわ……

道場内は喧騒に満たされていた。


「男だ……それも胴着の下に襦袢もサラシも着けてねぇなんて……あの胴着の下は生胸板かぁ……うへぇ。助平過ぎるぅ……」

「ジュル……っ」

「是非に極める所までヤらせて貰わなくちゃ……!」


「大室鉄之助といいます。よろしくお願いいたします」


自己紹介をすると、


「……言い声してる…」

「鎖骨がやらしいぃ」

「ジュルリ……」

小声で門下生が呟き、何人かがよだれをすすって鉄之助が小さく

「ヒェ……っ」

と、怯える事になった。


4


小手返しと言う技がある。

相手に手首を捕まれたときの技だ。


「よろしくお願いしますじゃぁ……つかみますね」


普通であれば、つかまれた方が相手の小手を極めて落とす。または投げる等の方法を取る。が。

鉄が掴むと相手が何故だか相手は小手を極めてくれない。

それどころか、その場で上手く均衡を保とうとした。


(すこしでも長く触れあうんだ!!)


鉄之助の相手の女性は必死だった。

彼女は師範である。名を竹田葵と言う。

葵は、持てる技をすべて注いで時間を稼ごうと決めた。


(小手返しは危険だから、教える意味も込めてゆっくりヤらないと。それに、男だから丁寧に教えてあげよう。ゆっくり、たっぷり、じっくりと)


小手を極めても、そこからゆっくりじっと優しく落として、うつ伏せに回し腕を背中側に極めた。


「アッアッ!……極ってますぅ……」


鉄之助が声をあげる。


(エッロイ声だして!誘ってんの?誘ってんのよね??)


相手が畳を叩いて肩関節が極っている事をつたえても、直ぐには解かない。


(うひぃー。男に技をかけるのってゾクゾクするぅ…っ)


そして、遂に鉄之助のエロさに耐えきれず最後に葵は、鼻血を噴いてダウンした。


5


「なあ……お珠」

「あんだよ?」

「あたしらおまんまに食い上げってことなんかな?」


美星は寂しそうにいった。


「いやぁ……そういう訳じゃねぇと思うんだ。鉄さんは、女を信用してねえんだ。だから、全部を任しちゃくれねぇ。

あたし達は、もう少し鉄さんに信用される必要があるんだ」

「大分、慣れてきてると思うんだがなぁ」


道場の角で、胡座座りをしているお珠と美星は鉄之助の心情を推し量ろうとしていた。


「鉄さんの相手、鼻血噴きやがった」

「そらそうだ。男と密着できるし、あの女、自分の胸に腕を挟んでやがる。稽古じゃなければ、番所に突きだしてやるところだ」

「今度は、蟹バサミだねぇ」

「へぇ。相手の腰を太ももで挟んで引き倒してんのかぁ、びっくりするわな」

「鉄さんの相手、師範だな」

「上手く組み付くもんだ。へぇ……脚を極めるんだねぇ」

「見ろよ、師範のだらしねぇ顔。完全にメスの顔になってるぜ」

「仕方ねぇよ。脚を極める振りをしてその実、男の太ももと自分の股をこすりあわせているんだろ。そらメス顔にもなるさ」

「あっ……師範が上に回り込んで……腕を極めたぜ」

「あのスケベ師範、股だけじゃなく胸で挟んで、腕に頬擦りまでしてやがるな」


ぎぃりぃ……!


さすがに歯軋りがでてしまった。


「お珠、我慢しろよ」

「ああ……分かってる。だがよ。あたいがパーカッションをならす寸前だ。

いまなら、あのメスの体を穴だらけにしてやれる。きっちりとな」


お珠の目は光を失っていて、虚ろだった。しかも、袖に手を突っ込み、いつでも銃が引き抜ける様になっている。


「分かるぜ。だが、この道場がなくなったら鉄さんがかなしむ。男の悲しむ面はあんまり好きじゃねんだ」


美星も虚ろな目をして、我慢を続けていた。


6


(なんて気持ちが良いんだろう)

師範を勤める竹田 葵は、合気道を教え始めて長いが、男に技をかけるのは始めてだった。が、こんなに気持ちが良いものとは知らなかった。


苦痛に歪む、男の顔。

女と違う固い筋肉。

何より密着してもとがめられない。

合法で密着できる体。

そして、時折、鉄之助から漏れる悲鳴が堪らなく心地よかった。


(新たな性癖が開眼した感じがするわ)


性癖をねじ曲げられた、サド系女子がここに生まれた瞬間であった。



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