第32話 拡販計画

英国へ発注した後込式のライフルは鉄之助達の予想に反して、最初はイマイチの売上げだった。

どの客も1丁から2丁の買い上げだという。

しかし、雪代屋からの書面ではいろいろな藩の人間が銃を買いに来ていると言う。

勿論、藩名は明かさないが、訛っているゆえにどうしても分かると言うのだ。


(客の訛りが強い。おまけにいまは幕末だ。名前は伏せてるけどおそらく薩摩、長州、辺りかなぁ)


雪代屋からの噂話を推測するに、買っていったのはまずは「長州」「薩摩」「会津」だということは鉄之助の知識で分かる事だった。

「長州」は広島弁にちょっと似た感じの「~じゃけん」という語尾。

「薩摩」はイントネーションでわかる。

「会津」は、届けてくれっかし。と言ったのを覚えていたと言う。


(秘密のケンミン○○ーみたいだ)


鉄之助は現代で放映されていたTV番組を思いだしクスリとした。


(明日、相談だね。エスカレーション案件だ)

判断をし、その日はそれきりになった。


翌朝、桔梗屋の二階にある居間で会議が開かれることになった。

議題発信者は鉄之助である。

「お試し版ですよ。きっと他の武器と比べるんです」

「試供品って訳かい」

「比べられるのはあたりまえだねぇ、でも、うちの銃が一番さ」

「あったり前よ」


お珠、ロザリーはふんぞり返っている。


「The next plan is to increase the production of detonators and sell the license of life ring technology to the UK, France, etc. at the same time.

(次のプランは雷管の増産と、ライフリング技術のライセンスを英国、仏国等へ同時期に売り込みます)」


「ライセンスってのはなんだい?」

お珠は内容が若干わかったらしく問い返した。


問いに鉄之助は答える。

「特許権ですよ。分かりやすく言えば門外不出にしてその技術そのものを守る権利、考え方を守ります。技術を使いたい場合は、料金を払ってもらいます」


「認可状ってわけだ。剣術にも目録取るにはには金がいる。製造法も金を積まなきゃならないと」


お珠の言う通りだった。

剣術の目録には金が要る。特に大目録、もしくは奥伝、免許皆伝まで取ろうするとウン十両かかるのだ。


「技術は僕たちの生命線であり、この時代を乗り切っていく武器です。製造法、情報を各国に売り込むことで、当面の開発費用と僕たちの生命は保証されると思います」


開発費用はライセンスを売ることで、

生命の保護は、技術の秘匿によって守られる可能性が高い。

確約ができないのは設計図が盗まれ解読される、もしくは、他の諸外国が同じ技術を先に開発、発見する事であるがまだライフリングの技術は広まっていないハズだった。


「 I can't approve the plan

(その案は許可できん)」


パーカーがそこに珍しく口を挟んだ。


「Excuse me… May I ask you why?(理由を聞いても?)」

「Of course. First of all, it is impossible to hand over the technorogy to France. That's because it's my enemy in Britain. It ’s common sense from the Hundred Years War.


もちろんだとも。まずフランスに技術を渡すのはできん。あそこは我が英国の敵なのだからな。百年戦争からの常識だ」

「historical background… (歴史的背景ですか)」

「that's right. If it is to be sold, it is for Majesty to sell it to each clan in Japan or the shogunate to destabilize the domestic situation.

その通り。売るのならば、日本国内の各藩、または幕府に売って国内情勢の不安定化を図るのが女王陛下の為になる」

(……女王陛下か……ジョンブルらしい)

パーカーはフンスと鼻息を荒くした。

「I know (わかっています)」

「If domestic instability progresses, the market will expand. However, it may be good to have a license agreement. (国内の不安定化が進めば、マーケットは広がる。しかし、ライセンス契約を結んでおくのは良いかも知れんな)」

パーカーは笑った。

「 By marketing the same weapons as Britain, Japan will be the first to spread the concept of retrofitting than other countries. Is it the logic that you can have an advantage? ( 英国と同じ兵器を売り込むことで、日本は諸外国よりもいち早く後込式の概念が広がる。アドバンテージができると言う論理ですか?)」

「 Well that's right. Britain and Japan could put pressure on other countries if they had the latest weapons. (まぁそうなる。英国と日本国は最新式の兵器を持っていれば、諸外国に圧力をかけられるじゃないか)」


パーカーの考えは分かる。おそらく目指しているのは日英の軍事同盟だ。

鉄之助は、そのさきも予想できる。


(おそらく、同盟を結んでその功績を持って本国に帰還。政治家にでもなるつもりだろう。そして、その先にあるのは英国の手先による傀儡政権の樹立、そして属国化だ)


現代の日米関係と同じ。

アメリカかイギリスかの違いだけである。


とーーーーそこで議論はそこで一旦終わりを見た。

何故なら、二人の口論に女たち三人が止めに入ったからである。


「やめとくれよ。後生だ!」

「あたい、男が争うのは苦手なんだ……なんつうか……痛たまれねぇ気分だ」

「OMG」


女どもの悲痛な叫び。


「あたい達は仲間だ。仲間割れはいけねぇよ」

「そうだ。多少の言い合いは見てて眼福だけど、今のは口論だ。胃が痛くなっちまう…」

「pleaae stop it(やめてほしいわ)」


これには鉄之助とパーカーも少し反省をした。そして、この場は一旦解散となったのである。

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